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第13話  サキュバスに制服を!

ハルきゅんの羞恥攻め再び!


【バーグヴァーグ】は鉱山町だ。

 鉱山から取れる鉱石のお陰で、こんな田舎の割には武器・防具の品揃えは豊富である。

 南には【港町ハーフン】も存在し、そこから様々な交易品が流れて来る。金属で打った頑丈な剣や鎧以外にも、魔法使い向けのローブなんかも普通に揃っていたりするのだ。


 これなら、ボクの変装用の衣装だって手に入るだろう。

 ボクが変装して夜間、夜遊びをする少女を演じれば、きっと誘拐事件と石化事件の犯人が引っ張り出せる筈。


 それに今着ているサキュバス用の初期装備服もね、そろそろ別のに変えたい。腕装備はアイセさんにランク4のお高い物を貰ったから、それは良いんだけど。それ以外が初期装備ってのは、ね?

 性能的にも見た目的にもよろしくない。


 そう。今回のお買い物で、変装用の衣装とは別に、まともな服を手に入れるのだ! 品揃えも良いから何か見つかる筈!



 そう思っていた時期がボクにもありました……



 ***



「絶っっっ対にっっっ! 嫌 ! です!」


 バーグヴァーグ商店通りにある防具屋さんでボクの大きな声――絶叫とも言える叫びが響き渡る。


 途端に騒がしくなる店内。

 視線がボクと付き添いのライラさん、それにキレーなエルフの女性スタッフに突き刺さる。


「えぇと……大変お似合いかと思いますが……」

「そうだぜピンク。サキュバスのお前にはお似合いじゃねーのw」


 生笑いしながら同意すんなやライラさん!


「露出レベル3以上の品となるとこれが一番かと……」

「嫌!! です!!」

「――マジかよ――おい見ろピンク! こいつ、こんなうっすい布切れなのにスゲェ防御性能してやがるぜ! 下手な中装の鎧より性能いいじゃねーか!」

「性能良くても誰がこんなもん着るねん!」


 ……既視感デジャブった。

 確か、ほんの数日前。シュタットの防具屋さんでもこんなやり取りがあったような気がする。

 そう。確か……あの時も初期服では心もとない&Hじゃないまともな服を探したい、って事で店員ミーナさんと話して――


 出てきたのが ビ キ ニ ア ー マ ー だった!


 今回も同じだ。とんでもないもんを出してきよったでぇ!


 マネキンが纏っているその衣装は――例によって薄着だった。

 

 頭部に巻かれたヘッドチェーン。

 目元から首までを覆う、薄い(色的にも物理的にも)ピンクのフェイスヴェール。

 きらびやかな金細工が施されたオリエンタルな意匠の紫色のブラ。

 左の上腕部にはお高そうなブローチが添えられたアームレット。

 腕を飾るのはビキニと同じ色のヒラヒラとした生地。確か――シフォンアームバンド? だっけ?

 腰にはフェイスヴェールと同じ素材・色のスッケスケの前垂れと後ろ垂れ! 生地が薄くて裏のビキニパンツモロ見え!

 足にはサンダル。勿論普通のサンダルじゃなくて、足の甲から膝まで紐を結い上げて固定するヤツ。レースアップサンダルって言うおしゃれな一品だ。


 まあ、兎も角。以上である。

 分かるよね? これは――――



「 踊 り 子 の 服 とか着れるかああぁぁぁぁっっっ!!」



 歩く露出狂かっ!! 

 前回のビキニアーマーも大概やったけど……!

 踊り子の服とか死んでも着いひんで!!


「サキュバスの癖に羞恥心が強すぎんだよテメーは。今だって充分恥ずかしー服着てるだろーによぉ」

「いやいやいやいや! これはヤヴァイやろ!? こんなん素面じゃなくても着れへんわ!」

 

 こんなエッロい服をボクのムチムチボディに合わせたらどうなると思っとんねん!? 歩く公序良俗違反やぞ!

 こんなん着て歩けるかい!


「大体これ着たボクの隣をライラさん歩けるんですか!?」

「あん? そりゃぁ――」


 ボクの顔から爪先までをじっくりと見ていくライラさん。

 次に踊り子服を上から下までじっくり眺め――

 再びボクの体を眺め、


 ――――あ、赤面した。


「いや、わりィ。目に毒だわ」

「せやろ!?」


 っていうか、こんなん着たら恥ずかしいとか言う以前に悪目立ちしてしょうがないわい!


「ってな訳で! 謹んでお断りさせて頂きます!」

「左様でございますか。でしたら――」


 その後も、エルフのおねーさんは品を変えて色々と勧めてくれたのだが――どうにもエッチなものばかり。

 まあ、ボクのメインの防具スキル【色装】っていうのが見た目エッチで性能は高め、っていうカテゴリらしいから……エッチな装備ばかり出てくるのは仕方ないんだけど……


 それに【ピンク髪は淫乱】のタレントのせいで露出レベルが3以上の物しか装備出来ない、って問題もある。

 このせいで装備出来る物に限りがあるのはしょうがないけど……


「うーん。【軽装】のランク1で露出レベル3以上の防具ってありませんか?」


 この際、性能は諦めてレベル1しかない【軽装】で商品を探してもらおう。でも露出レベル3以上の【軽装】防具ってあるのかなぁ?


「――あ。ございますよ。露出レベル丁度3の【軽装】の商品」

「ホントですか!? よろしくお願いします!」

「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」


 露出レベル丁度3! って事は、少なくとも今着ている初期服よりもエッチになる事は――多分無い! 期待できるぞ!


「最初から聞けば良かったんじゃねーの?」

「えへへ。ボクもそう思ってたところです」

「ま、踊り子服は流石に無えな」

「あ た り ま え です!」

「いやお前の気持ちは兎も角、」


 兎も角じゃないわい! 


「アイセがな……」

「あぁ……」


 アイセさんも露出多めの服、耐性無さそうだったしなー。

 ボクの踊り子姿なんか見たら気絶するかもしれない。


 …………


 いや!? アイセさんに踊り子姿なんか見られたらボクが羞恥心で気絶しちゃうよ!?


「――――お待たせいたしました♪」


 なんて考えている内にエルフのおねーさんが新たなマネキンを持ってきた。

 

 果たして、新しい品はと言えば――!


「い”っ!?」


 それを目にしたボクは、思わず目を疑ってしまった。



 ***


 Topics!

『================

     小悪魔の踊り子服

 ================

 頭:蠱惑のフェイスベール

 体:魅惑のトライバルブラ

 腰:小悪魔のチョリ

 腕:誘因のアームバンド

 足:魅了のサンダル

 外套:――――

 インナー:――――

 アンダー:小悪魔の見せパン

 ソックス:――――

 アクセ1:小悪魔アームレット

 アクセ2:踊り子のヘッドチェーン

 アクセ3:踊り子のチョーカー

 ================

 重量:6  身軽さ:A

 露出LV:4 頑強さ:0

 AP:50  耐物 斬:× 刺:× 打:△

 物防:20  耐魔 光:× 闇:◎ H:♪

 魔防:40  炎:○ 水:○ 氷:○

 H防:50    風:○ 雷:○ 地:○

 ================

 特殊効果

①近接攻撃を受けると残像を残して

 大きく吹き飛び、敵の連続攻撃を

 受けにくくなるよ。

 この吹き飛びはアビリティ無しでも

 受け身可能で、すぐに行動出来るよ。

②H属性による与ダメージが微上昇し

 さらに敵を【誘惑】状態にしやすく

 なるぞ♪

 ================

 解説

 サキュバスや悪魔、吸血鬼など

『闇の眷属』の為の踊り子衣装だよ。

 カラーリングは紫とピンク。

 アクセは金と黒。

 スッケスケでエッチな衣装は皆の

 注目の的になる事間違い無し!

 男達をあっという間に魅了だ♪

 

 魔法防御の高さと身軽さが特徴。

 物理防御は弱いけど、特殊効果の

 お陰で連続攻撃を受けにくいね。

 相手にするとメッチャメンド臭い! 

 ================』


 ***



 バーグヴァーグの町をライラさんと歩く。

 目標は武器屋だ。

 防具屋で変装用の衣装が見付かり、今は移動している所だった。


 なんだけど……


 歩きながら改めて自分の恰好を確認する。


 青いリボンが巻かれた、白い大き目のベレー帽。

 水兵風襟が特徴的な、白い袖無しのシャツ。

 フリルをあしらった、丈短めの紺のプリーツスカート。

 穿き口のみ白と紺の縞模様になっている黒のオーバーニーソ。

 足には赤いパンプスだ。


 小物には、度が入っていない四角スクエアフレームの眼鏡。

 それと四角い、革製の手持ちスクールバッグ。どちらも赤色だ。


 そう。変装用に買い、今まさにボクが来ているのは。



  セ ー ラ ー 服 だ。



 装備していた銃も一旦仕舞ってある。

 つまり、今のボクはまごう事無き女子学生ルックスなのである!


「……///」


 ヤバイ。何がヤバイって、兎に角色々ヤバイのっ!!


 サキュバスの服は、こっちの世界に転生してからずっと着ていたし、恥ずかしいけど慣れて来た感じもある。体もサキュバスそのものだから『はー。仕方ないなー』って諦めもあった。


 それに比べればこのセーラー服は、言ってみれば普通の学生服だし、ボクくらいの子供が着ているのは――他人の目から見れば何もおかしい事じゃない。


 でも……! でもね…っ!!


 ボク男やぞ!!? 体は完全に女やけど中身は男なんやで!?

 男が女物の服……それも学生服を着る!? アウトやろ!?

 いや。女物の服とか以前に女のパンツを履いてる時点でそういう事を気にする段階は終わった、と思うんだけど。


 で も こ れ は ア カ ン 。


 異世界ファンタジーに出てくる衣装は良いけど、現実の世界にも存在する女物――それも学生服!? 生生しいわ! 


 踊り子衣装は直球でアウトだったけど、セーラー服はボクのモラル的にアウト。全力でやってはイケない事をしている気分がする……!!


 いや、女子用制服着たのはこれが初めてじゃないけど……

 生前、クラスメートの女子達にオモチャにされてメイド服やブレザーを……うっ! 頭がっ! 


 それに他にもヤバイ事はある。

 このセーラー服、バーグヴァーグの南に存在する【港町ハーフン】の学校の制服――の夏服らしいんだけど……


 今着ているこの服。実は『ちょっとサイズが小さい』。

 在庫で在ったモノでは一番大きなサイズを選んで貰ったんだけど……それでもサイズが少し小さいのを買う事になってしまった。


 着れない事も無いから別にいいか、と買った時は思ったんだけど……甘かった。ちょっと小さめサイズの制服をボクみたいなワガママボディの娘が着たらどないなると思う!?


 例えば、豊満なOPPAIに押し上げられ、シャツの胸元が弾けるかと思う程パッツンパッツンになっとるし!

 しかもタイリボンのせいで余計にOPPAIが目立っとるし!

 ノースリーブのせいで横からブラ見えるし!

 デカいOSIRIの割にスカートが小さいせいでマイクロミニミニスカートみたいになっとるし! 

 それも尻尾のせいでにどうしてもスカートに目が行くし!


 それに……シャツもスカートも気持ち短いからお臍がチラチラ見えちゃうの! 


 これじゃ、『サキュバスの女子学生』じゃなくて……!



『女子学生のコスプレをしているサキュバス』やんけぇ!!



「……ん?」


 いやその通りだった!? 変装コスプレだった!


「うぅ……っ」


 めっっっっっっっちゃクチャ恥ずかしいわっ!!

 特に股のスースー加減がヤバイ!

 さっき着てた初期服よりもスカート丈短いんとちゃうんっ!? 全然落ち着かんわ!

 

 学生に変装するという意味では効果的だ、と思って買ってみたけど……失敗だったぁ……止めときゃ良かったぁ~(泣


「……見て、あの子……」 

「……ハーフンの学生かな?……」 

「……顔真っ赤にして可愛い♪……」

「……サキュバスの学生……イイ……」

「……お持ち帰りしたい♪……」


 ひそひそ声ぇ!! 聞こえとるからなぁ!

 いや全力で褒め言葉やろうけど! こちとら男じゃ! ちっとも嬉しくないわい!

 

「おいおい。かえって目だってねぇか?」


 先を歩くライラさんがちらりと振り向きながら言う。


「で、でもボクだとは気付いていないみたいです」


 確かに注目は集めているけど……サキュバスの学生ってだけで、その中身が『シュタットの英雄』だとは思われて居ない。

 そういう意味ではこの変装、大いに効果ありと言える。


「……」


 ん? ライラさんがボクの事をずっと見てる?


「ライラさん?」

「何でもねえよ」


 素っ気なく言うと正面を向いてしまった。


 何だったんだろう?

 ……そう言えば、この恰好になってからライラさんの口数が劇的に減ってる気がする。

 破廉恥な恰好――いや、服はまだまとも(?)でボクが着るからエッチに見えるんだけど――を見てからかうかな、と思ったけどそんな事も無かったし。

 どうにも素っ気ない、というか――


 よそよそしい?

 なんか、歩くスピードも速いし。


 ボクは少し考え――――ふと思いついた。

 早足でライラさんの横に並び、思い切って尋ねる。


「……妹さんの事、思い出してたんですか?」


 ピタリ、とライラさんの動きが止まった。

 はぁ、と溜息を吐くと再び歩き出す。


「何で無駄に勘が良いんだよ。テメーのそーいうトコ、俺は好きじゃねぇ」

「あー、ごめんなさい。でもボク、ライラさんの事全然知らないんです。折角ボクも同じファミリーになったのに。だから知りたいし、仲良くなりたいんです。だから良かったら、ライラさんの話、聞かせてもらえませんか?」


 ジッと、ライラさんの瞳を見詰めた。

 そう。今回、アイセさんとではなくライラさんとわざわざお買い物に来たのは、ライラさんと親睦を深める為だ。

 その為には、今までと違って一歩踏み込んだコミュニケーションだって必要だと思うんだ。


 単なる好奇心とかじゃない。

 ただ純粋に、ライラさんの事をもっと知りたい。

 その思いを込めて、ライラさんを見詰めた。


 果たしてライラさんは――


「は? 嫌だよ」


 おっふ。あっさり拒否られました。

 かと思ったけど。


「身の上話なんざこんな往来の真ん中で話す事じゃねーだろ」


 お? と言う事は?


「……そこの茶店に入ろーぜ。ただしテメーの奢りだ」



 ***


 

 あれは確か、丁度三年前くらいだった。

 

「んー。ノースリーブデザインもあるんだ。私は半袖で良いかな」

「トリィ? 一生懸命何見てんだ?」


 季節は夏。比較的寒いハイムヴィの地も、この日は暖かかった。

 昼食を終えた一家がリビングでくつろいでいる時間だった。 


「あ……兄さん」


 暖かいからか、いつも毛皮のコートを着ている寒がりのトリィがブラウス姿だ。

 鮮やかな茜色の髪の下で、妹のトリィは少しバツの悪そうな顔をしている。

 手元を見てみるとウィンドウ一杯に青と白の衣装を着た女の子が映し出されていた。ネットを繋いでいたらしい。


「何だこりゃ? おもしれーデザインだな」

「【ハーフン】の学生服だって。可愛いな、って思わない?」

「学生服? 何だお前、学校に行きたいのかよ?」

「うーん……まあ、ね」


 ハイムヴィは小さな村だ学校は無い。隣町のバーグヴァーグにも存在しない。直近で学校が存在するのは【港町ハーフン】だけなのだ。それ故に規模もそこそこ大きく、寮も完備。アンフォーシュ大陸北部地域に住む、裕福な家庭で育った子供達は皆そこに通っているという話だった。

 

「村の子も何人か【ハーフン】で下宿してるし。私も行きたいな、って思って」


 腕利きの冒険者、亡国の血を引く子孫。

 知る人が見れば腰を抜かすような者が多くいるハイムヴィだが、それ以外は何の変哲もない村だ。

 娯楽に乏しく、都会に夢見る子供達は後を絶たない。


 トリィもその内の一人だったというだけの事だ。


「兄さんは……私が【ハーフン】の学校に通うの……反対?」

「反対もクソも無ぇよ。オヤジとお袋が、いい、って言うなら行けばいいじゃねーか」


 ぽつりと「そういう意味じゃないのに……」とトリィは呟く。

 気のせいか眉根が釣り上がり、不機嫌そうだった。

 何故そこで怒るのか、当のライラには全く理解出来なかった。

 理解出来なかったが、妹の機嫌を損ねると夕飯に何かしらの逆襲――前回は料理に大量の砂糖が放り込まれていた――をされる事が度々あったので、気を紛らわす為にも話題を変えようと思った。


「けどまあ、敢えて言うなら」

「言うなら?」

「――ちょっとスカートが短えか」

「――ああ。服の話ね。確かにちょっと短いかな。フリル可愛いんだけどなー」

「お前、あんまこういうの着ねーだろ」


 ハイムヴィが寒い土地というのもあるが、トリィは短いスカートを殆ど穿かない。長いスカートかズボンのどちらかだった。


「うーん。可愛いと思うんだけどなぁ……ああでも……サイズの大きい物を頼めば……ブツブツ」 

「まあ、いいんじゃねーの? そこまで過敏に反応しなくてもよ」

「肌を見せるのに慣れてないの」

「かー。潔癖なこって。短いスカートくらいなんだよ。飛んだり跳ねたりする訳じゃねーだろーに」

「もぅ。男の子は気楽でいいよね」


 そんな、他愛の無い会話。

 思い出とも言えないトリィとの記憶。


 けれど彼女が石となった今では、それも大切な思い出だった。



 ***



「――トリィさんは学校に行ったんですか?」

「例の事件が無けりゃ、今頃花の学園生活を送ってたろーよ」

「あ……すみません」

「別にいーっての」


 商店通りにあった喫茶店でお茶をしながらライラさんと話した。

 ちなみにライラさんは温かいブラックコーヒー(!?)。

 ボクはクッキーと暖かい紅茶を頂いている。


 鉱山町、というには似合わない小洒落たお店で、若い女性のグループがお菓子とお茶を愉しんでいた。

 ボクもこういう店は嫌いじゃないけど……

 ライラさんは着心地が悪かったのか始終帽子を目深に被り、表情を隠していた。


「……」


 わざわざこんな店を選んでくれたのは、ボクの為に気を遣ってくれたのかな、と思う。


 色々喋ってくれた。

 村の事。家族の事。ココノさんの事。

 それと、トリィさんの事。


 冒険者の剣士父アーベン。同じく弓使いの母ツィエレさんの間に生まれた人間。ハイムヴィでアーベンさんやココノさんと一緒に、狩りなどをしながら幼少期を過ごした。

 裕福とは言えない暮らし(アーベンさんが冒険者を引退していたから)のようだったけど……平和で健全に育ったみたい。

 ココノさんとは物心ついた時からの付き合いで、ライラさん曰く『幼馴染ぃ? 腐れ縁だろ』らしい。

 二人はやけに気安いし、お互いの事が分かっているように見える時もあったけど――そんな昔からの付き合いやったんやなぁ。

 ゲームとかやったらフツーにくっつくヤツですやん。

 

 けど平和な日々は続かなかった。

 二年半前の冬の日。例の事件が起きた。


 それ以来呪いを解く方法――或いは『黒い騎士』本人を求めながらずっと冒険者をやっている。


 そしてその途中でアイセさんと出会った――と。


「話してくれてありがとうございました」

「気ぃ済んだか? じゃさっさと行くか」 

「あ。ちょっと待って下さい」

「あん?」


 立ち上がろうとするライラさんを制止すると、謎空間インベントリからアイテムを取り出す。

【中純度クォーツ】。武器の強化素材だ。


「いつぞやのスキル書のお返しです」


 多分、『お近づきの印です』とか言いながらだと受け取ってもらえない気がしたから、そう言った。実際にシュタットでの戦いでは、ライラさんから貰った『ハンドガンのスキル書』のお陰で随分と助かった。これが無ければ多分ボクはまともに戦う事も出来なかったかもしれない。

 だからそのお礼だ。


「……あん時は『先行投資』っつった筈だけどな」

「その投資した分が返って来たって思えばいいじゃないですか」


 ライラさんは何か言おうとして――


「ピンクよぉ。テメー、見た目に寄らず頑固者だろ?」

「あと結構根に持つタイプです♪」


 いつまでピンク言うてんねん。

 そろそろ名前で呼んでくれても良くなーい?


「けっ。そーいうトコまでトリィと似てやがる。へーへー。有り難くこいつは貰ってやるよ」

「……ところでライラさん?」

「あんだよ?」

「ボクも立派な『シックステール』の一員なんですから。そろそろ『ハル』、って名前で呼んでくれてもいいんじゃありません?」

「アーソーダナー。さっさと行くぞピ・ン・ク」


 わざわざ『ピンク』を強調して言った。


 ……(#^ω^)ビキビキ


 根に持つタイプ、って今言ったばっかしなんやけどなぁ。

 確かライラさん辛党でしたよねぇ?

 今度料理に砂糖たんまり放り込んだるねん!


「すみませーん。お会計をお願いしますー」


 ボクは可愛い制服のウェイトレスさんを呼んでお会計を――


「ねーちゃん。幾らだ。このチビの分も払う」

「? ライラさん?」


 確かボクの奢り、って話だったと思うけど。


「中純度クォーツなんて高ぇモン貰っといて奢らせられるか、かっこわりぃ」


 あー。そりゃ、そうか。


「それに――」


 ライラさんが会計を済ませ、先を歩く。

 茶色いテンガロンハットを目深に被り直して、


「一応、妹分だからな」


 ポツリと呟くと、ドアを開け、店を出た。


「…………」


 お? これは……デレた? か?

 名前で呼んでくれなくとも、一応『ファミリー』の一員とは認めてくれてる?


「えへへ」

「気色悪ぃ顔してんじゃねーって。さっさと行くぞ」

「はーい♪」

 

 ボクは小走りでライラさんの真横へと並ぶ。


「あのライラさん?『お兄ちゃん♪』って言っても良いですか?」

「は? うっぜ」

「じゃ『にいにい』で♪」

「あー。マジだりー……話掛けんな」

「ひょっとして……『兄さん』♪ の方が良かったです?」

「いい加減にしねーとその口縫い合わすぞコラ」


 なーんてじゃれ合いながら、武器屋さんを目指すのであった。


 えへへ。ちょっとは仲良くなれたかな♪


 いつか踊り子服も着させます(鬼畜)

 次回投稿は3/10(水)AM8:00の予定です。

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