第26話 さよならシュタット! 新たな旅立ち!
家事の出来ない姉二人に代わり、ボクが家事を教わった。
物心ついた時から母さんから炊事・洗濯・掃除・裁縫に至るまで。
およそ家事と呼べる家の仕事を徹底的に仕込まれた。
他にも友達の作り方とか、他人の仲良くなる方法とか――まあ所謂処世術的な奴もだ。
ちなみに、結構スパルタだった。
お陰で小学生を卒業した頃には、そこらの女子がドン引きするくらいの女子力を手に入れた。
『今すぐ嫁入り出来るわ♪』とは母さんの弁。
『お父さんのお嫁さんになって欲しいよ』とは父さんの弁。
『うちらより女子してるw』とは二人の姉の弁だ。
『夢宮君って私達より女子してる』とは女子クラスメートの弁だ。
父さんは普通のサラリーマンだったけど、母さんは専業主婦になるまではエッチなゲームの作家をしていて、長女はエロ漫画家。そして次女はエロゲ声優だ。
そんなトンデモ家庭で育ったせいで、ボクの脳にはオタク知識もエッチな知識も詰め込まれている。
けどゲームや、アニメ。マンガにラノベ。所謂日本のサブカルチャーは別に嫌いじゃない。
むしろ、大好きだ。
でも、たまに思う時がある。
放課後、部活動に勤しむ男子達。
ソフトボール、サッカー、バスケ、テニス。
まあつまり、体育会系だ。
そういう、スポーツをしている男の子が、カッコいい。
そう、思うようになった。
ボクは料理も裁縫も出来るけど、運動はからっきしダメ。
顔も母親似で、良く可愛いと言われる。
背の低さもそれを助長した。
性別を間違えて生まれて来た、なんて茶化されるけど――本当その通りだと思う。
だから憧れた。
彼らは、ボクに無い物を持っているから。
汗水垂らして必至に練習する男子達に。
女子にチヤホヤされている男子をみると、思わずため息が出た。
だから、キャラメイキングが出来るRPGとかをプレイする時は、必ず汗臭そうな脳筋スタイルの男キャラを使っていた。
貧弱な自分が嫌で、ゴテゴテのフルアーマーを着込んで、大きなハンマーを振り回すようなキャラを使っていた。
今思えば。多分、ボクはヒーローになりたかったんだと思う。
誰かを支えるような、そんなヒロインのような役回りは嫌なんだ。
だってボクは、男の子、なんやから!
***
「うん~……ムニャ……筋肉ぅ~、プロテイン~、シックスパックぅ~、脳筋ビルドこそ至高ぅ…」
「ねんつー寝言だよ。コイツほんとにサキュバスか?」
「あはは……色気無いよね。ハルちゃんらしいけど」
「これが噂に聞く筋肉マニア」
「ふふ。ハルは本当に変わった子だな」
――――――なんか、知ってる声がする。
「んえぇ~?」
だらしない声を上げながら瞼を開ける。
「ふふ。おはよう。ハル」
長い黒髪をポニテにした女の子がボクの顔を覗き込んでいた。
綺麗な、それでいて可愛い顔立ちをした女の子だ。
現代の大和撫子と言われても不思議じゃない。
眉の線なんかもすッとしてるし、身長だって高い。男装させればきっと似合うと思う。
言うて今も白地に青の差し色が入ったコートを羽織ってたり、首元に巻いた赤いマフラーも中々おしゃれ度が高くてイイ。
はあー。イッケメンな女の子やなーボクも生まれて来るなら女っぽい男じゃなくて男っぽい女に生まれたか、
「ってアイセさんっ!?」
「あぁ。私だ」
満面の笑みを浮かべるアイセさん。
その顔にドギマギしつつも、元気な顔を見れて内心ほっとした。
「良かったぁ。御無事で何よりです」
そうだ。ボク、ヴェタルと派手にバトっってたんだ。
このシュタットの街と、アイセさんを助ける為に。
身を起こし周りを見渡す。
――ここは、冒険者ギルドの一階? かな。
見覚えがある。ヴェタルのバトルに巻き込まれてかなり悲惨な惨状になっているけど。壁に穴――どころか大通りに面した部分を中心に建物が半分以上崩れている。
随分と風通しが良くなって、外の様子が丸見えだ。
あれからそこそこ時間が経っているのか――外からは陽光が差し込み、大工仕事に勤しむ人々たちの姿が目に映った。
そこにはモンスターの群れも、恐ろしい吸血鬼達も存在しない。
と言う事は――
「ボク、勝てたんですね」
「あぁ。街が無事なのも、私が無事なのも。ハルのお陰だ」
「大したもんだぜ、ったく。まさかアイセでも勝てなかった吸血鬼に勝っちまうとはな」
「うんうん。自慢してもいいと思うよ? ハルちゃんはそれだけの事をしたんだから♪」
「思ったよりも有能」
「……皆さん」
ライラさんが、ココノさんが、ネロ君まで。
皆ボクの事を認めてくれた。
「あぁ。ハル、君はこの街を救った英雄だ。胸を張っていい」
「アイセさん……」
その言葉に、じぃぃん、とした。
それは、ボクがずっと求めていた言葉だった。
う。アカン。嬉しすぎて目から汗が。
「だがハル。君は無茶をし過ぎだ」
「え? ――うわっ…!?」
え!? えっ!? いきなりアイセさんがボクに、抱き着いて!?
「頼むから。あまり無茶はしないでくれ。本当に心配したんだぞ」
耳元で告げられた言葉。
顔は見えなかったけど。その声は真剣で、憂いを帯びていた。
そっか。ボクとヴェタルの戦いって――傍から見ればレベル200対1のとんでもないバトルだったんだよね。アイセさんからレベルを【シェアリング】してもらって、レベルを上げていなければ天地がひっくり返っても勝てない戦いだった。
それにレベルが141まで上がっても結構ギリギリの勝負だったし――いやはや。我ながら無茶をしたもんである。
「そう言えばピンク。てめぇ、最後に何を召還したんだ?」
「え? 何って、それは――」
――おや? 思い出せないぞ?
うん。ヴェタルにパリィを決めて。距離を取ってから召還魔法を唱えたのは覚えてる。でも詠唱の内容と、何を召還したのかまでは思い出せない。
めっちゃ詠唱が長かったのは覚えてるし――モンスターの名前も喉元まで出かかっている。
よう、ようか――ようかん? ブルブル? ニョロ? ラプチ?
何かそんな感じ名前だったような――
「あれ~? 思い出せない?」
「あー。ハルちゃんもなんだ」
「ボク『も』、ってどういう事です?」
「俺達三人ともバトルを見てたけどよ。お前が何のモンスターを召還したのか思い出せねぇんだよ」
「何それ怖い……あ、ネットに動画とか上がってないんですか?」
「上がってる。けど召還魔法を詠唱し始めた途端画面にエグいノイズが走って――召還する瞬間には砂嵐状態になる」
「これ多分女神様の仕業だね。動画を弄って、召還モンスターに関する情報を削除したんだよ」
「えぇ……」
それって、女神様が見られたくない物をボクが召還した、って事?
「動画内でハルちゃんが使ってたアビリティを見ると――クラスは【タブーシーカー】だよね?」
「はい。それは覚えてます」
「多分、出てきたのは上級のアンデッドか、悪魔か、淫魔」
「……うーん」
アンデッド? 悪魔? 淫魔? なんかどれも違う気がする。
もっとこう――ヌルヌル? してたような。
「分からない事を考えてもしょうがあるまい。ハルはヴェタルを倒した。それで充分だ。それも一人でだぞ! 本当に凄いよ君は!」
ぎゅうぅ…っ♪
「ふわっ!? ちょ、アイセさん!?」
なんか盛り上がってる!? めっちゃハグしてくるんやけど!
いや! めっちゃ嬉しいけど! 何やったらこのままでええけど♪
「あぁ~、何と言う抱き心地。そして――スンスン♪ 何と言う香り。抗いがたい存在だよ君は。可愛い上に強さまで兼ね備えているとは――もはや反則だ♪」
「ちょっ、アイセさんっ!?」
うなじの匂い、めっちゃ嗅がれてる!? 流石に恥ずかしい!
「おいおい。なに堂々とイチャついてやがる。アイセ。てめーもちょっとは自重しやがれっての」
「自重? 何故だ? ハルによってヴェタルの脅威が晴れた今、私達を止める者は存在しない♪」
「あのー? アイセちゃん?」
「リーダー?」
何か、アイセさん様子おかしい? さっきからやたら積極的だし……なんかこう――アイセさんらしくないと言うか、ぶっちゃけ自制が効いていないと言うか。
――ん? 自制が効いていない?
確かアイセさんって、ボクとレベルを【シェアリング】したせいでレベルが1になっていたよね? と言う事は――MNDの数値も初期値って事じゃないの!?
「アイセさん! ちょっと離れて下さい!」
「うむぅ。何だハル♪ 照れているのか♪ 気にする事は無いぞ♪」
何だか甘ったるい声を出すアイセさんの青い瞳には――ハートマークが浮かんでいた!?
「お、【オーバー・ディザイア】してるぅー!?」
「はああぁぁっ!? ちょ、アイセぇ!?」
「あちゃー。ま、レベル1じゃハルちゃんのフェロモンには耐えられないよね」
「おーっ。リーダーの貴重な【オディ】姿。保存しておかねば」
「皆助けて下さいよーっ!?」
「はあ、はあ…もう駄目だ。辛抱堪らん。ハル。ベッドに行こう♪」
「朝っぱらからナニ言ってんですかーっ!?」
「ふふ♪ 人の唇を奪っておいて今更何だ♪ 遠慮せず心ゆくまで愉しむとしようじゃないか♪」
「ふああぁぁぁっ!?」
何度目かのお姫様抱っこ。そのまま人目の付かない、ギルドの奥の部屋へと連行され、
「ほいっと」
「なんっ、ったぅ!?」
そのまま『ゴールイン』してしまうのか!? と腹を括ろうかと思った時、ライラさんが両手剣の鞘でアイセさんの後頭部を殴打した。
***
「本っっっっっ当に済まなかった!!」
正気に戻ったアイセさんが土下座をしている。
「もういいですって。気にしてません。そもそもボクの、というかサキュバスの体質のせいなんですから」
「うぅ、情けない。レベルが下がった傍からこのザマとは……」
「あはは。アイセちゃん。レベルが上がるまではハルちゃんと濃厚接触禁止だね」
「だな。精進しろよアイセ」
「言われなくともそのつもりだ! レベルアップボーナスは全てMNDに振るぞ! ――む!? そうだ! 少し出て、街の外のモンスターを狩って来る!」
「はーい。行ってらっしゃーい」
「おう。心配無えと思うが気ぃつけろよ」
「お土産はHな本で」
「任せておけ! では行って来る!」
そして風のように飛び出すアイセさん。
「いやあの。お一人で行かせて良かったんですか?」
「大丈夫ですよ」
ギルドの奥の部屋から一人の女性が顔を出す。
ベレー帽にYシャツとベスト状の上着。それにタイトスカート。青と白でカラーリングされたビジネスライクな衣装を着ていた。
栗色の髪をした、ぱっと見、真面目そうなおねーさん。
「あ!? 受付のおねーさん!」
思わずボクは身構える。
ボクとアイセさんを罠にハメようとした人やんけ!
いや、当時は人じゃなくて吸血鬼だったけど。
「あー。えぇと、申し遅れました。私、ラティと申します。その、昨晩は大変ご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」
ぺこり、と深く丁寧に頭を下げられる。
そっか。ヴェタルを倒したから吸血鬼化も洗脳も溶けてるんだ。
「もう心配ありません。元通りです。っていうかホント、死にたい。何よあの吸血鬼。人の血を吸った挙句に心まで弄んで。他人を洗脳とか支配する能力を持ったヤツって大抵友達がいない寂しがり屋なんですよ。私も私よ。洗脳されていたとは言え、何が『ヴェタル様ぁ♪』よ。死ね。反吐が出る。気持ち悪い。吸血鬼化した自分を殴れるなら殴ってやりたい気分ですよ。全く。あと死ね」
ひえ。怨嗟の声がダダ洩れやんっ……
よく見ると髪もぼさぼさで顔色も良くない。
これは――ずっと働き詰めだったせいでメンタルやられてますねぇ。
「ああ。失礼しました。反省文やら外への連絡やら報告やら、街の状況確認やらなんやかんやのてんやわんやで夜から動きっぱなしなんですよ。ああ。やっとご飯食べられるー。お昼過ぎだしぃ、もうー。どこかお店空いてるかなぁ」
「それはそれは。お疲れ様です」
「あーいえいえ。ハルさんのお陰ですよ? シュタットが元に戻るまでには時間が掛かるでしょうが――少なくとも吸血鬼の脅威は去りました。貴方はこの街の英雄です」
「あ……」
え、えへへへへ♪ それほどでも、あるかもしれないけど~♪
「とまあ私は一旦お暇させてもらいますね。外に出たアイセさんも大丈夫だと思いますよ。ハルさんがヴェタルを倒したお陰で、辺りに強力なモンスターは居ませんからね」
手をふらふら、体もふらふらさせながらラティさんはドアを開けてギルドから出る。
いやあの。すぐ隣におっきな穴、というか大通りに面した壁が八割方粉砕されてますけど。何でわざわざ絶妙に残ったドアから出ていくのか。
まあでも。兎に角平和になった、って事かな。
「――あ。ちなみにヴェタルって今、どこでどうしてるんです?」
「ああ、そういや。ピンクはまだ知らなかったか」
「大通りを下って行った先に教会があるから。そこに行くといいよ」
「楽しい事になってる」
「? 楽しい事、ですか?」
「うん♪ あ、私達もご飯食べて来るから。キリの良い所でまたここに集合ね♪」
「はあ……」
ボクは首を傾げつつ皆と分かれると、冒険者ギルドを後にした。
***
街の中は散々な事になっていた。
焼け落ちた民家。モンスターに荒らされた商店。大通りの中心辺りが特に酷く、ボクが召還したモンスターが暴れたせいか――幾つもの家屋が倒壊していた。
けれど人々は懸命にも復興活動に励んでいる。
その顔に疲労の影は見えても、絶望は無い。
皆、活き活きとしていた。
タフな人達だなぁ。と内心感心し、これがボクが頑張った結果だと思うと――何だか熱い物がこみ上げてくる気分だった。
―― タスケテー ――
「うん?」
―― タスケテー……タスケテー ――
「……えっと」
か細い、女の子の声が聞こえてくるんだけど。
街を歩く事数分。頭の上から声が聞こえてきた。
その先を目で追ってみると――
「タスケテーっ……オロシテーっ……」
大通りの中央。
街の中心にある教会の屋根から一人の女の子が吊るされていた。
しかも身動きできないように全身をグルグル巻きにされた挙句の、逆さ釣りである。っていうかあの女の子SUPPONPONやんけ!
丁度二階建てくらいの高さで逆さになっている女の子は癖っ毛のある金髪と金色の瞳が特徴的な美少女で――小学生くらいに見えた。
え? あれ誰?
見憶えないよ? あんな子。多分吸血鬼かな? 耳がちょっととんがってて、八重歯と言うには自己主張の激しい牙を生やしている。
アンデッドだから日差しが辛いのだろう。
体からシューシューと謎の蒸気を吹き出し、汗だくになって――
ん? 吸血鬼? 金髪に金の瞳?
「えっ!? まさかあれ、ヴェタル!?」
え、めっちゃ可愛いロリ吸血鬼やんけ!? SUPPONPONで逆さ吊りにされてるけど!
「タスケテー…っ」
哀れ、諸悪の根源は日光に晒されながら壊れた音源のように許しを請う事しか出来ないようだった。
「あ! ハルニャん! ハールにゃーん♪♪」
「ミーナさん!? 無事だったんですね!」
教会前で瓦礫に腰掛けていた猫耳少女が立ち上がる。
と。その隣に居るのは、白い軽装鎧を着込んだ葉っぱ色の髪の――
「ってミスティさん!?」
「あら。ご機嫌よう」
え? ミスティさんとミーナさんが一緒? アイセさん狙いの淫ピン逆ナン娘と、アイセさんのファンクラブ会長だよ? この二人って滅茶苦茶相性悪いかと思うんだけど。
「ええと。ご無沙汰しています?」
「何でそんな他人行儀なんですの? 直接見た訳ではありませんがお話はアイセ様達から伺っています。私を倒すどころかあの吸血鬼まで倒した英雄なのでしょう? もっと胸を張ってもいいのでは?」
「あ……えへへ……」
「全く。私はとんでもない相手に喧嘩を吹っかけてしまったようですわね。負けて当然ですわ」
吸血鬼化して街に迷惑を掛けてしまった事への罪悪感か。それともヴェタルを倒したボクを素直に認めてくれたのか――かつてボクをあれだけ憎んでいたミスティさんも、今は穏やかな表情をしていた。
「あの。それより、あの吸血鬼の事、詳しく教えてくれませんか? あれ、ヴェタルなんですよね?」
「ええ。私達冒険者を吸血鬼に変え、操っていた諸悪の根源です」
行って逆さ釣りロリ吸血鬼を忌々し気に睨むミスティさん。
「実は、かくかくしかじかで――」
ミスティさんの話によると――
ヴェタルという名は偽名で、本名は【ミラーカ】というらしい。
今から1年ほど前。今回ほどでないにしろ悪さをしていた時に、冒険者になったばかりのアイセさん(当時レベル1だったらしい)と戦う事になったんだけど――見た目幼女のせいでアイセさんに子供扱いされたばかりか、いざバトルになってもレベル1のアイセさんに逆に返り討ちにされ、称号【クソ雑魚ナメクジ以下】を得る事になったという。
今回はそんなヴェタル改めミラーカちゃんがアイセさんに復讐する為に企てた、壮大な計画だったと言う事だ。で、見た目幼女なのがコンプレックスだったらしく、偽装の魔法を使ってキレーなねーちゃんの姿になっていたらしい。
成る程。アイセさんがヴェタルの名前も姿も知らなかったのに、ヴェタルの方はやたらとアイセさんに執着していたのにはこういうカラクリがあったのか。
しかしボクの戦いで|何故かレベルが1まで下がってしまったせいで、その魔法も使えなくなり――幼女の姿に戻った、と。
「タスケテーっ……タスケテーっ……」
「で、今は街の皆の報復として逆さ釣り+日光晒しの刑の真っ最中と。いやー、こうなったら可愛いものですねー」
「ですわね。それで今は、私はあの吸血鬼が逃げ出さないように見張りをしている訳ですわ。まあ、レベル1の上これだけ日光に晒され続ければ何も出来ないかと思いますが……」
「成る程ー。それでミーナさんは何でここに?」
「同じく見張りニャー」
「嘘おっしゃい。街の復興活動から逃げて来たんでしょうが」
「何言ってるニャ。ウチが見張ってるのはミスティニャ」
「はぁ? 意味が分かりませんわ。まるで私がミラーカを助けるかもしれない、みたいな口ぶりじゃありませんか」
「そう言ってるニャ。レベル1のハルニャんにボコられたミスティ。それからレベル1のアイセニャんにボコられたミラーカ。どっちも【クソ雑魚wニャメクジw以下w】の称号獲得者ニャ。同情でもするんじゃニャいかニャーって思ってニャー?」
「冗談じゃありませんわ。まあ、確かに共感出来るところはあるかもしれませんが……相手は街一つを乗っ取ろうとした凶悪な吸血鬼ですわよ? 間違っても助けるような事はしませんわ」
「ニャぁ。ミスティは頭固いニャー。そこは『はい』って言ってくれニャいとウチが堂々とサボる理由が無くニャっちゃうニャ」
「やっぱりサボりじゃないですか!? 貴方も働きなさーい!」
「散々働いたニャー!! もう働きたくニャいニャー! ニャああぁぁっ!! イケメンニャ♂とニャんニャんしたいニャーっ!!」
ギャーギャーニャーニャー!
教会前で追いかけっこを始める二人。
やっぱり仲悪いじゃないか。
でも。こんな光景を見られるのも、ボクが体を張って街を救ったから――だよね?
「フギィィィィっっ!!!」
「何よヤリますの!? 受けて立ちますわよ!?」
「タスケテーっ……タスケテーっ……」
ミラーカの下、いよいよ取っ組み合いを始めるかと言う勢いの二人を眺めながら、ボクは思わず「平和だなぁ……」と呟くのだった。
***
その次の日。
シュタットが幾分か落ち着きを取り戻した頃、ボク達【ヴェイグランツ】は街を発つ事にした。
「【ヴェイグランツ】の皆様。街を救って頂き、本当にありがとうございました!」
「「「「「ありがとー!!!!」」」」」
それを見送りに沢山の人々が集まってくれた。
ギルド受付のラティさん。ミーナさん。ミスティさん。吸血鬼化していた冒険者の皆さん。他にも街の人達が沢山。
ちなみに町長さんらしい人は来ていない。ラティさんの話によると街の復興に必要な資金額を確認した時に、泡を吹いて失神したとか。
派手に壊されたからね。しょうがないね。
「ハールニャーん! アイセニャーん! また会おうニャーっ♪」
「ハルさん! 今度遭った時は、真っ当なバトルをしましょう! アイセ様もどうかお元気で!」
「はい!」
「ああ!」
手を振って見送る人々に、ボクらも手を振り返す。
「さて。リーダー。一仕事終えた終えた訳だが。次はどうするよ?」
「ふむ。そうだな。一旦ホームのある【プブリキー】に帰るか」
「え!? お家があるんですか!?」
「まあ、狭い家だけどよ。お前一人増えた所で大した事ねえよ」
「帰ったらお祝いにパーッとしようよ♪」
「賛成。たらふく食べる。そして寝る」
「そうだな。近場でもいいが、どうせならホームでハルのファミリー加入のお祝いをしたいところだ」
…………え?
「アイセさん? 今、ボクが【ファミリー】加入って……」
【パーティ】と【ファミリー】は違う。
いつでも解散と設立が可能で、赤の他人同士で組める【パーティ】とは違い、【ファミリー】は苦楽を共にし続ける仲間であり――血の繋がりがないだけで、文字通りの家族だ。
「む? 言ってなかっただろうか? 皆と相談して、ハルはもう【シックステール】ファミリーの一員に迎える事を決めているぞ?」
「え、ええっ!? 良いんですか!? ボク、ついこの前にパーティに入ったばかりなのに、いきなり【ファミリー】だなんて…!」
「それだけの事をしたって事だよ。ハルちゃん♪」
「まあ、うちのリーダーが倒せなかったヤツを倒しちまうんだからな。実力は認めてやるよ」
「ツンデレ乙」
「俺をそんなチープな言葉で呼ぶんじゃねえ!」
「……脳筋ツンデレ?」
「俺は脳筋じゃねえ!! STRもDEXもイケる万能ビルドだ!」
「思考が脳筋」
「余計悪いっつーの!」
ぎゃーぎゃー!
いつものように喧嘩をし始めるライラさんとネロ君。
「まぁ……その。騒がしくて済まないが」
アイセさんがウィンドウを呼び出し、操作。
キーンコーン。
[【シックステール】から【ファミリー】加入の勧誘が来たよ~♪]
『=================
ファミリー【シックステール】から
お誘いが来てるよ~。どうする~?
=================
『不束者ですが……<(_ _)>』
『一匹狼はクールに去るぜ』
================』
ウィンドウに現れた選択肢を思わず呆然と見つめた。
「ハル? どうした? ひょっとして……その、嫌…なのか?」
「とんでもない! そんな訳ありません!」
ただ、嬉しくて。感無量になっちゃっただけだ。
「ふふ。早くボタンを押さないと捻くれ者が文句を言うかもよ?」
「今更言うかよ! ちっ、面倒くせぇ。さっさと押しちまえっての」
「OPPAI成分はよ」
「ネロ君……欲望に正直だね。でも胸ならココノさんが……」
「♀ゴリラには興味が、ほぎゃあぁっ!?」
笑顔のココノさんにこめかみをぐりぐりされて悶絶するネロ君。
このファミリー、ずっとこんな感じなんだろうなぁ。
「ふふ。そうですね。勿体ぶってもしょうがないですね! えい!」
『不束者ですが……<(_ _)>』のボタンをタップ。
パンパカパーン♪ とお祝いのSEが響き渡る。
[ファミリー加入おめでとう! 今日から君も家族だ!]
「これで本当に私達の仲間だな。改めて、これからもよろしく頼む」
「はい! こちらこそ!」
差し出されたアイセさんの右手。
その手をボクは、しっかりと握り返したのだった。
***
こうしてサキュバスに生まれ変わった夢宮ハル――改めハル=シックステールの冒険は幕を上げる。
ボクが一目惚れしたイケメンなサムライガールと、その愉快な仲間達。
彼女達の冒険は、きっと最高のものになるだろう。
危険な目にも、Hな目にも一杯合うだろうけど。
きっとボク達なら乗り越えられる!
男ハル(体はサキュバス)! 頑張ってチーレムを目指すぞぉ!!
***
「うーん。ムニャムニャ。プロテイン~。プロテインを下さいぃ~」
それから少し後。
【シックステール】のホームへと向かうアイセ達一行は近場の街で宿を取り、宿泊していた。
英雄アイセとハルの名はシュタット近辺であっという間に広がり、パーティ【ヴェイグランツ】の名もネットで話題になっている。
アイセは変装により正体を隠していたが、ハルや他のメンバー達は完全に油断して、行く先々でファンに詰め寄られる事となったのだ。
そんな中、やっと落ち着ける宿を見付けられてパーティ一同は熟睡状態だった。
「ふあぁ♪ アイセさん♪ 強引ですぅ♪ でも、ボクはいつでもウェルカムですからぁ♪」
体を大の字に開いているハルも夢の最中。
涎を垂らしながら、実に幸せな表情である。
ただ着ているのはスッケスケのセクシーナイトウェア――所謂ベビードールと言われるタイプの部屋着だ。黒いブラとローライズなデザインの紐パンツ。そしてブラのカップから、前開き型の極薄白レース生地をふわりと纏ったデザインで、サキュバス全開のドスケベボディを持つハルの体を淫靡に飾り立てている。
実は【ピンク髪は淫乱】のタレントのせいで、まともなデザインの寝間着が着れず、泣く泣くこんな、娼婦しか着ないような卑猥なモノを着ているのだった。
「――うぁん♪ そんなぁ、お腹さすさすしないでくらさぁい♪」
はぁう♪ と、ハルの口から幾分か艶めかしい吐息が漏れる。
その時だった。
キーンコーン。
[Warning! 【刻淫移植】が発芽するよ!]
「んんっ♪ んはあぁぁ♪ アイセさぁん♪ らめえぇぇっ♪」
ハルの声が、切羽詰まった物になる。
同時に、剥き出しの下腹部に異変が起こった。
お臍の真下から際どいデザインのパンツの上端に掛けて、怪しげな紋様が浮かび上がったのだ。
ハートマークの両サイドから螺旋状に蔦が生え伸びるような――そんなデザインだ。
ハルの下腹部に浮かび上がった紋様は、今や鮮やかな桃色に輝きを放ち――
「ああぁっ♪ ASOKOぉ♪ あついぃ♪ あつくてぇ♪ 痺れちゃうよぉ~♪ ふにゃぁぁっ♪」
[オーバー・ハート♪]
――甘い声を上げながらハルの体がびくびくと痙攣する。
同時に眩く光る、桃色の光も収まった。
「ふにゃぁぁ♪」
口の端から涎を垂らすハルは実に幸せそうな顔をしているが――その下腹部には、さっきまで桃色に輝いていた紋様が赤く変色し、ハルの真っ白な肌に刻み付けられていた。
デレレンデレレンデレレンデレレンデーレン……
[Oh my god !! Cursed !!]
フォン……と【タレント】のウィンドウが開く。
『=================
妖花の淫紋
=================
説明
淫紋は呪いによって魔法の力や
自分の能力を高める物だよ。
ステータスが永続的に大きく上昇する
けど、MNDとLUCが激減して、
【オーバー・ディザイア】だって
し易くなっちゃう!
これは淫紋の中でも最高位の物。
最初の内は大した事はないけど、
淫紋を刻まれた当人のレベルが
上昇するにつれて、淫紋も成長。
その効果がより強力に、凶悪に
なっていくよ!
ちなみに淫紋が成長し切ると解呪は
不可能になりまーす。
それが嫌なら早く解呪しよう!
ちなみに解呪にはランク9~10の
超級クラスの光魔法が必要だよ♪
================』
タレントのウィンドウは暫くハルの眼前に展開されていたが――
「んにゃぁぁん♪ アイセさんのエッチぃ♪」
寝返りを打ったハルの手が当たってそのまま砕け散る。
「んやぁ――ふゆぅ……すう……むにゃ……」
ハルは幸せそうに寝息を立てていた。
自分の身に何が起こったか、この時は知る由もない。
彼の旅は、この先も苦難とSUKEBEに満ち溢れているだろう。
~【第一章 元ボーイ・ミーツ・チーレムガール】
終わりっ!~
第一章これにて終了!
これまで応援して下さった皆様! こんな拙作を最後まで読んで頂いた読者の方々!
本っっっっ当にありがとうございました!
ところで今更なんですが。
作中あらゆるところにネタとエロスをばら撒いて来た訳ですが……
皆さんちゃんと付いてこれてましたか(´・ω・`)?
最終的に面白かったなら何でもいいや、という考えの持ち主なのでちょっと心配だったり。
あ。面白いと思ったならブクマと評価、是非お願いしますね。
作者のモチベに直結しますので。感想もお気軽にどうぞ~♪
尚、今回もオマケコーナーはありません。
ネタが切れた……(´・ω・`)
それと次回投稿ですが12/21(月)AM8:00の予定です。
第二章の構成や設定の見直しなど、少し長めに充填期間を頂きます。
どうかご了承下さい。
それではまた。