第22話 二つ目のチート!
「ハルちゃん!! 馬鹿な事は止めて!」
「皆は先に行って下さい。負けるつもりもないですけど。もしもの時の為に、少しでも遠くへ逃げて下さい」
歩きつつ、バトルの電光掲示板を見上げる。
【吸血】の効果だろうか。2割を切っていたヴェタルのAPが4割程度まで回復している。損傷していた筈の防具もボロボロながらに復元していた。
対するアイセさんはAPSP共に0。MPも残り1割を切っている。このまま【吸血】され続ければMPも0になり、戦闘不能になってしまう。
戦力比ゲージは――勿論、ヴェタル側が【勝ち確!】。アイセさん側が【絶望しかない…】となっていた。
――たまに、思う事がある。
もしアイセさんに出会っていなかったら、ボクはどうなっていただろう。
ヴェイグランツの皆と出会っていなかったら、どうなっていただろう。
右も左も分からないこの異世界で、大変な目に遭っていたに違いない。
ゴブリンに襲われてお持ち帰りされたり。
ヴェタルみたいな悪い奴の奴隷にされたり。
人間にもゲスい奴は居るだろう。そんな連中の慰み者になっていたかも。
でも実際はアイセさんに会って。
ヴェイグランツの皆と出会って。
Hな目にも沢山遭ったけど……このヘンテコな世界で何とか生きている。
全部、全部アイセさんのお陰だ。
なのに恩人であるアイセさんを見捨てて逃げる?
そんなの、絶対に嫌だ!!
――目の前に透明な障壁が立ち塞がる。
バトルフィールドを形成する結界だ。フィールドの内と外を分断する女神様の結界。これを突破する手段は一つ。
大きく息を吸う。
これからボクは、一世一代の大勝負をする。
転生前にもした気がするけど――うん。あれノーカンで。
何しろ今回はスケールが違う。
勝負に負ければボクだけでなく、アイセさん、シュタットの街の皆もただでは済まない。
絶対に負けられない戦いだった。
「【インターセプト】」
大きくはない。でも腹からしっかり声を出して、そう宣言した。
[乱入OK! 頑張ってね♪]
メッセージウィンドウが出現し、体に青白い光が宿る。
心臓が、緊張と恐怖で高鳴る。
相手はレベル200越え、それもかなりヤリ手のボス吸血鬼。
対してボクは昨日この世界にやってきたばかりのレベル1サキュバス。
笑っちゃうくらい分の悪い勝負だ。緊張しない方がおかしい。
[【インターセプト】を確認♪ これより5分間のインターバルに入りまーす♪]
「あらぁ?」
アイセさんの血を吸っていたヴェタルがこちらに気が付く。
「あらあらあらあら。これはこれは。想定外にも程があるわねぇ」
ボクが何も言わずとも、ヴェタルはあっさりとアイセさんから離れた。
「ふふふ♪ 赤毛のソードマスター君か、プリーストのワンちゃんが来るかと思ったんだけど……まさか噂のピンクちゃんがチャレンジとはねぇ。どんな心境なのかしら?『愛するアイセさんをお一人で放ってはおけません!ボクもお供します!』とかそういうの? 真実の愛、みたいな? はっ! 色ボケサキュバスが笑わせてくれるじゃない! 貴方なんか精々その辺のゴブリンの慰み者に、」
「おばさん五月蠅いです。少し黙ってもらえませんか?」
「は…?」
ヴェタルが顔を引きつらせて硬直した。ちょっと面白い。
面白いけどそれに構っている暇は無い。ボクは小走りでアイセさんの元へと向かう。
ウィンドウを操作し、念の為に買っておいたマント(露出レベルの関係上、いつもの服の上からだと装備出来ないけどね!!)を取り出す。
「アイセさんっ」
「っ? ハルか!? 何故逃げない!? いや、なぜ【インターセプト】などと…!」
「説明している暇はありません。協力して下さい!」
言いながら、あられもない姿のアイセさんにマントを羽織らせる。
「協力? ヴェタルを倒すと言うのか…!?」
「はい」
「はっ!! 何を言い出すかと思えば私を倒すですって? 貴方冗談のセンス無いって言われない? 全然面白くないわよ?」
「いいから黙れよこの色ボケクソ吸血鬼」
真正面からガン付けながら言ってやった。
「……っ! ……!!」
ヴェタルはボクを睨みつけながら声にならない怒りの声を上げている。
でもざーんねん♪ 今はインターバル中、攻撃行動は取れません♪
今の内に滅茶苦茶煽ってやんねん♪
「……生まれてきた事をっ、後悔っ、させてやるわ!」
殺意と憎悪のオーラを撒き散らしながらニュートラルポジションへと向かう。よっぽどコワイ顔をしているのか――目の合ったらしいゴブリン達がバタバタと泡を吹いて倒れていく。
「さあ、アイセさん。【インターセプト】を承認して下さい」
アイセさんの眼前に、【インターセプト】許可の選択ウィンドウが出現していた。
【インターセプト】は、【インターセプト】された者がそれを承認しない限り成立しない。つまり手助けを断れるのだ。負けが確定しているような勝負で人の助けを拒否するような事は普通ないと思うけど――
「……ダメだ。承認出来ない」
アイセさんは『助けなんていらない!お断りよ!』のボタンに手を伸ばそうとする。きっとボクを巻き込むまい、と思っての事だろう。
――その手をボクは掴んだ。
「ハルっ? 何をっ?」
「ボクを信じて下さい」
アイセさんの目を真っすぐに見つめる。
「……まさか、策があるのか?」
「あります。危ない橋を渡る事になりますけど」
「……勝算は、どのくらいだ?」
「えへへ。それが、見当もつきません……」
「ならばやはり、」
「でも」
食い気味にアイセさんの言葉を遮る。
そう。分の悪い賭けではある。でも。それでも。
「今この場でヴェタルを倒せる事が可能なのは、多分ボクだけです」
「ボクだけ、だと? 私と二人でヴェタルに挑むのでは無いと?」
「ええと。勿論アイセさんにも戦ってほしいのですが……メインはボクです。ボクが戦います。でもその為にはアイセさんの協力が絶対に必要なんです」
「しかし、仮に策があろうとレベル差が大きすぎる。勝てる筈も無い」
「ですから、アイセさんの協力が必要なんです」
少し強い口調で答えた。
それで、アイセさんもボクの狙いに気付いたらしい。
「【シェアリング】か…!」
「その……はい」
【シェアリング】。仲間同士で経験値を分配する行為の事。
元々、バトルで勝利すれば敵にキスをして経験値を吸収できるというルールがあるんだけど――これはその応用らしい。
つまり、アイセさんとキスをしてその経験値を――レベルを吸い取るって事だ。
「しかし、元々キスによる経験値の吸収量は多くはない。私のレベルを吸い上げるにしてはいくら何でも時間が足りない。それに君は、称号効果で取得経験値が4000分の一になっているのでは?」
「大丈夫です。信じて下さい」
力強く答え、再びアイセさんと視線を交わす。
アイセさんはボクの目を真剣に見返し――
「ふ……昨日の、あの時とは逆になってしまったな」
その表情を和らげた。
「しかもボクが今からアイセさんのレベルを奪うって言う」
「全く。とんでもない事を思い付くな君は」
「えへへ。しょうがなく、ですよ。他に手段があるならこんな事しません」
「君がそう言うなら、そうなのだろう――分かった。ハル。君に全て掛ける事にする。レベルでも何でも貰ってくれ」
アイセさんは『プリーズ!ヘルプミー!!』のボタンを押した。
[インターセプト承認! チームブルーにニューカマー!【ハイパースーパーウルトラミラクルエキセントリックアメイジングどすけべ】の【ハル】!]
「ふふ。酷い称号名だ」
「ボクはもう慣れてきましたよ」
はぁ、と大袈裟にため息をついてみせる。
[アーツ・アビリティ、装備の設定が終わったらニュートラルポジションに移動してね~♪]
女神様のアナウンスを聞いてふと残りインターバルタイムを確認する。電光掲示板の残りタイムは――203秒。三分と少ししかない。この間に【シェアリング】とアーツやアビリティ等の設定が出来なければ、ボクに勝ち目はない。
「ハル。時間が無い。早く済ませてしまおう」
「……はい。でもその前に回復をして下さい。ポーション、持ってますよね?」
「残念だがインターバルタイム中、アイテムや魔法、アビリティやアーツ、全て使用不能だ。SPMPの自然回復も、バフやエンチャント効果も、この時は無効になっている」
あっちゃぁ。インターバル中に攻撃行動が取れないのと同様に、回復行動も一切出来ないって事か。厳しいな。
それじゃ、バトル再開と同時にアイセさんには即回復してもらおう。
そうと決まれば。
「分かりました――アイセさん? 準備は良いですか?」
アイセさんの肩に手を回し、半身を抱き起こす。
――視線が交錯した。
バクバクと心臓が鳴っている。
好きな人と――アイセさんとキスをする。
正直言って、滅茶苦茶嬉しい。
でも、欲を言うなら。
こんな、戦いの為じゃなくて。
きちんとしたお付き合いの果てに、したかった。
「ハル。その……」
「? アイセさん?」
アイセさんが何やら口ごもっている。
どうしたんだろ?
じー、と見詰めていると頬を染め、視線を反らす。
眉を八の字に寄せ、綺麗な瞳を潤ませ、気恥ずかしそうに。
「……こういう事は私は、経験が無いのだ。だから、その……」
そう。この姿はまるで、恥じらう乙女。
「ど、どうか……お手柔らかに、頼む……」
最後の方には顔を真っ赤にして、言うのだ。
『この天然ジゴロがどの口で言うか!?』
と、普段なら思っただろう。
でも、アイセさんが見せる恥じらいの表情が余りにも。
そう! 余りにも!
可 愛 い い ♪♪
ダメぇ、可愛すぎるうっ♪ 普段の凛々しい姿からはぁ! 想像も出来ない! ギャップ萌えの境地ぃ♪
そしてあろう事かボクのサキュバス魂に火が付いてしまったのだった!
***
「は……?」
ヴェタルは目の前の光景に呆然としてしまった。
「ちゅっ♪ ちゅっ♪ ちゅぅぅぅっ♪」
ピンクが、あのサキュバスが、アイセを襲っている?
(いや、あれ……ひょっとして【シェアリング】してるの?)
にしてもやたらと情熱的――というか経験値の分配を理由に、仲間を襲っているようにしか見えない。
(私を色ボケ呼ばわりしておきながら結局はこれ。サキュバスってホント、見境無いわよねぇ)
「ふふふ。しかし【シェアリング】とはねぇ?」
確かに、【インターセプト】でステータスが半減しても、【シェアリング】でレベルを上げれば減少した分を帳消しに出来るかもしれない。なんせ【インターセプト】したのはレベル1の雑魚。ステータスの減少量もたかがしれている。
(でも、所詮は猿知恵)
元々キスによる経験値吸収は高くない。キスする側のDESと、される側のMNDを比べて吸収量が決まるが――攻め手のDESと受け手MNDが近い場合、1秒辺りにEXP1しか吸収出来ない。
【吸精】のアビリティを持つサキュバスとて、レベル140の味方からレベルを全て吸うとなれば――恐らく丸一日【吸精】しても全て吸えるかどうか。
ましてや後数分でレベルを全て吸うなんてもっての外。
「あはは! お馬鹿さん! 無駄よ無駄! 残り3分しか無いのよ!? たったそれだけの時間でレベルを上げられるほどEXPを吸収出来る訳が、」
[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]
「――――は?」
(え? 今、レベルアップのアナウンス、聞こえなかった?)
いや、そんな筈は無い。きっと気のせいだろう。
そう思った矢先、
[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]
二度目のアナウンスが響く。
「はっ!? はああっっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった!
野次馬のモンスター達もこの異常事態に気付き、ざわつき始める。
(う、嘘! あり得ない! いくらサキュバスだからって、数秒足らずでレベルが上がる程、経験値を吸収出来る訳が無いわ!)
そもそも【インターセプト】した時点でピンクのDESの数値だって半減している筈なのだ。レベル141のアイセのMNDの方が圧倒的に高いに決まっている。
[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]
が、ハルのレベルアップは止まらない。
瞳にハートマークを浮かべながら、アイセのレベルを貪っていく!
「ちゅううぅぅぅっっ♪♪」
「んむぅぅっ!!? んんんんんっ!!!」
アイセの体が何やらビクンビクンしている!
[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]
(またレベルアップ…! この速度、マズいわね…!)
レベルが上がる。と言う事はハルのDESが上がり、アイセのMNDが下がる、という事だ。
つまり、レベルが上がれば上がる程、キスによる経験値吸収量が増加していく。
と、言う事は?
[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]
[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]
連続で、ハルのレベルが上がっていく!
そして徐々に、その間隔が短くなっていく!
「嘘……」
[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよ[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだ[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアッ[パンパカパーン! おめでとー♪ レベ[パンパカパーン! おめでとー♪]
どんどん、高速化していく!
ハルの周囲を、レベルアップを報せるメッセージウィンドウで埋め尽くされていく!
[パンパカパーン! おめで[パンパカパーン! お[パンパカパーン![パンパカパー[パンパカ[パンパカ[パンパカ[パンパ[パンパ[パンパ[パンパ[パン[パン[パン[パン[パン[パン――]
「嘘おぉぉぉっっ!?」
[――パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[パ[pppppppppppp――」
レベルアップが速すぎて女神様のアナウンスが壊れた音声データのように聞こえる。
それをヴェタルも、野次馬のモンスター達も、シュタットの街の住人も、ライラも、ココノも、ネロも唖然とした様子で見詰め――
[――pppppppppppp[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]
唐突に、レベルアップのアナウンスが途切れた。
と、言う事は。
恐る恐るヴェタルが電光掲示板を見上げる。
そこにはヴェタルとアイセ、それに【インターセプト】が完了し、正式なバトル参加者となったハルのステータスも表示されていた。
そのレベル――141。
「「「「「はああぁぁぁぁっッッッ!!!?」」」」」
その場に居合わせた全員の絶叫が、シュタットの街に響き渡った。
***
美味しい♪
美味しいよう♪
アイセさんのレベルぅ、とってもぉ美味しい♪
こんなの知っちゃったらぁ、ボクぅ、吸精止められないよぅ♪
ちゅーちゅー、ちゅーちゅー、吸っちゃうよぅ♪
そう。アイセさんの唇は柔らかくて。あったかくて。
その奥からにじみ出る唾液は、少しすっぱくて、どこか甘い。
意識が酩酊する。
唾液と一緒に、EXPというご馳走を吸い上げる。
最高だ。
今まで食べたどんな食べ物よりも、甘く。旨く。深く。
滑らかで。でも濃厚で。
そして、満たされる。
頭は――いや、体全身が。魂が。
多幸感で満たされる。
鼻腔にアイセさんの匂いを感じる。
少し汗ばみ、酸味を感じる女の子の体臭。
それを、EXPと一緒に愉しむ。
――あはっ。最高ぉ♪
「「「「「はああぁぁぁぁっッッッ!!!?」」」」」
……もぉ~。人がお食事中にうーるーさーいー。
[激烈ッッ!!! オーバー・ハートぉ!!!]
だーかーらーうーるーさーいー。
「ってあれぇ?」
キスしても『美味しい』を感じられなくなったよぉ?
「アイセさんのレベルぅ、全部吸っちゃったぁ?」
顔を上げて大好きなアイセさんの顔を見詰める。
「――あ」
――彼女は顔を真っ赤にしながら、目を回してぐったりしていた!
[アイセちゃん『気絶』により戦闘不能~♪]
「ふぁああぁぁっっ!?」
『気絶』!? え!? 何で!?
レベルを吸収してボクが前線で戦って、アイセさんにはアイテムとかでサポートしてもらうつもりだったのにぃ!
――あ。そう言えばさっき『激烈!!! オーバー・ハート!!!』って女神様の声が聞こえたけど――もしかして。ボクのキスが、その。良過ぎたせいで、とか?
「そして何じゃこりゃぁ!」
周囲には[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]と、レベルアップを知らせるメッセージウィンドウが所狭しと並んでいる。
と言う事はやっぱり、レベルアップには成功したんだ。
ごめんなさい! アイセさん!
と心の中で謝りつつも、ボクの予想通りだった事に安心する。
ボクの推察――つまり『キスによる経験値獲得と、戦闘による経験値獲得は別』と言う事だ。
【闇歩きの洞窟】でアイセさんの称号効果は『戦闘の経験値が4倍、ただしキスによる経験値吸収量が4000分の1』と教えてもらった。これがきっかけだ。
ボクの称号効果は『バトルによる取得経験値が4000分の一になる』だ。けど、それは『キスによる経験値吸収量とは別』なんだ。
そしてアイセさんの称号効果にメリットとデメリットがあるなら、ボクのデメリットしかないクソ称号にも何かしらプラスの効果があるんじゃないか? と思った訳である。
つまり――アイセさんの称号効果が『バトル経験値増加、キス経験値減少』だというのなら、ボクの称号効果はその逆になっているのでは? って事。
結果はご覧の通り。
最初の賭けには勝てた。
でも問題はこれからだ。
レベルアップボーナスの振り分けと、クラスチェンジの選定。アーツ、魔法、アビリティのセット。やる事が多い。インターバルタイムが終わるまでそれらを全て終わらせないと。
あと何分だ?
電光掲示板を見上げて残り時間を確認しようとし――大量の[パンパカパーン! おめでとー♪ レベルアップだよー♪]のメッセージが問答無用でボクの視界を遮った。
――イラッ♪
「アータタタタタタタタァッ!」
パリパリパリパリパリパリパリパリィン!
邪魔なメッセージウィンドウを高速で叩き壊していく!
見よ! レベルが上がり、上昇したDEXを!
○○百裂拳の真似だって余裕で出来るんやで!
「アタァッ――うんっ?」
最後のメッセージを破壊した向こう側に、別のメッセージを見付けた。
[頑張れ男の子♪]
「――もう。人の体をこんなにしておいて、今更何ですか」
言いながらウィンドウ端の閉じるボタンをメッセージを消去。
でも、女神様の声援は、心強い。
アイセさんはボクのせいで戦闘不能になってしまったけど。それでも。
ヴェタルには勝たなきゃいけない。
「……驚いたわ。一体どんな手品を使ったのかしら?」
ボクは答えず、残り時間を確認する。
残り、94秒。
「貴方を倒した後に教えますよ」
言いながら破壊せずに残しておいたレベルアップ画面を凝視する。
『=================
レベルアップ!!
=================
☆クラスチェンジOK☆
クラス:マジシャン(141/20)
LV:141
LP:20/300
AP:35/35
SP:170/170
MP:659/659
HP:0/1449
ボーナスポイント:280
STR:20(ー5)
VIT:200(‐30)
DEX:550(+15)
AGI:220(‐22)
INT:560(+99)
MND:550(+110)
LUK:210
DES:630(+919)
Got new ability !!
Evolved ability !!
=================』
「つっっっよっ!?」
MP659でHPが1449!?
SPはそんなに増えてないけど――魔法撃ちたい放題やんけ!
他の基礎ステータスもモリモリ上昇してる。
DESとかお化けやんw 1500越えとるしw
でもSTRがレベル1から全く上がっていなぁい!!
決めた。ボーナスポイント全部STRに振る。
マイナスの補正も掛かってるけど……それでもボーナス全部振れば200は越える筈! ちょっとでも筋力を上げてやるぅ!!
と、ボクが決心した時だった。
――――――ムラッ。
「ん?」
ムラムラムラムラムラッ…!
「っ!?」
体の奥から――下腹部から言いようの無い熱ともどかしさが湧き上がる!
熱はねっとりと絡みつくように全身を巡り、堪えがたい疼きを感じる!
頭の中がピンクに染まる!!
「はぁっ…♪ これぇ♪ らめぇ♪」
ボクぅ、【オーバー・ディザイア】してるぅ♪ だめぇ♪ 今からぁ♪
ヴェタルを~♪ やっつけてぇ♪ ○○○するんだからぁ♪
【オディ】ってる暇無いのぉ♪
ずダダダダダダダダダダダダダダダッ!
MNDを連続でタップ。
「はあぁっ♪ はあっ…♪ はあ……は~~」
ボーナスの280ポイントを全てMNDにぶち込む事で、何とか【オーバー・ディザイア】状態から脱出出来た。
あ、危なかった! ココノさんから【乙女の指輪】を貰って、DESが-10%、MNDが+10%になって【オディ】り難くなっていた筈だけど――レベルが爆上がりしたお陰でMNDが追い付かなくなってたんだ! サキュバスはMNDよりもDESの方が成長しやすいし!
それに今は夜時間。元でも高いDESが+100されてしまう。
それよりも時間!
「――あと70秒!」
くそ! 想定外のアクシデントで時間を食った! 急がないと!
ボクは迷わずに☆クラスチェンジOK☆ボタンをタップ。
『=================
クラスチェンジ!!
=================
<初期職> <初級職> →
○ファイター
○レンジャー
☆マジシャン―○ウィザード
○クレリック
○スカラー
○サモナー
================』
【マジシャン】の上位職は【ウィザード】【クレリック】【スカラー】【サモナー】の四つ。
多分【ウィザード】は攻撃魔法特化。
【クレリック】がヒーラー。
【スカラー】はヴェタルのクラスである【セージ】の下位職で、魔法速射型、って感じかな。
そして【サモナー】は読んで字の如く、召喚士だ。
ボクはどれにするか、既に決めていた。
――自分の力に自信が無いなら、【召還魔法】を使うって手がある――
――【召還魔法】?――
――ん。【召還魔法】は魔獣や竜、精霊や死霊を呼び出す魔法。強力――
【闇歩きの洞窟】で、ネロちゃんと行った会話を思い出す。
アイセさんでも倒せないヴェタルをどうやって倒すか。
その結論が【召還魔法】。
『ヴェタルを倒せる奴がおらんのやったら、ヴェタルよりも強いモンスターを召還すればええんとちゃうん?』
という考えだ。
ひょっとしたら、もっと上手な戦法、戦術があるのかもしれない。
でもボクには、これ以上の策は思い浮かばなかった。
という訳で【サモナー】を選択!
『=================
【サモナー】で本当に良ーい?
=================
『大丈夫だ。問題無い』
『コレジャナーイ!』
================』
大丈夫だ。問題無い!
[やったね! クラスチェンジ!]
ファンファーレが鳴り響き再度レベルアップ画面が開く。
『=================
クラスチェンジ!!
=================
☆クラスチェンジOK☆
クラス:サモナー(121/30)
マジシャン(20/20)
LV:141
LP:20/300
AP:35/35
SP:170/170
MP:659/659
HP:0/1449
ボーナスポイント:280
STR:20(ー5)
VIT:200(‐30)
DEX:550(+15)
AGI:220(‐22)
INT:565(+99)
MND:555(+111)
LUK:215
DES:635(+925)
Got the new skill !!
Got the new arts !!
Got the new ability !!
Got the new magic !!
=================』
まだまだ! ☆クラスチェンジOK☆をタップ!
『=================
クラスチェンジ!!
=================
←<初級職> <中級職> →
○ウィザード
○クレリック
○スカラー
☆サモナー ○ビーストテイマー
○ネクロマンサー
================』
「ん!?」
【ビーストテイマー】か【ネクロマンサー】?
ど、どっちが良いんだ!? って言うか【初期職】の表示が消えたんだけど!? 今からでも【ファイター】や【レンジャー】にクラスチェンジ出来るのかなっ?
ボクは少し悩み――<初期職>と<中級職>の表記のすぐ横に矢印マークがある事に気付いた。
もしかして、と思いつつ画面をスワイプ操作してみる。
『=================
クラスチェンジ!!
=================
←<中級職> <上級職>
○ビーストテイマー○ビーストマスター
○ネクロマンサー ☆タブーシーカー☆
================』
お。【上級職】も見れるやん。
「? 何これ?」
【サモナー】から派生する【上級職】には【ビーストマスター】と【タブーシーカー】と呼ばれるクラスがあるみたいだけど――【タブーシーカー】? 直訳すると――『禁忌の探究者』ってとこか。
しかも【タブーシーカー】の表記だけ他のクラスとは違う。『選べ!!』と言わんばかりに自己主張が激しい。
多分、何か特別な意味がある筈だ。
よし! 悩んでいる時間も無い。これにしよう!
『=================
【ネクロマンサー】を経由して
【タブーシーカー】になるよ。
本当に良ーい?
=================
『大丈夫だ。問題無い』
『コレジャナーイ!』
================』
「大丈夫だ! 問題無い!」
[やったね! クラスチェンジ!]
再びファンファーレが響き、ウィンドウが開く。
『=================
クラスチェンジ!!
=================
クラス:タブーシーカー(41/100)
ネクロマンサー(50/50)
サモナー(30/30)
マジシャン(20/20)
LV:141
LP:20/300
AP:35/35
SP:170/170
MP:856/856
HP:0/1618
ボーナスポイント:0
STR:20(ー5)
VIT:200(‐30)
DEX:550(+15)
AGI:220(‐22)
INT:590(+103)
MND:850(+170)
LUK:230
DES:660(+958)
Got the new skill !!
Evolved the skill !!
Got the new arts !!
Evolved the arts !!
Got the new ability !!
Evolved the ability !!
Got the new magic !!
Evolved the magic !!
=================』
あ! クラスチェンジする前よりステータスが上がってる!
STRは相変わらず15やけど!
[Congratulations !! Got the " unique magic "!!]
「え?」
シャキーン! なんて格好つけたSEと共に表示されるメッセージ。
『【ユニークマジック】を手に入れた』?
そしてボクが何か操作する前に新たにウィンドウがポップアップする。
これは――今手に入れた【ユニークマジック】か?
「っ!?」
そしてその新たな力に、ボクは驚愕した。
『=================
触手姫ブルトゥーム
=================
ランク:10 属性:H
消費:400MP 種別:禁獣召還
対象:超絶広範囲 威力:マヂヤバイ
弾速:そんなに 追尾:不☆可☆避
射程:スゴイ
=================
詠唱
祖は最も美しき花。
祖は最も恐ろしき花。
その蔦から逃れる者は無く、
その香りはあらゆる者を魅了する。
祖は八つに断たれし禁忌の獣、
淫蕩の妖花なり。
歓喜せよ。封じられし獣よ。
絶望せよ。有象無象の者共よ。
今こそ、女神の封印は解かれる。
禁忌を求めし愚者の名は『ハル』。
さあ。禁域の花園は開かれた。
無限の触手と恍惚の芳香で
世界を満たせ。
禁獣召還。狂い咲け。
触手姫ブルトゥーム。
=================
説明
禁じられし八体の獣の内の一体、
【淫蕩の妖花ブルトゥーム】を召還!
その効果はなんと!――――お楽しみ♪
=================』
「ラ、ランク10っ?」
――あぁ。ランク10の装備やアーツは伝説や物語に登場する程度の代物のようだ。実際にその目で見た者は居ない、という話だな――
【闇歩きの洞窟】でアイセさんはそう言っていた。
つまりこの魔法、確実にアイセさんの【オーバーアーツ】よりも強力、どころか誰も見た事も無い未知の魔法という事になる。
でもランク10、という事は召還魔法のスキルが10必要、という事になる。ボクには無理だ。
「――いや、多分使える…!」
そうだ。確かボクの持つチートタレント【○○○の魂】にはH系のアーツ、アビリティ、魔法の装備条件が大幅に緩和されるという効果があった! この魔法、種別こそ『召還』となっているけど、属性は『H』だ!
だから多分装備出来る! 逆にこの魔法が無かったら多分ヴェタルは倒せない!
他にも問題はある。消費MPが400と馬鹿でかい事。
それと詠唱が長すぎる事だ。
ボクはこのクソ長い詠唱を、誰の助けも無しで、ヴェタルの攻撃を退けながら、唱えなければならない。
そして強力と分かっていても、その効果の詳細も分からない!
「……あはは……」
思わず乾いた笑いが漏れた。
ほんと、ずっと博打続きだ。笑うしかない。
けれど、その博打に勝てなきゃ未来はない!
「あと30秒よ~? ふふふ。アビリティと魔法はきちんとセット出来たのかしらぁ?」
今からでもやってやらぁ!
先ずは魔法のセット!
「って、ふわあぁっっ!? めっちゃ増えてるぅ!?」
新しく覚えた魔法だけで軽く10個を超えとるやん!?
「ほらほらー時間無いわよ~?」
な、悩んでいる時間は無い! 幸い【LP】はあと280もある! 使えそうな奴を直観で選んで行こう!
幸いな事に、【触手姫ブルトゥーム】の魔法はセットする事が出来た。
他にも初級魔法を幾つかセットして――
「あと20秒~♪」
出来た! 次アーツ!
「ふわっ!? こっちも増えてるぅ!?」
何時の間にか銃のスキルレベルが上がってたのか!? ハンドガンのアーツがいくつか追加されてる! 平時だったら素直に嬉しいけど…! こんな急場で選択肢を増やされても困るわい!
「あと10秒~♪」
出来た!! 最後、アビリティ!
「にゃああぁっ!! こっちも多いぃ!?」
しかも有用性の高そうなのが多いぃ!! LPが足りないぃ!!
[5。4。3。2。1。インターバルタイム終了~。ニュートラルポジションに強制転移させるよ!]
「えっ!? ちょ、待っ、」
突如風景が切り替わり、真正面にニヤケ笑いを浮かべるヴェタルの姿が見えた。どうやらニュートラルポジションに強制的に移動させられたらしい。
「ふやああぁぁっ!! まだ終わってないのにぃ!」
「あはっ、お馬鹿さん! どれだけレベルを上げても、戦う準備が出来なければ意味無いわ!」
[3――]
「にゃあぁっ!? メニュー開けないぃっ!?」
[2――]
「くふふふっ…!」
ヴェタルが舌なめずりをしている。
その顔には隠しきれない程の、喜悦と、狂気が浮かんでいる。
[1――]
「あーもうっ! やってやるわーい!!」
[――ファイ!!]
そうして、行き当たりばったり感否めないまま、最後の戦いが始まる!
次回からハル対ヴェタルのバトル開始!
いよいよ第一章もクライマックスです!
次回投稿は11/2(月)AM8:00の予定です。
今回はいつものオマケコーナーお休みします。
感想や疑問点などあればお気軽にどうぞ♪
それといつも誤字脱字を指摘してくれる読者様!
甘えるつもりは無いのですがめっちゃ助かってますw
第一章もあと少しなので皆様応援を宜しくお願いします!
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