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第5話  決着! そして帰郷!


「【シックステール流戦闘術/せんの型】!!」

「【シックステール流戦闘術/ごうの型】!!」


 アイセとライラ。二人は同時に【アーツ】を発動させた。


【シックステール流戦闘術】。二人の師が編み出した【オリジナルアーツ】。【れつの型】【ごうの型】【せんの型】【じゅうの型】【こうの型】【せいの型】、計6つの型が存在し、一時的に特定の能力を上昇させる。


 アイセが使ったのは【尖の型】。一定時間DEX(きようさ)が上昇し、カウンターヒットとクリティカルヒットが強化。更に刀などの技量系武器の威力と攻撃速度が上昇する。

 対してライラが使ったのは【豪の型】。一定時間VIT(たいりょく)が上昇。SP(スタミナポイント)が増幅し、更に物理防御力と頑強性が高くなり、打たれ強くなる。

 どちらも強力な効果だが……ライラが、どちらかと言えば防御寄りの【豪の型】を使ったのに対し、アイセは攻撃能力を上昇させる【尖の型】を使ったのだ。


「【尖の型】、ねぇ……やられる前にやれってか。アイセらしいじゃねえか!」


 一息でライラが肉薄する!

 左手に持つ両手剣――【ファルキス】を大きく振りかぶりながら突進!


(薙ぎ払い! いや……!)


 居合いの態勢のまま、アイセはライラを注視する。こちらに走り込むライラの右手――今しがた抜き放った、『ストレートタイプ』の片手剣【ナイトソード】を持っている――が、振りかぶった左手と共に引かれている。


 両手剣の大振りが来る、と見せかけて片手剣の鋭い突きが来る可能性もあるのだ。


 カウンターヒットはコンマ一秒の中で敵の動きを見極めるものだ。そして刀は――居合いにはそれに特化している。

 だから『何の攻撃が来るのか分からない』という状況ほど厄介なものは無かった。


(だが――)


 愛刀【コガラス】の鯉口を切る。

 ほぼ同時に地を蹴った!


 アイセの十八番の一つ、刀【アーツ】【先駆さきがけ】。

 抜刀と同時に高速の突進。敵とすれ違いながらその脇を切り裂く。敵の背後へと回り込みつつ一撃を加える、という技だ。

 種別【突進】であるこの技は、AGI(すばやさ)が高い程、その突進スピードと威力が増す。

 AGIに極振りしているアイセにとって、必殺の一撃ともなりうる技だった。


(――遅い!)


【アーツ】特有の青白いオーラを纏いながら、アイセがライラへと踏み込む!


 シュバッっ!!


(手ごたえあり!)  


[カウンターヒット♪]


 38ダメージ!


(……っ。思ったよりも浅いかっ)


 ライラの使用した【豪の型】、そして20以上も離れたレベル差のせいだろう。想像以上にダメージが低い。


(まずいな…っ)


 戦いでは攻撃をするにしろ、防御をするにしろ、回避をするにしろ、SP(スタミナポイント)を消費する。

 スピードに特化し、技量武器でもある刀を扱うアイセはDEX(きようさ)AGI(すばやさ)は高い物の、それ以外のステータスは平均以下だ。

 しかしライラは逆にAGIを必要最低限に留め、STR(きんりょく)、DEX、VIT(たいりょく)を満遍なく高めている。そしてVITを上昇させれば、物理防御力だけでなくSP最大値も上昇する。

 つまり、スピードはアイセに軍配が上がるが、持久力ならライラの方に軍配が上がる。


 故にアイセはヒット&アウェイ戦法を手放し、カウンターヒットを多用した短期決着を望んでいるのだ。こちらがスタミナ切れする前に瞬殺してしまおうという考えである。


「っ!?」


 不意に、背後から殺気を感じた!


(なんたるっ! 今のカウンターヒットでひるみすら取れていないのか!?)


 さっきの一撃でカウンターヒットを取ったので、ライラは怯んでいる最中だとタカを括っていたが、それすらも出来ていない。

 そしてこちらは技後硬直中。しかも背中を向けた状態。

【チェイン】すれば硬直を解除しつつ別の【アーツ】へと繋げられるが……


(否。【陽炎かげろう】が使えない今、安易な【チェイン】は自分の首を絞める…!)


【陽炎】は標的の眼前へと瞬時に移動するワープ技であり、技後硬直がほとんど存在しない。それを使えば疑似的に無限に【チェイン】する事が出来た。が、レベルが下がり、クラスがダウンしてしまった今のアイセには使えない。


 こちらの【チェイン回数】は4。ライラは恐らく5、高くとも6と言った所か。【アーツ】の打ち合い――【チェイン合戦】ともなればこちらが先に技後硬直を晒す事になるのは間違いない。


 硬直を晒すという事なら今も変わらないが――殺気は感じても攻撃の気配は感じ取れない。


(一体何をっ…?)


 冷や汗を流しながらも技後硬直が解除される。同時にライラとは距離を取るようにステップを踏み、素早く納刀。再び居合いの態勢を取る。


「っ!?」


 ライラが左手のファルキスを大きく振りかぶりながら、【アーツ】のエフェクトを纏っていた。

 そのオーラが、見る見るうちに膨れ上がっていく!


(【チャージ技】かっ!?)


「食らいつけ!!【サベージ・ブレイド】ォッ!!」


 技名と共に、ライラがファルキスを投擲した!


【サベージ・ブレイド】。両手剣の【アーツ】であり、自身の得物をブーメランのように投擲する技だ。

 最大の特徴は種別【チャージ】である事。俗に【チャージ技】と呼ばれるこれらの【アーツ】は攻撃の予備ため動作を延長する事で技の威力や効果を上昇させる事が出来る。

 勿論その分だけ隙も大きくなるので使い所が難しい。が、最大までパワーをチャージ出来れば【オーバー・アーツ】に匹敵する程の威力を発揮する。


 そして【サベージ・ブレイド】の【チャージ】効果は――

 飛行時間の延長。

 飛行速度の低下、そしてそれに伴う連続ヒット数の増加。

 更には誘導性能の向上まで。


 つまり、チャージすればするほど、あの巨大な剣が長時間、かつ執拗に敵を追尾する事になる。そして一度でも接触してしまえば、剣の回転に巻き込まれ、連続でダメージを受けてしまう。


 その様子はまるで、空を飛び、延々と追尾してくる回転鋸のこぎりだ。


(まずい!)


 しかもライラにはまだ右手の【ナイトソード】が残っている!【サベージ・ブレイド】と同時攻撃をされればひとたまりも無い!


(ならば!)


 風を切り、旋回しながら飛来する【ファルキス】に意識を集中する。【サベージ・ブレイド】を防ぐ手段は3つ。

 避けきるか、防ぎきるか、弾き返すか、だ。


 避けるのは現実的では無い。刃渡りだけで1メートルはある剣が、旋回しながら延々と追尾し続けるのだ。それを約8メートル四方のこの狭い空間で回避しながらライラと戦う事など、無謀にも等しい。


 防御も無理だ。刀でガードも出来るが、その防御性能は悪く、ダメージがかなり抜けて(・・・)来る。しかも【サベージ・ブレイド】は多段ヒットするので、一度ガードしてしまえばその場で足が止まる事になる。

 そしてその隙をライラが見逃すはずもない。


 ならば答えは一つ。


(打ち返す!)


【アーツ】によるカウンターヒット、クリティカルヒット、或いは種別【パリィ】の【アーツ】ならば【サベージ・ブレイド】を弾き返し、無効化する事が出来る。


 カウンターヒットの得意な刀ならば、造作も無い!


(【一閃】を使う!)


【一閃】。ランク1の刀の【アーツ】だ。刀【アーツ】の中でも基本、そして最も重要とされている。技は至ってシンプル。納刀からの抜刀と同時に斬撃。


 つまりは只の居合い切りである。

 だが【アーツ】として放たれるこの居合い切りは、『抜刀と同時に斬撃』という一連の動作があまりにも速く、到底常人に反応出来るものでは無い。


 カウンターヒットに重きを置いた、刀らしい【アーツ】だ。


【サベージ・ブレイド】が眼前に迫る。【チャージ】されたそれの飛行速度はかなり遅い。小走り以上、全力疾走以下といった程度だ。

 

(この程度、容易い――)


 そう思った瞬間。

 ライラが【サベージ・ブレイド】から【チェイン】。体の内側へと光が吸い込まれるようなエフェクトと共に、技後硬直が解除され、新たな【アーツ】を発動。


 右手に持つ【ナイトソード】を投擲した!


「っ!?」


 ランク3の片手剣【アーツ】、【アンカー・ソード】。得物を標的目掛けて真っすぐに投擲する。もしヒットすれば剣と共に敵を自分の元へと引き寄せる事が出来る。


 もちろん、当たる訳にはいかない。

 

 飛来する【ファルキス】を追い越す形で、猛烈なスピードで飛んできた【ナイトソード】。その切っ先に、


「なんっ――」


【一閃】を合わせる!

 鞘から抜き放たれた白刃が、【ナイトソード】を捉える!


 カキィインッ!


 不意を突かれたが焦らず、飛んできた【ナイトソード】を弾き返した!


 そしてこちらもチェイン!

 遅れて飛来する【ファルキス】に二発目の【アーツ】を放つ!


「――たるっ――」 


 上段の構えからの渾身の振り下ろし!


 カキィインッ!


 斬撃の軌道が美しい半月を描き、【ファルキス】を打ち返した!


【半月】。ランク2の刀【アーツ】。こちらも【チャージ技】。更に刀【アーツ】には珍しく、怯み耐性(スーパーアーマー)が付いており、本来なら敵の攻撃を受けつつもそれを耐えながらカウンターを食らわせるという、まさに『肉を切らせて骨を切る』を体現した技だ。

 今回はチャージをする暇が無かったが、カウンターヒット扱いになっており、無事【サベージ・ブレイド】を弾き返す事が出来、



【アーツ】のオーラを纏ったライラが飛び込んできた。



【ナイトソード】も【ファルキス】も打ち返し、ついさっきまで手元に武器は無かった筈。そのタイミングで【チェイン】している。


 つまり、格闘【アーツ】による突進攻撃!


 ライラが一直線に飛び込み、その勢いのまま両足を突き出す!


 格闘【アーツ】、【ダイナ・マイト】。怯み耐性(スーパーアーマー)付のドロップキック。モーションは大きく外した際の隙も甚大だが、ガードブレイク効果と吹き飛ばし効果も付いており、直撃すれば場外まで一瞬ではじき出されてしまう。


 恐らくカウンターを合わせても止まらない。

 逃げるしかない。


 本来なら。だが、アイセはそんな臆病な人間ではない。


「――ことっ――」


 2【チェイン】目。

【アーツ】のオーラを纏いつつアイセは跳躍し、同時に切り上げを放つと、中空に鮮やかな三日月が浮かんだ!


 シュバッ!


 ライラのドロップキックが体にめり込んでいるにも関わらず、まるですり抜けるかのようにアイセの体には当たらず、それどころかアイセの【アーツ】をライラが一方的に食らう結果となった。


【上弦】。ランク2の刀【アーツ】。無敵時間・・・・を伴う、ジャンプしつつの上昇切り。

 無敵時間でドロップキックを躱しながら、一方的にカウンターを叩き込んだのだ。


[カウンターヒット♪]


 31ダメージ!


 しかし予想通り、ライラは二度目のカウンターヒットにも関わらず、怯み様子もない。投擲した【ファルキス】と【ナイトソード】も、【ダイナ・マイト】のモーション中に手元へと戻っている。


 そしてこちらは空中。しかも技後硬直。


 逃がさない、とばかりにライラが四発目の【アーツ】を発動。

 側転宙返りのようなアクロバティックな動きをしながら、二刀の剣で回転切りを繰り出す!

 ランク2の双剣・・【アーツ】、【ソード・ホイール】。跳躍し、体を横向きにしながら縦方向に回転しつつ左右の剣で敵を切り刻むジャンプ攻撃だ。


「――だぁっ!」


 空中発動可能な【アーツ】で無敵時間を持つものは無い。

 今度こそアイセは逃げを選択。


 3【チェイン】目。ライラの脇を抜けるように、斜め下へと急降下突き――シックステール流刀剣術/風の太刀【神風かみかぜ】を放つ。


 結果、アイセとライラは互いに離れた位置に着地。

 背中を見せ合う。


(こちらの【チェイン】は後一回、次で最後!)


 対するライラはあと二回、【チェイン】を残している。

 つまり、次の一手でライラの体力を削り切るか、場外へ吹き飛ばすか――最悪、怯ませる事も出来なければ、こちらの負けがほぼ確定する。

 

 切り札である【オーバー・アーツ】を切るか。

 否、発動に時間が掛かる。ライラのような攻撃の素早い相手には発動までに潰される。


 ならば【パリィ】を狙うか。

 これも否。双剣【アーツ】や両手剣【アーツ】は【パリィ】出来ない技が多い。読み違えると叩き潰される。


 それならば!


せんせんを取る!!)


 既にカウンターヒットを二回も当てている。

 恐らく後一度、強力な一撃でもってカウンターを食らわせてやれば、倒す事は出来なくとも怯み程度なら取れるだろう。


 そうすれば、仕切り直す事が出来る。


「ライラぁっ!!」


 最後の【チェイン】。光が収束するエフェクトと共に【アーツ】を発動。

 背後へと振り返ると同時に高速でライラへと突っ込む!!


 ランク1刀【アーツ】、【一矢いっし】。高速の踏み込みから渾身の突きを放つ。先に使用した【先駆け】同様に種別【突進】のアーツである為、高AGIであるアイセと相性がいい。

 さらに刺突のモーションは、カウンターヒットの効果が斬撃のモーションよりも強い。

 トドメはさせずとも、怯ませるくらいは出来る筈!


 対してライラは――再び【アンカー・ソード】を放ってきた!


 突進するアイセに一直線に投擲される【ナイトソード】。

 その切っ先がアイセに直撃する寸前、【コガラス】を突き出す!


 ギインッ!


 再度弾き飛ばされる【ナイトソード】。


(取った!!)


 剣を弾いた勢いのままアイセはライラへと高速で肉薄。

 その刀の切っ先を、ライラの胸元へと突き立てる!


 その直前、ライラに【チェイン】のエフェクトが走る。


【ファルキス】を持つ左手を、まるでアッパーカットでもするように眼前で構える。


 この構え、この【アーツ】は――【ターン・エッジ】。

 構えた剣を外側へと流すように回し、受ける事で敵の攻撃を弾き返す。 

 ランク3の片手剣、それもカーブタイプ限定の――――



【パリィ】技だ。



(なんっ――)


 気付いた時には遅い。


 ライラの左手に持つ【ファルキス】が流れるような軌道を描き、馬鹿正直に突っ込んできたアイセの【コガラス】を弾く、



 その寸前に刀の切っ先がライラの胸へめり込み、彼は場外へと盛大に吹っ飛んだ。 



[カウンタークリティカルヒット♪ ライラちゃん場外判定! ウィナーっっ、アーイセちゃぁぁん♪]



「…………」 


 勝利ファンファーレを聞きながら、アイセは嘆息し、刀を鞘へと収まる。


(最後の最後でクリティカルが出て吹き飛ばし判定になったか)


 バトルフィールドの外へと吹っ飛び、目を回すライラを見ながら一人静かに呟いた。


「……全く、勝った気がしないな」



 ***


 Topics!

『=================

      ファルキス 

 =================

 種別:両手剣カーブタイプ

 ランク:3 重量:40 耐久:85 

 基礎攻撃力:90

 能力補正:Str>D+ Dex>D+

攻撃属性:斬>100 刺>80 打>80

 衝撃力:斬>35 刺>25 打>30

 攻撃リーチ:100

 特殊効果:――――――――

 =================

 説明

 元々は鎌のように反りの内側(・・・・・)に刃が

 ついていた逆刃の大型剣だった

 みたいだね。

 それを鍛冶屋が使い易いように改造。

 刃を反りの外側に戻し、普通の剣士

 が扱えるような平凡な両手剣にした、

 って代物だよ。

 他に特筆すべき事は無く、敢えて

 言うならつばが存在しない

 一風変わったデザイン、って事

 くらいかも。

 両手剣の中ではそこまで大きくなく、

 扱いやすい武器だから両手剣の入門や

 アビリティなんかで片手で振り回す

 には向いているかもね。

 ================』


『=================

      ナイトソード 

 =================

 種別:片手剣ストレートタイプ

 ランク:3 重量:20 耐久:60 

 基礎攻撃力:65

 能力補正:Str>D Dex>D+

攻撃属性:斬>100 刺>120 打>50

 衝撃力:斬>20 刺>25 打>20

 攻撃リーチ:80

 特殊効果:刺突ダメージ+補正

 =================

 説明

 騎兵用に作られたロングソードだよ。

 見た目はやや細く頼りないけど、鋼を

 使っているから丈夫だし壊れにくい。

 刀身が細い分、刺突モーションの

 攻撃にはボーナスがつくよ。

 片手剣の中ではリーチも長め!

 店売りの商品としては少しお高いけど

 片手剣の中でも使い勝手はピカ一!

 お金と片手剣スキルが溜まったら

 ロングソードなんて売ってこっちに

 鞍替えする事をオススメするよ♪

 ================』


『=================

       コガラス

 =================

 種別:タチタイプ

 ランク:5 重量:10 耐久:60 

 基礎攻撃力:80

 能力補正:Str>D- Dex>B-

攻撃属性:斬>100 刺>80 打>40

 衝撃力:斬>25 刺>20 打>20

 攻撃リーチ:63

 特殊効果:空中時に動作機敏化

 =================

 説明

『孤高のサムライマスター・アイセ』が

 所有している刀だよ。

 師匠でありシックステールファミリー

 のエルダーである人物から譲り受けた

 ワザモノだね!


【刀】は刀身が広く反りが深い

『タチタイプ』と刀身が細く反りが浅い

『ウチガタナタイプ』の二つがあるよ。


『タチタイプ』は斬撃速度と居合い技の

 速度が速く、『ウチガタナタイプ』は

 軽い上に突き技の攻撃力が高いよ。

 この刀は『タチタイプ』だね。


 滞空時、攻撃の動作や硬直を高速化

 するという特殊効果があるよ。

 空中戦闘が得意な【ソードダンサー】

 向きの刀だね。

 コガラス(小烏)の名が示すように、

 空中で鮮やかな剣の舞を披露しよう♪

 ================』


 ***



「ちっくしょうぅっっ!! また負けたぁ!!」


 ライラさんがアイセさんに派手に負け散らかした後。

 元気よく飛び起き、最初に発した言葉がそれだった。


「ライラ。大丈夫か?」

「何ともねェよ!! くっそがよぉ…! あの土壇場でクリティカルヒット出るか普通っ」


 えっと。うん。

 確かバトルのラスト、アイセさんの放った突進突きの【アーツ】をライラさんが――多分パリィしようとしたのかな? でもタイミングが少し遅かったみたいで、アイセさんの技が直撃。逆にカウンターヒット扱いになってしまった、挙句にクリティカルヒットが運悪く出てしまったと。


「パリィのタイミングが合わなかったのは俺のせいだけどよ……クリティカルが出て無けりゃ場外まで吹っ飛ぶ事も無かったろうに」


 ぐぬぬ、と怒りに打ち震えるライラさんであった。


「……私も勝った気はしないな」

「勝ちは勝ちだろ。けっ」


 歩み寄るアイセさんにライラさん、実に投槍気味である。


「でも……確かに途中までライラさんが押しているように見えました。素人目ですけど」


 何と言うか、ライラさんがアイセさんの行動を読んでいた?

 って思う瞬間がチラチラあった気がする。

 いや素人の意見やけど。


 と。アイセさんとライラさんはお互いに顔を見合わせ――


「ふむ。ハルは見る目があるな」

「サキュバスっぽくねえよなぁ?」


 駄目姉ズに無理矢理格ゲーの相手とかさせられてましたからね。ある程度なら、どっちが優勢か、ってのは判断がつく。この世界のバトルはゲームみたいなものだし。

 それと薄々とは気付いていたけど、アイセさんってテンパると『なんたるっ』って言うよね。さっきは『なんっ、たるっ、事っ、だあっ』まで言ってたからね。よっぽどテンパってたんやな、って。


「よくもまあ、最後の【一矢いっし】まで読んでくれたな」

「てめぇは直線的すぎんだよ。ちったぁ絡め手を使えっての」

「だが勝ったぞ?」

「運が良かっただけだろうが!? 次もこうなるとは限らねえぞ!? ったく爆速野郎がっ。テメーみてーなAGIお化けじゃなけりゃぁ、さっきのパリィだって決まってるっての」


 あぁ、アイセさんの突進スピードが速すぎたせいでパリィが間に合わなかったんだ。

 確かに、ライラさん、剣を投擲するアーツの後、すぐにパリィアーツのモーションに入ってたからなぁ。それでも間に合わないって事は、それだけアイセさんの突進スピードがヤバイって事なんだろう。


 ――あれ? なんかおかしくなーい?


「あのー。ちょっと素朴な疑問があるんですけどー」

「あン?」

「ライラさんって剣を投げるアーツ、2回使ってませんでした? 確かチェイン中に同じ技って使えないですよね?」


 例えば2回チェイン出来るとして、『アーツA>アーツB>アーツC』と繋げるのはOKだけど、『アーツA>アーツB>アーツA』というように同じ技を二回使う事は出来ない、筈。


「おう。よく気付いたな。【ソードマスター】の【クラスアビリティ】で【再演連技リピート・チェイン】ってのがあるンだよ。チェイン中、同じ技を使用出来ない、って制約を緩和するシロモノでよ。これのお陰でチェイン中、一回だけなら同じ技を使えるってワケよ」

「成る程。それでですか。まあそれよりも両手剣を片手で振り回す事の方がヤバイと思いますけどね」


 刀身だけで1メートル近くある剣を軽々振り回すんだから。


「あぁ。【ソードマスター】のもう一つの【クラスアビリティ】【剣腕アームズ・アーム】の効果だな。両手剣を片手剣として扱える」

「メッチャ強いですやん!」

「勿論つえーにはつえーけどよ。元々重い両手剣を片手で振るワケだからそれ相応のSTRとDEXがいるんだぜ? それに片手で扱える、ってだけで剣速が片手剣と同じになるわけじゃねぇ。見てて分かんだろ? 右手の片手剣よりも左手の両手剣の方が遅いってな」

「あー。万能ってわけじゃないんですねぇ」

「そらそうだ。両手剣で片手剣のアーツも使えるには使えるけどよ。本来の片手剣よりもモーションが重く、遅くなっちまうから多用するとあっという間にパリィのカモにされる。本来は両手で振るモンを片手で振るから威力だって低くなっちまう」


 はー。色々あるんやなー。


「ひょっとしてさっきのパリィのタイミングが遅れたのも、両手剣のせいでモーションが遅くなったから、とかですか?」

「あー。かもな」

「そもそもライラがパリィを狙う事自体が珍しい」

「そうなんですか?」

「あぁ。元々ライラはリスキーな行動を取りたがらない」

「曲芸じみた真似はそこのサムライマスター様で充分だからな」


 ふん。と得意げに胸を張るアイセさん。

 いや。今の多分ライラさんなりの皮肉だと思うんですけど。

 相変わらず天然やねアイセさん。


 まあそこがギャップ萌え可愛いんやけどね♪


「けどそれなら、何で普段使わないパリィを今回狙ったんです?」


 それもスピードお化けのアイセさん相手に。

 レベルで上回ってるから狙えるのかと思ったのかな?


 と。ライラさんはチラリ、とボクの顔を見て――


「別に。普段使わねーから引っ掛かるだろーなと思ったンだよ」


 ふむん? まぁ。実際アイセさんはパリィに対して無警戒にも見えた。普段使わないアクションをいきなり使われれば誰だって動揺するだろう。


 けど、それだけじゃない気がするなー。


「――あぁ。そうか」


 ふとアイセさんが、『してやったり』とした顔を浮かべた。

 お? アイセさんらしくない。ちょっと意地の悪い表情ですよ。


「ライラぁ~。ひょっとして先日のヴェタルとの戦いで、ハルがパリィを決めた事がショックだったのではないか?『俺が出来ない事をこんな素人がやっている』とな。それで焦っているんじゃないのか? ん? どうだぁ?」


 肩を組み、顔を寄せながらライラさんを責めるアイセさん。

 え。何この光景。


 新鮮ッッ!! アイセさん攻め! ライラさん受けだと!?

 うちのねーちゃんズが見たら垂涎ものやで!


「は? はぁっ!? そんなワケねーしっ!! 焦ってねーし!! なんならパリィとか余裕で決められるっての!!」

 

 あ。この反応は……どうやら図星のようですねー。

 まあ確かに先日の【田舎街シュタット】での激闘、自分を褒めてあげたいくらいの奮闘ぶりだった。

 ボス吸血鬼の【ヴェタル】改め【ミラーカ】ちゃんにぶっつけ本番でパリィ決めちゃったからなぁ。あの時は必死だったけど……よくよく考えてみるとあんな強敵相手にパリィ決めるとかとんでもない事をしちゃったなあ。


 それは兎も角。


「ほー。そうかそうかぁ。パリィは余裕かぁ。それは凄いなぁ。なら今からリベンジと行くか? ん? 私は一向に構わんぞ?」


 ここぞとばかりにライラさんに対してマウントを取っているアイセさん……流石にヒドないw?

 それに普段天然な癖に、こんな時に限ってなんでそんなに鋭いのかなぁw


「ちっ!! 構ってられっか!!」


 いい加減ウザくなったのか、ライラさんはアイセさんを振り払うとドスドスと足音を立てながら雑木林の奥へと歩いていく。


「あの? どこ行くんです? 帰らないんですか? 街とは反対方向ですけど?」

「野暮用だよ!!」


 野暮用って。そっちには山しかありませんやん。

 一体どんな用事が、


「――あ」


 ―― えーっと、じゃあねえ……これだけ。実はね、私とライラちゃんの故郷って、ここから結構近いの ――


 ―― え? そうなんですか? じゃあ里帰りとかは ――


 ―― 私は、そうだなぁ。気が向いたら、かな。ライラちゃんは――どうだろうね。行きたがるかも? ――


 朝食の後、ココノさんとそんな話をした。

 じゃあ、ライラさんは今から故郷に顔を出すつもりなのかな?


「あの! ひょっとして今から里帰りですか!?」


 遠くなっていくライラさんの背中に問いかけた。

 するとライラさんはピタリと歩みを止め――――


 次の瞬間マッハでボクに向かって走り寄って来た!?


「誰に聞いた」

「へ? あの……」

「俺の故郷の話だ。誰に聞いた。どこまで聞いた」


 有無を言わさない迫力だった。

 まあまぁかわいい顔なのに――目が完全にすわってるゥ!?


「こ、ココノさんに……近くにお二人の故郷があるって……」

「故郷がある……それだけか? 他に何か話したか?」

「その、ライラさんには妹さんが居るって。ボクにちょっとだけ似てるって」

「ひとっっっっっっつも似てねぇよ。バーカ!」


 けっ! と吐き捨ててから踵を返すライラさん。

 その背中から、着いてくんなオーラが全開で放たれていた。


「あのー。ボクが着いて行ったら」

「は? 殴るぞ?」


 駄目みたいです。

 えぇ……一体何をそんなにムキになってるのぉ?


「おいアイセ! テメーも余計な事絶対言うんじゃねーぞ!! 分かったな!!?」

「何もそこまで意固地にならなくてもいいだろう。もうハルは我々のファミリー、」

「うっせ!! 兎に角余計な事は言うんじゃねえ!!」


 一方的に言い放つとライラさんは今度こそドスドスと山の麓を目指して歩いていく。

 それをボクとアイセさんは無言で見送り――


「――昼飯時には戻る」


 途中で立ち止まったライラさんが、背を向けたままそう呟き――


 今度こそ雑木林の向こうへと姿を消した。


「――ハル。私達も戻るか」

「そうですね」


 ライラさんとは真逆の方向に、アイセさんと並んで歩き出す。

 

 むぅ。ライラさんのあの反応。一体何なのやら。

 まあ、ぶっちゃけプライベートな事だろうし。仲間と言えど新人同然のボクには知られたくない事もあるだろう。


「アイセさんって、ライラさんの故郷の事知ってるんですか?」

「あぁ。知っている」

「……じゃあ、ネロ(ちゃん)は?」

「知っている」

「えー。じゃあボクだけ仲間外れじゃないですかー」


 アイセさんに気を遣わせないよう少し冗談めかしながら言う。


「済まない。ライラにとって……いやココノにとってもプライベートな事でな」

「ココノさんからデリケートな話、とは聞きましたけど……」

「……どうだろうな。まあ、今の反応を見るにライラにとってはそうなのだろう。ファミリーに入ってまだ日が浅いネロが知っているのも、ネロがネットによる情報収集が得意だからだ」

「情報収集?」

「おっと」


 口が滑ってしまった、という様子で口元を抑えるアイセさん。

 その仕草。はい可愛い。


 ってか情報収集ってなんやねん。何の情報を探っとんねん。


 ――――ひょっとして、何か事件でもあった?


 例えば村で誘拐事件が起きて噂の妹さんが攫われたとか。


 或いは――――


「ひょっとしてライラさんの妹さんって――もう亡くなって、」


「違う」


 断固たる否定だった。


「じゃあ誘拐とか、」

「それも違う」

「もういっその事教えて下さいよ!」


 ヤケクソ気味で叫ぶとアイセさんは困った顔をした。


「済まない。ライラに釘を刺されたばかりなんだ。勘弁してくれ」


 むぅ。前回のシュタットの騒動でボクは晴れて皆と同じ『シックステール』のファミリーになった訳だけど……皆の事って全然知らないんだなぁ。


 なんか悔しいぃ!


「だが、私以外にも話せる者は居る」

「え?」

「この街はライラの故郷からすればお隣さんだろう?」

「……あ」

 

 そうか。ファミリーの皆から話は聞けなくても、街の人なら何か知ってるかもしれない。


 いやそもそも。


 この世界には ネ ッ ト が あ る やんけぇ!!


「……ファンタジーって……なんだっけ……」


 ……異世界……ってなんだっけ……


「む? ハル? 頭を押さえてどうした? 頭痛か?」

「いえ、なんでもないです」


 ボクはげんなりとしながら答えたのだった。


 次回投稿は1/20(水)AM8:00の予定です。


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