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第2話  バトル!

バトルメイン回。エッチあり(ほんのちょっぴり鬼畜?)。

メインヒロイン登場と結構濃い内容となりました。

良かったらお楽しみください。

「行くぞ!」


 先手必勝だ!

 ボクは開きっぱなしのタグ【アーツ】のウィンドウに目を走らせ、手頃な魔法を見繕う。

【◎マナ・シュート】。これだ。これにしょう。

 取得済みアーツの一番上にあったし、多分一番簡単なやつだろう。

 様子見にぶっ放すには丁度いい筈。

 ボクは大きく息を吸って、


[【ライト・サーブ】!]


 いきなり女神様の声が響いた。

【ライト・サーブ】って何だ?

 っていうか対戦相手のゴブリンの【ブリン】ちゃん、構えもしてないんだけど。

 空回りして失敗した時のような羞恥心がじわじわと溢れ出してきた。

 あれ? バトル、ってまだ始まって無い?


 と、正面に再び別ウィンドウが開く。


『==================


    『ライト・サーブ!

     どっちにするー?』



       『表』

       『裏』


 ==================』


 今回の選択肢ボタンには右端にアイコンがついていた。

 表のアイコンは猫っ被りのキラキラ笑顔の【リリウム】様。

 裏のアイコンは『くっくっく』と吹き出し付きのゲス顔【リリウム】様。 


 これ、何じゃい? 何の選択肢だ? っていうか【ライト・サーブ】って何ー!?

 ボクが悩んでいるとブリンちゃんが一足先にウィンドウを操作した。

『表』のボタンが点滅したかと思うと、その左横にブリンちゃんのデフォルメされた顔アイコンが付く。

 そして『裏』のボタンの左側にはボクのデフォルメされた顏アイコンが付いた。


 そしてすぐにボクとブリンちゃんの間にヒュン、と音を立てて女の子が一人、現れる。

 癖のない紫色の長い髪。麦わら帽子。白いワンピース。

 金色の瞳を持つ、中高生くらいの背丈の女の子だった。


 って女神【リリウム】様本人じゃないの!?


「え!? 女神様!?」


 声を掛けるとリリウム様はこちらにちらりと顏を向ける。

 そして笑顔で「や♪」と挨拶。


「や♪」じゃないって。そんなに簡単に出てきていいんかいな。

 しかもブリンちゃんや他のゴブリンズにも手を振ってるし。

 これじゃ神様と言うよりアイドルだ。


[じゃいっくよー♪]


 女神様の手にはコインが一枚。それを握り拳の上に乗せて――

 キイン。小気味の良い音を立てながらコインが宙を舞う。

 女神様に弾かれたコインは回転しながら真上1メートル程上昇。

 徐々に回転速度を落としながら落下する。

 ぱしん。左手の甲と右掌でコインを受け止める。

 女神様が右手を退けると――

 そこには『くっくっく』とゲス顔の女神様が描かれたコインが。


[ライト・サーブはハルちゃんの勝利ー!]


「え? 勝利?」


 何かいい事が起きているのだろうけど。

 正直、一連の流れにボクは着いていけてない。


[じゃあハルちゃん。【レギュレーション】を設定してね♪]


「いや【レギュレーション】って言われても!?」


 ボクの正面に『レギュレーション』とタブのついた新しいウィンドウが現れる。


『==================


 『レギュレーションを決めてね♪』



     『○デュエル』

     『○コロッセオ』

     『○フォーマル』

     『●コンバット』

     『●ストラテジー』

     『●エアリアル』

     『●ランページ』

     『●モーメント』

     『○カスタム』

               60


 ==================』


 うん。さっぱり分からない。

 でも【レギュレーション】、ってルールとか規約とかそういう意味だったよね?

 だったらこれは、バトルにおけるルールなどを設定するところ、なのかな?


 試しに一番上の【デュエル】を選択する。

 ウィンドウが切り替わり【デュエル】の説明文が出てきた。


『==================


     『デュエル』


   『フィールド範囲:ナロウ』

   『フィールド形状:スクエア』

   『フィールドアウト:無し』

   『タイムリミット:2分』


 ==================


   『これで良~い?』



   『大丈夫だ。問題無い』

   『コレジャナーイ!!』

               56 


 ==================』


 説明文を見てやっぱり、と気付く。


【レギュレーション】っていうのはつまりバトルのルールや設定を決める事なんだ。

 そしてさっきの【ライト・サーブ】っていうコイントス。

 それはこの【レギュレーション】を決める権利を獲得する為に行うんだろう。

 さっきのコイントスでボクが勝利した事で、今こうして【レギュレーション】を決められる訳だ。

 

 ――いや、ちょっと待って。

 だとしたら【ライト・サーブ】に勝った方は、自分に有利なルールでバトルを始める事が出来る。

 例えば――

 ボクがRPGで言う戦士のような近距離型のキャラクターだとする。

 相手は遠距離攻撃主体の魔法使い。

 フィールドを狭く設定すれば、近距離タイプの戦士が遠距離タイプの魔法使いを一方的に蹂躙出来る。


 きっと【ライト・サーブ】に勝って、自分に有利な【レギュレーション】を選択する事が、バトルに勝利する為の近道なんだ。


 という事は――今の僕はマジシャン。遠距離タイプだろう。

 狭いフィールドでは不利な戦いを強いられる可能性が高い。

 フィールドの広い【レギュレーション】を選択しないと。


 ボクは上から順に一通り【レギュレーション】の説明を見ていく。

 かいつまんで説明すると。

【デュエル】は一対一を想定した、ボクシングリングなど彷彿とさせる正方形のフィールド。

【コロッセオ】はタッグ、もしくはトリオによるバトルを想定した少し広めのフィールド。

【フォーマル】は四人以上のチームによるバトルを想定しており、かなりフィールドが広いようだ。

【コンバット】【ストラテジー】【エアリアル】【ランページ】【モーメント】。

 この五つは選択出来なかった。


 あとは【カスタム】だけど――ここでボクはふと気づいた。


『==================


  『レギュレーションを決めてね♪』



     『○デュエル』

     『○コロッセオ』

     『○フォーマル』

     『●コンバット』

     『●ストラテジー』

     『●エアリアル』

     『●ランページ』

     『●モーメント』

     『○カスタム』

               07


 ==================』


 ウィンドウ右下の数字がどんどん減ってる。

 っていうかこれタイムリミットだ!

【カスタム】で詳細なルール設定をしたいところだったけど断念。

 ボクは【フォーマル】のボタンをタッチ。


『==================


     『フォーマル』


  『フィールド範囲:スタンダード』

  『フィールド形状:サークル』

  『フィールドアウト:無し』

  『タイムリミット:10分』


 ==================


    『これで良~い?』



    『大丈夫だ。問題無い』

    『コレジャナーイ!!』

               05 


 ==================』


『大丈夫だ。問題無い』をタップ。


[【レギュレーション】決定!【フォーマル】でいっくよー!

 観客の皆は急いで離れてね♪] 


 直径5メートル程しかなかったバトルフィールドが学校のプール程度の直径にグンと広がる。

 

 あ。またゴブリンちゃんが一人、フィールドに轢かれてぶっ飛ばされてる。


 それは兎も角。これで大丈夫な筈だ。

 遠巻きに見えているゴブリンちゃんズは皆「あー、やっぱりかぁ」って顔をしている。


「【フォーマル】とかマジかヨ! 面倒臭えナ!」


 正面のブリンちゃんも顔を赤くして憤慨の御様子。

 うん。取り敢えず、闘う前からボクのペースだ。


 ただ、リーダーちゃんだけはずっと不敵な笑みを浮かべ・・・・・・・・・ていて。

 それだけが少し不安だった。


[バトルフィールド展開完了! 両者ともニュートラルポジションへ!]


 ブリンちゃんがボクに背を向けてかと思うと、いつの間にか出現していた直径3メートル程の魔方陣らしきもの中へと入っていく。

 ――ああ、ニュートラルポジションってそういう事か。

 この世界のバトルは準備にここまで気合を入れてるんだ。

 きっとバトルは「よーいドン」で始まるんだろう。

 その時にクラスや種族で有利不利が出来るだけ出難いように、バトル開始地点として付かず離れずの場所にニュートラルポジションを設定しているのだろう。


「まるでスポーツみたいだなぁ」


 緊張感があるような、無いような。

 まあ転生した矢先に生々しい殺し合いをするよりかいいか。

 ボクが魔方陣の中に足を踏み入れるとすぐに女神様のアナウンスが入った。


[おっ待たせしましたー! お前らバトルの時間だぞ~!

 チームレッド!【最底辺】の【ブリン】!

 バアサス!

 チームブルー!

【ピ―――――――――――――――――――――――――――――――――――】の【ハル】!]


「ちょっと待って!? ボクの称号ってピー音で隠さないとイケない程下品なのっ!!? っていうか長い! 長すぎるよ!?」


 バトルフィールドの中央上空に横5メートル、縦3、奥行き5メートル程の立方体が現れ、その側面にブリンちゃんとボクの顔のアップ(キメ顔)が表示。立て続けにAP、SP、MP、HPの四つのステータスがゲージ状に表示される。

 どうやら観戦用のモニターらしい。

 更にモニターのすぐ上に大き目の横長ゲージが一つ出現し、その両端にデフォルメリリウム様が二人、出現した。

 ゲージの上に立つデフォルメリリウム様は麦わら帽子を被っていない。

 しかも片方は赤い髪。もう片方は青い髪をしていてお互いに剣と盾で武装をしていた。



[レディ――]


 フィールド中央に居た女神様が大きく手を振り上げる。

 正面に新しいウィンドウが現れた。

 半透明のウィンドウにはデカデカと『3』と書かれていた。


 同時にボクの視界の左下の隅の方にAP、SP、MP、HPの四つのゲージが浮かび上がる。

 ウィンドウとして現れたんじゃない。視界内に直接現れた。

 目に髪の毛が掛かったりして視界が一部遮られるような、そんな若干の違和感がある。

 けど、バトルを通してこれらの数値が増減すれば、この四つのポイントが、それぞれどんな意味を持つのか分かるかもしれない。


 正面のウィンドウの数字が『2』に変わる。


 気持ちを切り替えろ夢宮陽ゆめみやはる

 もう、後には引けないぞ!


 ウィンドウの数字が『1』に変わり、


[――ファイト!]


 女神様が手を振り下ろす。

 

 同時にカウントダウンを示すウィンドウが消滅した。



 ***



 今度こそ間違いなくバトルスタート!

 ブリンちゃんはバトル開幕と同時に真正面からボクに突撃してきた!


「行くゼ行くゼ行くゼ行くゼ行くゼ行くゼェっ!!!」


 距離にして8メートル程くらい。

 魔法使いに正面から特攻とか、馬鹿じゃないの!?

 食らえ!STR(きんにく)を犠牲にして手に入れたINT(ちせい)の力を!!


 ボクは両手の平を真正面に突き出して叫んだ!


「【マナ・シュート】!」




 ――――――――――しかし何も起きなかった!?


「ば~カっ!!」


 走り寄って来たブリンちゃんがお手製のハンドアクスを振り上げる。

 木の棒に磨いだ石を括り付けた簡素な武器。

 でも、こんなか弱い女の子の体でそんな攻撃をまともに食らったら!?


「死ぬって!?」


 ブンっ! と大きく振り下ろされる斧を、なんとか身をよじって回避。


 すぐにわき目も振らず逃亡!


「あっ!? てめこラ! 避けるナ逃げるナー!」

「ムリムリムリムリムリムリムリ無理に決まってるでしょがー!?」


 っていうか【マナ・シュート】何で出ないの!?


「【マナ・シュート!】【マナ・シュート!】【マナ・シュート】おお!!」


 全力で逃げながら兎に角連呼。

 でも出ない! 出ない出ない! 煙一つ出ないよ!? 何で!?


「ボクの魔法どこ行ったー!?」

「ばかカ!【マナ・シュート】ハ、【杖】ノ【アーツ】ダ! 丸腰ノお嬢ちゃンに撃てるわけないだロ!」


【杖】専用【アーツ】!?【マナ・シュート】って魔法じゃなかったんだ!?


「ええとっ、それなら他の【アーツ】をっ」


 逃げながら右側に展開されたままのウィンドウに目を走らせる。


『===================

『全部』『お気に入り』『装備』『近接』

『射撃』『魔法』『Hアタック』『サポート』

 ===================

             0/10LP

 ===================

 ◎マナ・シュート  

 ●ファイア・ブラスト     4P

 ●ストーン・ショット     4P 

 ●アクア・アロー       4P

 ●アイス・スプレッド     4P

 ●ウィンド・チャクラム    4P

 ●サンダー・ボルト      4P

 ◎ダーク・キャンドル+1

 ◎ハートブレイク・アロー+2

 ◎アブソーブ・サッカー+1

 ◎デヴァステイト・リッカー+1

 ◎ヘブンリー・フェザー+1

 ◎ファシネイト・アイ+1

 ===================』


 ん? さっきは気付かなかったけど、名前のすぐ左隣の◎とか●とか一体何だ?

 いや、それ以前に、このリストって取得しているのを全部表示しているんだよね、多分。

 ちょっと試しに上のメニューから『装備』のボタンを押してみよう。

 何か変化があるかも、


「追いついたゾ!」

「わわっ!?」


 ブン! と振り回されるハンドアクスをかろうじて回避。

 

「痛っ!」


 したつもりが掠ってた! 右の脛辺りに痛みを覚える。

 視界の左下に表示されていた四つのバーの内一つ、APのバーに赤字で『9』と数字が浮かび上がる。

 同時にAPの赤いバーが半分近くまで減ってしまった!


 分かった! APがHP(ヒットポイント)の代わりなんだ!

 でも掠っただけで半分近く減ったよ!? きっと、まともに食らったら一撃でアウトだっ。


「ぎゃっぎゃっぎゃっ!!」


 耳障りな、ある意味ゴブリンらしい笑い声を上げながらブリンちゃんは追撃のハンドアクスを繰り出す!

 

「とっっととっ!?」

 

 後ろに大きく飛んで躱し、さらに追撃の振り下ろしを側面に転がり込んで回避。

 そしてすぐにまたダッシュ!


 まずいまずい! ゆっくりウィンドウを眺めてる時間も無いぞ!

 逃げるので精一杯だ! 何か突破口を探さないと…!


「お嬢ちゃン! さっさと諦めてオッパイ揉ませロ!」

「い・や・だ!! このセクハラロリゴブリン!」

「はんっ! 往生際の悪イ! いいゼ! 飛ばないサキュバスなんてカモだって教えてやるヨ!」

「……ん?『飛ばない(・・・・)サキュバス』?」


飛べない(・・・・)サキュバス』じゃなくて? 

 待って。それじゃボク、というかサキュバスって、最初っから飛行能力を持ってるの?

 この背中の、ボクの顔くらいしかない小さな羽も、飾りじゃなくて本物って事?


 ちらり、と逃げながら肩越しにブリンちゃんの顔を伺う。

『あ、ヤベ。余計な事言っちまっタ』

 って顔をしていた。


 やっぱりか! ええい! こうなったらイチバチ!


「とっべえええっっっ!!」


 強く大地を踏みしめて、背中の羽に意識を集中して、


 跳躍!



 

 ぐん――と、視界が大きく上昇した。


「やった! 飛ん、おとととっ!?」


 感覚的には学校校舎の二階から三階の間くらいの高度だった。

 ただのジャンプでは到底到達出来ない高さまで跳躍するとすぐに落下が始まる。

 が、小さな羽をばっさばっさとフル稼働させると落ちる事無く滞空した。

 あ、これ結構疲れる。長い時間は無理かもしれない。

 左下のSPバーとMPバーにも変化があった。

 SPバーには緑色の数字で、MPバーは青色の数字で、どちらも『2』と表示。

 二つのバーが僅かに減少し続けていく。


 傍目には格好いいとは言えないけど、充分だ。

 ボクは高度を保つように必死に羽をバタつかせながらウィンドウを操作。

 画面右上の『戻る』ボタンを押すと、アーツ・アビリティの選択ページ画面になる。

 悩まずにアビリティのボタンをタッチ。


『===================

『全部』『お気に入り』『装備』『近接』

『射撃』『魔法』『Hアタック』『サポート』

 ===================

             0/10P

 ===================

 ◎吸精  

 ◎跳躍ハイジャンプ

 ◎滞空ホバリング

 ◎フェロモン

 ◎魅了の瞳

 ●溜魔ブースト      4P

 ===================』


 例によって初期のカーソル(デフォルメリリウム様が腰掛けてる)は『全部』のボタンに合されている。

 画面下側にある五つのアビリティ。これがボクの所持している特殊能力全部という事だろう。

 あれ? あると思った飛行が無い。代わりに【跳躍ハイジャンプ】と【滞空ホバリング】か。

 あ、また◎と●で別れてる。でも◎と●の違いは何となくもう想像が付く。


「こラ! 卑怯者っ! 降りて来イ!」


 ブリンちゃんが抗議の声を上げているけど勿論無視した。

 ボクは『装備』のボタンをタッチ。

『全部』のボタンに座っていたデフォルメリリウム様が『装備』のボタンに移動する。

 同時に画面が変わった。


『===================

『全部』『お気に入り』『装備』『近接』

『射撃』『魔法』『Hアタック』『サポート』

 ===================

             0/10P

 ===================

 ◎吸精  

 ◎跳躍ハイジャンプ

 ◎滞空ホバリング

 ◎フェロモン

 ◎魅了の瞳

 ===================』


 思った通りだ。『装備』のリストには●のアビリティが載っていない。

 つまり、◎は現在装備、起動可能なアビリティで●は取得済みだけど未装備のアビリティなんだ。

 納得したところで――やばい、結構疲れてきた。

 気が付いたらSPが21/51まで減っていた。

 分かった。SPはスタミナポイントだ。

 それと。アビリティの詳細をじっくり見ようと思ったけど、このペースじゃ多分そんな余裕無い。

 ウィンドウを操作。再びアーツのページを開け、アビリティと同じように『装備』のボタンをタッチ。 


『===================

『全部』『お気に入り』『装備』『近接』

『射撃』『魔法』『Hアタック』『サポート』

 ===================

             0/10P

 ===================

 ◎マナ・シュート  

 ◎ダーク・キャンドル+1

 ◎ハートブレイク・アロー+2

 ◎アブソーブ・サッカー+1

 ◎デヴァステイト・リッカー+1

 ◎ヘブンリー・フェザー+1

 ◎ファシネイト・アイ+1

 ==================』


 確か【マナ・シュート】は杖の【アーツ】らしいから使えない。

 今現在で使える魔法はどれだ?

 ボクは取り敢えずマナ・シュートの一つ下の【ダーク・キャンドル+1】をタッチ。


『==================

  『ダーク・キャンドル+1』

 ランク:1   属性:闇

 消費:12   種別:攻撃>リール

 対象:一体   威力:極小

 弾速:カメさん 追尾:ヤバい

 射程:結構長い

 ==================

 詠唱

『闇のほむらよ、

 の者に執拗なる戒めを!

 ダーク・キャンドル!』

 ==================

 説明

『闇属性の初級攻撃魔法だよ~。

 とってもエゲツないホーミングだよ~。

 撃たれると超ウザいよ~。

 でも威力はお察し!過信は禁物!』

 ==================』


 ――これだ。これでいい。

 威力は低いみたいだけど命中率は高そうだ。

 えーと、詠唱が必要なのか。どれどれ。実際やってみよう。


「闇のほむらよ! の者に執拗なる戒めを!」


「げえっ!?」


「【ダーク・キャンドル】!」


 勝手に両手が動いて、露骨に驚いているブリンちゃんへと掌を向ける。

 眼前に淡く輝く魔方陣が出現し、紫色に発光。


 直後に黒い炎の玉が撃ち出された。

 まるで人魂を連想させるように静かに、仄かに燃える黒球。

 それは早歩き程度のスピードでブリンちゃんへと向かう!


 そして疲れた! SP(スタミナ)が持たない!

 ボクは【滞空ホバリング】をゆっくりと解除して地上に静かに降りていく。

 そこでブリンちゃんがはっとしたようにボクを、正確にはボクの下半身を凝視した!


 ブリンちゃん、ボクにビシリと指を刺して、


「白!」

「あほかあああぁぁぁっっっ!!?」 


 ボクは今更のようにミニスカートの前側を押さえて着地。

 ああもう! パンツ丸見えだった! 

 羞恥心と怒りで顔が真っ赤になってるのが分かる。

 この変態め! どうしてくれようか!?


「うオっ!?」


 ブリンちゃんと言えばボクが今さっき放った【ダーク・キャンドル】と戯れていた。

 黒い炎は避ける事自体難しくはない。弾のスピードは遅いし、簡単に回避のタイミングを見切れる。

 でも一度躱しても方向転換してまた襲いかかってくるのだ。

 きっと射程限界までしつこくしつこく相手を追い掛け回すのだろう。

 闇属性らしい、いやらしい魔法だった。


 ん? 待てよ。ブリンちゃんは今、回避で精一杯だからやりたい放題じゃないの?


「闇のほむらよ! の者に執拗なる戒めを!」

 

「げっ!? 鬼かァ!?」


「【ダーク・キャンドル】!」


 ボウウ・ウ・ウ・ウ・ウン――と不気味なSEを響かせながら二発目を射出。

 まだまだ!


「闇のほむらよ! の者に執拗なる戒めを! 【ダーク・キャンドル】!

 闇のほむらよ! の者に執拗なる戒めを! 【ダーク・キャンドル】!

 闇のほむらよ! の者に執拗なる戒めを! 【ダーク・キャンドル】!」


 続けて三連発!

 ブリンちゃん一発目を回避しきった所で追撃に四つの黒い炎が肉薄する! 

 どーだ! 避け切れないでしょ!


「うっぎゃああぁぁぁっっ!?」


 ブリンちゃんが必死になって逃げまわっている。

 よし、今のうちに少し距離を取って――

 ボクは小走りでブリンちゃんから離れる。

 四つの黒い人魂とじゃれ合っているブリンちゃんを横目に、再びアーツのウィンドウを操作する。

【ダーク・キャンドル】は確かに誘導が強いけど、それだけだ。威力だって『極小』らしいし、きっとこれだけで勝つのは難しい。けん制と割り切った方が良い。

 今は、『これさえ当てれば勝てる』という本命の魔法が知りたい。


 ボクは【ダーク・キャンドル】のページから一つ戻り、少し考えると【アーツ】の『装備』リストから【ハートブレイク・アロー+2】を選択した。

 いやだってこれだけ+2だよ? きっと強力な魔法だ。

 それに『ハートブレイク』だよ?『心臓破壊』って意味でしょ?

 じゃこれ、いわゆる『即死魔法』じゃないの?

 ボクが思うに【ダーク・キャンドル】で敵の動きを制限してから【ハートブレイク・アロー】で止めを刺すのが基本戦術だと見た!

 期待を込めて、早速ボクは展開された【ハートブレイク・アロー】のページを注視する。


『==================

 『ハートブレイク・アロー+2』

 ランク:2   属性:H

 消費:14   種別:攻撃>スタン

 対象:一体   威力:小

 弾速:結構速い 追尾:ちょっとだけ

 射程:ふつー 

 ==================


 ランクが『2』になってる。いや、ランクの意味も分からないけど。

 そして属性の『H』ってなんなの?

 あ。消費が【ダーク・キャンドル】より『2』多くなってる。

 種別の『攻撃>スタン』っていうのは何だろう……まあこれもいいや。

 基本スペックだけ見れば弾速の速くて誘導イマイチの狙撃系魔法ってとこか。

 低弾速高誘導の【ダーク・キャンドル】とは正反対みたい。

 しかし低誘導という事は『狙わないと当たらない=威力高め』と見た!

 即死効果は無さそうだけど……よし、これを狙ってみよう。肝心の詠唱はと、


 ==================

 詠唱

『あなたのハートをズッキューンッ(はあと)

 ねーらい撃ちだよぉーっ(はあと)

 ハートブレイク・アロー(はあと)』

 ==================』


「言えるかあああぁぁぁっっっ!? 誰!? この恥ずかしい詠唱考えたの!?

 頭おかしくない!? メイド喫茶の『オムライスが美味しくなるおまじない』じゃないんだぞ!?

 こんな恥ずかしい詠唱を唱えられるわけ、」


 途中で言葉が途切れる。


 だって、いつの間にかボクに肉薄していたブリンちゃんが今まさしくハンドアクスを振り下ろそうとしていたところだったから。


 あ、これ、避けれない。


 ズッシャア!

 過剰に盛られた感じのする刃物で何かを断ち切ったSE。

 ボクの体が胸元から袈裟切り上に切り裂かれる。


 視界が真っ赤に染まった。

 これ、死んだな。と頭のどこかで冷静に思う。




 と同時にボクの体が吹き飛んだ・・・・・

 



 え? 吹っ飛んでる? 視界が高速で流れていくよ?

 切られた(・・・・)のに!?


「ひやあぁぁぁっっ!?」


 訳も分からないまま盛大に吹き飛び、草花の上に軟着陸。 

 4メートル程ぶっとんだ、と思う。

 仰向けに倒れたまま視界だけを足元へ向けると少し離れたところで、ブリンちゃんが背後から迫る(・・・・・・)【ダーク・キャンドル】の最後の一発をお鍋の蓋で防御したところだった。 

 そうか。ボクが【ハートブレイク・アロー】のページ、というかあのふざけた詠唱に気を取られている間に、ブリンちゃんは【ダーク・キャンドル】を振り切ってボクの元まで走ってきたんだ。

【ダーク・キャンドル】の弾速は遅いから、走れば振り切れる――盲点だった。

 説明にもあった『過信は禁物!』の意味がようやく分かる。



 ところで。割とまともに攻撃を食らったのにボク大丈夫だね?

 胸元辺りに強く叩かれたような痛みがあるだけで体は無傷だ。服だって綺麗なものだ。

 画面の左下のAPバーは今は0/20になっている。RPGなら戦闘不能なんだけど。

 まだ、動けるよボク? APってヒットポイントの事じゃなかったの?


 あれ? そう言えば最初、右足の脛の辺りにもハンドアクスをカス辺りしたけど。

 右足には怪我らしきものはどこにも、


[オール・ブレイク♪]


 女神様のアナウンスが響いた。

 同時に着ている服がビリイ、なんて音を立てながら、バラバラに破ける。


「あ?」


 バラバラになった服の生地は虚空に溶けるように光の粒になって消えた。


「いっ!?」


 あっという間に白いブラとパンツの下着姿になり、顔面が蒼白になる!

 でもそれだけで終わらなかった!


 ビリイ、と再び繊維が千切れるSE。

 今度は下着すらも細切れになって!


「ええぇぇっっ!?」


 裸あああぁぁぁっっっ!!!? 


「裸!? 何で!?」


 右手で股間を、左手で無駄にデカいオッパイを慌てて隠す。


「おーおー。良い眺メだなァ! ぎゃっぎゃっぎゃ!」

「ひー!?」


 やばいやばいやばい! 兎に角逃げろ!

 近付いてくるブリンちゃんにお尻を向けて逃走!


 けど一歩遅かった!


 お尻の辺りから電撃が走るような感覚。


「ひぎっ!?」 


 変な声が出ると同時に、体から力が抜けてしまう。

 引っ張られるような感触がある。

 背中越しにその感触がする方へと目を向けると、ブリンちゃんの左手に鷲掴みにされた矢じり尻尾。


「は~ン? 尻尾、敏感なんだナぁ…っ」


 にたぁ、とおっさん笑いのブリンちゃん。

 嫌な予感がする、と思った瞬間、それが現実のものになった!


 ――きゅ♪


「ひああっ!?」


 きゅ。きゅ。きゅう♪


「あっ!? 尻尾っ、弄るなぁっ」


 ブリンちゃんがボクの尻尾をきゅうきゅうとテンポ良く握る。

 その度に、まるでマイサンを愛でている時のようなピンク色の刺激が!


「アーッ!?」

 

 ビクンッ…ビクンッ。と体が跳ねてしまう。

 駄目だ、もう、力が、入らない……


 地面にうつ伏せに倒れてしまう。

 草花が剥き出しの肌に擦れてくすぐったいが、そんな事をゆっくりと感じる余裕は無かった。

 ブリンちゃんがボクに覆いかぶさると、無理やり体制を仰向けに変えられてしまう。

 そしてがっちりと両腕を捕まれ、固定された。


 ちょっ!? マウントポジションじゃないですかこれ!


「っ!? おっぱい丸見えじゃん!?」

「うへへへっ、た、たまんネェ…っ」

「もう~! ロリ可愛い癖になんでそんなにおっさんなの~!?」

「うるさイ! こんな立派なチチを前にして、正気でいられるカ!」


 いや気持ちは分かるけど。痛いくらいに分かるけど!

 それはボクじゃなくて他の女の子にして下さい!!


「あーテメこらブリン!! 何抜駆けしてんだぁ!?」


 と、外野からリーダーちゃんの怒声が聞こえた。

 横目で確認すると、青筋すら浮かべて怒り心頭といった様子だった。


「だっテ姉御! こんナめんこい娘を前に、我慢なんて出来ねえですゼ!」

「馬鹿言ってんじゃねえ!

 さっきの【ダーク・キャンドル】だってきっちり全部捌きやがって!」

「痛いのは嫌ですゼ! 気持ちいい方がいいですゼ!」

「だからお前一人良い思いしてんじゃねえって言ってるだよこのボケナス!

 今からでも遅くないからお嬢ちゃんから離れろ!」


 あのー。なんか、言い合いしてるよ?

 っていうかリーダーちゃんの言葉の端々に「手を抜け」みたいなニュアンスが含まれてない?

 ぶっちゃけるとボクにはリーダーちゃんがブリンちゃんに向けてこう言ってるように思える。

「いいから負けろ」って。


 いや。余計な詮索は後回しだ。

 仲間割れしている今が好機。マウントポジション取られてるから筋力での挽回出来ないけど。

 口が動けば魔法は唱えられる!


「闇のほむらよ!」


 ブリンちゃんがこちらを見た。

 こちらを抑えてるせいでブリンちゃんも両腕が使えない。

 詠唱の妨害は出来ないだろ!


の者に執拗なる戒めを! ダーク、っ」


 キャンドル、と続ける直前。

 ボクの口が塞がれた。




 ブリンちゃんの唇で。




 ショックで思考が止まる。

 我を取り戻す暇もなく、柔らかな舌先が口内へと侵入してきた。


「~~~~っっ!?」


 キス、されて、るっ!? 舌、まで入れてっ!?

 

「ちゅぷっ、じゅるっ、ちゅ、じゅるぅ♪」


 引っ込んだボクの舌を引きずり出すように、ブリンちゃんの舌が絡まりついてくる。

 じゅぷ、ちゅく、とエッチな音が口の中から頭へと直接伝わる。

 ブリンちゃんのロリな童顔が文字通り眼前にあって、彼女からは日向の匂いがした。

 あああぁぁぁ、とか、てめー、とか遠くから怒声。

 でも耳には入っても頭には入ってこない。


 唾液が流し込まれ、

 舌を舐められ、

 唇を吸われ、

 唾液を啜られ、

 

 いやらしい水音と吐息の香りが脳を痺れさせる。


 気持ちいいとか、

 くすぐったいとか、

 エロいとか、

 ロリゴブリンとキスしたとか、


 そんな事を考える余裕は無かった。


 じゅるるっ、と大きく唾液を啜られ、体が官能にビクリと震えた。


「ぷあっ! うんメェー! サキュバスの唇、旨すぎルだろオ!」

「ブリンてっめえええっっ! バトル終わったら袋叩きだからなぁ!? 覚えてろ!?」

「へっへっへ! だったラ、今のうちに楽しまないトな~?」


 再びボクをおっさん顔で見つめるブリンちゃん。

 その瞳に映ったボクは。


 


 泣いていた。




 あれ? 泣いてる? ボク泣いてるの? 何で泣いてるんだろう?


『お願いします! どうかボクと…お付き合いして下さい!』

 

 ふと、相原詩音あいはらしのんに告白した時の事を思い出した。

 そうだ。彼女はボクをこっぴどく振った挙句に、目の前で別の男とくっついたのだ。

 その帰り道で、流星群の流れ弾に当たって見事に死んで。

 転生してもらったのは良いけど女の子、サキュバスに生まれ変わって。

 一番弱いと思われるゴブリンにバトルで負けて。

 裸に剥かれて。


 そのままファ-ストキスを奪われている。


 何それ。ボクの人生なんなの?

 ファーストキスは好きな人と、とかそんな乙女な事は言わないけどさ。


 惨めすぎるよっ。

 こんなのってないよ!


「ありゃりゃ、泣いちゃっタか? でも大丈夫だゼ? 俺ガ悲しい気分を忘れさせテやるくらい、気持ちよくしてやるからよォ♪」


 唇を突き出した間抜けなキス顔がゆっくりと迫る。

 ボクは……




 そこに渾身の頭突きを食らわしてやった。




 ぶぎゃ、と間の抜けた悲鳴が上がる。

 

「馬鹿死ね変態ロリ雑魚早漏変態変態変態くたばれ弱緑よわみどりーっ!!」


 無茶苦茶に体を動かして兎に角暴れた。

 頭が完全に沸騰していた。

 これが後になってからいわゆる女の子の激おこ状態、「ヒステリック」というやつなのだと気付いた。

 

 兎も角その甲斐あってか細い右手が自由になった。

 

 頭で考えるより先に手が動いた。


 バチイィン!!


 非力な女が唯一、屈強な男に痛みダメージを与えられる攻撃。

 ビンタだ。


 ブリンちゃんは一瞬呆け顔になり――そしてそれがすぐに怒りの形相に変わった。

 

 あ、やってしまった。と思っても後の祭り。

 

「折角優しくシテやろうと思ったのにヨゥ……」


 ブリンちゃんは傍らに放置してあったハンドアクスを手に取った。


「折角タイムアップギリギリまで愉しもうかと思ったノニ……もうイイ」


 目の前で、凶器が振り上げられる。

 お手製(ボロッちい)? とんでもなかった。

 裸で身動きが取れない状態のそれは、死神の鎌以外の何物でもない。


 本当は死なないかも知れない。吹っ飛んだりするだけで体は無事かもしれない。

 そんな考えも勿論ある。

 でも、情緒不安定になっていたボクは、理屈よりも感情の方が優先されてしまう。

 

 ただ――――恐ろしい!

 怖い!

 体が震える。助けて、と思わず呟いた。

 その声は小さくて、ボク以外の誰にも聞こえなかった。


「一回大人しくなれヤ…!」


 ハンドアクスが振り上げられる。

 今度は無我夢中で叫んだ。


「誰か助けてえええぇぇぇっっっ!!」




「【インター・セプト】っっ!!!」




 凛とした声が森の中に響いた。

 

「あっ? 何だてめ、ぐびゃ!?」


 ブリンちゃんがその可愛らしいロリ顔に鋭い飛び蹴りを食らい冗談のように吹っ飛ぶ。

 フィールドの端から端まで飛んでいきそうな勢いで、吹っ飛ぶブリンちゃんを呆然と眺めた。


「……え?」


 一体何が起こったのか、それを考える前にブリンちゃんとボクの間に割って入るように、一人の女の子が現れた。



 白い簡素な紐で括り、ポニーテールに纏められた黒髪。


 風に靡く真っ赤なマフラー。


 裾に青いラインが入った、白いコート。


 腰に提げた日本刀。



「安心してくれていい。もう大丈夫だ」


 その女の子は膝を付き、ボクに目線を合わせるとそう言った。

 精悍な顔付をした女の子はまるでボクを安心させるかのように笑う。


 屈託の無い、まるで友人同士が見せるような笑顔を浮かべながら、こう続けた。



「助けに来たぞ」



読了お疲れ様です。次回チートヒロインによる処刑タイムです。


過去の話にちょくちょく修正を入れたりする事もあると思いますが表現の変更やステータスの細かい修正などは報告無しの方向で行きたいと思います。

シーンの追加、矛盾点解消の為の設定変更など、大きな変更があった場合はきちんとご報告させて頂きます。よろしくお願いします。


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