第18話 ボス【レッド・トライアングル】! アイセさんの本気!
「ったく散々な目に遭ったぜ」
先頭を歩くライラさんが体を震わせながら愚痴った。
30体近いモンスターとの大乱闘の後、案の定、ネロ君の魔法でモンスターと一緒に氷漬けにされたライラさんはブチ切れ。ココノさんやアイセさんがやっとの事で宥めたんだけど――こりゃ根に持ってるなぁ。
「そ、そう言えばハルちゃん。レベルは上がった?」
話題を反らすようにココノさんがボクに話を振った。
でもその話題、ボクにとってはNGなんですよねぇ。
「ボク、クソ称号のせいでレベルが上がらないんですよ」
「あー」
と、気まずそうに視線を反らすココノさんである。
「さっきの戦闘も、結局ボクだけ一体もモンスターを倒せて無いし……」
銃で接近してくるゴブリンを四体、ダウンさせた。
『ダウン』と言えば聞こえは良い。けど実際は『転倒』させただけやからな。
初のパーティ戦闘の成果としては上々かもしれないけど、ボクはただ単に時間稼ぎしただけなんだ。敵を倒したわけじゃない。
「あん? 何言ってんだ? そこのクソガキのお守をきっちりこなしたじゃねえか。ピンクにしては充分だよ充分」
ライラさんが手放しに褒めてくれる? って事はパーティとしての役割は果たす事が出来た、って事かな。
でも――
「いざ一体一のバトルの時、ボク一人じゃ何も出来ないじゃないですか」
ハンドガンは迎撃能力に優れた武器で、敵を追っ払う事は出来ても倒す事には向いていない。ダメージが低すぎるんだ。さっきの戦闘じゃ皆普通に200とか300とかダメージを叩き出してたけど、ボクが与えた最大ダメージは20ちょっと。
頼みの綱のH魔法も気軽に使う物じゃないし。こんな状態で、もし強敵に遭遇したらボクに何が出来るのだろうか。
「おいピンク」
「……何?」
珍しくネロ君から声を掛けてくれた。
「自分の力に自信が無いなら、【召還魔法】を使うって手がある」
「【召還魔法】?」
「ん。【召還魔法】は魔獣や竜、精霊や死霊を呼び出す魔法。強力」
自分の力で勝てないなら、自分よりも強い奴を使役すればいい、って話か。
成程、レベルが上がらないボクとしては案外、アリな選択かもしれない。
「それってどうやったら使えるの?」
「スキル書を使うか、【後衛職】の【初級職】、【サモナー】にクラスチェンジする」
「いやだからボクレベル上がらないから。クラスチェンジ出来ないから」
「えーと、じゃあ――召還魔法系のスキル書って誰か持ってたっけ?」
ココノさんの質問に全員が首を横に振った。
「あー。じゃあ道具屋でスキル書買うしか無いんですねー」
「シュタットには置いてない。そもそも強力な存在を呼び出す為には相応のスキルレベルが必要になる。スキル書程度じゃ無理」
「じゃあ結局使えへんやんけ! どないせーっちゅうねん!?」
はぁ。まあ、そうだよね。強力な技や魔法には当然、それだけ高いスキルが求められる。
この世界に来たばっかりのボクにはそれを手にするのは無理な話だ。
もう! レベルが普通に上昇するならこんな面倒な事にはならなかったのに! 女神様の意地悪!
「あはは。もういっその事【シェアリング】しちゃう?」
「何ですそれ? 初めて聞きましたけど」
「ハルちゃん。バトル後の【ボーナスタイム】で経験値を相手から奪えるのは知ってる?」
あー。そうだった。バトルで負かした相手にキスして、経験値を吸収するんだよね。
なんちゅうルールや!? エッチか!? くっころか!?
「えー。はい。まだした事はないんですけど」
倒した相手に無理矢理キスして経験値奪うとか、素面やったら絶対やらんわ!
「あれってね、パーティやファミリーのメンバーとは自由に出来るんだよ」
………………え?
「えええぇぇぇぇぇっっっ!?」
そ、それってつまり――ヴェイグランツの皆とキスをして、経験値を分けてもらえるって事!?
ボッ、と火が付いたように顔が赤くなっていくのが分かる。
ダークエルフである褐色肌ショタネロ君や……
ワイルド可愛いライラさんや……
犬耳お姉さんなココノさん……
それに……
思わずアイセさんを見る。
「? どうしたハル? 私の顔に、何か付いているのか?」
ちょい釣り目に、青い瞳。端正な顔付き。
まだ少しあどけなさを残す、少女から女性へと変わり始めた女の顔だ。
可憐さ、美しさ、精悍ささえ備えたその顔に、ついつい視線が吸い寄せられる。
いや、正確には、その唇に。
リップも引いていない、色気のない唇だ。
でも言葉を紡ぐ度に動くその唇から、視線が外せない。
アイセさんの唇――イイなァ♪
「おいおい。そんな悠長な事をしてる暇はねえぞ」
ライラさんの言葉に正気に引き戻される。
だめだめっ。サキュバスになったせいか思考がすーぐピンクになっちゃう。
「見ろよ」
ライラさんに促され、通路の先に視線を向ける。
広めの通路の奥に、霧のような壁が行く手を阻んでいた。
「お待ちかねのボス部屋だぜ」
***
五人で霧の壁をくぐる。
すぐ先にトラップでもあるんじゃないかと警戒したけど、そんな様子はない。
――広い空間だ。天井も高い。ゴブリン達と戦闘をした所よりも大きな空間だ。
けど、高い段差や地面に空いた大きな亀裂、天井から地面までを繋ぐ巨大な鍾乳石、等々。様々な障害物が多く、めちゃくちゃ歩きにくそうだ。
岩肌や地面、天井に至るまで明るく輝く石が散りばめられており、またあちこちに篝火が備え付けられている。魔法でわざわざ光を灯さなくても充分な明るさだ。
「やっとおでましね。ヴェイグランツ」
そんなボスエリアの最奥、高台になっている場所に人影が見えた。
頭部以外を赤い鎧で着込んだ長い赤髪の少女。齢は、多分アイセさんと同じくらい? 釣り目の、ツンデレお姉さんって印象だ。
戦士系の職業だろうけど――いやー結構えっちぃ鎧だ。ビキニアーマー程じゃないけど、鎧部分が少なく、かなり露出が高い。二の腕とか太ももとか剥き出しやし。何よりOPPAIの下半分、所謂『下乳』を強調するデザインになっている。
「待ちくたびれちゃったねぇ、ストロちゃん♪」
「ねー、ベリィちゃん♪」
そして戦士さんの両脇に露出度高めのソーサレスルックな少女が二人。
うっわ、なんやあれ!? エッッッッロ!
上はベアトップ風の上衣とショートマント。セクシーなレースの黒ロンググローブ。
下は両サイドの生地をざっくり取り払ったロングスカートと黒のガータニーソ。
二人は双子なのだろう。顔がそっくりで、しかもペアルック。衣装も、二人が並べば左右対象になるように、グローブとタイツは片側ずつ着用していた。子供っぽい、サイドテールにした短い赤髪も同様だ。
しかしなんてエチエチな衣装や! ボクの格好より余裕で露出度高いで!? 発育もエエし! 見た目ボクよりもロリぃ癖になんちゅうエッロイ格好しとんのや!?
ちなみに露出レベルは――恐らくあれは4と見た!
それは兎も角、この戦士さんとエチエチロリ双子魔法使いがボスって事だよね?
多分そうなのだろう。
その証拠に、三人から言いようのないプレッシャーを感じる。
何より、真っ赤なコスチュームに身を包んだこの三人組。皆禍々しい赤い瞳と、凶悪な牙、そして蝙蝠の翼を生やしているのだ。
――この人達、吸血鬼か。
「……? あの三人、どっかで見た…?」
「あ、ネロちゃんもそう思う? 私もなんだよね。吸血鬼に知り合いなんていないのに。何でかなぁ?」
おや? ココノさんとネロ君が首を傾げてる。何だろ?
「何だぁてめえら? おい。ヴェタルはどうした?」
「くすくす♪ バッカだねぇー♪ お前達如き、アタシ達三人で充分って事だよ♪」
「くすくす♪ そーそー。ヴェタル様のお手を煩わすまでも無い、無ーい♪」
「あぁん!?」
額に青筋を浮かべたライラさんが一歩踏み出そうとして――それをアイセさんが制する。
「ふむ。つまりヴェタルと戦う為には先ず貴様らを倒さなければならない、という事か?」
「ま、そう言う事よ。無理だろうけど」
戦士ちゃんが背負っていた得物をゆっくりと構え――でっか!? 何だあの剣!? ライラさんの剣よりデカいぞ!?
幅広の両刃の両手剣は、剣と言うよりも平たくて長い鉄塊というイメージだ。滅茶苦茶無骨なデザインをしている。
「あーーっ!? 思い出した!」
「パーティ【レッド・トライアングル】」
「え? どういう人達です?」
「ヴェタル討伐に向かって、行方不明になってたパーティだよ!」
「えっ!?」
「攻撃魔法の得意な双子姉妹【ストロ】と【ベリィ】。それに近接特化の長女【カーディナ】。赤い瞳と髪の三姉妹。ちなみに三人共、元人間」
「ギルドで画像を見た事あったけど、その時はあんなエッチな装備じゃなかった。だから気付かなかったんだ」
後衛二人に前衛が一人の陣形――そうか、それでトライアングル。
いや、そんな事よりも!
「――吸血鬼に堕ちちまったか」
ライラさんの呟きに長女のカーディナが肩を竦める。
ヴェタルに返り討ちにされたパーティが吸血鬼にされた――
え!? それ、不味くない!? だってヴェタルを討伐しに行ったパーティって、他にも居るんでしょ!? その人達が皆、吸血鬼化してるって可能性もあるんだよね!?
「という事は、ヴェタルは【隷属化】持ちのボスって事だね」
「ココノさん? 【隷属化】って?」
「吸血鬼がレベル200で獲得できる【種族アビリティ】だよ。吸血鬼ってキスじゃなくて、吸血行為によって相手のEXPを吸収するんだけど……このアビリティを持っているとレベル50以下の相手を吸血した時に、相手を吸血鬼に変えた挙句に自分の【ファミリー】にしてしまうの」
「そして吸血鬼になった者は、自分を吸血鬼に変えた相手を主人と認識し、服従する」
「洗脳じゃないですか!? そんな凶悪なアビリティがあるって、どうして教えてくれなかったんです!?」
吸血鬼は吸血行為で仲間を増やす、てオーソドックスな設定だと思うんだけど。ヴェイグランツの皆も、冒険者ギルドの受付さんですらそんな話してなかったよ!?
「あー。ヴェタルはレベル100ちょっとって言われてたからねぇ。【隷属化】を持っているって事を考慮してなかったんだよねぇ」
「それは前にも聞きましたけどっ……そもそもその情報はどこから?」
「ネット掲示板のタレコミ」
「なんでそんな信憑性0の情報信じるんやああぁぁっっ!?」
便所の落書きを本気にするのと同レベルやぞ!?
「ハル。何をそんなに狼狽えている? 結局、ヴェタルを倒せばいいだけの話だ」
「そういう問題なんですか!?」
脳筋めの宣言をしつつ、アイセさんが一歩前に出た。
「いやー、ハルちゃん? そういう問題なんだよ。【隷属化】で吸血鬼化した人達って、元凶であるボスを倒したら元に戻るから」
あ、そういう事か。
「でも現状が厳しい事には変わりないですよ!?」
「そうそう。そもそも貴方達はここで私達三姉妹にボコられて、血と一緒に経験値をチューチュー吸われる運命なんだから♪」
高台から長女のカーディナが飛び降りた。
「人間二人とぉ♪ 犬亜人が一匹♪」
「それにぃ♪ ダークエルフとサキュバス♪ 皆美味しそうだねストロちゃん♪」
「ホントだねぇ♪ ベリィちゃん♪」
「――残念だがお前達吸血鬼にやる血は一ミリグラムとて無い」
アイセさんが一人、三姉妹の元へ無防備に歩いていく。
そう言えば――ボス戦ってアイセさん一人で戦うって言ってなかった!?
え!? でも相手三人だよ!? 三体一で戦うの!?
「……まさかとは思うけど、貴方だけ戦うとか言わないわよね?」
「そのつもりだが? 何か問題でもあるのか?」
「あのさぁ。言っとくけど、私達こないだまでレベル50ちょっとだったけど。ボスモンスターになった事で皆レベルが100超えてるのよ?」
倍になっとるやん!?
「っていうか。ボスモンスターになる?」
「【ボス化】。女神様に【ボス化】申請して試験に通ればボスモンスターになれる」
「確か女神様が直々に面接する、って話だよ?」
「就職活動かっ!?」
「試験に通れば無事ボスモンスター。レベルががっつり上がる」
「更にAP、SP、MP、APが3倍になって、ボス戦用の特殊なアビリティを貰えるみたいだね」
「よりどりみどりか!?」
「――ま、そんな訳だから。いくらあの有名な【アイセ】でも馬鹿な真似はやめときなって。大人しく全員で掛かって来なよ」
カーディナの言う通りだ。ボス化したレベル100越えの吸血鬼を三人同時だなんて、いくらアイセさんが強いって言っても無茶だ。
けれど、アイセさんは、
「ふむ。三人ともレベル100越えか。それは――」
不敵な笑顔を浮かべた。
「楽しみだ」
***
「はっ! その鼻っ柱、徹底的に叩き折ってあげる! ストロ、ベリィ! 遠慮なくぶっ放して!」
「「はーい♪」」
とうとう始まってしまった。アイセさんVS【レッド・トライアングル】!
「い、良いんですか!? ボク達も加勢した方がっ、」
「心配ねぇよ。黙って見とけ」
「アイセちゃんなら、あれくらいなら楽勝だって♪」
「3分も掛からない」
「えぇ……」
でもパーティの皆は、アイセさんを心配するって様子は微塵も無い。
これは、ボクが心配性なだけなの?
「「大気に溢れるマナよ。我に更なる力を!」」
と、双子魔法使いの詠唱に意識が戦場に戻される。
「何あれ!? 同時に詠唱してる!?」
「融和詠唱」
「二人以上で同じ魔法を同時に詠唱し放つ事で、威力を飛躍的に上昇させるアビリティだね」
「ほー。流石双子、息ぴったりじゃねぇか」
「呑気か!?」
アイセさんは――流石にマズいと思ったのか地を蹴り、双子の片割れへと飛び込む!
速い! ミスティさんの踏み込みも速かったけど、アイセさんはその比じゃ無い!
残像すら描きつつ、フィールド奥の高台へと突っ込む!
「そうはさせないわよ!」
が、アイセさんの進路を妨害するように、長女のカーディナが立ち塞がった!
こっちも速い! アイセさんと殆ど変わらないスピードだ!?
「へぇ。アイセに食いつくたぁ、あいつやるなぁ」
「うん。それにあの両手剣、ライラちゃんのより重そうだね。多分、AGI寄りのSTR・AGIビルドかな」
「ん。吸血鬼はSTR、AGI、INT、DESが高い種族だから、効率良い」
『ビルド』って言葉はゲームでも聞いた事がある。
キャラクターの育成方針とかコンセプトだ。例えば防御力に極振りしてカッチカチの盾役にするぞー。とか、攻撃力に極振りして敵を一撃で倒してやるぞ、とか。
カーディナはスピードに特化しつつ、攻撃力も高いって感じか。
しかし吸血鬼はSTR、AGI、INT、DESが高い種族だって?
それって攻撃力が高くて、速くて、魔法もエッチな事も強いって事でしょ?
最強種族やんけ!?
カーディナは巨大な剣を軽々と振り回し、アイセさんに切りかかる!
ビュオンっ、と空を切る両手剣の連続攻撃を、アイセさんは紙一重で躱していく!
ひえぇっ…! 見ていて危なっかしいよっ!? あれ、多分一発でも当たれば終わりなんじゃないの!? アイセさんAP少ないし!
「ほらほらっ! もたもたしてるとうちの妹達がドッカーンっ! ってやっちゃうよ!? ウチの妹達は【闇魔拡散】の【ボスアビリティ】を持ってる! 闇魔法の攻撃範囲が大きく拡大されて、このバトルエリアの7割方はぶっ飛ぶよぉっ!」
はぁっ!? このバトルエリアって学校のグラウンドくらいあるで!? それを7割を吹っ飛ばす攻撃魔法!? そんなんどうやっても避けられんやん!?
「ふむ。そんな事をすればそちらも巻き込まれると思うが」
「バーカ♪ 私達は吸血鬼♪ そしてあの子たちが唱えているのは闇魔法♪」
あっ!? 吸血鬼はアンデッドだから、闇属性の魔法に耐性がある!
「でも貴方は人間。人間って基本、闇属性が弱点なのよねぇ♪」
それに対してアイセさんは闇魔法が弱点!? アカンやん!
今すぐあの双子の詠唱を止めさせないと!
でもカーディナの攻撃が激しすぎる! アーツも使ってない只の斬撃なのに、あの速度! 避けるのが手一杯で、双子に攻撃を仕掛ける余裕が無い!
「ほらほらぁ! どーするの? どーするのっ!? 詠唱終わるよ!? 終わっちゃうよぉ!? もう時間無いよぉっ!? ふふふっ♪ アハハハッ!」
「「黒の炸裂を今ここに! 暗き力で脆弱なる者達に絶望を与えよ!」」
アカーン!? もう詠唱が終わってまう!?
「はいざーんねーんでーしたぁー♪ 時間切れぇー♪」
「「みーんな吹っ飛んじゃえ♪【ダーク・エクスプロージョン】っ!!」」
アイセさんを中心に、紫色の光が収束して――
ドッゴオオォォォッッッン!!!
黒い炎を撒き散らしながら、大爆発を引き起こした!!
「うわっ!?」
爆発の衝撃波に襲われ、思わず尻餅をついてしまう。
とんでもない威力だ!? カーディナの宣言通り、バトルエリアの半分以上が黒い炎に埋め尽くされている!
「アーハッハッハッ! 何が【孤高のサムライマスター】よ! 所詮は人間! 私達吸血鬼に、いえ! ヴェタル様に敵う筈が無い!」
ゴォォッ…! と未だに燻ぶり続ける大きな黒い炎の中心で、カーディナが嘲笑していた。
「そんな……」
黒い炎を呆然と見やる。
アイセさんが、負けた? こんなにあっさり?
「ど、どーして皆で戦わなかったんですか!? パーティで戦っていればこんな、」
『ぷげっ!?』
――ぷげ?
「え、何今の…?」
『やめっ、助けっ!』
黒い炎が燻る音に混じって、声? が聞こえる。この声、双子魔法使いの声か?
「? ストロ? さっきから一体――」
そして黒い炎が収まる。
その中心地にアイセさんの姿が――
――無い!?
それだけじゃない! 爆音のせいで気付かなかったけど……さっきからズシャズバザシュゥッ! って剣で何かを連続で切るような音がしてるよ!?
「えっ!? ストロちゃんっ!?」
双子姉妹の片割れの叫び声。
その視線の先――
「はああぁっっ!」
「嫌あああっっっ!」
アイセさんが双子の片割れに空中コンボを叩きこんでいた!?
「はっ? はあああぁぁっっっ!?」
「誰か! 誰か助けてえぇ!」
あんまりに理不尽な光景にカーディナが素っ頓狂な声を上げ、ボコられている双子の片割れは助けを求めた!
っていうかアイセさん!? ついさっきまで、爆発のど真ん中に居たよね!? いつの間にあんな所に移動したの!? エリアの端っこだよ!?
きっとカーディナももう片方の双子も同じ事を思っただろう。
しかしアイセさんはそんな疑問をよそに空中コンボを続ける!
「【飛燕】っ!」
「めぎゃっ!?」
まるでツバメが飛翔するように斜め上空への切り上げ!
双子の片割れと共に更に上空へと飛び上がる!
からの~!
「シックステール流刀剣術/風の太刀!【神風】!」
チェイン!
今度は斜め下へと急降下しながら、風を纏った突き!
ドシュドシュドシュゥッ! とエゲつない多段ヒット音が響く!
からの~っ!!
「続けて地の太刀っ――」
「ぎゃあっ!?」
更にチェイン!
空中で跳躍し、吹き飛ぶストロの腹に刀を真上から突き刺すと、地面に向けて急降下!
ドスウッ! とそのまま刀で地面に縫い付け――
「――【金剛】!」
「あげっ!?」
思い切り地面と共に切り上げる!
ゴガンッ!! と、同時に水晶が地面より隆起し、ストロを天高く打ち上げた!
からの~~っっ!!!
「【陽炎】!」
更に更にチェイン!
空中高く打ち上がったストロの眼前に――アイセさんが瞬間移動した!!?
「たっ! はっ! せやぁっ!!」
「まっ! もっ! やめてぇ!!」
スバズシャザシュウッ! 空中で三連切り!
大きく吹き飛ぶストロ。それをアイセさんは空中ダッシュで追いかけ――
「たっ! はっ! せやぁっ!!」
――再び三連斬! 吹き飛んだストロを更に空中ダッシュで追いかけまたまた三連切り!
「たっ! はっ! せやぁっ!!」
「もう止めて許してえェっ!?」
ストロの言葉はアイセさんには届かない。
死ぬまで切ると言わんばかりの空中コンボを叩き込む!
「【飛燕】っ!【神風】!【金剛】!【陽炎】!」
「ぎゃあああっっ!?」
さっきと同じアーツコンボを食らい、ストロは空から地上へ、そして再び天高く打ち上げられる!
「このっ刀マンっ! ストロちゃんをいつまでイジメてるのよ! 火線よ! 我が敵を焼き焦がせ!」
「!? ベリィ、待って!」
「待てないよお姉ちゃん!【ファイア・ブラスト】!」
再度空中コンボを始めたアイセさんに向けてベリィが炎の初級魔法を放つ!
同時にアイセさんがベリィの方を振り向き――
ズドンッ! 炎の魔法が炸裂!
と同時に――今度は魔法を放ったベリィの眼前にアイセさんが現れた!?
「え"っ?」
唖然とするベリィ。その向こうで「ぎゃあ!」と悲鳴。
ベリィの放った魔法がアイセさんに当たる直前、アイセさんがベリィの眼前へと瞬間移動したんだ。つまり今ベリィちゃんが撃った魔法は――
[ストロちゃんオールブレイク♪ &戦闘不能だよ♪]
ストロに直撃した。挙句に止めをさしてしまったとw
「嘘おっ!?」
「たああぁぁっ!!」
そして始まるアイセさんの空中コンボ!
三連撃! 空中ダッシュ! 三連撃! 空中ダッシュ! 三連撃!
【飛燕】!【神風】!【金剛】で地上に叩き落とし、カチ上げ!
更に【陽炎】で空中にワープ!
そして再び三連撃!
今度はベリィが空から大地へ、大地から空へ。叩き落とされ、叩き上げられながら無限の斬撃を見舞われる!
「はっ! たっ! せいやっ!」
「もっ! だめっ! 無理ぃ!!」
[ベリィちゃんオールブレイク♪ &戦闘不能だよ♪]
[63ヒットコンボ♪]
Total 612 Damages !! と表記が現れる。
「――嘘でしょ…?」
SUPPONPONになって目を回している双子を見ながら、カーディナは呆然と呟いた。
うん。気持ちは分かる。ボクも同じだ。
そしてそんなボクやカーディナの驚きを尻目に、アイセさんは呑気に青色のポーションをグビグビと飲んでいる。あれ、MPポーションやな。
「ぷはー!」
そして風呂上がりの、コーヒー牛乳を一気飲みした後にやる例のポーズ。
良い飲みっぷりだけど――この「グビグビ」から「ぷはー!」までがアイテムを使用した時の強制モーションらしいです、はい。
「何よその瞬間移動アーツ!? 見た事も聞いた事も無いわよ!?」
「――【陽炎】。軽装スキル4で覚えた、【ユニークアーツ】だ。ロックオンした敵の頭上。あるいは空中にいる敵の眼前へと瞬時に移動する。発動も一瞬。更に発動地点に残像を生み出し、魔法や銃などの追尾もそちらに引き寄せる」
強すぎィっ!!?
「強いけどっ! それだけでも馬鹿みたいに強いけど…! それだけじゃないでしょ!? 貴方っ、今何回連続でチェインしたか分かってるの!?」
アイセさんは指折り数えて――
「ふむ。3回チェインを4セットだから、12回だな」
そう。アイセさんは双子に【ダーク・エクスプロージョン】を受けてからポーションを飲むまで、動きを止めずに攻撃をし続けた。16回も、連続でアーツを使っている。
これは、異常だ。
チェインというのはアーツの硬直を別のアーツでキャンセルする技であり、それを連続で行える回数はDEXのステータスやアビリティで決まる。つまりチェインを連続で行える回数には限りがある。
ちなみにボクのチェイン回数は1である。
「あり得ない! レベル121ならチェイン特化ビルドでも精々7、8回よ!? 貴方どう見てもAGI特化ビルドでしょ!?」
「そうなんですか?」
カーディナさんを憐れむように見ているライラさんに聞いた。
「あー。俺は【ソードマスター】でチェイン回数を増やせるアビリティがある。【中級職】の中じゃチェインの回数は一番多いが――最大チェイン回数は5だよ」
えぇ……
「――【陽炎】は発動後の硬直も一瞬で、移動後即座に行動が可能だ」
「はぁっ!? 発動後の硬直が一瞬って……冗談でしょ!?」
「どういう事です?」
「分かんねえか? 発動後の硬直が少ない、って事は【陽炎】を発動した直後は、チェインを使わずに普通に切ったり、アーツを使えるってこった」
「それってつまり――」
チェイン回数はあくまで『何回まで連続でアーツの硬直をアーツでキャンセル出来るか』その最大回数だ。
例えば、ボクのチェイン回数は一回だけだけど――
アーツ>チェイン>アーツ>硬直時間>硬直解除
この流れの後――つまり『アーツの硬直解除の後に、再びアーツ>チェイン>アーツ、とアーツを連続で放つ事が出来る』。
そして【陽炎】はこの『アーツ>硬直時間>硬直解除』の流れが一瞬――チェインでキャンセルする筈の硬直が存在しないんだ。だから【陽炎】を使った後は、一からチェインをし直す事が出来る。
SPとMPが尽きるまで、何度でも。
それって――疑似的にも無限にチェイン出来るって事やん!?
「インチキアーツも大概にしなさい!! そんなの反則よ! チートだわ! チート!」
「強いのは確かだが、MP消費がかなり多い。今もMPギリギリだったな。で、どうする? 支援してくれる魔法使いはもう居ないぞ?」
「くっ! ――こんなチートアーツを持ってるのと戦うだなんて冗談じゃないわ!」
「ふむ……ならば【陽炎】は使わないでおこう。それなら文句もあるまい」
「え? ええぇぇっっ!?」
そんな凶悪なアーツを縛るとか何考えてるんですか!?
「言ったわね!? あの英雄アイセが、前言撤回なんて恥ずかしい真似はしないわよね!?」
「無論だ。見くびらないでもらおう」
「アイセさぁん!?」
「ふっ…! ふふふっ! なら私にも充分勝ち目はある! ――何より」
ギラリ、とカーディナの真紅の瞳が凶悪に輝いた。
「こんな危険なヤツをヴェタル様に近づけさせる訳にはいかない! 今度は一対一で勝負よ!」
「ああっ、望むところだっ」
意気揚々と刀を構えるアイセさん。
気のせいかな――アイセさんって普段、天然だけどどちらかと言えば大人しくて物静かなイメージがある。けれど今は――すごい、楽しそうに見える。
このアイセさんの表情は――まるで好敵手と対峙したスポーツ選手。
あるいは格闘ゲーマー。
そしてあるいは――歴戦の戦士のようだ。
そう言えばアイセさんって、ステータスやスキルが半分になる【乱入】とか、ボスに対して一人で戦うとか、自分に不利な条件でばっかり戦ってる。
今だってそうだ。折角三体の内二体のボスを倒したのに、今度は超強力なチートアーツを封印して戦おうとしている。
そんな事を考えていると、ふと一つの結論に辿り着いた。
アイセさんってひょっとして――戦闘狂?
しかも、結構マゾめの。
「お? 剣と魔法のオープンワールドアクションRPGの世界かな?」
と思ったら、
「えぇ……何あれぇ……一人だけデビルメ○クライやってるヤツおるんやけど……」
それがアイセさん。
ところでエッチ衣装を着たロリキャラって興奮し(殴
次回投稿は10/5(月)AM8:00の予定です。
今回、今まで以上にアクションゲーム的な要素もりもりでしたが、チェインの仕組みとかちゃんと伝わってたのかなあ?とか心配になったのでいつものコーナーはチェインの補足的な話。
【プリーズテルミー! リリウム様!】
今回のお題は~?『【チェイン】について!』
『=================
チェイン
=================
【アーツ】の技後硬直をキャンセルし、
別の【アーツ】へと繋げる技だよ!
【アーツ】の順番次第では派手な
コンボが可能だゾ♪
AGIのステータスが100以上で1、
250以上で2、500以上で3、
1000以上で4回まで連続して
チェインをする事が出来るよ!
更に【フェンサー】のアビリティ
【追舞連技】や
アクセサリー等の装備品でも
チェイン回数を増やせるよ!
ただし!同じ【アーツ】を使って
何度もチェインする事は出来ないよ!
チェイン回数が2回なら、
【アーツA】>【アーツB】>【アーツC】
とチェイン出来ても、
【アーツA】>【アーツB】>【アーツA】
とはチェイン出来ないよ!
また空中でもチェインは出来ないよ!
但し【ソードマスター】で習得可能な
アビリティ【再舞連技】を
装備すれば同一チェイン中でも同じ
アーツを使ってチェイン可能!
また【ソードダンサー】で習得可能な
アビリティ【空舞連技】を
装備すれば空中でもチェインが可能!
チェインを極めたい貴方は【前衛職】
から【フェンサー】にクラスチェンジ
するのがお勧めだゾ♪
=================』




