第15話 開 花 ♪
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今回、性的刺激の大変強い内容となっております。
本番行為もASOKOの直接描写もネットリキッスの描写も無いですが、
多分今までで一番やらしいお話かもしれません。
ご試聴の際にはご注意ください!!
「っクソ! 見当たらねぇ!」
ライラはバーグヴァーグの商店通りを歩きながら忌々し気に吐き捨てた。
自称聖騎士の少女オリーから不吉な言葉を聞いてからと言うもの、嫌な予感が止まらず、ハルの姿を探し商店通りを走り回っていたのだ。
(思い過ごしならいいんだけどよっ)
が、治安の悪い街で非力なサキュバスが一人で行動する事自体が危険だ。ハルは戦闘経験も積んでいるし、あの吸血鬼ミラーカも撃破した実力の持ち主だ。
しかし、今からヴェイグランツが相手にしようとしているものは、力の強さ云々で何とか出来る輩ではない。
犯罪者と言うのは往々にしてずる賢く、卑劣な手段を取る。それをあのハルが理解しているのならばいい。警戒しているのならばいい。
だが、もしそうでないなら。
世間知らずの自称記憶喪失の少女など、あっという間に奴らの食い物にされてしまうだろう。
陽もすっかり落ちてしまった。
夜時間になると羽目を外す者も増えるだろう。
先程のナンパ程度では済まない事態にもなりうる。
嫌な考えばかりが浮かぶ。
そんな時だった。
キーンコーン、とお報せのSEが響く。
[ハルちゃんからメールだよー♪]
「っ!?」
往来の真ん中で立ち止まり、慌ててメールを開く。
内容は――
「はぁっ!?」
(歓楽街で買い物だぁ!? あのバカっ!! 何でよりにもよって一番危ねー所に居るんだよっ!!)
メールを閉じるとライラはバーグヴァーグの歓楽街に向かって、一直線に走り出した。
***
「――おい――」
声と同時に頬を軽く叩かれる。
それでボクは目を覚ました。
「んん……?」
「おはようお嬢ちゃん♪」
目の前にゴーグルを掛けたごろつき男が居た。
「「………」」
二人で静かに見つめ合って――
「うわあぁぁっ!?」
こいつ、さっきボクに声掛けて来たヤベー奴やんけ!?
「っ!?」
そこでふと気づく。
手を後ろ手に縛られてる!?
ボクは慌てて辺りの様子を探る。
ここは――どこかの倉庫?
体育館程度の広さの建物。光量の抑えられた魔法の明かりが、建物の中をぼんやりと照らしている。そこら中に木箱や、麻布が詰まれ、見通しも悪かった。
その一角で、ボクは背もたれ付きの椅子に座らされた挙句、手を後ろ手に拘束されているのだ。ついでに両足も、椅子の足に紐で結ばれ、固定されている。
これじゃ、身動きが取れない!
「「「ぐへへへへ……」」」
そんな最悪な状況で、ゴーグルを掛けたごろつき三人がボクを取り囲んでいた。
馬鹿でも分かる。
ボク、拉 致 ら れ と る やんけ!?
サーッ、と顔が蒼くなっていくのが自分でも分かる。
なんちゅーこっちゃ! この町は今治安悪い、って話を聞いてたのに…! こんなにあっさりごろつき達に捕まっちゃうなんて!
うぅ……! ボクの馬鹿! もっとちゃんと警戒しろぉ!
「さあて。そろそろ状況は理解できたかなー?」
目の前のリーダー格らしいヤツ。革のジャケット、ロングブーツ、グローブ。茶色い短髪をオールバックにした、中肉中背の人間っぽい女性――もとい男性がボクの顎に手を伸ばし、ぐい、と引き寄せる。
ゴーグル越しに、欲望にぎらついた瞳が見えた。
ゾクリ、とする。
一目見ただけで、ヤベー奴だと直感した。
「あ~ん? あんまビビってねぇなぁ」
「ひょっとして期待してんじゃねぇのか?」
「サキュバスだしな? ひゃはははは!」
取り巻き二人の下衆な笑い声が倉庫に響く。
……ちょっと待って。今更なんだけど……
こいつらが町の誘拐事件の犯人ちゃうん!?
現に今ボク誘拐されとるやん!!
――だとしたら、これはチャンスだ!
思っていたのとは少し違うけど――こうやって囮作戦が成功し、犯人と接触できた事には違いない!
チャンスを待つんだ。何か情報を引き出せるかもしれない…!
「……おいトム。念の為ステータス見とけ」
「何だよクリム。慎重じゃねーか?」
「どうせ学園生活で欲求不満になったサキュバスだろ?」
「いーからさっさとやれっての」
「へいへい」
取り巻きの内一人、【トム】と呼ばれたハーフリングがボクの前に歩み寄り、
「お嬢ちゃんのステータス、ちょっと見せてねー♪【ピーピング・ウィンドウ】♪」
え? どーいう事? ステータスを見せるって……?
ところがボクが疑問に思う間もなく、トムは両手の人差し指と親指で長方形を作ると、それを通してボクを見る。カメラのファインダーを覗くように。
青白い、【アーツ】のエフェクトを纏って!
フォン――と、いつものSEを響かせながら眼前にステータスウィンドウが出現した!? ボクの操作無しで!?
今の、ひょっとして他人のステータスを強制的に開示させる【アーツ】なの!?
「ちょ、ちょっと待って下さい! それは勘弁して下さい!」
ボクの正体がバレる!?
それはつまり――
――称号が【ハイパースーパーウルトラミラクルエキセントリックアメイジングどすけべ】だとバレてしまうーっ!!
ジタバタと暴れて抗議するがごろつき三人はどこ吹く風でボクのステータスを興味津々で覗き見た。
「――おいおいマジかよ。こいつはたまげた……」
「ウッソだろ!? 噂の『シュタットの英雄』様じゃねーか!?」
「ひゃっひゃっひゃ!! マジウケる!! ハルちゃんそんな恰好であんなとこに行って何しよーとしてたの!?」
「マジおもしれーw 極悪吸血鬼を倒したって噂のサキュバスが俺達みたいなごろつきにあっさり拉致られるってw」
「ひゃっひゃっひゃ!! 英雄の肩書き返上しろよ!」
「マジ雑魚w レベルも1だしw」
「ううううっっ!!!」
悔しいぃぃぃっっ!!! ぶちかますぞワレェ!!
お前らみたいなごろつきなんかなぁ!! あのミラーカちゃんに比べればクソ雑魚ナメクジ同然やろぉ!? レベル1でも倒せる自信あるわい!!
でも……捕まっちゃったのは完全にボクの自業自得(´・ω・`)
「只の学生かと思いきや、とんでもねー大物が釣れちまったな」
「いーじゃねーですかクリムさん。あの『シュタットの英雄』ですぜ? きっと誰に売ってもいい値が付きますよー♪ ひゃっひゃっひゃ!!」
こいつら、ボクを売り飛ばすつもりか!?
……そう例えば、ペドフィ侯爵夫人なんかに!
「貴方達が町の誘拐事件の犯人ですね…!」
ごろつき達はキョトンとしたような顔をした。
え? 何やこのリアクション?
かと思ったらお互いの顔を見合って――
「「「ぷっ。ぎゃはははっ!」」」
大爆笑!!?
「な、何がおかしいんですか!?」
「いや! いやすまねー! そーだよなー! 実際こうやって拉致られてんだ! 噂の事件の犯人だと思うよなぁ!」
「ところがどっこい!」
「俺達、只の流れ者♪ バーグヴァーグには一週間ほど前に来たところだぜ♪」
「え? ……えぇっ!?」
人違いならぬ、犯人違い!?
でもさっきのリアクション、嘘を付いているとは思えないし…っ。
「なークリム。いーからさっさと始めようぜぇ」
ギョッとした。
こいつ等が例の事件と無関係だって言うなら、ボク完全に拉致られ損やぞ!? 何の為に学生のコスプレまでしてん!
「まーそーだな。邪魔が入る前に始めちまうか」
にじり寄るクリム。
状況は絶体絶命。だけど……
――実はボクには奥の手がある。
手足は縛られてる。そしてこれだけ距離が近ければ恐らく魔法を詠唱する暇も無い。
だったら!
「【ファシネイト・アイ】!」
ウィンクしたボクの右目からハートのエフェクトが飛び出しすと、ゴーグル越しにクリムの目に直撃した!
「っうお!?」
ピンク色の数字で『21』とHダメージが表記される。
【性技】スキルのランク1のアーツ。
魔力を瞳に込め、対象へと放つ!
相手の目を見て発動する事でHダメージを与え、確率で【魅了】のバッドステータスを付与する。
これでリーダーのクリムを魅了して情報を吐かせる!
果たしてクリムは――
「……気ぃ済んだか?」
不敵な表情を浮かべていた!?
そんな…! 全然効いて無いの!?
「残念だったなハルちゃん。とっくに対策済みだよ。アンタを抱えて逃げる時からやべー感じがしてたからな。ゆっくりおねんねしてる間にH属性の態勢を上げるアイテムを使用済みだ。まあ、それでも思ったよりもHダメがデカくてビビったがな」
言って懐から薬草らしきアイテムを取り出す。
「知ってるか?【クリエ】っていう薬草だ。Hダメージ耐性とそれ系のステータス異常に耐性が付く。それと――」
コツコツ、と両眼を覆うゴーグルを指先で叩く。
「俺達が付けてるゴーグルは視線を介した魔力を遮る効果がある。これで吸血鬼やサキュバスなんかに魅了される事も無くなる訳だ」
「……くそっ」
「まだ有るぜー」
クリムは右のグローブを外し、指を見せる。
その人差し指と中指に――
「あぁっ!? ボクの指輪!?」
【聖女の指輪】と【乙女の指輪】がはまってる!?
気絶している間に取られたんだ!
そうか、こいつらボクと随分長時間接触している筈なのに、ミースさんのように【オディ】る気配が無い! サキュバスのフェロモンを警戒して、ちゃんと対策を講じていたんだ!
「ハルちゃん。ネットに上がってる動画見たぜ。どうにもDESが高くて困ってるみたいじゃねぇか……けどよ、一回派手に【オディ】って、愉しもうぜ?」
マズいマズいマズいマズい!!
ボク、指輪が無かったら余裕で【オディ】っちゃうよ!? こんなヤバイ人達相手に、エロエロな気分になっちゃったら……一体どうなっちゃうの!?
しかも向こうはH系のステータス異常に耐性を付けてるから、ボクだけが理性を失って暴走する事になるだろう。もしそんな事になったら――キス程度じゃ絶対に済まされない!
「ほーらハルちゃん? もーすぐお楽しみの【夜時間】だぜぇ?」
クリムが何かのウィンドウを開ける。
時計だ。数字で『19:59:42』と表示されている。
「ふーう! タイミングバッチリだな!」
「うひゃひゃひゃひゃ! Hなカウントダウンイってみよーか!」
「ひっ……」
ど、どーしよう!? どーしよう!? 何か手は…!?
「「「10♪ 9♪ 8♪」」」
そうだ! 大声で叫べば!
「だ、誰か!」
「「「7♪ 6♪ 5♪」」」
お願い! 誰か気付いて!
「誰か助けてぇ!!」
「「「4♪ 3♪」」」
アイセさん! ライラさん! 皆ぁ…!
「「「2♪ 1♪ 0♪」」」
キーンコーン♪ いつものお報せSEが、死刑宣告に聞こえた。
[おっ待たせー♪ ムフフ♪ の夜時間だよー♪]
奇跡も、救いも無かった。
リリウム様のアナウンスと共に脳内がピンク色に染まり――
同時に下腹部の【妖花の淫紋】が熱く疼く。
ドクり、と心臓と一緒に淫紋が脈動した気がした。
「うっ……ふぅぅっ」
あ…つい…!
体中から汗が噴き出るような感覚。
同時に今までよりも濃厚な香りが辺りに漂い始める。
[Warning! 【妖花の淫紋】が開花するよ!]
女神様のアナウンスが……遠く聞こえる。
甘い、花のような香りがした。
この香りは……どこかで嗅いだ気がする。
何処だっただろう。
思考能力が失われていく。
それに取って代わるように強烈な衝動が湧いて来る。
[欲情]
ピコーンというSEと共に、視界の右下の端のバッドステータス表記エリアに【欲情】という文字が現れた。
そっか。ボク今、欲情してるんだ。
うん。【オディ】ってるからね…♪
Hな事、したくてたまらなくなってる♪
ピコーン☆ [下着を替えようNE☆]
ASOKOがじくじくうずうずしてる♪
この人達、悪い人達なのにぃ……ボク、めちゃくちゃにして欲しい、って思ってるぅ♪
[発情] ピコーン☆
「はぁ……はぁ……♪」
ドクンドクンと心臓と一緒に淫紋が脈動する。
体は熱に浮かされたように熱く、火照っている。
もう、我慢出来ない♪ どうして何もしてくれないのぉ♪
「ひゅー。やっぱサキュバスはドスケベだな。さっきまでカマトトぶってたのに今じゃこのザマだ♪」
「あ、ああ……♪」
「クリムぅ……俺、もう我慢出来ねえよぉ♪」
「こら馬鹿触んな。折角だ。シュタットの英雄様が、場末の娼館のビッチみたいによぉ~、無様に『おねだり』するまで見てよーぜ」
「えぇ…♪ ヤダァ…♪ 焦らしちゃヤダァ…♪」
とんでもない猫なで声が飛び出る。
あぁ…ボク……【オディ】ってる♪
Hな気持ちが溢れて止まらない♪ きっとASOKOも大変な事になってる♪ 胸なんかずっとドキドキしっぱなし♪ 今のこの最低な状況を愉しんじゃってる♪
――でも
焦らされるのは……嫌だな……
――ピコーン。
[○○○の魂(限定解放LV2)]
(……じゃ、こっちからやっちゃえ♪)
ピンク一色の思考の中に、誰かの声が混じった。
(我慢は体に毒だから♪ 向こうがシテくれないならこっちからシテあげれば良いんだよ♪)
誰かがボクの頭の中に、語り掛けている。
ひょっとしたら、それは只の幻想で、焦れたボクが作り出した妄想なのかもしれない。
(大丈夫♪ 今のアナタは、その為の力を持っているから♪)
ピコーン。
[妖花の淫紋(限定開花)]
カチり。とボクの中で何かのスイッチが入った気がした。
今までそこに存在していた筈なのに、それに気付かずにずっと使っていなかった何かのスイッチ。
それがオンになったような、そんな感覚だった。
同時に頭の天辺、の少し左側に何かが根付くような感触。
「もう♪ 女の子を焦らし過ぎるのはダァメ♪」
新しい使えるようになった『何か』を利用する。
それはボクの意思で、自由自在に動かせるみたいだった。
まるで人間には無い、尻尾や羽を動かすように。
ブツンッ…! と音がした。
「あん? 何の音だ?」
「これが切れた音ですよぉ♪」
言って縛られていた筈の手を正面へと持ってくる。
ボクの手には、無残に引きちぎられた拘束用のロープが握られていた。
「っ!? はぁっ!?」
「テメェどうやって!?」
「マジかよ! レベル1のサキュバスが力技で出来る芸当じゃねえぞ!」
「ふふ…♪」
ブツブツンッ…!
ロープを引き千切った『それ』が、今度は両足を拘束しているロープも引き千切る。
「はっ!? お前、それっ!」
「クス…♪ 今度は、貴方達が縛られる番ですよ♪」
ボクの意思に従うように、
ボクの体から生えたいくつもの触手が三人組に襲い掛かった。
***
Topics!
『=================
犯罪行為
=================
『誘拐』や『窃盗』、『性的暴行』や
『辻斬り』なんかの犯罪行為は、武器や
【アーツ】、【魔法】による攻撃行動と
一緒で、【バトル】以外でしちゃ
いけないよ?
もしやったら私が天罰を下します!
また、それらの【犯罪行為】が
第三者に判明、或いは犯罪を犯した
本人が【戦闘不能】や【気絶】状態に
なると『私は○○を行いました。
ごめんなさい』って感じの「犯罪経歴
を暴露」するメッセージが免罪される
までずっと付いて回るようになるよ!
でも【犯罪】カテゴリの各スキルを
コツコツと上昇させていく事で、
天罰を回避する事も可能になるよ。
ちなみに犯罪に遭ってしまった被害者
は正当防衛として『武器』『アーツ』
『魔法』等による攻撃行動を許します。
悪漢達を返り討ちにしよう!
================』
***
歓楽街は騒然としていた。
ここは領主ペドフィが新領主として着任してから作られた場所で、金を惜しみなく使われた場所だ。色取り取りの魔法の明かり。煌びやかな看板。娼館に高級ホテル。小さいながらもカジノもある。
ペドフィ含む、一部の金持ちや稼ぎの良い冒険者達が刺激的な夜を過ごす――そんな所であり、身なりのいい貴族の者や良い装備をした冒険者達が跋扈している。
夜だと言うのにも昼の商店通りと同等の活気と熱気を帯びているが――どこかよそよそしさがある。
その正体は、歓楽街のあちこちに見える衛兵の姿だ。
(何かトラブルがあったな)
そのトラブルに、ハルが巻き込まれない事をライラは祈る。
「――えぇ。三人組の、ゴーグルを掛けた。一瞬の事でした」
と、人混みの隙間から衛兵から聴取を受ける女性の姿が覗いた。
「――通してくれ」
人混みをかき分け、聴取を行っている衛兵――エルフの男性へと近づく。
「まさか町中で、あんな堂々と人攫いをするなんて……」
「っ!? おいアンタ!」
人混みをかき分け、女性の元へと近づく。
「君! 悪いけど仕事中だっ。ナンパなら後に、」
「攫われたのはピンク色の長い髪をしたサキュバスだったか!? ハーフンの学生服を着た!」
「えっ…? …えぇ……」
ギリッ…と軋むほど歯を噛みしめた。
エルフの衛兵も何か思う所があるのか渋い顔をしている。
(言わんこっちゃねえ! あんのバカ! 簡単に拉致られてんじゃねーぞ!!)
「君……もしやライラ=シックステールか?」
「そうだよ!!」
「……という事は、ハルさんが行動起こすよりも早く先手を打たれてしまったと言う事ですね……いや、それにしては手口が露骨すぎる……今まで尻尾も出さなかった誘拐犯がこうも大胆に犯行を……」
(あん? この野郎、ハルの作戦の事を知ってやがんのか?)
軽装鎧を着たエルフの衛兵を見ていると、その視線に気付いたのか改めてライラへと向き直った。
「申し遅れました。私バーグヴァーグ自警団捜査隊所属、隊長のベヒターと申します」
聞き覚えのある名前だった。
「あー成る程――アンタが依頼主か」
「はい。それで、宜しければご協力を」
「するに決まってんだろ。で? アイツの行方は追えんのか?」
「……恐らくは。目撃者も多い。後はハルさんの持ち物などが見付かれば魔法による追跡を行えるのですが、」
「ベヒター隊長!」
ベヒターの部下と思われる自警団員が駆け寄って来る。
「何だ?」
「路地にこんな物が」
「――っ!?」
ライラは目を見張った。
自警団員の手に握られていたのは、セーラー帽だ。
それが誰の持ち主か考える前も無かった。
「ライラさん、これはまさか……」
「ああ。アイツのだ」
「思ったよりも早くカタが着きそうですね」
「あぁ。ウチの妹分に手ぇ出した事、キッチリと落とし前付けさせてもらわねえとな」
獰猛な笑みを浮かべるライラ。
だがその心中は穏やかなものではない。
(俺が行くまで、無事でいろよ…!)
***
甘い香りが倉庫の中に満ちていた。
「……はぁー…♪…」
リップも引いていない、色気とは無縁そうな少女の愛らしい口から、娼婦も顔負けの艶めかしい吐息が漏れる。
ぺろり、とその少女は舌なめずりをした。
柔らかな頬は興奮に紅潮し、
眼鏡の奥の瞳は劣情に潤み、
欲望を解放する悦びに、幼い顔は恍惚の表情を浮かべている。
セーラー服を着たサキュバスの少女。
ハルだ。
「すごぉい筋肉ぅ……腹筋、割れてるぅ…♪」
マウントを取り、下になったごろつきのリーダー、クリムの露出した腹部に手を這わせる。
まるで慈しむようにも見えるが、違う。
肉の熱さを、感触を、力強さを、その内に秘めた精気を手のひらから感じ取り、今まさに舌なめずりしてるのだ。
「……これ、もういらないかな。見づらい」
自分で紅いフレームの眼鏡を外し、邪魔だとばかりに放り投げる。
現に、度の入っていないレンズは熱気で曇っていた。
「何なんだ……テメェは…っ」
一方クリムはハルから伸びだ触手――正確には植物の蔦のような物に絡め取られ、拘束されていた。その上にハルが馬乗りになる形で乗りかかっている。
「ボクぅ? ボクはぁ……ふふ♪ シュタットの英雄で~すぅ♪」
「これがっ、これが英雄様のする事かよっ」
クリムが視線をとある一点に向ける。
そこには、瞳をハートマークにしながら昏倒している二人のごろつきの姿があった。
クリムの目の前で、精気を奪われたのだ。
蔦で拘束され、成す術無く唇を奪われた。
「一瞬で、トムとニックのレベルを吸い尽くしやがったな!?」
『一瞬』とは語弊があるものの――クリムの目の前で、ほんの数秒で20少し有った二人のレベルは吸い尽くされてしまった。
盛大に【オーバー・ハート】しながら。
「レベル100越えのサキュバスでも出来ねえぞ!」
しかも吸精を行う前のこのサキュバスのレベルはたった1だ。
目の前のサキュバスは、クリムの知っているサキュバスとは次元が違う。
そもそも。
触手を生やすサキュバスなど今まで見た事も聞いた事も無い!
「も~ぅ。今はぁ、そんな事、どうでもいいじゃないですかぁ? 今はぁ~、……んっ♪」
淫魔が艶めかしい吐息を上げる。
ハルが、クリムの身に着けたズボンのベルトに股を押し付け、前後にゆっくりと動かしていた。
「あぁ……♪ どうしよ…♪ これ…好きぃ♪」
ハルがベルトのバックル部分に股座を押し付け、前後させる。
ニチッ、ニチッ――湿った音が響く。
ユラユラと紺色のミニスカートが揺れ、その内側から雄の本能を刺激する強烈な女の香りが漂って来る。
とてつもなく甘い、花の香りと混ざって。
それだけでもクリムの頭はどうにかなりそうだった。
【乙女の指輪】と【聖女の指輪】。それに【クリエの薬草】も使っている。
H系のダメージや耐性に関しては完璧な筈だ。
だというのに――こうしている今もクリムのHPは上昇し続けている!
「ん…っ♪ はーっ♪ あーっ♪ 腰、止まんないよぅっ♪」
馬乗りになったハルが、艶めかしいダンスを踊っている。
今や二人を中心に、甘い香気と共に熱気が満ちていた。
汗が吹き出し、止まらない。
ハルの着るセーラー服も汗でしっとりと濡れている。
元々夏服なので生地が薄く、汗に張り付き、下につけたブラがうっすらと見える始末だ。立派に育った二つのふくらみが否応にも強調される。
たわわな果実が、淫魔の動きに合わせてセーラーの中で前後に弾む。リボンタイが、弾む胸の動きに合わせて前後にゆらゆらと揺れた。
淫魔が身に纏っている学生の制服である筈だ。だがその服が淫らな行いをする為に作られたのではないかとクリムは思わず錯覚していまった。
それほどまでに。今、自分を犯している少女は、艶めかしい。
「はーっ♪ はーっ♪ はーっ♪」
眉根を八の字に寄せ、
口をだらしなく半開きにし、
その端から涎まで垂らしている。
頬を緩めながら。
快楽に蕩けた、雌の顔だ。
さっきまでオドオドしていた少女と同一人物とはとても思えない。
媚薬を使ってもこうはならないだろう。
しかし、性を貪り、快楽を貪り、精気を貪るのはサキュバスにとって当たり前の事。
今のハルの姿こそが、本当の彼(女)の姿なのかも知れない。
「はああぁぁぁっ…♪【オー】しちゃうぅぅっ…っ♪ ああぁっっ♪ らめええぇぇっっ…♪♪」
[オーバー・ハート♪]
ブルブルと体を震わせ、頭上を仰ぎながら淫魔が【オーバー・ハート】した。
フワリ、と強い女のフェロモンと、それ以上に甘い花の香りがクリム鼻腔をくすぐる。HPが上昇し、最大値の七割を超える。
「はぁー…っ! はぁー…っ! くそがっ…! 生殺しか!」
ピコーン。SEと共に【発情】のステータス異常が表記される。
「――あー……」
【オーバー・ハート】を迎えたハルが脱力し、ぼんやりと瞳でクリムを見下ろした。
半開きの口の端から涎が垂れ、糸を引きながらクリムの頬を濡らす。唾液からは、何かの蜜のような、甘い香りがした。
「……くす…♪ パンツ、べちゃべちゃになっちゃった♪」
汗ばみ、紅潮した左の頬に、桃色の髪が張り付いている。
それを左手で気だるげに掻き上げながら、少女の姿をした魔物が怪しく笑う。
「ボクばっかり愉しんでぇ、ごめんなさい…♪ 今度はぁ…」
少女の顔が近づく。
一度【オーバー・ハート】したにも関わらずその欲望は留まる事を知らない。蒼い瞳は今も快楽と背徳に期待し、熱っぽく潤んでいる。
(あっ? 何だっ?)
一瞬、彼女の左目に何かの模様が見えた気がした。
だがそれが何かを認識するまでにハルの顔が、口元が近づき、
――――そっと、小さく囁く。
「……アナタもいっしょに……『ラプチャー』しよ…?」
サキュバスの魔力は、その声にも宿る。
ハルの囁きは力となってクリムの耳から脳へ、脳から心へ、心から魂へと蝕み、彼の理性を一瞬でドロドロに溶かす。
「……あ、あぁっ…!」
クリムは歓喜の笑みを浮かべ、涎を垂らし、瞳にハートマークを浮かべながら目の前の淫魔を見上げる。
淫魔はそれを満足そうに、目を細めながら見つめ、
次の瞬間。
肉食獣が獲物に牙を突き立てるように、クリムの唇を奪った。
***
――――足りない。
足りない。足りない。足りない足りない足りない。
「……もっと。精気が欲しい」
美味しい美味しい精気。もっと沢山欲しい。
拘束していた残骸から触手を引き寄せる。
レベルが1になったというのに、残りの二人同様、幸せそうな顔をしていた。
三人吸精した。
今、レベルは95。
顔を横に向けるとレベルアップ画面が目に入る。
『=================
レベルアップ!!
=================
☆クラスチェンジOK☆
クラス:マジシャン(97/20)
LV:97
LP:20/212
AP:35/35
SP:183/183
MP:396/396
HP:481/1606
ボーナスポイント:192
STR:20(+45)
VIT:156(+27)
DEX:466(+50)
AGI:176(+33)
INT:428(+114)
MND:418(-168)
LUK:166(-83)
DES:554(+1052)
Got new ability !!
Evolved ability !!
Got new skills !!
Got new arts !!
=================』
わあ♪ すっごく強くなってる♪
それに新しいアビリティとスキルと、アーツも♪
ボーナスポイントも200近くある♪
「うーん……ボーナスは、使わずにとっておこっと♪」
今でも充分強いし♪ このままでもいいや♪
クラスチェンジも後で考えよっと♪
でもスキルとアーツはちょっとチェックしよう♪
「――わ♪ 色々増えてる♪ ふふ♪」
面白いアーツ、覚えてる♪ 適当にセットしちゃおうっと♪
それにしても――
「――美味しかったなぁ…♪」
ごろつきさん達の精気の味を思い出してうっとりしちゃう♪
甘くて。濃密で。この上ない幸福感と充足感に満たされていく感じ♪
ああっ堪らない♪ 思い出しただけで涎が垂れちゃう♪
「……もっと欲しぃ……♪」
三人だけじゃ全然足りない♪ もっともっと欲しいの♪
ふと、倉庫の壁面――高い位置にある窓からオレンジ色の光が差し込んでいるのが見えた。
「外に、人。一杯居るかなぁ…♪」
ボクは期待に胸を膨らませながら歩いて――
外へとの出口――鍵のかかった大きな金属製の扉に阻まれる。
「んー?」
開け方、わかんなーい♪
でーも、今ならぁ♪
触手を束ねる。
元でも力強いこの触手達。
束ねて、拳みたいにギュッと固めてぇ――
「せーのぉ♪」
ボクも触手と一緒に大きく振りかぶってぇ……
「えい♪」
ガッ、グオンッ!!
グワングワンと金属が軋み、反響する音を響かせながら、扉は凹みひしゃげ、爽快に吹っ飛んだ♪
「わあ♪ すごい♪ ボクってば力持ち♪」
いやいや。こんな事で浮かれてる場合じゃないね。
「な、何だ!?」
「あの倉庫からだぞ!」
「何あれサキュバスの学生?」
「触手生えてるんだけど!?」
「皆さん下がって! 危険です!」
色んな人達の言葉が聞こえてくる。
……ああそうか……ここ、まだ歓楽街だ。
餌が一杯居る♪
思わず、舌なめずりしちゃう♪
「クス♪ 衛兵さん♪ ご苦労様です♪」
「な、何を言って…!?」
「いつも町の為に頑張っている貴方にぃ…ボクからちょっとしたプレゼント♪」
瞳に魔力を込めて、重装兜のバイザーから覗く目に流し込む。
「……あ……」
それだけで団員さんが骨抜きに♪
「とっても刺激的でぇ……とびきりエッチな事、してあげます♪」
「……あ♪ ああっ♪」
フラフラとボクへと歩み寄る鎧を着た団員さん。
「お代は結構です♪ でぇもぉ。精気はたぁっぷり、頂きますね♪」
触手を操り、重たい兜を脱がし、放り投げる。
ボクは精悍な顔つきの団員さんの顎に両手を添えた。
「さあ……一緒に、『ラプチャー』しましょ…♪」
虚ろになった団員さんの瞳にボクの瞳が移り込む。
青い瞳。その左目。
そこにはハートマークの代わりに、【妖花の淫紋】と同じ模様が浮かび上がっていた。
今回は流石にアウトな気がする……
もしこれで何事も無かったら作品キーワードに『運営様のお気に入り』って付けようかな(殴
次回投稿ですが諸事情により未定とさせて頂きます。
リアルの方の都合により今までの更新頻度では投稿出来なくなってきた為です。
しばらくの間は『不定期更新』とさせて頂きますのでご了承下さい。
更新自体は続けていくつもりですので、時折チラチラと様子を見に来てやって下さい。
手前勝手な都合で申し訳ありませんがどうかお願いいたします。
それではまた。




