第14話 夜の町には御用心!
「お嬢ちゃん。学生? 一人? 暇なら俺達とお茶でもどう?」
商店通りにある大手武器屋さんの前で、冒険者と思われる男――勿論顔も声も女なんだけど胸が無い! 故に♂だ――三人組に絡まれた。
今ライラさんにボクのデリンジを渡して、武器を強化してもらっている所だ。本当はボクが直接武器を強化してもらいに行くべきなんだけど――今学生に変装中だからね。こんな格好で堂々と銃を持っていく訳にはいかない。今のボクは『シュタットの英雄』じゃなくて『ハーフンの学生』なのだ。
だからお店の前で待ち惚けをしていたのだけど。そこを通りすがりの冒険者に声を掛けられてしまったのだ。
「え? ええと…っ」
思わずテンパってしまう。
これ――ナンパちゃうん!? いや……ボクは男だよ!?
でこの人達は女(見た目の話)だから――
――逆ナンか!?
はい。違います。どう見ても只のナンパです。
「うっはー! サキュバスなのにウブい反応! たまんねー!」
「はー♪ メッチャ良い匂いする~♪ クンカクンカしていい? 主にその剥き出しの脇! 脇をね! クンクンしたいなぁ!! なんならペロペロしても、」
「だ、ダメに決まっとるやろ!」
脇の匂い嗅いだり舐めたりしたいとかHENNTAIやん!
「お?【カンスィー訛り】じゃん。眼鏡っ子サキュバスから飛び出るとは思わなかったね~。うーん♪ ギャップ萌えいいなぁ~♪」
「脇がダメならその被ってる帽子の内側の匂いを! ダメ? じゃせめて眼鏡で!」
何でさっきからマニアックな要求ばっかやねん!?
匂いフェチか!?
「っていうかあんまり匂い嗅いじゃ駄目です!【オーバー・ディザイア】しちゃいますよ!」
「はははっ! お嬢ちゃん。俺らだって冒険者だぜ?『オーバー・ディザイアは一日に一回。それも夜時間だけ』それくらい知ってるよ」
「夕方にだってまだ早いよなぁ?」
「そ、そうですけどっ」
ボクはエロチート持ちなの! 時間とか関係無くオーバー・ディザイアさせちゃうの! 今朝ミースさんの目をハートマークにさせたばっかりなのにぃ!
これは誤算だ。
自分がこんな風に絡まれる事なんて想像もしてなかった。
ど、どうしよう……! ナンパされた時ってどうやって断ればいいの!? やんわり? それともキッパリ断った方が良い!?
普段ある程度冷静に物事を考えられるつもりではいるけど――こんな事は想定外すぎて頭が回らへーん!
無様に狼狽していた時、武器屋の入口ドアが開いた。
「――おいおい。何やってんだよ?」
店から出てきたのはライラさんだ。
――は!? チャンス!
「『兄さん』助けて!」
ライラさんの元へと駆け寄り、腕にしがみつく。
へへーん。これじゃ流石に諦めるしかないでしょー♪
「ちっ。なんだよ男連れか!」
「兄妹か! クソっあの脇を独り占め出来るとかツイてるおにーちゃんだなぁ……」
「はぁ……クンクンしたかった」
案の定、引き下がっていく男三人組。
その背中を見ながらボクは内心、胸を撫で下ろした。
「おい。いつまでそうしてるつもりだ?」
「……あ!?」
勢いよくライラさんから離れる。
咄嗟の事でライラさんの手にしがみついたけど――
めっちゃ自分のOPPAI押し付けてた!?
「普段勘が良い癖に、なんでこういう所は鈍感なんだよ……」
鈍感っていうか……無防備? なのかなボク?
体がこんなスケベなボディになった、って頭では分かってるんだけど……そのせいで男達からどう見られるか、とか。どんな目に遭うか、とか。理解できてない気がする。
ナンパされる事だって考えてなかったし。
うーん。これはアイセさんの事を天然とか言ってられないぞ。
ある意味、ボクの方がよっぽどアブナイ。
ちょっと真剣に反省しないと。
「ご、ごめんなさい」
「別にいーっての。それよりほれ。テメーのだ」
「わわっ――と!」
ベルト+ホルスターごとデリンジを放り渡され慌ててキャッチする。
その後アイテムメニューから、急いで謎空間へとデリンジを放り込んだ。
「頼まれた通り、【強化】と【打ち直し】してもらったぜ」
「あ、有難うございます」
【強化】というのはその名の通り武器をアップグレードさせる。性能がお手軽に上がる分、+1毎に武器のランクも1ずつ上がっていくので、やり過ぎるとスキルが足りなくなって装備出来ないという事もある。
対して【打ち直し】というのは武器の素材を変更する事により、その性能を調整する、というモノだ。
例えばボクの使っている【デリンジ】は【チタナイト】と【銅】の二つの素材から出来ている。【チタナイト】は重量が軽くなり、DEXにより攻撃力が上がる素材だ。
【銅】は【マナ】の伝達効率が良くなる素材で、INTにより攻撃力が上昇する。
つまり【チタナイト】と【銅】で作られた【デリンジ】はDEXとINTが高いステータスで効果を発揮する軽い武器、という事。
今回この【デリンジ】を【銅】と【銀】で【打ち直し】をした。
【銅】は先述の通り。【チタナイト】を【銀】へと変更した訳である。
【銀】はMNDにより攻撃力が上昇する素材で、アンデッドに対する特攻も持っている。ボクやネロ君みたいな『闇の眷属』にもちょっと有効。らしい。ただし自分が武器として使う分には影響無い、という話だったので思い切って【銀】を採用した訳である。
ボク、自分のDESが高すぎて夜になるとオーバー・ハートしちゃうから、対策としてMNDを上げる装備を付けてるんだよね。レベルアップのボーナスも全部MNDにつぎ込む予定だし。だからMNDで攻撃力の上がる【銀】素材にしたのだ。
以上! 解説終わり!
後でデリンジの性能もチェックしておかなきゃね♪
「これで一通り準備出来たな。やっとこさ調査開始か」
「そうですね」
歩き出すライラさんの後ろをついて行く。
――ん? 気のせいか歩くスピードが速い?
「あのー。もうちょっとゆっくり歩いてくれると……」
「うっせ。黙ってキリキリ歩きやがれ」
――あ。
肩越しに振り向いて言ったライラさんの顔が少し紅い。
もしかして……さっきのOPPAI押し付け……ライラさんも少し照れてる? OPPAIの感触が心地よかった?
う。そう思うとボクまで少し、気恥ずかしい。
けど……なんだろう。こう……うまく言えないんだけど。
あんまり、嫌な気分はしない?
むしろ……ちょっと嬉しい? してやったり! みたいな。
「……あ。これ……これがひょっとして、」
『女の武器を使う』って奴なのかな。
「おい! 何やってんだ! さっさと来い!」
そういうライラさんは帽子を目深に被って表情を隠している。
赤くした顔を見られない為だ。
「はーい♪」
そう思うと途端に愉快な気持ちになった。
足取りも軽く、ライラさんの横に並ぶ。
「……OPPAIの感触、どうでした?」
「ば!? テメっ、いきなり何言いやがる!?」
「冗談ですよ♪ おっかしいの♪」
「ちっ! 調子乗りやがって! ネロよりもうぜぇし!」
じゃれ合いながら歩く。
そして――唐突に思った。
さっきの冒険者の三人組――
何で誰もこの爆裂OPPAIに言及しなかったの?
OSIRI派か脇派か。
どちらにせよやっぱりマニアックな人達だったんだな、と再確認したのであった。
***
Topics!
『=================
デリンジ
=================
種別:ハンドガン ランク:1
重量:7 耐久:50
素材:チタナイト、銅
基礎攻撃力:20
能力補正:Dex>E+ Int>D
攻撃属性:魔>100 打>30
衝撃力:魔>5 打>20
連射:C 射程:D-
追尾:D- 弾速:D
最大リチャージ量:12
リチャージ消費:12
リチャージ速度:S
特殊効果:――――――――
================』
『=================
ハルちゃんのデリンジ+1
=================
種別:ハンドガン ランク:2
重量:10 耐久:50
素材:銅、銀 new!
基礎攻撃力:22 up!
能力補正:Int>D+ up! Mnd>D+ new!
攻撃属性:魔>100 打>20 down!
衝撃力:魔>5 打>20
連射:C+ up! 射程:D-
追尾:D- 弾速:D+ up!
最大リチャージ量:14 up!
リチャージ消費:14 down!
リチャージ速度:S
特殊効果:アンデッド特攻(中)new!
『闇の眷属』特攻(微)new!
================』
***
という訳でボクとライラさんは捜査を開始した。
今日のところは『興味本位で厄介事に首を突っ込む若者』を演じながら、自警団の方々から教えてもらった石化事件の現場近くで情報収集を行っていく。
犯人が黒い騎士なら、誰かその姿を見た者が居る筈、と踏んだからだ。
ライラさんも一応変装済みだ。と言ってもいつもの赤と黒の中装鎧から、革製の軽装防具――つまり狩人ルックの衣装に変わっただけだけど。
でも、鎧姿には不似合いだったテンガロンハットが、今ではバッチリとフィットしている。かっこいいぜ!
兎も角、武器も防具も新しくして心機一転。気合入れて捜査に臨んだ訳である。
けど……
「ねーちゃん隙あり!」
「にゃ"ああああぁぁぁっっ!!? スカート捲るなぁ!」
その辺のハーフリングにスカートを捲られパンモロしたり。
「*おおっと* テガスベッター」
「ひゃああぁぁぁ!? どこ触っとんねんこのハゲぇ!!!」
ドワーフにパイタッチされたり!
ビュオオオオオゥゥッッ!!
「ふひゃあっ!? エッチな風がぁっ!?」
「「「っ!? 白っ!」」」
突如上向きの突風に襲われ町民の皆様にパンチラしたり!!
兎に角散々な目に遭った!
しかしその甲斐あって犯人の情報やら何やら様々な成果が、
「――何の成果も、得られませんでしたぁあっ!!」
「うっせ。何叫んでんだよ?」
沈んでいく太陽に吠える。
4、5時間程かな? ずっと歩きっぱなしだったんだよ!?
それなのに何の情報も無いだなんて……
「そもそも聞き込みやら元座の調査やら自警団がかっちりやってんじゃねーのか? 今更追加で情報なんて出てこねーだろ」
「それはそーですけど……ボク達冒険者なら気付ける事もあるじゃないかも知れないじゃないですか……それにおかしくないですか?」
「何がだよ?」
「何の手掛かりも得られないって事自体です」
そう――これだけ多くの事件が起きているのに誰も何も見ていない、知らないと言う事自体が奇妙な事。
この世界、スカートめくりやパイタッチと言った軽い(?)痴漢行為なら女神様は笑って見過ごすけど――キスや本番、強姦や拉致と言った本気の行為には『それダメ♪』ってなるらしい。
具体的にはタライが降ってきて不埒者を成敗するとか。
そんで悪い事した者には『○○をしました。反省しています』という罰ゲームのようなメッセージ表記が延々と付いて回るとか。
まあ兎も角、人が消えたり石になったりしているのにその痕跡が全く出てこないという事自体が不自然なのだ。
今日は石化事件の現場近辺しか聞き込みをしてないけど、黒い鎧のくの字どころか怪しいヤツのあの字すら出てこなかった。
そんな事あり得る?
「あー。言われてみるとなー」
自警団の人に聞いたけど、確認出来た事件だけでも誘拐が23人。石化が7人らしい。
これだけ派手にやっておいて誰も何も気づかなかったの?
『怪しい人影を見た!』とか『女の子の悲鳴を聞いた!』とかあっても良くない?
「ちなみにライラさん? 誰にもバレずに犯罪行為をする、って可能なんですか?」
「出来る奴も居るかもな。【犯罪】カテゴリのスキルが高けりゃ女神様のお咎め無しでアイテムを奪ったり、襲ったり出来るらしーし。【隠密】のスキルを上げれば気配だって消せる」
「じゃあ、仮に犯人がそういう事に長けたスキルを持っていたとして――30回も連続で完全犯罪を成功させられると思います?」
「さぁな。でも、拉致にしても呪いを掛けるにしても誰かが現場を通りかかっただけで基本アウト、って考えると――無理だな」
「ボクも同じ考えです」
自警団の情報によると、誘拐事件は夜、深夜に起きているんだけど、石化事件に関しては日中、それも陽が高い内に起きているらしい。
昼間の町中で堂々と呪いを掛けて誰にもバレずに行方を眩ます? そんなん異常やろ。
というか今更だけど――夜には誘拐。昼には石化。
ターゲットはどっちも若い(小さい)女の子だけど……
これ、犯人二人以上いるパターンちゃうん?
夜こそこそ人攫いするようなモンが昼に堂々と呪いを掛けて行ったりするもんかねぇ。
「単独犯じゃねーって事か?」
「そうだと思います。一人じゃ出来ない事も、複数なら出来るかもしれませんから」
けど、人手が増える程目立ちやすくなるものだ。
そしてそもそもそいつらが手を組んで行動しているかどうかもハッキリしない。
あー! もうわからーん! でも泣き言言ってる場合じゃない! 誰も止める人が居ないんだ! これ、犯人の気が済むまでずっと続くやろ! ボク達が頑張らないと!
「で、どーすんだ。まだやんのか?」
「勿論です! 陽も落ちてきましたから今度はボクが体を張りますよ!」
ふっ! 何の為にか弱い学生を演じていると思ってるのさ!
まーでも初日だからねー。いきなり引っ掛かるとは思わない。
人通りの少ない、『ここなら絶好の拉致ポイント!』ってとこを見付けて何日か掛けてそこいらを歩くようにするつもりだ。
「という訳で、今日の捜査はこれくらにしましょうか」
「じゃ、次は囮作戦場所の下見ってとこか。どっちにしろもーすぐ夜時間だ。治安悪くなってるみてーだから油断すんな」
「はい。それは勿論」
「やっぱアイセじゃなくて俺で良かったな?」
「もぅ。何です藪から棒に?」
「最初にテメーと会った時の事を思い出してたんだよ」
最初にライラさんと会った時って――あ! ボクが【夜時間】で初めてオーバー・ディザイアした時やないかい!
「あの時は、何も分からなかったからオーバー・ディザイアしちゃっただけです!」
「へっ。今だって充分スケベだろ。俺を襲っても容赦なく殴り倒すからな?」
「しませんよ!? そもそもココノさんから貰った指輪も付けてます! 今更【夜時間】になってもオーバー・ディザイアなんて、」
そこで、ふと重要な事を思い出した。
ボク……今【淫紋】ついとるやんけえっ!?
今まではココノさんのから貰った【乙女の指輪】の効果でかろうじて【夜時間】のオーバー・ディザイア【オディ】から逃れていたけど……【淫紋】のせいでMNDとLUCが減ってDESが増えてるんだよ!?
「ご、ごめんなさいライラさん! ボク、買い忘れを思い出しました! ちょっと買い物に行ってきます!」
「お? おう?」
「また後で連絡しますー!」
言うや否や防具屋へと駆け出すボク。
【淫紋】の効果でDESが上がってる事をすっかり忘れてた…!
気が付いて良かった…! 対処し忘れてたら大惨事になってたかもしれない…!
でも【夜時間】が始まる20:00までには時間がある。
今の内にMNDを上げる装備を買い足しておこう。
***
「何だあいつ……」
急に走り去ったハルを見送りながら、ライラは独り言ちる。
(まあ、元々掴みどころの無いヤツだったけどよ)
自称記憶喪失のピンク髪のサキュバス。
もう字面だけでも怪しさ全開だが、ハルはシュタットを救った英雄であり、アイセを吸血鬼の魔の手から救い出した恩人でもある。胡散臭いところもいくつかあるが――――ライラにはハルが悪人には見えなかった。
それどころか、気の利くしっかり者だ。
そんなところまで、妹のトリィと似ている。
だからだろうか。自分の事をあんなに喋ってしまったのは。
「しっかしどーっすっかなぁ」
思わぬところで待ち惚けを食らう事になってしまった。
(まー。俺も適当に聞き込みするかぁ?)
幸い今のライラはいつもの赤と黒の鎧姿からはかけ離れている。目立つような事をしなければ、ヴェイグランツのライラだと気付く者は居ないだろう。
ガラでは無いが、因縁の敵がすぐ間近に潜んでいるかもしれないのだ。情報を少しでも集めた方がいい。
(おっ?)
幸いな事に。すぐそこにロングコートにハンチング帽といういかにも探偵と言った風貌の者が、
「うげ」
顔を見て一気に気分が萎えた。
見た顔だった。と言うより見たくない顔だった。
雑貨屋のパーティグッズで販売しているような『付け髭+付け鼻+丸眼鏡』の三点セットで変装してはいるが、ツーサイドアップに纏めたブロンドの髪と『私がこの世界で一番偉い!』とでも言いたげなドヤ顔は忘れようと思っても忘れられるものではない。
自称パラディンの少女、オリーだ。
ライラは気付かない振りをしつつ探偵姿に変装した聖騎士を自称する少女の脇を通り抜けようとし、
「雑な変装ねライラ=シックステール! 全くお笑いだわ!」
「テメーに言われたかねーよ!!?」
(……あ。やっちまった)
思わず大声で言い返してしまった。通りを歩く町の人々がチラチラとこちらを伺っている。
「ちっ…! 何の用だよ、聖騎士様?」
嫌味ったらしく『パラディン』の部分を強調してやるが……
「貴方はほんとどうしようもない馬鹿ね! どこをどう見たらこの恰好がパラディンに見えるのかしら!? 目と頭と帽子がおかしいんじゃないの!?」
(殴り倒してえええぇぇぇっっ!!! ってか今の恰好じゃ帽子おかしくねーだろぉおおぉぉっっ!!?)
「私は謎の名探偵……その名もオリーブちゃんよ!」
「おう。じゃ元気でな迷探偵オリーブちゃんさんよ」
怒りをぐっとこらえて今度こそ脇を通り過ぎようと、
「――お仲間のピンクちゃんには気を付ける事ね」
「あ?」
青筋を浮かべながらドヤ顔オリーを睨みつける。
仲間と、いや家族と認めたハルの事を疑われた気がして頭に来たのだ。
「テメーがサキュバス嫌ってんのはなんとなく分かったけどよぉ。ウチの妹分まで勝手にビッチ扱いしてんじゃねーぞ。あ? 喧嘩売ってんのかコラ」
顔を寄せ、真正面からメンチを切る。
修羅場を幾度となくくぐったライラだ。ヤクザ顔負けの威圧感を放っている。
が、それもオリーにはどこ吹く風。
「貴方。サキュバスがどんな生き物か分かってないわね。あいつらは血に飢えた吸血鬼と一緒。確かに、何も知らないサキュバスはそこらの娘と変わらないわ。でも、」
そこでライラは気付いた。
(なんかこいつ……印象が変わったか? 馬鹿でかい声じゃなくても話せるのか?)
「一度精気の味を知ってしまったサキュバスは、もう後戻りできなくなるわ。堕落の道へ転がり落ちるだけよ」
「……はっ。スカート捲られて悲鳴を上げたり、ナンパされてオドオドするような奴だぜ? あいつに限って、んな事ねーよ。アホらしー」
もうこれっきりだ。付き合ってられない。
オリーとすれ違い、ハルが消えた方向へとライラは歩く。
その背に、
「――誘拐事件の犯人は、桃色の長い髪をしたサキュバスよ」
「…はぁ…!?」
思わず振り向いた。
が、視線の先にオリーの姿は見当たらない。
「どーいうこった」
オリーの印象が途中から変わったのは、この際どうでもいい。
しかし誘拐事件の犯人を知っている事と、その犯人が『桃色の長髪をしたサキュバス』というのは――意味が分からない。
「……ピンクが犯人みてーな言い方じゃねーか…!」
あり得ない。シュタットからずっとパーティを組んでいたのだ。こんな所まで来て人攫いなんて出来る筈も無い。
しかし――
(嫌な予感がしやがる)
この感覚はあの日、あの森で感じた焦燥感に似ている。
「クソっ」
苛立ちと焦りを隠せずライラは吐き捨てる。
そして、ハルの姿を探して通りを駆けていくのであった。
***
Topics!
『=================
現在のハルちゃんのステータス
=================
性別:♀
年齢:16
種族:サキュバス
クラス:マジシャン(1/20)
称号:ハイパースーパーウルトラミラ
クルエキセントリックアメイジ
ングどすけべ
状態:ふつ~
所属:冒険者ギルド(白銀級)
ファミリー:シックステール
パーティ:ヴェイグランツ
LV:1
EXP:0/20
LP:20/20
AP:20/20
SP:71/71
MP:149/149
HP:0/442
STR:20(+15)
VIT:60(+11)
DEX:130(+20)
AGI:80(+12)
INT:140(+41)
MND:130(-13)
LUK:70(-21)
DES:170(+272)
所持金:282,828Z
PAGE:『1』/2/3/4
=================』
***
「ありがとーございましたー♪」
背中に感謝の言葉を受けつつ4軒目の防具屋さんを後にした。
「はあぁ~」
盛大なため息が漏れる。
あっつい。目的のブツを探す為にバーグヴァーグ中を走り回ったんだ。20:00から始まる夜時間に備える為に。
「はー。すずしー」
火照った体を夜風が撫でていく。
ふと顔を上げて頭上を見上げた。
夕日が沈み、今まさに夜の帳が降りようとしている。ぎりぎり間に合ったようだった。
ボクは今し方買ったばかりの商品を袋から取り出し――少し悩んでから左手の親指にはめた。
【聖女の指輪】。DESを30%下げる代わりにMNDを30%上昇させる効果がある。ココノさんから貰った【乙女の指輪】の最上位バージョン、らしい。
めっっっっっちゃクソ高かった!! ミラーカちゃんの討伐報酬全部吹っ飛んだで!?
あと、付けた左手の親指が少しチリチリするのは――銀製だからかな? 実は【乙女の指輪】をはめている右手の薬指もちょびっとだけチリっとしているんだけど、それよりも強い。
でもこれを我慢するだけで【オーバー・ディザイア】、通称【オディ】から解放されるなら安いもんだ。
えーと。一応ステータス確認しておこう。ウィンドウ開けて、
『=================
名前:ハル
性別:♀
年齢:16
種族:サキュバス
クラス:マジシャン(1/20)
称号:ハイパースーパーウルトラミラ
クルエキセントリックアメイジ
ングどすけべ
状態:ふつ~
所属:冒険者ギルド(白銀級)
ファミリー:シックステール
パーティ:ヴェイグランツ
LV:1
EXP:0/20
LP:20/20
AP:20/20
SP:71/71
MP:150/168
HP:0/391
STR:20(+15)
VIT:60(+11)
DEX:130(+20)
AGI:80(+12)
INT:140(+41)
MND:130(+26)
LUK:70(-21)
DES:170(+221)
所持金:55,514Z
PAGE:『1』/2/3/4
=================』
うん。DESは400以下だ。夜時間でサキュバスはDESに+100のボーナスを受けるけど……【オーバー・ディザイア】を引き起こす為に必要なDES500には届かない。
それにしても【妖花の淫紋】の効果、えげつないな。
説明にはどのステータスがどれだけ増減するか表記されてなかったけど――計算してみたらMNDとLUCが-30%。DESが+30%。その他のSTR、VIT、DEX、AGI、INTがそれぞれ+20ずつされてる。
MNDとLUCの-30%は痛いけど、それに目を瞑る事が出来たらかなり強力なパワーアップじゃないだろうか。
まあそれは兎も角として。
ボクは辺りを見渡した。
「はーいそこのお兄さん達ぃ~寄ってかなーい♪」
「ピッチピチの若い子、揃ってますよー!」
「OPPAI好きの方は是非どうぞ! 新人のミノタウロス女子がIカップのOPPAIで貴方を包み込んでくれますよ♪」
魔法の明かりで灯された派手なネオン。だらしない顔をする男達に声を掛ける薄着のきれーなおねーさん達。夜にも関わらず辺り一帯は怪しげな熱気に満ちていた。
「――――やっばい所に来ちゃった」
そう。ここはバーグヴァーグの歓楽街だ。
お目当ての【聖女の指輪】を探している内にこんな所まで来てしまったのだ。
ぐぎゅるぅぅ。
「う。お腹減った」
ライラさんとお茶してからは動きっぱなしだ。
もうすぐ夜時間だし……
「皆心配してないかな」
買い物の合間にライラさんや皆に『買い物をしてから一度帰ります』とメールは送ったんだけど。
――うん。もう一回メールしとこう。囮捜査の下見も明日にしよう。今日はもー疲れたー!
ええと先ずはライラさんにメールだな待ち惚けさせてるかも知れないし。
メニュー画面の【通信】からメール画面を開いて――『今歓楽街の防具屋さんまで買い物に来てます。急な野暮用のせいで時間が取られたので、囮捜査の下見は中止にしようかと思います。すぐに宿に帰るのでライラさんも帰ってもらって大丈夫ですよ』――と。ああそれと『もし待ち惚けさせてたらごめんなさい m(__)m その時はお詫びに、今度ライラさんのリクエストで料理を作ろうかと思います』
よしおっけ。送信っと。
ボクも帰ろうっと。こんな所、学生の格好した女の子がうろついてたら何があるか分かったもんじゃない。で道すがら他の皆にもメールしておこうか。
と思った矢先だった。
「おい見ろよ。あの子」
「ハーフンの学生じゃん」
「しかもサキュバス。やっぱこういう所興味あるんだねー」
あ。やば。
声のした方に振り向くと、ゴーグルを装着したごろつき風の男――勿論見た目は女子――三人がボクに歩み寄って来るところだった。
「お嬢ちゃん。ここはもうちょっと大人になってから来た方がいいよ?」
「それとも社会勉強に来たのかな? 学校では教えてもらえない事を勉強しに。うひゃひゃひゃひゃ!」
「おーし。俺達が手取り足取り教えてあげ、」
「結構です」
慌てず冷静に。
ボクはごろつき達から距離を取るように、人混みへと向かって歩いていく。
「は? カマトトぶってんじゃねーぞ淫売!」
怒声を放つごろつき。
同時に彼の手が、ボクの左手を掴んだ!
「な、何するんですか!? 大声出しますよ!?」
「ああそうかよ!」
男が懐から何かを取り出し、それを地面に叩きつけた!
ボフンっ!!
「わぷっ!?」
何かが破裂するような音と共に、辺りを白い煙が覆い尽くす! 何だこれ!? 全然見えないぞ!?
――じゃこれ煙幕か!? そうか、周囲の人達からボク達を隠すつもりか!
――って事は、この人達、ガチ目の犯罪者ちゃうん!?
「ほいっと」
「ヴぇっ!?」
背後から首に向けて重く鋭い衝撃。
同時に息が詰まるような感覚がして、真っ白だった視界が急に暗転していく。
意識が、遠のいていく。
あ――これ、ダメなヤツ――
「撤収ー♪」
「「へーい♪」」
沈みゆく意識の中で、男達の能天気な声を聞いた気がした。
やっと折り返し地点と言ったところでしょうか。
ここから盛り上がっていきますよー!
次回投稿は3/16(火)AM8:00の予定です。
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