第4話 やっとチュートリアル!
先ずはお詫びをさせて下さい。先週は体調を崩してしまったせいで投稿が出来ませんでした。
『じょとボク!』を楽しみにされている読者様方、本当に申し訳ない。
体調回復したので今週からまた、毎週土曜日の朝8時~9時頃に投下させてもらいます。
またステータス画面の情報の追加・修正をしています。今回の話と合わせて第一話のステータス画面も修正しておきました。
今回は副題の通りチュートリアル的なお話。
まだまだ説明し切れていない用語もありますが、物語の進行に合わせて順次判明していきます。
ぼんやりと開いたまぶたの隙間から茜色の空が覗いた。
「…? …??」
なに? どこ?
頭が回って無い。
寝起きの脳みそのまま辺りを見回す。
どうやらボクは大きな樹に背中を預ける形で寝ていたらしい。
背中と頭にごつごつとした感触がある。
周りは自然一杯の森だ。
「……え? っていうかマジでここどこ? 日本?」
見知らぬ場所で一人。不安に駆られて思わず立ち上がろうとする。
地面に手を着いて、その反動で立ち上がろうとした。
手を着こうとした地面に、尻尾がある事に気付かなかった。
「みぎゃあああぁぁぁっっっ!!!?」
ファァァァック! 尻尾じゃまだあああぁぁぁ!!
矢じり型の尻尾の矢じりの根元部分を手のひらで思いっきり圧迫していた。
激痛に涙目になりながら痛む部分にふーふーと息を吹きかける。
なんだろうこの、タンスの角に足の小指をぶつけた時のような痛みと怒りは!
しかしショック療法というか何というか。
尻尾から来る痛みで寝ぼけていた頭が覚醒した。
すっかり忘れていた。
「――ボク、異世界に転生しちゃったんだ」
しかもサキュバスに性転換してね!!
***
ボクの名前は夢宮陽。
つい数時間前まで女友達の多い以外は普通の高校生(♂)でした。
ところが片思いのクラスメートに告白するがあえなく玉砕。
どころか告白現場に乱入してきた柔道部の筋肉馬鹿と目の前で仲良く結ばれやがりました。
イライラしたボクは下校時に遭遇した流星群にリア充は全て爆発しろと、とても清いお願いをします。
まあ、爆発したのはボクだったわけだけど。
流星群の流れ弾に当たって爆発四散したボクは【女神リリウム】様の力によって異世界【リリアレス】へと転生。
巨乳美少女サキュバスとして第二の人(?)生を歩き出した。
しかし次の瞬間には野生のゴブリン達(全員ロリっ子可愛い女の子!)の襲撃を受けて一対一のタイマン勝負。
当たり前のように凹られ、ひん剥かれます。
ファーストキスも奪われます。ベロチューです!
あれ? 今思ったらこれ、周りの目から見たらガチレズじゃん。
うわぁ。うわぁ! なんか勿体ない事した!?
それは兎も角絶体絶命のピンチだったところを見知らぬ女冒険者【アイセ】さんに救われた、と。
めでたしめでたし。
「ちがくて」
ここどこ~? アイセさんどこ~?
周りを見回しても生い茂る木々と草花ばかりで人影は見当たらない。
ボクを置いて一人で何処かに行くような薄情な人には思えないしな~。
そう。冒険者をしていると言っていたそのアイセさんは僕とは初対面である。
にも関わらずペナルティ覚悟でボクを助けた挙句、見事ゴブリン達を撃退したのだ。
すっぽんぽんだったボクにコートを着せてくれたり。
ボクを心配させまいと笑顔を見せてくれたり。
かと思ったら刀を使った技でゴブリン達を鮮やかに撃破。
しかも攻撃力1のネタ武器で、だよ?
むっちゃかっこよかったな~。
刀を使った神速の居合切りとか。
抜刀した後にゆっくりと刀身を鞘に納めて見得切りするのとか。
鋭い踏み込みの際にも赤いマフラーが車のテールライトみたいな軌跡を残して――兎に角格好良かった。
男でも惚れるよ、あの格好よさは。
ぼー、としながらアイセさんの事ばかり考えているボク。
ふと、友人に見せるような、アイセさんの屈託の無い笑顔が脳裏によぎった。
胸の奥がきゅん、と疼く。
この感覚を、僕は知っていた。
この異世界に転生する前、学校のクラスメート【相原詩音】にボクは片思いをしていた。
授業の間は彼女の姿をずっと目で追って。
家に帰れば今彼女は何をしているのだろうか、と考える。
その時の感覚にそっくりだった。
つまり、
「一目惚れ、かぁ」
転生はしたけれども、振られたその日の間に新しい恋だなんて、現金というか。尻軽というか。
でも恋愛感情ってのは、やっぱどうしようも出来ないよねぇ。
はふぅ。と切なげな溜息を一つ。
「それは兎も角として。アイセさん、ほんとどこに行ったんだろう?」
んー。あ。ひょっとしてトイレとか行ってるのかな。
トイレなら近くにいないのも分かるし。うんうん。きっとそうだろう。
「――あ、やば」
そんな事を考えていたらボクが催してきた。
ちっさい方である。Sである。Bではない。
「だ、誰も居ないよね?」
前後左右確認。よーそろー。素早く茂みの中に滑り込む。
「えーと。先ずはスカートを脱がないと、うわオッパイでかっ!?」
ゴシックロリータ風の袖無しワンピースの胸元からは零れるような二つの膨らみ。
視線を下げると白いブラとムン、と香り立つようなくっきりとした谷間が見えるのだ!
……一度じっくり鑑賞してみたいけど。
「でも今はそれどころじゃない!」
うわぁ、なんかオシッコ凄い近いんだけど!
そういえば女の子の尿道って男よりも短くて、チン○ンとそれに付随する括約筋も無いから尿道を絞める事も出来ないってネットの雑学で見た気がする。
「それは兎も角ハリーアップ!」
もう一度前後左右確認。うん。オーケー! スカートを脱g――事は出来ないから。
ワンピースだから! 上の生地と下の生地繋がってるから!
気を取り直して、そいっ、と短いスカート部分をたくし上げる。
下から現れたのはセンター部分にリボンのミニチャームが付いたいかにも女の子らしい白のパンツ。
「……///」
お、思わず赤面してしまった!
女装経験はあるけど流石に女物のパンツを穿いた事は無い。
何だか倒錯的、というかイケない事をしている気分になる。
「いやいや。今は女ですから」
ハートは男だけどね!
さて、そろそろ尿意も限界です。
男として女になった部分を色々調べてみたい衝動には駆られるけど、それはまた機会があれば。
今はお花を摘むのが最優先事項である。
ええと、パンツを膝くらいまでズリ下げて。
しゃがみ込んで。再び前後左右を確認。
――――――――安全確認! &発射!
それはまるで春の陽光を浴びるかのように。
それはまるで暑い夏の日に吹いた風のように。
なんと爽やかで、開放的な事か。
大自然に囲まれての放尿が、こんなにも爽快だなんて!
我慢していたオシッコを解放した時の心地良さは男も女も変わら、
――がさり、と眼前の茂みが揺れた。
「あ、いたいた。探したぞハ、ル……?」
目の前の茂みを掻き分けて、黒髪ポニーテルの美少女が顔を出す。
凛とした、端正な顔立ち。整った目鼻。細い眉。意志の強そうな瞳。
日本人の女の子の顔だった。白いコートに赤いマフラー。
左腰に下げた日本刀の鞘がトレードマークだ。
さしずめ大和撫子×サムライガールといったところか。
現にゴブリン達との戦いではオモチャの刀を使用した上で鬼神の如き強さを見せてくれたものである。
まあ、今はその素敵なお顔も見てはイケないモノ見てしまった困惑で歪み、引き攣ってしまってるのだけど。
見てはイケないモノが何か、だって?
はははははハハハハハHAHAHAHAHA!!
決まってだろ? さっきからアイセさんの視線はボクの股ぐらに釘づけさ♪
今もなおオシッコを垂れ流s
「逆ラッキースケベかああああぁぁぁぁっっっっ!!?」
夕日を受けて赤く染まる美しい森に、ボクの悲鳴が木霊する。
***
「ほんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとうに済まなかった!!」
記念すべき(?)初のラッキースケベイベントの後。
「――はぁ…」
盛大に溜息を一つ。目の前には草の上からおでこを地面に擦り付けるアイセさんの姿。
ザ・土下座である。
「重ねて言うがわざとではない! 邪心は無かった!」
「……分かってます。アイセさんはそんな事する人じゃありません」
「し、信用してくれているのか?」
「あっ、まだ顏、上げないでくださいっ」
「す、すまないっ」
現在進行形で顔面発火してるので、こんな顔を好きな人に見られたくは無い。
もっと恥ずかしい所を見られたんだけどね!?
「ボクは人を見る目は、持っているつもりです」
生前では恋のキューピットをやっていた。
ボクが引き合わせたカップルは片手では数え切れない程多い。
ボクの恋はとうとう実らなかったけど!
おかげでダークサイドにも堕ちるってもんだよ!
まあ、そんな事をしていたおかげで観察眼、なんて大層な言い方もどうかと思うけど、人を見る目はあると思う。
「許して、くれるのか?」
「許すも何も、アイセさんはボクの命の恩人ですよ?
ゴブリン達から救ってくれなければ、今頃どうなっていた事か……」
「済まない。そう言って貰えると、こちらも助かる」
「――顏、もう上げて下さい」
「あ、ああ」
それでも正面から顔を合わせる事は出来なかった。
顔がまだ熱い。夕焼けで誤魔化せるレベルの赤面ではなかった。
そっぽを向きながら横目でちらりとアイセさんの様子を伺うと――
――捨てられた子犬のような顔をしている!?
「うぅ、本当に、済まない…」
なんだかこっちが悪い事をしている気分になってきた。
再びはぁ、と溜息一つ。
すぐに大きく息を吸って、パン、と両頬を叩いた。
「…ハル?」
「忘れましょう! ボクは何も見られていませんし、アイセさんも何も見ていない。
それでいいじゃないですか」
「ハル――ありがとう。君は、優しいな」
柔らかく微笑みかけられて、少し落ち着いたと思っていた顔面がまた発火した。
***
「さて。いい加減暗くなってきたな」
日が傾いてきた。見上げた空は燃えるような緋色と静かな夜空の藍色で綺麗なグラデーションを描いている。
次期に夜の帳が下りるだろう。
昼間は僅かな熱気を孕んでいた風も、今は少し冷たい。
「日が落ちるまでには仲間と合流したいところだが」
「あ。お仲間がいらっしゃるんですね」
「そうだ。今は私だけが単独行動をしていてな」
「そうですか。お仲間さん達はどちらにいるんです?」
「ここから少し南に進んだところに【シュタット】という街がある。そこで落ち合う予定だ」
「ならすぐに移動しましょう」
「いや、慌てなくていい。転移系のアイテムも持っている。それを使えば一瞬だ。
それよりも、街に入る前に君と少し話がしたくてな」
「話、ですか……」
「ああ。改めて自己紹介させてくれ。私は冒険者の【アイセ】。【アイセ=シックステール】だ」
お、フルネームだ。シックステールってどういう意味だろ?『六本の尻尾』?
「ボクはハル。夢宮陽です。さっきは、」
助けて頂いてありがとうございます、と言おうとした。
のだけれどもボクがフルネームを名乗った瞬間アイセさんは、ずい、と体を寄せてきた。
「ユメミヤハル!? なあ君! ひょっとして……日本人か!?」
「え!? ――え!? ちょっと待って下さい!? 日本人なんて単語を知っているっていう事は……
ひょっとしてアイセさんって……」
「ああ! 私は転生人だ! 君もだろう!?」
「はい! はい! ボクも転生して来たんです!」
その時のアイセさんの顔ときたら。
まるで親から誕生日プレゼントを買ってもらった子供ような、無垢で、本当に嬉しそうな笑顔だった。
「やった! やったぞぉっ! 仲間だっ! とうとう見つけたぞ!」
「わっ、わわっ?」
「ずっと探していたんだ! 私と同じ境遇の仲間を…!」
アイセさん、余程嬉しかったらしく感極まっているご様子。
ボク、アイセさんにホールドなう。ハグなう。
至近距離から好きな人の香りがダイレクトに鼻腔と脳を攻撃。やば、良い匂いだっ。
どくり、と心臓が跳ねる。
ボクとしても異世界に転生した直後に同じ転生人と出会えたのは嬉しい。
でも好きな人にハグされてそれどころじゃないぃ…っ///
し、静まれっ、ボクの心臓っ。
「ゴブリンとのバトルの時、君は『この世界では……』と口走っただろう?
『この世界では……』なんて言い回しは転生した人間くらいしかしないものだ。
もしやと思ってきちんと話をしてみてわけだが……正解だった。
しかも同じ日本人とはな!」
「あ、アイセさんも日本人なんですね」
「あぁ。シックステールというのはこちらの世界のファミリーネームだ。
転生前は神代藍星という名前だった」
「アイセって漢字ではどう書くんです?」
「藍色の藍に、星と書いてアイセだ」
「微妙にキラキラネームっぽいですね」
「ああ、よく言われるよ。私自信、嫌いではないのだがな――」
そんな感じでアイセさんと転生前の話に花を咲かせた。
夢宮家の家族構成は母親、父親、長女、次女、末っ子のボク、と五人家族。
かつボクが女顔なものだから完全に女性優位になって父さんもボクも肩身が狭かった。
アイセさんは家が剣術道場をやっていたらしい。
さらに家族構成は父親、長男、次男、末っ子アイセさんの四人。
母親はアイセさんが物心ついた時は他界していたらしく、実質男所帯で育ったという。
「おかげで女らしくも無い妙な喋り方になってしまった。
同世代の女子のように恋バナに花を咲かせたり、ファッション雑誌を読む事もないしな。
私はそんな事よりも竹刀を振っている方が性に合っている」
「まるで男の子ですね。ああ、悪い意味じゃありませんよ?」
「粗雑者だと自分でも思うよ。『もう少し女らしくしたらどうだ?』とか、『武者修行よりも花嫁修業をしたらどうだ?』とか父上には耳にタコができるほど何度も何度も言われてな。全く。自分が嫁入りするところなど想像も出来ないよ」
「あはははっ」
アイセさんは根っからの武人気質らしい。
ちなみに。
死亡理由は居眠り運転のトラックに轢かれ――
そうになった友達を庇ってアイセさんが代わりに轢かれたらしい。
「アイセさんらしいですね」
「ん? どういう意味だ?」
「誰かの為に自分の命を張れるところなんて、とても素敵だと思います。
ボクは勿論、普通の人には出来ませんよ」
「い、いや、そんな立派なものじゃないさ。
大体その時だって後先の事なんて考えずに、勝手に体が動いてしまったんだ。ただの愚か者だよ」
それ、完全に正義味方ですよ?
多分「助けて」という声を聞いてしまったら脊髄反射で行動してしまう程の、お人好しなのだろう。
やっぱり、アイセさんは良い人だ。
「ところで、さっきから私の話ばかりしているな。良かったらハルの話も聞かせてほしい。
ああ、『ハル』と呼び捨てにしてしまっているが、構わなかったか?
この世界では姓は名乗らない。名を呼び合うのが普通なのでな」
「大丈夫ですよ。けど、ボクの話ですか。普通の高校生ですよ? 転生前はお、」
男でした、と言おうとしたすんでの所でそれを飲み込んだ。
いやだって変態じゃん!?
アイセさんなら「そ、そうか、女になってしまったのか。それは大変だな」で済みそうだけど。
性転換した事を理由で嫌われたりはしないだろうけど。
でもそれは絶対じゃない。
万が一にも嫌われてしまうかもしれない、と思うと。怖い。
「――『お』?」
「お、お――オタクでした!」
嘘では無かった。
だってうちの姉、長女がエロゲンガーで、次女がエロゲ声優。
母さんは元シナリオライターだよ? ボクが女顔なもんだから散々オモチャにされたよ。
まあ、そんな訳でオタク知識は伝授済みです。
ちなみに父さんはイケメンだけどふつーのサラリーマン。
母さんに喰われた挙句に長女を孕ませてしまい、結婚へとこぎつけたそうな。
っていう事を説明するとアイセさんは、
「ご、業の深いご家庭なのだな……」
「美少女が好きかと思ったらBLでもイケるみたいだし。
あれはもう、モンスターですよ。エロモンスター」
「そ、そうか……」
言いながらアイセさんボクの胸元や背中の羽や尻尾をチラリチラリ。
「ボクも今はエロモンスター(物理)でした!?」
「し、しかし本当にサキュバスなのだな」
「うわーん! アイセさんは普通の人間じゃないですかー!? 何でボクはサキュバスなんですかー!?」
「あの【リリウム】様が考える事だからな。私には想像もつかない」
「自称清純派庶民派系17歳アイドルの女神様ですよね。
大草原不可避ですよwww くっそwwwwwwwwwwwwww ってなもんですよw
なんですあのメニューウィンドウの『称号&タレント』のパネルw
リアルで腹筋が崩壊するかと思いましたよwwwwwwwwwwwwww」
「あっ、ハル、あんまり不敬な発言をすると、」
――――がいんっ!
「みぎゃんっ!?」
視界内で星が散った。
「またタライかぁぁぁぁぁぁっっっ!!?」
転生ルームで散々痛い目に合せてくれた憎い金ダライがどこからともなく降ってきた!
地面に転がったタライは役目を終えるとそのまま光の粒子になって消える。
ぽん、とSEが響いて正面にメッセージウィンドウが開く。
[天誅なり~]
「こうなるから、ほどほどにしておいた方がいい」
「理解しましたっ」
この世界の住人全員を常に見張ってるって事か。
――――待って。それって、ボクらのプライベートはリリウム様に筒抜けって事じゃないの?
リリウム様まじ鬼畜。
「しかし……そもそもリリウム様がボクらをこの世界に転生させた理由って何なんでしょう?」
「正直見当も付かないな。
私が死んだ時も『ここで死ぬ運命ではない』と言われただけだ」
何そのエロシャダイ。
「そう言えば、この世界って大分変わっていますよね?」
「確かに。特に物理法則は全くあてにならない」
「あの、刃物で切っても体が傷つかずに吹っ飛んだりするのは仕様ですか?」
「仕様だ。普通は逆袈裟切りや切り上げの太刀筋で2メートルも5メートルも真上に吹き飛ばないよ」
「ですよねー」
バトル中は完全に格闘ゲームかアクションゲームだった。
「そうだ。この世界で生きていくなら色々と知っておかなければならない事が多い」
「聞きます」
ここに来てやっとチュートリアルだった。
***
「メニューウィンドウの開け方は知っているか?」
「はい。ゴブリンに教えてもらいました」
掌を上に向けて中指だけを――くいっと曲げる。
ひゅうん、とSEを響かせて下から出現する半透明のメニューウィンドウ。
「どうですっ」
ふんす、と鼻息荒くドヤ顔するボクにアイセさんはなんだか可哀想なものを見るような目になっていた。
「その反応は――いや、何も言うまい。ハルの純情を汚す事もあるまい」
「? アイセさん? 何か言いました?」
「い、いや。何でもない。忘れてくれ」
「? は、はあ」
「それよりも、画面の見方は分かるか?」
言われてボクは現れたウィンドウをマジマジと見る。
『====================
ステータス 装備 アイテム
スキル アーツ&アビリティ 称号&タレント
通信 コンフィグ 閉じる
====================』
正方形のウィンドウには九つの項目。
それぞれにデフォルメされたリリウム様のイラストが添えてあった。
ボクはゴブリン達に操作の仕方を教わりながら『ステータス』と『アーツ&アビリティ』の項目を見たんだよね。
「はい。まだ開けてない項目がいくつかありますが……」
「一から説明させてくれ。多分その方が良い。先ずはステータスのボタンを押してくれるか」
「あ、はい」
『==================
名前:ハル
種族:サキュバス
クラス:マジシャン
称号:ハイパースーパーウルトラミラ
クルエキセントリックアメイジ
ングどすけべ
無言でウィンドウを消した。
「な、なんだ? どうしたんだハル?」
「……いえ、今、見てはイケないモノを見てしまったような……」
気を取り直して再びメニューウィンドウを呼び出し。再びステータス画面を開ける。
『==================
名前:ハル
種族:サキュバス
クラス:マジシャン(1/20)
称号:ハイパースーパーウルトラミラ
クルエキセントリックアメイジ
ングどすけべ
状態:ふつー
所属:ぼっち
ファミリー:だからぼっちだって
パーティ:ぼっちだって言ってんだろ
LV:1
EXP:0/20
LP:0/10
AP:20/20
SP:51/51
MP:152/152
HP:0/408
STR:20(ー5)
VIT:60(ー9)
DEX:130
AGI:80(ー8)
INT:140(+21)
MND:130(+13)
LUK:70
DES:170(+238)
所持金:0
PAGE:『1』/2/3/4
==================』
二度見しても称号の内容は変わらなかった。
嫌あああぁぁぁっっっ!!? 何この不名誉な称号はああああぁぁぁぁっっっ!!?
「ハル? 一体どうしたんだ? ステータス画面を見ただけでそんなに動揺するような事があるのか?」
「あるんですぅ…! 嫌だぁっ! こんな酷い称号は嫌だよぅっ……
ボクもアイセさんみたいに格好イイ称号がイイよう……」
リアルで(T_T)な顏になってしまった。
「称号? そんなに酷い称号なのか?」
『ハイパースーパーウルトラミクルエキセントリックアメイジングどすけべ』
どんだけ装飾語をくっつければ気が済むのか。
しかもご丁寧に『すけべ』ではなく『どすけべ』なのだ!
「これ、バトルする度に読み上げられるんですか? ボク泣きますよ? 人権侵害ですよ!?」
「ああ、確かにパーティを組まずにソロでのバトルだと個人の称号と名前が読み上げられるな。
だが今装備している称号が気に入らないなら外すという手があるぞ?」
「それだぁぁぁぁっっ!!」
ボクはステータス画面の『ハイパー(以下略)』の文字をタッチ。
『==================
『ハイパースーパーウルトラミラクル
エキセントリックアメイジングどすけべ』
==================
取得条件
1、タレント【○○○の魂】を所持
2、ヒ・ミ・ツ♪
==================
説明
ハイパーでスーパーでウルトラで
ミラクルでエキセントリックで
アメイジングなどすけべ娘の称号♪
バトル終了時の獲得EXPが4000分の1に
激減するよ~♪
ちなみに端数切り捨ての計算だよ。
…
==================』
開いた口が塞がらなかった。
『4000分の1』? え!?『4000分の1』!?
ウィンドウの戻るボタンでステータス画面に戻り、レベルとEXPを確認する。
――レベルは1。EXPは0/20。つまりバトル前と経験値変わってない。
「あの、アイセさん?」
「ん? 称号は外せたか? ああ、やり方が分からないのか。
称号の説明画面が出ていたら適当に画面を押せば『装備する/しない』の選択肢が出てくるぞ」
「あ、それは、ありがとうございます。あいえ。それとは別にですね」
「ん? どうしたんだ? なんでも聞いてくれ」
「その、インターセプトされた側、つまりさっきのゴブリン達とのバトルですけど。
ボクに何かしらのペナルティとかが掛かっていて、EXPの入手量が減るっていう事、ありえますか?」
「? いや? インターセプトする者は兎も角、された者には特にペナルティは無い。
ああ、そう言えばレベルは上がったか? ゴブリンを12体も倒したのだ。
しかも皆そこそこレベルが高い。『10』くらい一気に上がってはいないか?」
「……1です」
「なっ……なに?」
「レベル1のままです。ついでにEXPは『0』のままですっ」
思わず涙声になっていた。
「そんな馬鹿な――あ、いや、ちょっと待て。ハル、それはもしかして称号の効果じゃないのか?」
「EXP4000分の1ってなんじゃあああぁぁぁっっっ!?
逆チートかようわああぁぁんっっ!」
『逆チート』――反則的有利の逆。つまりは反則的不利。
人、それを縛りプレイと言う! マゾゲーとも言う!
「お、落ち着けハル。どんなに酷い称号でも外してしまえば関係無い」
「そ、そうでしたっ」
いけない。マイ称号が酷過ぎるせいで情緒不安定になってしまった。
えーと。確か、称号のウィンドウを開けて。
適当にタッチすれば装備非装備の選択が、
称号の説明が表示されているウィンドウをタッチした瞬間、ブブー、とエラー音が響いた。
「は?」
タッチ。ブブー。
タッチタッチ。ブブーブブー。
「…………イラっ♪」
タッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチタッチの連打連打連打連打あああぁぁぁっっっ!!!
ブブーブブブーブブブーブブーブブブブブブブブブブブブブブブブブーブブブーブブブブーブブブブブブブブブブブブブブブブーブブブブブーブブブブブーブブブブー。
しかしどれだけ画面をタッチしてもエラー音が響くばかり。
嫌な予感がどんどん膨らんでくる!
突如、きーんこーん、とお知らせのSEが響く。
正面に新しくウィンドウが開いた。
[称号の情報が更新されたよー♪]
「え? 情報が更新? ってどういう事?」
「ハル。恐らくだが、今の君の操作が原因で称号の新たな効果が判明したのだろう。
複数の効果を持つ称号やアビリティは情報が隠されていてな。
実際に使ってみたりしなければ情報が開示されない事が結構あるんだ」
なんという不親切設計。まあ、新しい称号やアビリティは実際使って試せ、って事なのだろうか。
それは兎も角、ボクはもう一度『ハイパー(以下略)』の称号を確認した。
『==================
『ハイパースーパーウルトラミラクル
エキセントリックアメイジングどすけべ』
==================
取得条件
1、タレント【○○○の魂】を所持
2、ヒ・ミ・ツ♪
==================
説明
ハイパーでスーパーでウルトラで
ミラクルでエキセントリックで
アメイジングなどすけべ娘の称号♪
バトルでの獲得EXPが4000分の1に
激減するよ~♪
端数切り捨ての計算でーす。
『ちなみにこの称号は外せないよ~♪』
…
==================』
「オワタ」
思わず\(^o^)/とポーズ。
「ハ、ハル? 大丈夫か?」
「イエス! アイムオーケー! マイネームイズ『エターナル・ゼロ』!」
「何!?『エターナル・ゼロ』!? フフっ…! ハル君も存外、いいネーミングセンスをしている…!」
「ああ永遠の経験値0って意味なんで。ボクもうレベル1のままなんで。この称号、なんか外せないんで」
「なんたるっ!?」
酷いのは名前だけにして欲しかった。まさか効果がまで酷い上に外せないとか。
これがリリウム様が言っていたチートだって言うならボクはもう――激おこだよ?
常時EXP4000分の1のペナルティとか。ふふふ。どんだけ頑張ってもレベル上がらないよね。
しかも端数切り捨ての計算という事はEXP4000ポイント以上ゲットしないと1ポイントも入らない計算になる。
EXP4000ポイントってどのくらいの敵と戦えば手に入るんだろうねぇ?
「うふふ。う~ふふ♪ ボークーはーレベル1~♪ ず~っと、ずっとレベル1~♪」
死んだ魚の瞳で地面に「の」の字を量産するの楽しいよー。あははー。
「正気に戻ってくれハルー!? そ、そうだ! ステータス画面の見方は分かるか!? 教えてやるぞ!?」
「……一応、聞いておきます。ぐすん」
「う、うむ」
というわけでボクのクソったれな称号はさておき。アイセさんによるステータス画面の説明である。
「ステータス画面の『名前』『種族』『クラス』『称号』については何か質問はあるか?」
「いえ、特にありません」
「ではその下、『状態』『所属』『ファミリー』『パーティ』は分かるか?」
「『状態』は文字通りコンディションだと思いますけど」
「そうだな。あまり難しく考えなくていい。それでは『所属』『ファミリー』『パーティ』だな。
『所属』は社会的な立場を表す項目だ。例えば私の『所属』は『冒険者ギルド』だ。
冒険者になる者の所属は基本的に冒険者ギルドになるな。次に『ファミリー』」
「ゴブリンとのバトルの時にパーティと同じようなモノって言ってましたよね?」
「ああ、だが厳密には違う。『ファミリー』は文字通り家族だ」
「家族って……あれ? 血の繋がりとか遺伝とかどうなるんです?」
「それは関係無い。『ファミリー』で問題視されるのは肉体的、遺伝的な繋がりでなく精神的な繋がりだ」
「……えと、つまり?」
「例えば、だ。さっきのゴブリンの内一匹がハルに惚れたとする」
飴玉を舐めている最中に苦虫を噛み潰したようなむっちゃ微妙な顔になりましたボク。
「た、例えばの話だからな!?」
「分かってます。続けて下さい」
「う、うむ。そのゴブリンがハルに『妹になって下さい』とか『姉になって下さい』とかお願いするとしよう」
姉妹の契りかYO!
「それを君が受け入れたらそのゴブリンは晴れてハルの『ファミリー』に入った事になる」
「申請と合意だけで『ファミリー』になれるんですか?」
「正確には『ファミリー』内のメンバー過半数の同意。
もしくは【エルダー】と呼ばれるファミリーの長の同意が必要だ。
ちなみに【エルダー】の姓がこの世界での『ファミリーネーム』という事になるな」
なんかややこしくなってきたな。
「あれ? じゃあアイセさんって、『シックステール』っていう名字の人物にお願いしてその人のファミリーになったっていう事ですか?」
「その通りだ。普段はぐうたらしているがこれがまた凄い武人でな。未だに歯が立たない」
は? え? アイセさんが歯が立たないってどんだけの化け物ですか?
「なんか。一瞬嫁入りみたいなのを想像したんですが、今の話を聞いたらどっちかと言うと弟子入りみたいな」
「はははっ! 違いない!」
「あ。でも一つ疑問が。その。
例えばボクがアイセさんの『ファミリー』になりたいって言ったらどういう扱いになるんですか?
ボクのファミリーは『シックステール』? それとも『カミシロ』?」
「『シックステール』だ。新しい『ファミリー』に入った時点で古い『ファミリー』の名前は無くなってしまう。
だからさっきハルが言った『嫁入り』と言うのも、あながち間違いではない」
……なんか、予想よりも、重い、な。
『嫁入り』か。それって今まで家族だった人たちと別れて新しい家族の元へ行くって事だ。
この世界じゃ結婚式を上げたり戸籍登録とかそんなややこしい事なしで当事者達の同意だけでそれが成立する。
「だから『ファミリー』内のメンバー同士の絆は強い。
古い家族を捨ててまで一緒に居たい、と思った者達しか居ないのだからな。
まあ、それでも喧嘩くらいはするのだがな」
「……成程、『ファミリー』の事、分かりました。それじゃ『パーティ』は?」
「ふむ。まあ、そのままの意味にとってくれて構わない。
基本『ファミリー』のメンバーは一緒に行動する事が殆だ。
ファミリーメンバー、イコール、パーティメンバーとなるわけだな。
ただ、高難度のクエストとなると1ファミリーでは遂行困難という事もある。
そういう時は他の『ファミリー』と『パーティ』を組むわけだ」
「成程……『ファミリー』はほぼ永続的な関係。
それに対して『パーティ』は目的を果たすまでの一時的な関係、という事ですね」
「その通りだ。『所属』『ファミリー』『パーティ』に関してはおおよそ理解してくれたか?」
「はい。大丈夫です」
「では次だ。『LV』『EXP』『LP』は分かるか?」
「すいません。『LV』『EXP』は分かるんですが『LP』が……」
「ああ。『LP』は『ラーニングポイント』だ。取得した『アーツ』や『アビリティ』を装備する為に使う。
ハルは何か『アーツ』や『アビリティ』を新たに装備したか?」
「いいえ。初期のまんまです」
「ふむ。なら恐らく『LP』は『0/10』になっていないか?」
「――はい」
「それはLPが丸々10ポイント未使用の状態を表している。
クラスがマジシャンなら下級魔法を一通り覚えているだろう。
確か下級魔法は必要LPが4ポイントだった筈だから、二つ下級魔法を装備出来るな」
言われて思い出した。
ゴブリンとのバトルの時、取得済みアーツリストを眺めてたらアーツの名前の右側に『4P』って表示があった。
あれは装備に必要な『LP』の事だったんだ。
「あの、ちなみにこの『LP』って一回使うと無くなったりします?」
「いやその心配はない。一旦装備したものも、外せば同じ数値分だけ『LP』は戻ってくる」
「アーツもアビリティも『LP』の上限を超えない限りは好きなように付け外しが出来るっていう事ですね」
「そうだ」
「ちなみに確認なんですが『アーツ』は所謂必殺技みたいなもの、っていう解釈で問題ないですか?」
「ああ、それで合っている。ちなみに魔法も『アーツ』に含まれる」
「で、『アビリティ』は常時発動する特殊能力と」
アーツは所謂『アクティブスキル』。アビリティは『パッシブスキル』って事か。
「それでいい。『LP』と『アーツ』と『アビリティ』に関しては理解できたか?」
「大丈夫です」
「では次だ『AP』『SP』『MP』『HP』は分かるか?」
「『AP』は『アーマーポイント』かな? 服とか防具の耐久度ですよね?」
「そうだ。これが半分まで減ると『アーマー・ブレイク』状態になり鎧や上着が壊れる。
残り二割を切ると『クロス・ブレイク』状態になって下着姿になる」
「でAP0で『オール・ブレイク』ですっぽんぽんにされるわけですね」
「そうだ。ここで気を付けて欲しいのは下着や服の防御力はタカが知れているという事だ。
防御力が数値通りに働いてくれるのは『アーマー・ブレイク』するまでだと思った方が良い」
「あー。攻撃を食らえば食らう程防御力が減っていくって事ですね」
「そういう事だ。『SP』『MP』『HP』は分かるか?」
「『SP』はスタミナポイント。『MP』はマジックポイントですよね多分」
「『SP』は合っている。が『MP』は正確に言うと『マナポイント』だ。
『マナ』は超常の力という奴でな。物理系の『アーツ』を使う時も僅かだが消費される。
その分普通に攻撃するよりも格段に威力が増加するんだ」
「成程……前衛職にも『MP』は必要なんですね」
「そうだ……『HP』は分かるか?」
「すいません。それ全然分からなくて――あ、いえ待ってください。
そう言えばゴブリン達が『ハート・ポイント』って言ってたような」
ついでに『サキュバス』が『ハート・ポイント』の事を知らないのはおかしい、みたいな事も言っていたような。
アイセさんは腕を組みながら顎に手を添えて何やら難しい顔をしている。
『HP』ってそんなにややこしい項目なんだろうか?
「――『HP』はな。その……興奮度合とかヤル気ポイントだと思ってくれればいい」
? ハイパーロボット大戦の『気力』みたいなものなのかな?
「ただ戦闘をするだけならあまり変動しないポイントだ。今は気にしなくていい」
「レベル1じゃあまり気にしなくていい、って事ですね」
これが上昇する事で強力なアーツが使えるようになったりするんだろうか?
「HPの最大値は400を超えているのに勿体ないなぁ」
「400!? レベル1でっ?」
「え、ええ。それって珍しいんですか?」
「サキュバスは『HP』が全種族中最も高いと言われているが。
それでもレベル1なら、高くてせいぜい200を超えるくらいだろう。
レベル1で400越えは聞いた事が無いな」
「でも、あんまり役には現状立たないんですよね」
「そ、そうだな……」
何故か目を逸らすアイセさん。
これは何か隠しているか、誤魔化しているよね。
まあ、きっとボクを気遣っての行動だろうし、追求するのも野暮かな。
「分かりました。『HP』の事は今はいいです」
「あ、ああ。では『STR』『VIT』『DEX』『AGI』。
それから『INT』『MND』『LUK』『DES』。
この八つの項目だな。まずは『STR』『VIT』『DEX』『AGI』から説明しようか?」
「大体分かりますが、念の為にお願いします」
「『STR』は『Strength』。筋力だな。これが高いほど重い武器を使った時の威力が増す。
それから重い武器を持てるようになる。
他にもガードや鍔迫り合い、それに吹き飛ばしの距離も増える」
「結構色んなところに影響が出てきますね」
「基本のステータスだからな。接近戦になればこれが高いだけで有利になる。
次は『VIT』。『Vitality』。生命力だ。これが高いほど『SP』の最大値が上昇する。
また装備可能な防具最大重量が増す。この数値が高い程、高性能な防具を装備できるという事だ。
それから物理防御の上昇だな。『AP』へのダメージを減らせる」
「攻撃には『STR』。防御には『VIT』ですね。
あでも『SP』はスタミナだから、攻撃や回避にも影響が出てくるのか」
「良い所に気が付いたな。『VIT』は防御力を上げる、というよりも持久性、生存力を上げる意味もある。
『VIT』の数値を高めて防具を軽い物で固めれば、防御力は下がるがその分スタミナの消費も下がる。
スタミナにものを言わせて相手の反撃を許さずに攻め続けるという戦法も出来るわけだ」
「『VIT』も超重要ですね」
「まあ、攻撃を当てるにしても防ぐにしても避けるにしてもスタミナは使うからな。
次は『DEX』。『Dexterity』。技量だな。これが高いほど軽い武器を使った時の威力が増す。
あと、矢や銃などの射撃系の命中率が上昇する。勿論近接武器の命中率も上昇する。
確かクリティカル確率・ダメージにも少し影響した筈だ。
あとは――【チェイン】の最大回数が上昇する」
「【チェイン】……知らない単語ですね」
「ああ、【チェイン】はアーツの攻撃モーションをキャンセルして別のアーツへと繋げる事だ」
「完全に格闘ゲームです! 本当にありがとうございました!」
「繋げると言ってもまあ、色々制約があるのだが。
ハルの言う通り【チェイン】を利用すればゲーム紛いのコンボを叩きこむ事が可能だ。
練度の高い者同士の戦いになると相手の最大【チェイン】回数を見極める事が決め手になる事が多い。
――そうだな。銃で言う所の『装弾数』みたいなものだ。
銃に装填されている弾を全て撃ち切ってしまえば弾丸を補充しないといけないだろう?
だがそれには大きな隙が生じる。【チェイン】もそれと同じだ。
ある程度熟練した者同士の対決になると、最大回数まで【チェイン】した後のアーツの硬直に攻撃を叩きこむのが決め手になる事が多い」
「いや、あの。勉強にはなりますが……多分ボクはその領域にはまだまだ到達しないと思うので」
「あっ。いや、すまないっ。得意そうに喋ってしまった。自慢するようだったな」
「ちなみに一つ疑問が」
「な、何だ?」
「アーツって凄い必殺技が多いように見えますけど。
その間に攻撃されても普通に攻撃を中断して回避すればいいんじゃありません?」
「それが出来ないんだ」
「は? え? どういう事です?」
「アーツはただ攻撃するだけとは違ってな。
技名を宣言し、発動させるアーツを『出すぞ』と意識する事で発動する。
また魔法以外のアーツは心の中で技名を宣言しても発動する。
そして発動すれば技を終えるまで勝手に体が動き続けるんだ。
自分の意志で無理矢理アーツを止める事は出来ない。
中衛職にはアーツのモーションを途中で止めて回避行動にキャンセルできるアビリティがあるが、
私のような前衛職にはそれが無い。
一旦アーツを発動させたら最後まで技を出し切るか、【チェイン】の最大回数まで別のアーツに繋げるか、
どちらかしか出来ない訳だな。
魔法だって詠唱を終えて魔法名を宣言したところでモーションに入り、その硬直が解けるまで動けない筈だ」
「うわ。結構シビアですね」
「ああ。アーツは強力だが何も考えずに使うと手痛い反撃を受ける事になる。
ここぞという時に使うのが無難だな――ふむ少し話が逸れたか。
次は『AGI』の説明をしよう」
「『Agility』。素早さとか、機敏さですね」
「そうだ。これは単純にダッシュ速度や回避動作の機敏さに影響する。
あとは跳躍力や、飛行能力を持つものなら飛行速度にも影響するな」
「単純に回避力と移動速度が上がるって事ですか?」
「そうだな『STR』『VIT』『DEX』『AGI』の四つに関しては大丈夫か?」
「はい――あ、いえ。ちょっと待って下さい。
『STR』でも『DEX』でも攻撃力が上がるような言い方をしていましたけど……」
「ああ、言い方が悪かったか。
細かく言うと武器には『筋力系』と『技量系』そして『両立系』の三種が存在する。
両手剣や両手斧、両手槌などは『筋力系』と言われる武器で『STR』の数値を伸ばせば威力が上がる。
それに対してレイピアやダガー、刀などは『技量系』と言われ『DEX』の数値で威力が上昇するんだ。
ロングソードなど扱いやすい直剣は『両立系』と呼ばれ『STR』『DEX』両方の影響を受ける」
「自分に合った武器に合わせて『STR』を上げるか『DEX』を上げるか。
或いは両方を均等に上げるかを考えればいいんですね」
「そういう事だ。では次にいこう。『INT』『MND』『LUK』『DES』の四つだ。
『INT』は『Intelligence』。知性だな。攻撃魔法の威力と『MP』に影響する」
「魔法職のボクには一番重要なステですね!」
「その通りだ。次は『MND』。『Mind』、精神力だな。
魔法防御力と回復魔法、補助魔法の威力、それからこちらも『MP』に影響する」
「『INT』でも『MND』のどっちでも『MP』が上がるんですか?」
「正確にはその両方を足して割った数値が最大『MP』の基本数値となるらしい。
勿論両方高ければその分『MP』は上昇する」
「成程」
「次は『LUK』。『Luck』。幸運だな」
「『LUK』の数値って、普通のゲームとかだとあんまり有難味を感じられないんですよね。
アイテムのドロップ率とかもそうですし、クリティカル発生率とか状態異常の発生確率とか。
本当に『LUK』の数値が影響されてるのー? って感じですよ」
「まあ、所謂テレビゲームの中ではそういう扱いなのかもしれないが、
この【リリアレス】の世界では違う。『LUK』の高さが勝利に直結する事が多い」
「と、言うと?」
「ハル。ゴブリンとバトルをする時、女神様がコイントスをしなかったか?」
言われて思い出した。
「【ライト・サーブ】!」
バトルフィールドの広さや形状、制限時間等を設定する【レギュレーション】というものがある。
これは【ライト・サーブ】と呼ばれるコイントスで勝った方が好きなように設定出来るのだ。
つまり。
【ライト・サーブ】に勝てば自分が有利なフィールドを、或いは相手が不利なフィールドを設定出来るという事!
「そう。『LUK』の高さが、【ライト・サーブ】の勝敗に影響するんだ」
「文字通り、『運も実力の内』って事ですね……」
うわあ、『LUK』のステ、超重要だぞ。上げられるなら真っ先に上げていきたい。
「最後に『DES』なのだが……」
「そう。それです。『DES』っていうのはボク見た事無くて、一体何の数値かさっぱり分からないんですよ」
再びアイセさんは思案顔になっていた。
どころかチラチラとこちらの顔を盗み見て様子を窺っている。
うわむっちゃ悩んでるよアイセさん。
「あの、ハル? もしかしなくとも『DES』の数値も400を超えていないか?」
「え? ――あ、そうですね。あれ? っていうか『DES』の数値が『HP』と一緒なんですね」
「あ、ああ。そうだな」
「うーん。でも『HP』が高くても役に立たないんじゃ『DES』も死にステですねー。
これが一番高いのに……」
「ま、まあサキュバス自体は『INT』も『MND』もそこそこ高い種族だ。
魔法職をするなら何も問題はないさ」
「……アイセさんがそう言うなら、頑張ってみます」
「あ、ああ。それがいい。さて、ステータス画面の1ページ目は説明し終えた訳だが」
「ステータスの画面、全部で4ページもあるんですよね……」
なんだろうこの細かさは。下手なゲームよりも無駄に細かい気がする。
凝っていると言えば聞こえはいいかもしれないけど。
「2ページ目は現在の装備。それから筋力系、技量系、両立系の各武器の補正値、物理防御や魔法攻撃力、防御力。
他にも装備可能最大重量など細かいステータスが載っている。
詠唱速度なども記載されているから目を通しておいた方がいいな。
3ページ目は装備中のアーツ、アビリティの一覧。
それから4ページ目が戦闘回数や勝利回数など記録に関するデータがまとめられている。
最初の内は1ページ目と2ページ目を見ていればいい。
特に1ページ目はその者の能力や立場が一目で分かる、言わば名刺代わりにもなるぞ」
「分かりました」
「今日の所はこれくらいにしておこうか。あまり長々と話しても一度で覚えきれないだろう?」
「助かります」
正直、思っていたよりも学ぶことは多そうだ。
ちょっとゆる~い感じの異世界だと思ったら、バトルに関しては真剣で考えていった方が良さそう。
「さて。では移動しよう」
「すっかり夜になっちゃいましたからね」
空には綺麗な夜空とお月様らしい天体が二つ並んでいる。
幻想的な光景にちょっぴり感動するけど、肌寒いのは頂けない。
さっさと移動したいのが本音だった。
アイセさんはメニューウィンドウを呼び出し、操作する。
するとアイセさんのすぐ正面よりも少し右側に中空に直径50センチ程度の魔方陣が現れる。
更にアイセさんはその魔方陣へと手を突っ込んだ。
まるで『どこだってドア』や『五次元ポケット』のように魔方陣の向こう側は別の空間に繋がっているようだった。
アイセさんの手が魔方陣に飲み込まれるような絵になっている。
「どれ」
といいつつ魔方陣から引っこ抜かれた手には菱形のクリスタル。
「あの。今のどうやったんです?」
「……ああ。ハルはまだアイテムを使った事は無かったか。
アイテムを使用する時にはメニューウィンドウの『アイテム』から使いたいアイテムを選択する。
すると今のように魔方陣が出現するからその中に手を突っ込む。
使いたいアイテムが用意されているからそれを引っ張り出して使うだけだ」
「いや、あの……アイテムってバッグに入れたりして持ち歩くものじゃないですか?」
「実際にそうする事もあるが、こちらの方が便利だ。手も塞がらないしな」
ファンタジーの要素がどんどん削られていく!?
いや、仕組みは謎というかファンタジーなんだけど。
「さあ。それでは行こうか」
ボクに左手を差し出すアイセさん。
怪しんだ訳じゃないけど、思わずそれを不思議に見返してしまった。
「ああ。この【簡易転移石】はな、使用者と、それと手を繋いだ者を最寄りの町や拠点へと転移させるんだ」
「あ、そういう事でしたか」
ボクは一瞬躊躇ってから、おっかなびっくりにアイセさんの手を取った。
黒い、指切りグローブの革部分は風に吹かれて冷たくなっていた。
けどその先から覗く、細くて綺麗な指は暖かい。
ドクリ、と胸が高鳴る。
意味も無く頬が熱くなるのを感じた。
月明かりを背に微笑むアイセさんは反則的なくらいに可愛くて。
見とれてしまった。
頭の中が真っ白になって、ただボーっと、好きな人の顔を見上げてしまう。
そんなボクの心境を知ってか知らずか、アイセさんは【簡易転移石】を高々と掲げて叫んだ。
「転移!」
クリスタルが宙へとゆっくりと浮き上がり、眩い光を放つ。
その光に、ボクとアイセさんの体は飲み込まれた。
主人公ハルの反則はちゃんとあります。
実際に使用するのはまだ先ですが、チート解放シーンはめちゃんこ盛り上がるので期待して下さい。
次回ではヒロインのアイセのファミリー(ハーレム)メンバーが登場します。内訳は、
『喧嘩っ早いアイセの同門(シックステール刀剣術の兄弟子)』。
『パッと見は清純派の犬耳お姉さん』
『口数少なめ(ネット弁慶)なロリダークエルフ』
あと一人ハーレム要員が居るのですが序盤は出てきません。
それでは次回以降もどうかお付き合い下さい。