第20話 緊迫! 陥落街シュタット!
10/18。後書きの【吸血】の効果をちょこっと補足。
洞窟を抜けたボク達は転移石を使用し、シュタットの街へと転移した。
――のだが。
「む?」
転移の光が収まった後、辺りを見渡す。
もうすっかり日も暮れ、頭上には満月一歩手前のお月様。
目の前には舗装されていない街道が伸びており、その脇には雑木林が生い茂っていた。
いや、ここどこですかねぇ。めちゃ街の外の風景なんですけど。前回、アイセさんに転移石を使ってもらった時は町中に転移してちょっとした騒ぎになったけど――今回は違う?
そして気のせいか後ろの方がやけに明るい?
「――っ!? 街が!?」
振り返ると木製の城壁と、大きな門があった。多分、この向こう側がシュタット。
問題は、そのシュタットの街が燃えているって事だ!
耳を澄ませば――街の中から住民の悲鳴らしき悲鳴も聞こえる!?
[陥落街ぃ~シュタットぉ~]
デデ~ン、というSEと共に女神様のアナウンスが流れた。【闇歩きの洞窟】へ入った時と同じ物で――って事は!?
「シュタットの街が、ダンジョン化してる!?」
「なんたる!?」
「こいつは、思ったよりもやべぇな」
「モンスターの匂い、街の中からメッチャするよ!?」
そして焦るボク達を嘲笑うかのような声が響く。
「――くふふっ♪ お待ちしておりましたわ。ヴェイグランツの皆様♪」
女の声と共に門がゆっくりと開く。
その向こうから現れたのは――ミスティさん!?
他にも剣士、魔法使い、狩人等々様々な職業の冒険者達。共通点は、ミスティさんも込みで全員女だと言う事。そして背中から蝙蝠の翼を生やし、真っ赤な瞳に立派な牙を持っている――つまり、全員吸血鬼だと言う事だ。
そして総勢11人の吸血鬼達はボク達に向けて、一斉に一礼をした。
首を垂れる慇懃な一礼は、まるで貴族がご婦人にダンスのお相手を誘うかのように、恭しい。
それがかえって、不気味だった。
「ミスティ……君までも」
アイセさんが怒り半分、悲しさ半分の表情で呟いた。
「ミスティ、テメェ。さては俺達の宿に来た時点で既に吸血鬼になってやがったな」
「今頃気付いても後の祭り、ですわ♪ ヴェイグランツの皆様がお強いのは周知の事実ではありますが――油断していると足下をすくわれますわよ?」
くそっ。本当にその通りだ。もっと警戒しておくべきだった。
ボクがもっと注意していれば、皆を上手く説得して街に引き留めておけば、こんな事にはならなかったのかも知れないのに!
「ミスティ。済まないがそこをどいてくれ。今はおしゃべりをする気も、その時間も無い」
「くふっ♪ 素直に道を譲ると思いまして?」
吸血鬼一行が全員武器を構える。
それに応えるようにアイセさんも刀に手を掛けた。
「勝てると思っているのか? 断っておくが、今の私には余裕が無い。情けも容赦も無しで行かせてもらうぞ」
「まあ、勝つ事は難しいでしょうね。ですがここに集う我々吸血鬼も元は冒険者。勝つ事は出来なくとも消耗させる事くらいは可能です♪」
ヴェタルと戦う前にアイテムを消耗させる気?
いや、多分それだけじゃない。時間稼ぎだ。
このヴェタルの襲撃、長引け長引くほどボク達は不利になる。【隷属化】のアビリティを持ったヴェタルが次々と自分の手下を増やせるからだ。
時間が経つほどボク達の仲間が減り、敵が増える。
目の前の敵を倒しているだけじゃきっとキリが無い!
「アイセさん! 先に行って下さい! こいつらは無視すべきです!」
ボクもデリンジを構えた。
アイセさんだけでも切り抜けられればそれでいい。
ヴェタルの戦闘能力は未知数だけど、アイセさんなら単独でもきっと勝てるだろう。なんせレベル100越えのボス吸血鬼三人を同時に相手して勝ったんだ。それも舐めプをしながら。ヴェタルのレベルが200を越えているとしても敵じゃないだろう。
「むっ? しかし……」
「いや。ピンクの言う通りだぜ。お前はさっさとヴェタルをぶち倒しに行ってこい」
「私達なら大丈夫! これくらいの相手ならへーき、へーき!」
「オイラ達に構わず先に行け、ってヤツ」
「皆……分かった。そうさせてもらおう」
「ならいい。あとピンク。お前はアイセと一緒に行ってやれ」
「え?」
ライラさんの言葉に僕は思わず彼女を振り返った。
「でもボクじゃ……」
「ばーか。戦力としては期待してねえよ」
「どんな罠があるか分からないからね。ハルちゃんがアイセちゃんを支えてあげて?」
「アイセは周り見えないから。淫ピンがちゃんと面倒見る」
成程、そういう事か。こちらとしても願ったり叶ったりだ。
「分かりました! 任せて下さい!」
「――相談は終わりましたか?」
「あぁ――」
そう言うとアイセさんは、ボクを抱き上げて!?
「――突っ切らせてもらう!」
勢い良く跳躍! あっという間に門の上へと着地し、街の中へと突入した!
***
無事、街の中へと侵入していくアイセの姿を見送り、ライラは内心安堵の息を吐いた。
しかし、吸血鬼達はアイセの邪魔をしなかった。それが少し気掛かりだ。
「……テメエら。わざとアイセを行かせたな?」
「ふふ。さあて、どうでしょう? まぁ、要らない物が付いて行ったのは想定外かも知れないですわね?」
(はーん? この反応……最初っからアイセだけを街の中に入れるのが目的かぁ?)
「まあ、なんでもいいよ。さっさと始めちゃおう♪」
そう言うココノの表情に焦りや不安の様子は無い。むしろその逆、今から始まる戦いを待ち侘びているようにも見えた。
(へっ。ココノの気持ちも分かるぜ。洞窟じゃ暴れ足りなかったからな)
「くふっ♪ ココノさん? 強がりもおよしなさいな。アイセさんが居ないヴェイグランツなんて、カレー抜きのカレーライスのようなモノですわ!」
「御託は要らねーよミスティ。さっさと掛かって来な。それともビビってんのか?」
「……宜しいでしょうっ。ライラさんのその鼻っ柱。この私がバッキバキにへし折って差し上げますわ!」
「はっ。上等ぉっ!」
一人突貫してくるミスティを冷静に見据えながら、得物である両手剣を左手で構えると懐から色紙のようなアイテム――【火精のヤスリ】を取り出した。仄かに赤く光る【火精のヤスリ】で刀身の根元を挟み――先端に向けて思いっ切り滑らせる!
しゅごっ! と音を立てながら刀身に紅い炎が宿った!
「さぁ。格の違い、って奴を見せてやるよ!」
***
シュタットの街をアイセさんと共に駆ける。
まあ、例によってお姫様抱っこされながらだけどね。いつもなら――アイセさんの体温が♪ とか、顔近いよぉ♪ とか嬉し恥ずかし状態になるんだけど今はそんな事は考えてられない。
街全体から、火の手が上がっている。
ゴブリンを始めとしたモンスター達がそこら中に居て、あちこちから悲鳴が上がってる!
「くっ…! 酷い状況だ…!」
「堪えて下さい! モンスター達も吸血鬼達も、ヴェタルを倒せば皆解決します!」
「分かってはいるが……そのヴェタルの所在も、判明しないのでは……」
「多分、冒険者ギルドです」
ギルドは、冒険者にとっての司令塔だ。ヴェタルなら真っ先にそこを制圧し、我がものにするだろう。ギルド員を吸血鬼にして操れば、街の冒険者にも、外の冒険者にも正しい情報が伝わらなくなる。混乱は必至だ。
現にさっきから、モンスターの姿はあっても冒険者らしき姿を全然見かけない。もう既に倒されたか、ひょっとしたら逃げてしまったのかも知れない。
どっちにしろ状況は最悪だ。
「きゃーっ!!」
女性の悲鳴!?
正に今、目の前にロリゴブリン(♂)が住民の女性に乱暴をしようとしている!
「ぐへへ♪ ねーちゃン、良い体してるナ♪ おれとイイ事しよう、ずへんっ!?」
アイセさんが颯爽と後頭部に飛び蹴りを入れて黙らせた!
そのまま女性の前を何事も無かったかのように通り過ぎていく。
あ。助けられたおねーさん、アイセさんに熱ーい視線を送っている。まーたファンが一人増えたんとちゃう?
そしてその後も、ちょくちょくモンスターを蹴倒しながらギルドへと向かうのだった。
***
「――見えた!」
冒険者ギルド! とその正面を警護するように大量のモンスター!
「ハル、下ろすぞ」
「はいっ」
ついでにボクも戦闘準備だ。デリンジをホルスターから引き抜いて、
瞬間、アイセさんが残像すら描きながらモンスターの大群へと踏み込んだ。
ジグザグに、かつ光の如き速さだった。赤いマフラーはさながら夜間に走る車のテールランプか――アイセさんが駆けた後に、紅い、稲光のような軌道が描かれる!
「シックステール流刀剣術/雷の太刀その弐【雷神】」
モンスターの群れの向こう側で、刀をゆっくりと鞘に戻していく。
――ちん。
「「「「「アバババババっ!?」」」」」
バリバリバリ! 納刀と同時にモンスター達に電気が走る!
[24ヒットコンボ♪ 皆纏めてオールブレイク♪]
一瞬で12体居たモンスターが裸にひん剥かれて焦げた!
いやー、相変わらず強い。瞬殺だ。
「ハル! 行くぞ!」
「はい!」
ギルドの扉をアイセさんが豪快に蹴り開け、刀を構える。ボクも後方へ注意を払いつつも、アイセさんの脇からギルドの中を観察し――
「あ!?」
待合スペースに並ぶテーブル。その内の一つに見知った姿があった。
「受付のおねーさん!?」
受付嬢さんがテーブルの上でやけにヤラシぃ縛り方をされて拘束されていた。
あれ、亀甲縛りって言うんだっけ? OPPAIの形がもろに強調されるやつ。それに目隠しと――ギャグボール!? 黒のストッキングもビリビリ破れてるし! 更にM字開脚された両膝の裏に木の棒が横から差し入れられているせいで足を閉じられない。おかげでパンツが丸見えになってるやん///
もうっ、ヴェタルのヤツいい趣味しとんなぁっ!
「今助ける!」
まるでテーブルの上に見世物のように拘束されている受付嬢さんにアイセさんが駆け寄り、手早く拘束を解いていく。
――あれ? なんか、変じゃない?
ふと、違和感を覚えた。
そもそもヴェタルの姿がどこにも無い。外に警備のモンスターが居ただけだ。
そしてこんな分かり易い――まるで助けてあげて下さいと言わんばかりにテーブルの上に放置された人質。
――とっくに制圧された筈のギルド。大量の警備モンスター。倒した先には、やたらと見付けやすい位置に居る人質――
「安心してくれ。もう大丈夫だ」
「ふえ……アイセさぁん!」
解放され、感激の余りアイセさんに抱き着く受付のおねーさん。
次の瞬間――
ボクのデリンジが火を噴いた!
ギャウンっ! !
「アイッターッ!?」
頭部を撃ち抜かれて大きくよろけ、テーブルの下へと落下する受付嬢。
「!? ハル!? 何を!?」
「アイセさん!! 今すぐそのおねーさんから離れて下さい! 罠です!」
「何っ?」
半信半疑ながらもアイセさんは素早く飛びのき、ボクと合流する。そしてボクとアイセさんの視線の先、テーブルにしがみつきながら受付嬢さんが起き上がる。
「イタタ……酷いじゃないですかぁハルさん。いきなり撃つなんて」
「ボクが撃ってなかったら代わりにおねーさんがアイセさんに酷い事をしたんでしょう? 例えば――噛みついて血を吸うとか」
「……びっくりです……どうして分かったんですか?」
「いやこんなに分かり易かったら罠だって気付きますよ」
アイセさん一人なら絶対引っ掛かってただろうけど。
良かった。一緒に来て正解だった。
「あとおねーさん。さっきアイセさんの呼び方が『アイセさん』になってましたよ? お昼頃、ここに訪ねた時は『アイセ様』だったのに。今は多分、ヴェタルのファンになっちゃったんでしょう?」
「くす♪ 棘のある言い方。あんまりおねーさんを苛めないで?」
ばさり、と音を立てて受付嬢さんの背中から蝙蝠の羽が生える。更にその瞳が真っ赤に染まり、牙が生えてくる。
ヴェタルの力か吸血鬼としての力かは分からないけど――多分、ミスティさんがメッセンジャーとして宿に来た時も、こうやって一時的に人間に擬態してたんだ。
「ふふ♪ 貴方もサキュバスなんてやめて吸血鬼になればいいのに。そうすれば、ヴェタル様に仕える事の素晴らしさに気付けるわ♪」
顔を紅潮させながら、受付嬢さんは熱演した。ぺろりと舌なめずり姿が、エッチぃ。
あ、ダメだ。もうすっかり吸血鬼に染まってる。きっと何を言っても無駄だろう。
「そんな……君までも……」
「くす♪ アイセさん? 助けに来るのが遅すぎたんですよ。もう私はヴェタル様の忠実な奴隷です♪」
「なん、たるっ…!」
アイセさんのショックも大きそうだ。そりゃそうだろう。お昼に訪れた時は真面目そうな(サインをねだるほどミーハーだったけど)アイセさんのファンだったのに、今ではすっかりヴェタルを心酔する吸血鬼だ。
自分のファンを取られた、と感じてるんじゃないかな。
横目でアイセさんを盗み見ると――ただ俯き、震えていた。
「アイセさん……」
「もういい。もう沢山だっ」
語気を荒げながらアイセさんが問い詰める。
「ヴェタルは何処に居るっ!?」
「そんな大きな声を出さなくてもいいじゃない♪」
「「っ!?」」
声と共に邪悪な気配!
果たして――受付のおねーさんのすぐ真横に、ひと際異彩を放つ吸血鬼が現れた!
髪金ロングに黒い衣装を纏った女だ。
こいつが――諸悪の根源、ヴェタル!
癖っ毛の強いブロンドヘアーと頭から生えた蝙蝠羽。
上はエレガントな印象のショートケープ。そして胸元と腰のくびれを強調するエチエチビスチェ。
腕はレースを利かせたラッパ袖の、ちょっと上品なアームカバー。
下はフリル付きミニスカートに色っぽさ全開のガーター黒ストッキング。
衣装はほぼ黒で統一し、ところどころに金のアクセサリーを装着して、上品でゴージャス。なお且つセクシーな衣装だった。
悔しいけど、ヴェタル自体も海外モデルも顔負けなスタイル抜群のセクシー美人で、エチエチでエレガントな衣装が良く似合ってる。
でも何より印象的なのはその瞳だ。他の吸血鬼は皆赤い瞳なのに――
「ヴェタルだけ金色の瞳?」
「くす♪ ピンクのおチビちゃん、目の付け所が良いわね? そう。金色の瞳は純粋な吸血鬼の証。元人間とかじゃない。最初っから吸血鬼だった証明。吸血鬼の中でも【純血種】と呼ばれている私達のみ【隷属化】のアビリティを獲得出来るの。そ・れ・か・らぁ。こうやって目を見ただけで――」
ヴェタルの黄金の瞳とボクの瞳がぶつかる。
きぃぃぃんと、耳鳴りのような音が響いて――
バチン!
「うひゃっ!?」
冬場の静電気にやられたような痛みが走る。
「ハルっ!? 大丈夫か!?」
「は、はいっ。何ともありません。パチンとしただけで…」
今の、何だ? ヴェタルはボクに何しようとしたんだ?
「――あら…? 貴方も私の【心魂掌握】のアビリティで骨抜きにしてあげようかと思ったのに…効かないのね。レベル1の癖に――サキュバスの持つ【魅了の瞳】と相殺しちゃったのかしら?」
……ゾッとした。
そうだ。ヴェイグランツの皆が言ってた。『ヴェタルは精神操作系の能力を持ってるかもしれないって』。このアビリティのせいで、レベルが低ければヴェタルの目を見ただけでおかしくなっちゃうって事だろう。
これのせいで冒険者の皆があっさり返り討ちに遭っちゃったり、洗脳されてヴェタルの忠実な部下になっちゃったりしたんだ!
「まあいいわ。レベル1のサキュバスを放って置いたくらいで何の問題も無いでしょう。それよりも――」
ヴェタルがアイセさんに向き直る。
アイセさんはその瞳に烈火の如き闘志を抱きながら、ヴェタルの金色の瞳を真正面から見据えた。特に様子がおかしい、と言うのは無い。アイセさん程のレベルになるとヴェタルの【心魂掌握】も効かないって事か。
「いい加減、決着を付けよう。まさか今更逃げるなどと、言うまいな」
「くす。当り前よ。貴方との勝負、私としても待ち遠しかったわ♪ でも、折角の対決、誰かに水を差されるのも嫌だし――」
そう言うと、ヴェタルは意外な提案を口にした。
「貴方と私、一対一でバトルしない?」
「……何…?」
え? バトル? ここ、もうダンジョン扱いになっているから自由に戦闘行動は出来る筈なのに――わざわざバトル? どういう事? だってシュタットには吸血鬼を始めとしたモンスター達がウジャウジャ居るんだよ? そのモンスター達と共闘すれば、いくらアイセさんだって危ういと思う。わざわざ一対一のバトル形式に持ち込む事は、ヴェタルにとってなんのメリットも無いように思えるんだけど。
それに、ギルドまでこうもすんなり辿り着いた挙句、待ってましたとばかりヴェタルも姿を現した。
ボク達をシュタットから遠ざける為に、わざわざ洞窟に誘導したっていうのに、今度は手のひらを返したように対決を希望している。
――まるで最初から、ヴェタルはアイセさんとの一対一の対決を望んでいたみたいだ。
こいつ、一体何が狙いだ。
何を企んでる?
「あらぁ? そんなに変かしら? 私は単に、貴方と一対一で戦いたいだけよぉ? それともぉ~……アイセちゃんはヴェイグランツの仲間達が居なければボスとも戦えない臆病者なのかしらぁ♪」
「戯言を言うな!! いいだろう! 何を考えているのか皆目見当もつかんがっ、貴様の誘い、乗ってやる!」
「アイセさん!?」
もう! 意外と沸点低いんだから! そんな安っぽい挑発に乗らないで下さいよ!
「なら決まりね!」
「応とも!!」
ヴェタルの姿が一瞬霞み、次の瞬間ギルドの窓をぶち割って外へと飛び出す。その後をアイセさんが躊躇い無く追った!
「私達も行きましょうかハルさん♪」
「……」
まるで親しい友人にそうするように、吸血鬼化した受付嬢さんに声を掛けられる。
ボクはデリンジの銃口を油断なくおねーさんに向けながら質問した。
「何が狙いです?」
「一体一の話ですか? くすくす♪ ハルさんって、考えすぎるタイプですね♪」
「どういう意味です?」
「どうもこうもありません。簡単な事です。分からないですか?」
勿体ぶるように受付嬢さんは言った。
「アイセさんよりヴェタル様の方が強い。それを皆さんに、簡潔に証明する為ですよ」
***
[申請受理! これより【ヴェタル】対【アイセ】バトルを開始しまーす!]
女神リリウムの声と共にバトル開始を知らせるファンファーレが鳴り響く。
ここは冒険者ギルドのすぐ前、シュタットの大通り。
(昼間はあれほど賑わっていたというのにっ)
昼頃、ハルと共に大通りを訪れた時は、熱気と力強さに満ちていた。行きかう人々も皆笑顔で、田舎だが平和で、良い街だと思った。
今では家屋に火が放たれ、ゴブリンを始めとした下級モンスターや吸血鬼化した冒険者達が、罪も無い街の人々を蹂躙している!
(これほどの蛮行! 許さんぞ! ヴェタル!)
[バトルフィールドっ、セーットアーップ! 危ないから観客の皆は離れてね♪]
「はいはーい♪ 皆ステイ、&注目~♪」
パンパンとヴェタルが手を叩くと街を襲っていたモンスター達が一旦大人しくなり、住民たち、戦闘不能になった冒険者達を引っ張りながらバトルフィールドを取り囲む。
その中には緊張した面持ちのハルと、ギルドの受付嬢もあった。
「野次馬か。下衆が」
「も~棘っちぃわねぇ~? 観客よぉ。貴方が負ける瞬間を見届けるのに必要でしょう? 私は優しいから、バトルが終わるまでは街への攻撃行動は控えてあげるわぁ」
「流石我らがヴェタル様! なんと慈悲深い!」
「そこに痺れる憧れるゥっ!」
「大した自身だ。貴様、策略家ではあっても戦士ではあるまい?【純血種】とはいえ、人間を見下すと痛い目を見るぞ」
「別に見下しても馬鹿にしても居ないわよ? 特に――貴方はね?」
(何? どういう意味だ?)
意味ありげな物言いにアイセは思わず眉をひそめた。
この吸血鬼が自分に執着しているのは分かるが、それと何か関係があるのだろうか。
[もういい~?【ライト・サーブ】する~?]
「ふふ♪ 女神様を待たせても悪いわね? さっさと始めましょうか。あ、ちなみに【ライト・サーブ】は貴方に譲るわ。吸血鬼はLUCのステータス全然伸びないから、誰とやっても大体負けちゃうし」
「ふむ。ならば遠慮無く」
[ヴェタルちゃん権利譲渡! じゃあアイセちゃん!【レギュレーション】を設定してね♪]
「ただ敢えて言うなら……タイムアップや場外は白けるから制限時間もフィールドアウトも無しがいいかしら♪」
「ほぅ、デスマッチか。望むところだ…!」
「アイセさん!? ダメです!! きっと何か企んでます!」
(……ハル、済まない。私とてヴェタルと同じ気持ちだ。場外やタイムリミットで勝利を掴んでも納得出来る筈も無い。この手で撃ち倒さなければ、到底この怒りは収まらん!!)
レギュレーション画面を操作する。
レギュレーションはフィールドの大きさや形などを自由に設定できる【カスタム】。
まずフィールド形状――円柱状の【サークル】。
次にフィールドの大きさ――直径50メートル程の【スタンダード】。
タイムリミット――無制限。
場外判定――無し。
最後に『大丈夫だ。問題無い』で決定。
[【レギュレーション】決定!【カスタム】でいっくよー! 観客の皆は急いで離れてね♪]
素早く離れる吸血鬼達。
それに対して下級モンスター達は学習しないのかフィールドの展開に巻き込まれ次々と吹き飛ばされていく。それを横目にハルの安否を確認する。
(ハルは――無事か)
跳躍して離れたらしい。昨日、初めてこの世界にやって来たと言うのに大したものだ、とアイセは感心した。
(そうだ。ハルの為にも負けられない)
自分と同じ、このおかしな世界へと転生してきた日本人の女の子。
自分が負ければ――彼女はどうなる? ヴェイグランツの皆は? 何より師匠――シックステール流刀剣術の師――に申し訳が立たない。
(絶対に勝つ!)
このエピソードからヴェタル戦開始だと言ったな。
アレは嘘だ。
ごめんなさい(´・ω・`) 下手に展開予告するもんじゃないね。
プロット構成能力がウ○チなんだし。
次回投稿は10/19(月)AM8:00の予定です。
以下いつものオマケコーナー。
【プリーズテルミー! リリウム様!】
今回のお題は~?『種族の特徴について』!
『=================
人族
=================
STR;ふつー VIT:ふつー
DEX:ふつー AGI:ふつー
INT:ふつー MND:ふつー
DES:ふつー LUC:ふつー
=================
種族アビリティ
=================
【無限の可能性】
全てのスキル上昇率が増大する。
=================
解説
人族は『特徴が無いのが特徴』♪
突出した所が無い代わりに戦士、
狩人、魔法使い――ありとあらゆる
職業になる事が出来るよ!
種族専用アビリティ【無限の可能性】
もあるからスキルの成長も全種族中
ダントツトップ! 色んなビルド。
色んな戦術。人族には
無限の可能性があるのだ!
================』
『=================
サキュバス
=================
STR;クソ雑魚 VIT:ダメ
DEX:すごい AGI:ダメ
INT:すごい MND:すごい
DES:最☆強 LUC:ダメ
=================
種族アビリティ
=================
【吸精】
キスによるEXP吸収量増加。更に
追加効果でSPとMPを吸収するよ♪
=================
解説
サキュバスは勿論H特化種族♪
DESの数値が全種族最高♪
強力なH魔法や性技を使って皆を
メロメロにしちゃうぞ♪
INTやMNDも高水準だから
ふつーの魔法職も全然イケる♪
DEXも高いから銃や弓をメインと
した【中衛職】もまあまあ。
ただSTRはワーストを争う程貧弱。
VITやAGIだって低いから接近戦
は止めた方がいいよ~?
================』
『=================
犬亜人
=================
STR;すごい VIT:ふつー
DEX:ダメ AGI:すごい
INT:ダメ MND:ふつー
DES:すごい LUC:ダメ
=================
種族アビリティ
=================
【超嗅覚】
優れた嗅覚で獲物を容易に索敵♪
見えない敵、隠れた敵、遠く離れた敵、
どんな奴でも即捕捉!
=================
解説
犬亜人はパワーとスピードに優れた
接近戦向けの種族だね。
【前衛職】系のクラスがお勧め。
DESの数値が高く、MNDも標準値
をクリアしてるから【後衛職】系
のクラスになって回復魔法やH魔法で
支援をするのもいいかもね♪
================』
『=================
ダークエルフ
=================
STR;ダメ VIT:ダメ
DEX:すごい AGI:ふつー
INT:超スゴイ MND:ふつー
DES:ふつー LUC:ダメ
=================
種族アビリティ
=================
【精霊憤激】
攻撃魔法のMP消費量が増加する
代わりに威力も増加するよ!
=================
解説
ダークエルフはトップクラスのINT
を持つ種族だよ。お勧めは勿論、
【後衛職】。それも攻撃魔法に
特化した【ウィザード】なんかが
オススメだよ♪
他にもDEXも高いから
弓や銃が得意な【中衛職】系の
クラスもオススメかな?
================』
『=================
吸血鬼
=================
STR;すごい VIT:ふつー
DEX:ふつー AGI:すごい
INT:すごい MND:ダメダメ
DES:すごい LUC:クソ雑魚
=================
種族アビリティ
=================
【吸血】
キスによる経験値吸収量が低下する
代わりに【吸血】か可能。
【吸血】は【戦闘不能】や【スタン】、
【拘束】など身動きの取れない相手に
対して使用出来るよ。
効果は経験値とAPの吸収!
また、相手のAPが0ならSPを、
SPが0ならMPが0になるまで
吸収するよ!
=================
解説
吸血鬼はパワーとスピード、それと
知性と欲望も優れた種族だよ。
接近戦も魔法戦も得意な、とっても
強力な種族だよ。ただし、MNDが
低いから魔法攻撃とHな攻撃には
弱いし、LUCに関しては
全種族中ワースト。【ライト・サーブ】
でほぼ勝てなくなっちゃうよ。
LUCが低いと被クリティカル率も
高くなちゃうから接近戦で調子に
乗ってると痛い目を見るかも?
================』




