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第2話  ボクの○○、食べて下さい♪

 

「……はあ」


 宿の一階受付カウンターで少女が憂鬱な溜息をこぼした。

 海のような蒼い髪を三つ編みにし、頭には三角巾、色気のない庶民的な服装にエプロンを纏っただけの、どちらかというとみすぼらしい少女だ。顔は可愛いのだがどうにも気怠そうな――まだ若いのに人生疲れてしまったオーラが滲み出ている、残念な子である。


 名前は【ミース】。人間。齢は16。

 宿【止まり木亭】の従業員であり、看板娘であり、女将の一人娘でもある。

  

(まさかあの【ヴェイグランツ】の皆さんが、ウチみたいなボロ宿に泊まるとは予想外っすよー)


 パーティ【ヴェイグランツ】と言えばあの(・・)『アイセ』がリーダーを務める腕利きの冒険者達だ。つい先日も、ここから北に進んだ山の中にある【シュタット】という街を一つ、ボス吸血鬼の魔の手から救ったとか。

 ネットのニュースを見れば、彼ら彼女らの話で持ち切りだ。


 特に新しいメンバーのハルというサキュバス(!)。H魔法一発でAFC(アイセファンクラブ)の会長さんを倒したり、あの『アイセ』でも倒せなかったボス吸血鬼を倒したり、と凄い戦果を上げている。

 しかもその吸血鬼を倒す直前までレベル1だったというのだから、ネット上では『アイセ以上にヤベー奴なのでは?』と囁かれていた。

 

「はー。五人も泊まったら仕事回らないっすよー。だるいっすよ~」


 ぐで~、と受付のテーブルの上でだらけるミース。

 彼女はどうやら、極度の面倒くさがりのようである。


「は~しゃーないっすね~。仕事仕事っと」


 母は張り切って市場に買い出しに出かけてしまった。今のうちに掃除や雑務をしてしまおう。仕事は面倒だが、ボーっとしていたらどんどん溜まってしまう。

 そう思い立った時だった。


「あのー。すみません」

「へ~い」


 二回から降りて来た女の子が声を掛けて来た。

 鮮やかな桃色の髪を姫カットにした、サキュバスの女の子――噂のハルちゃんである。


(うぉぉ……何度見てもエッロいなー)


 黒地に白のフリルをあしらったキャミワンピ風の衣装を着ているのだが、剝き出し脇や色香の立ち上る谷間。チラリと覗くブラ紐。それに黒ニーソのキャミワンピの裾の間に生まれた絶対領域。

 それら全てが男の煩悩を刺激する要素であり、女のミースですら圧倒されそうになる。


(この子、私よりも頭一つチビなのに発育良すぎじゃないっすかねー?)


 着ている服が体のラインがもろに出ているデザインの為、ハルの体がどれだけ生意気かよく分かる。顔は童顔で、黙ってれば大人しそうな子なのに、その体は熟練の娼婦すら腰を抜かすほど熟れている。


「あ、あのー…っ、そんなにまじまじと見られるとっ」


 頬を赤く染め、視線を外し、もじもじし始めるハル。


(え? 何? 恥ずかしがってるの? は? 可愛いし)


 正直このまま眺めていたいという気持ちはあるがそうもいかない。客の対応くらいはしないとまた母にどやされる。


「えー……何か御用っすか~?」

「その…もし良かったら、なんですが……ボクにご飯を作らせて貰えませんか?」

「……えっ?」


(聞き間違いっすかねー?)


 宿を利用する側の客が「飯を作らせてくれ」と言った。

 個人的には、超嬉しい。今利用しているお客さんはこの【ヴェイグランツ】だけだが、それでも忙しい事には変わりない。食事の用意だけでもやってくれると助かる。

 だがそれ以前に。


(サキュバスって、料理出来るんっすかね? エロい事はお上手なんでしょうが、料理まで上手だなんて聞いた事無いっすよ)


 家計は元よりギリギリの現状。余計な事をされて食材を無駄に消費するだけに終わってしまう可能性だってあるだろう。そうなったら母から大目玉だ。


「あの、食材の費用はこちらで支払いますので」 

「マジっすか!? ならお願いするっす~♪」

「いやいいんかい!?」


 予想外の鋭いツッコミに、ミースはハルに好感を持ったとか。



 ***



「――む」


 ベッドの上、アイセは香ばしい匂いに釣られて目を覚ました。


朝餉あさげの香りだろうか)


 しかし今まで泊って来た宿の中でも、これだけ香り高い朝食の匂いは嗅いだ事が無い。匂いだけでお腹が鳴ってしまう。


「っ!? いや、この香りは――まさか!?」


 黒地のシャツとスパッツという、珍しくラフな姿のままアイセは部屋を飛び出した。


「――っと」


 その勢いで危うく廊下に居た、同じくインナー姿のライラとぶつかりそうになる。彼女かれはアイセの結われていない黒髪を眺めると不思議そうな顔をした。


「なんだァ、アイセ? 珍しく慌ててるじゃねえか」

「あぁ。いや。その――」


『朝餉の匂いに釣られて』と正直に話すのは何だか情けない気がする。しかし今思えば自分の姿はまさに今起きましたよ、と言わんばかりの恰好だ。


(何か上手い言い訳はなかろうか…!?)


 アイセは必至で言い訳を考え――


「故郷で食べた飯の香りがするのだ!」


 結局上手い言い訳を思い付かず、馬鹿正直に答えた。


「――ぷっ。何だそりゃ! あっはっはっはっはっ!!」


 勿論ライラには大声で笑われた。


「何だよアイセ! お前もココノと同類じゃねえか! 何が『孤高のサムライマスター』だよ! 只の腹ペコ野郎じゃねえか! ぷっ! ククククククッ…!」

「わ、笑うなぁー…!」

「いやわりィわりー! リーダー様! 失礼をお許しを! ところで昼食は何にされますか!?」

「急にへりくだるなぁ! しかもまだ朝だろうに!」

「いやぁ。食いしん坊のリーダーはもう昼メシの事も考えるかなって、思うだろ?」

「思わない!」


 ライラは気軽にアイセの首に手を回し、肩を組む。

 それをアイセは気安いとは思わない。


(……全く。しょうがない奴だなライラは)


 アイセにとってのライラは、仲の良い兄弟か悪友のようなものだ。本音で話し、ふざけ合える。


(まあ、見た目は完全に女なのだがな) 


 口調や態度は男のそれだ。胸の凹凸だってほぼ(・・)無い。がその声も――至近距離で見るその顔も、完全に女だ。

 風呂場で『アレ』が付いていない事も何度も確認している。

 が、この世界においてライラのような者は男として扱われているし、本人達も男だと思っている。

 それが良いか悪いかは判断が付かないが……


(こういう、気安い関係、というのは良い物だ)


「おいアイセ。一つ言っとくがな」

「何だライラ。いきなり神妙になって」

「ああ。この際だからはっきり言っておくぜ? ――――俺の分はやらねーぞ?」

「いらんっ」


 ふざけ合いながら二人は宿を歩く。アイセもライラも、生物学的に間違いなく女なのだが――その姿は誰が見ても、男友達がじゃれ合っているようにしか見えなかった。



 ***


 Topics!


『=================

      リリアレス

 =================

 この世界は私、女神『リリウム』が

 創造したファンタジぃ~で

 ゲーミぃングな世界だよ。

 剣と魔法、銃と弓、モンスターにメカ、

 天使と悪魔、聖女と淫魔、魔王に勇者、

 なんでもござれの楽しい世界だよ♪


 喧嘩するくらいならOKだけど

 武器や魔法などを使った『殺し合い』

 はご法度。私が強制介入するよ。

 肉体へのダメージが装備ぼうぐへと伝わり、

 首を切られてもお腹に風穴が空いても

 無かった事になるよ。


 ちなみに!この世界に♂はいません!


 この世界に♂はいません! 


 え? 何で二回言った、って?


 ――――大事な事だからNE!

 ================』 


 ***



「お? なんか珍しい奴がいるぜ?」

「ネロ。もう起きてるのか」

「うぇ~~ぃ」


 返事とも呻きとも取れる不思議な声が返って来た。

 子供用の椅子に腰かけ、料理の並ぶテーブル席で待っているはパーティの魔法使い、ネロだ。

 褐色の肌に短めの銀髪。それに尖がり耳。ネロはダークエルフの少年だ。勿論見た目は小学生程度の幼女である。現実の世界ならば大きなお友達(・・・・・・)が『ハイエース不可避』などと揶揄す事間違いない。


(いつもは昼まで寝ているのだが……珍しいな)


「何だよネロ。お前も飯の匂いに釣られた口かぁ?」

「ゴリラ犬に叩き起こされた……今日はピンクが朝ごはん作る……全員強制起床……ぐぅ……」


 スヤァ……と眠りに落ちていくネロであった。


「ったく。ゴリラ犬はやめとけ。首から上が無くなるぞ。せめてゴリラにしとくこったな」

「ライラ。ネロ。その辺りにしておかないとまた頭に鉄拳を落とされる事になるぞ」

「本人が居ないんだから構いやしねーよ。実際ゴリラだろアイツ。俺とSTR(きんりょく)ほぼ同じなんだぜ? 実はあの犬耳が作り物(フェイク)で実際はゴリラ亜人でした、って方が納得出来、」


「――ライラちゃん聞こえてるよー?」


 声が聞こえた。ココノの声だ。姿が見えないと思ったらキッチンの方に居るらしい。そして姿を見え無いのを良い事に好き放題言ったライラの顔が硬直していた。


「…………やっべぇ…っ」

「ほら見た事か。後で二人で怒られて来い」


 冷や汗を流しているライラを放って、ココノの声が聞こえた方へと――キッチンの方へとアイセは向かっていく。


「ココノ? 一体何をして……」


「はあ♪ はあ♪ ハルさん♪ 可愛い♪ 襲ってもいいっすか♪ 襲うっすね♪ いくらでもレベル吸って良いんで襲わせて欲しいっす♪」

「ダメに決まっとるやろ!? うわーん助けて誰かーっ!?」

「はいはい店員さん。気持ちはすごーく分かるけど我慢しようね? ハルちゃんを好きにしていいのは私だけなんだからね!」

「ドサクサに紛れて何言ってるんですココノさん!?」


 店員の少女に押し倒されたハル。

 ハルの上に馬乗りになった店員。

 そして店員の少女、ミースを後ろからココノが取り押さえようとしている――そんな構図が展開されていた。


「……なんたる」 


 女子三人のくんずほぐれつの光景に呆気に取られてしまう。


「あ^~♪ なんというOPPAI♪ 弾力がぁ♪」

「ちょっ!? 胸揉むのっ――あんっ!? やめっ!」

「も~っ。一般人が【オディ】るのってこんなに面倒くさいんだねー。どーしよっかなー」


 ミースは【オーバー・ディザイア】しているらしく、瞳にハートマークを浮かべながら息を荒げ、エプロン姿のハルの胸を揉みしだいている。

 エプロン越しにもたわわに実った双房が自己主張していて、家事をする為の衣装の筈だと言うのに、それがやけに卑猥に見えた。いや、サキュバスがエプロンを着る、という行為自体に背徳感すら覚える。ハルの色香がかえって強調されているような。

 

「ねーアイセちゃん? この子殴って黙らせても良い?」

「駄目に決まっているだろう!?」


(一般人の少女がココノのげんこつを食らったらタンコブどころでは済まない!)


 我に返ったアイセが渦中の中に飛び込み、


「――御免!」

「オッヴ!?」


 ミースに【アーツ】【アニメチョップ】を決め、彼女を昏倒させるのであった。



 ***


 Topics!


『=================

      アニメチョップ

================= 

 ランク:2    属性:打撃

 消費:ちょっぴり 種別:気絶

 対象:一体    威力:1ダメ固定

 発生:激早!   追尾:無し

 射程:短小……

 =================

 説明


 格闘のアーツだね。

 相手の首筋に手刀一閃!決まれば

 一撃で【気絶】させる事が出来る

 強力なアーツだよ!

 まあ、いわゆる『当て身』だね。

 ただし相手を気絶させるには、 

 ①無防備状態②背後から③対象の

 VIT(たいりょく)よりも自身のDEX(ぎりょう)の方が上

 この条件を満たす事が必要だよ。

 ================』


 ***



「いやー面目ないっす。まさか昼間っから【オディ】っちゃうとは思いませんでして」 

「いえ、ボクも迂闊でした。こうなるって予想出来た筈なのに」


 目を覚ました宿の看板娘ミースさんとボクとで互いにゴメンナサイをし合う。淫紋の事もあるから一般人のミースさんに近づくのは意識的にも避けていたんだけど――久しぶりに料理をするのが予想以上に楽しくて、ふと気が緩んでしまったのだ。

 ミースさんもボクが調理している所を興味津々で観察してるし。調子に乗って得意な料理の作り方とか説明しようとして――気が付いたら必要以上に二人は接近。

 密です!


 まあ、それは兎も角。いい加減朝ごはんにしよう。

 テーブルには既にアイセさん、ライラさん、ココノさん、ネロ(ちゃん)が席に着いていて料理も並んでいる。


「おーいピンク。テメェもさっさと来いよ。ココノがそろそろ我慢の限界だぞ?」


 言われてココノさんの様子を伺うと――


 テーブルの上に並ぶ料理を至近距離からガン見している!?


 あ!? 髪! 栗色の髪がサラダに! サラダに! ドレッシングが付いちゃう!


 何か既視感を覚えるぞ。この、食べ物を鼻先でひたすらガン見するの。えーと。


 ――あ!? お預け中の犬だコレー!?

 家で飼ってる犬と同じリアクションやん!?

 あ! 涎! ココノさん涎垂れてる! 

 かと思うと我慢の限界がやってきたのかフォークもナイフも使わず皿の上のベーコンエッグに向けて大口を開け、


「――待て!」

「キャウっ、ワゥッ…!」


 思わず癖で言った言葉に、ココノさんもばっちりと反応し、犬そのものの鳴き声を上げると皿から顔を離す。

 そしてココノさんは(´・ω・`)な顔をしながらボクを上目遣いで見上げる!?


「キューン……」


 リアクション犬やん!? 誰やねんココノさんの事ゴリラ言うの!? この娘完全に犬やぞ!?


「いやだから早く来いっての」

「あ、ごめんなさい! つい…っ」


『ココノさんのリアクションが面白くって』とは言えず、エプロンを外し、ボクも席に着く。

 全員が揃った所で、


「「「「「頂きます!!」」」」」


「ガツガツガツガツガツガツガツッ…ッ!!」


「…………うわぁ」

 

 皿に顔面から突っ込むココノさんに引いてしまった。 

 何となく腹ペコ属性かなって思ってたけど、予想以上だ。


「う、旨い!?」

「……マジかよ。メチャクチャうめーぞ…!」

「ウマッ! ウマッ!」


 ココノさんは元より、アイセさんもライラさんもネロ(ちゃん)も反応は上々だ。

 良かった。腕は鈍ってなかったようだ。


 ちなみに献立は『グリーンサラダ』『ベーコンエッグ』『サンドイッチ』。そして――――なんと『味噌汁』!!

 興が乗ってしまったので朝から結構豪華、かつ味噌汁がかーなーり疎外感を醸し出しているけど――


「あぁ! ……なんたるっ…!」


 ずずっ、味噌汁を啜ったアイセさんが『メシの顔』をしている。

 その顔を見て、作ってよかったな、って思った。

 まあ、この洋風メニューに味噌汁は――取り合わせとしてはNGだけどね。


「サラダがこんだけ旨いってのは何なんだ?」


 グリーンサラダをフォークでつつきながらライラさんが尋ねる。

 使った野菜はレタス、玉ねぎ、きゅうり、プチトマト、キャベツ、と比較オーソドックスな物。ただしトッピングに一工夫加えてある。


「ベーコンビッツとクルトンを加えてますから。それでですね」


 ベーコンビッツは細かくみじん切りにしたベーコンをカリカリになるまで火を入れた物で、肉の旨味がギュッと濃縮されている。

 クルトンはスープ何かに入っている、小さくて四角いアレ。正体はサイコロカットしたパンを焼き直した物。ザクザクとした食感と香ばしさが癖になるんだよね。

 ドレッシクングはチーズ味をベースにしたクリーミーで酸味の効いたソースを使っている。


 ベーコンビッツの肉の旨味とクルトンの香ばしさ。それにチーズドレッシング。ぱっと見只のサラダに見えて、その実質はシーザーサラダなのだ。


「名付けて『なんちゃってシーザーサラダ』です♪」

「……大したもんだ」


 うん? あのライラさんが素直に褒めてくれてる? 嬉しいけど……これって珍しい事なんじゃ。


「ハル、その……ありがとう。この味噌汁は多分私の為に気を利かせて作ってくれたのだろう?」

「ええ、まあ。食べたそうにしていたので」

「おいおい記憶喪失で良く作れたな」

「べ、勉強したんです!」

「ふーん。そうかい。ま、旨けりゃ何でもいいや」


 ほっ。疑われずに済んだかな…?


「しかし良く作れたものだ。味噌など材料はどうしたんだ?」

「あぁ、味噌はミースさん――さっきボクにセクハラし倒してた方が市場で偶然見付けて、面白がって買ったそうです。使い道が分からなくて結局今の今まで寝かされていたみたいですけど。出汁は煮干しから取りました。ホントは鰹節と昆布から取りたかったんですけど。流石に無くて」


 ちなみに味噌汁の具材はキノコ、ニンジン、玉ねぎ、大根、と野菜がメイン。ヘルシーな一品だ。


「いや。これでも充分――否。最高だぁ…♪」


 あらら。普段は(`・ω・´)としたアイセさんがあんなに頬を緩ませて。ふふっ♪ 作った甲斐もあるってもんやね♪


「ねえねえハルちゃん♪ このサンドイッチは?」


 ココノさんがテーブル中央に置かれた大き目サイズのバスケットを指差す。その中には三角形にカットされた大量のサンドイッチが敷き詰められていた。


「ええと。色々あります。皆で好きな物を食べて下さい。作ったのは確か――たまごサンドと、厚焼きたまごサンド、ハムマヨサンド、ハムレタスチーズサンド、ベーコンレタストマトサンド、ポテサラサンド、フルーツサンドそれから、」

「うん! 一通り食べる! パクパクパクパク♪」


 おおぅ。すごい勢いでサンドイッチがココノさんの口の中へと吸い込まれていく!?


 犬を飼っていた人なら知っているんだけど――ワンコって基本的に食べるスピードメッチャ速いんだよね。一般的なドッグフードみたいなカリカリな奴は兎も角、お皿に盛った食べ物って基本、『え? 吸引してる?』って思うくらいのスピードで食べてく。


 だから犬を飼っている人達は、ワンちゃんの食事するシーンを揶揄して良くこう言うのだ。


『たった一つの変わらない吸引力。ダイ(ピー)ン』


「これウマウーマ!」


 ネロ(ちゃん)がたまご焼きサンドを食べて瞳に☆を浮かべている。ふわっふわに焼き上げた厚焼き卵を使ったボリューミーなサンドイッチ。喫茶店でよく見るアレだ。砂糖を少し加えたちょい甘ケチャップを薄ーく塗って味にアクセントを加えてある。


「甘い物が好きならこっちのフルーツサンドも食べてみてね」

「食べるっ」


 あ、普段気難しいネロ(ちゃん)がこんなに素直に。

 ふふ。嬉しいなぁ♪ 料理人冥利に尽きるなぁ。


「なぁピンク。パンチの効いたモノは無ぇのか?」

「ええと。辛いやつ、って事ですか? それならこのハムマヨサンドにマスタードを使ってますけど」


 日本で使っている、所謂いわゆる和からしは無いから、代わりに粒マスタードを使った。和からしよりも酸味が強くなってしまうから、一般的なハムマヨサンドに比べてハムを増しマシにして味のバランスを取ってある。まあまあ悪くなかった。


「……」

「? ライラさん?」


 なんか、ボクの顔を見ながら止まってるんだけど?

 

「……いや。何でもねえよ」


 本当に何でもないような素振りでハムマヨサンドに手を伸ばすライラさん。一口食べて、


「駄目だ。マスタードが足りてねえ。もっと辛くしやがれ」


 この言いようである。

 ふむふむ。ライラさんは辛党、っと。ホントネロ(ちゃん)とは正反対だね。色んな意味で。


「もう。あんまり辛くすると胃に悪いですよ」

「……っ」


 再びライラさんが硬直した。

 そしてまたしてもボクの顔を見る。

 驚いたような、まるでキツネに摘ままれたような表情だった。

 いや、さっきからホンマなんなん?


「ライラさん? さっきからどうしたんです?」

「な、何でもねえって言ってるだろっ――あー。畜生。いいからそこのタバスコ寄越しやがれ!」

「えぇ……」


 サンドイッチにタバスコかけるとか初めて聞いたんだけど。

 辛党にも程があるでしょ。

 ――けどまあ、人の好みに口出しするのもナンセンスかな。


 ボクは気を取り直して目の前にあったタバスコに手を伸ばす。

 その時だった。


 がちゃんっ! と音を立ててグラスがひっくり返る。

 すぐにお洒落なテーブルクロスが水を吸って滲んでいく。

 ボクの分のお冷やを、ボクがうっかり触れて倒してしまったのだ。

 ちなみにうっかり手が当たった、とかではない。


 グラスにつっかえたのは――O P P A I だ。


 ボクの O P P A I がグラスを倒したのだ!


 しかも運悪くその決定的瞬間を皆が目撃していて――


「「「「「…………」」」」」 


 あまりにも気まずい空気がテーブル席を満たし、そして。


「……あー。OPPAIデカいのも楽じゃないっすね~」


 なんてミースさんのフォローを聞いたボクは、顔を真っ赤にしながら席に座り直すのだった。


「――いや。タバスコは?」



 あざといタイトルの時って大抵本編はエロくないってそれ(略

 という訳でハルちゃんの料理お披露目会。文章で飯テロやるのは――――難しいね!

 あとボロが出る前に白状しておきますが作者はまともな料理は出来ません。あしからず。


 ちなみに。

 巨乳の方がOPPAIでグラスを倒すの、リアルでもあるらしいっすよ?


 面白い! と思ったら是非ブックマークと評価をお願いします!

 作者のモチベーションに繋がります!


 次回投稿は1/2(土)AM8:00の予定です。

 随分寒くなってきました。風邪やインフル、新型コロナにはご注意を!

 それではまた来年に! 良いお年を!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 可愛くてOPPAIでかくて料理が上手いとか良妻か? パーティのお嫁さんになるのか?なれ!
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