第10話 武器屋でお買い物! あれ? ボク、乙女心開花し始めてない…?(´,,・ω・,,`)
防具屋で下着を購入した後、ボクとアイセさんは次の目的地へと向かった。
お次は武器屋である。
日はすっかり高くなって、買い物やお昼処を探す人々が増えてきた。
田舎町らしいけど商店が並ぶ大通りは結構な賑わいだ。
露店も並び、活気と熱気に満ちている。
『本当に何も買わなくて良かったのか?』
「はい。流石にビキニアーマーはちょっと…」
『まあ、あれは…ふむ。そうだな。今思えば止めて良かったかもしれないな』
「でしょう!? あんな物着て歩けませんって!」
『確かに、今でも充分なのに、更に目のやり場に困ってしまうな』
「え?」
『…あ』
――気まずい沈黙が舞い降りた。
あー。や、やっぱりそうだよね。
さっき見たエロ下着とかビキニアーマーに比べれば今着てる服はマシだけど。
それでもマシってだけで充分エッチな服装なんだよね。
短いスカート。剝き出しの脇。色香の立ち上る谷間に、チラ見えするブラ。
ちなみにこの服、背中が剝き出しで翼の付け根とブラ紐が丸見え。
色気増しマシの白黒ゴシック調のキャミワンピである。
こんなん、元の世界だったらコスプレショーかイメクラでしかお目に掛かれんやろ。
それをロリ目な巨乳サキュバスが着てるんだから――
他人の目には――同じ世界に住んでいたアイセさんには特にエッチく見えるだろう。
右隣を歩くアイセさんを横目でちらり、と盗み見る。
真っ黒なローブを来てドクロの仮面を被った変装中のアイセさん。
彼女は視線を避けるようにそっぽを向いていた。
勿論、その表情は見る事も出来ないのだけど。
妙によそよそしいような――というかそわそわとしてる?
まるで初デート中のカップルの――初々しさ全開の男の子のような反応。
そしてそれがなんだか妙に可愛く、愛しく感じちゃうのだ…♪
デート、か。そう言えば――今ボク、アイセさんと二人っきりで買い物してる。
これって……もうデートじゃない?
雑魚のボクの為に『少しでも良い装備を用意してある程度戦えるようにしよう』。
というのがアイセさんのパーティ『ヴェイグランツ』の方針だ。
その為には先行投資も厭わない――つまりお金だって出すよ、って事らしい。
こっちの世界に転生してばかりで文無しのボクには涙が出るような話だ。
まあ、結局防具屋では替えの下着を買うだけになってしまったんだけど。
今もボクとアイセさんはお買い物をしている最中な訳である。
うん。色気は無いけど――これはデートや!
ふと、視界内に二人組の冒険者らしき女の子が目に入った。
長身で背に大剣を背負った茶髪の子。それと紫色のローブに身を着た金髪の魔法使い。
二人は手を繋いで歩いていて――
「――今日もありがと♪ 私のダーリン♪」
「そりゃこっちのセリフ。お前の魔法に何度救われたか」
「宿に着いたら一緒にお風呂入ろっか♪」
「おい馬鹿っ、声が大きい。昼間っから何言ってんだ――」
真正面から歩いてきたカップルと通り過ぎる。
見た目はどっちも女の子だけど、この世界ではれっきとした♂と♀なんだろう。
あーあ。イチャイチャラブラブしてるなー。
手、恋人繋ぎしてたし。
「…いいな」
羨ましいなぁ。ボクもアイセさんと手、繋ぎたいな。
トクン、と心音が高鳴る。
頭が少しふわふわするのは、人混みに酔ったせいではないだろう。
サキュバスとしての性だろうか。
誰かを好き、とか、誰かを感じたいという思いが――胸の中から際限なく溢れてくる。
アイセさんと手を繋いで歩きたい。
さっきのカップルみたいに。
ボクは女の子の体、しかもサキュバスで。
アイセさんはこの世界では男として扱われているけど。
周り沢山人も居るけど――
ちらり、と再びアイセさんを盗み見る。
そっぽを向いたままだった。
―― だからハルニャんならどんな男でも脳殺確定ニャ! ――
ふと、さっきの防具屋で知り合った猫耳淫ピンなミーナさんの言葉が脳裏に浮かんだ。
彼女の言葉を信じるなら。それはつまり。
ボクならアイセさんを誘惑出来る、という事。
「……」
無言で――アイセさんの左手を、右手で掴んだ。
びくり、とアイセさんが体を震わせる。
『ハルっ? なにを、』
「人が、増えて来ましたから」
食い気味にアイセさんの言葉を遮る。
「はぐれたら、迷子になっちゃいます」
手をつなぐだけでは飽き足らず。ここぞとばかりに体を密着させる。
アイセさんの左手に、右腕を押し付ける。
ボクの体臭には、他人を欲情させる効果がある。
効果も個人差があるようで、実はアイセさんには余り効かない事も分かってる。
それでもボクは、自分の体をアイセさんにピタリとくっつけた。
まるで動物が、マーキングでもするように。
アイセさんに、ボクの匂いを付けるように。
本当は、そんなはしたない事、したくないって思っている。
でも、体は、心はそうじゃない。
アイセさんを独り占めしたいと、思ってる。
感情と、肉体が、完全にボクの意志から剥離してる。
自分じゃない誰かが、ボクの感情と肉体を操っているみたいだった。
でも、高鳴る鼓動は。
熱に浮かされたような思考は。
ずっと委ねていたいと思うほど、心地いい。
トクッ、トクッ…と聞こえる心音はボクのものかアイセさんのものか。
それは街の喧噪よりも何故か大きく聞こえて。
――そう、この瞬間、確かにボクとアイセさんは、この場所に二人きりだったのだ。
だというのに。
「お? なんだピンク。てめぇも買い物か」
偶然に鉢合わせしたライラさんが全てをぶち壊した。
は? いや空気読めや脳筋レッド。
「ら、ライラか! 丁度良かったっ。頼みたい事があるっ」
「あんだよ藪から棒に」
「武器屋に行くのだろう。ついでに私の武器の整備を頼む」
「あん? それくらい自分で、っておい!?」
有無を言わさずライラさんに『模造刀』を渡すとそそくさと回れ右をアイセさん。
「そうだ。すまないがハルに合う武器も見繕ってやってくれ。それでは私は失礼する!」
一方的に言い放つと止める間もなくアイセさんは人混みに紛れてしまった。
「「…………」」
唖然とするボクとライラさんだけが、大通りの真ん中に取り残される。
やがてライラさんがボクを胡乱な目で見ながら、
「ピンク。お前、またアイセになんかやらかしたのか?」
「さ、さあ? 何もしてませんよー?」
手を繋ぐ、という行為は『なんかやらかす』という行為には含まれない、よね?
でも、アイセさんって、結構ウブ可愛いところがあるから――
さっきボクの手を繋いだだけで――ドキドキしちゃった、のかな?
ふふ。天然ジゴロの癖に、おっかしいや♪
「そのニヤケ面、やっぱり何かやらかしたなぁ? あぁん?」
「そ、そんな事よりも武器屋行くんですよね! 一緒に連れて行ってください!
ほら! アイセさんにも頼まれていたでしょうっ?」
「ちっ。しょーがねーな。来いよ。こっちだ」
渋々と言った様子で先を歩くライラさん。
ボクはアイセさんの姿を追って一瞬振り返る。
勿論、その姿はとっくに見えなくなっていて――
寂しさを紛らわせるようにアイセさんに触れた右手を左手で握りしめた。
その温もりを少しでも長く感じるように。
「おい早く来いピンク。はぐれても知らねーぞ?」
「ご、ごめんなさいっ。今行きますっ」
「何ならはぐれないように手ぇ繋いでやろうか? けけっ」
「は? 寝言は寝て言って下さい」
***
私は動揺を隠す余裕も無く、早足に裏路地に飛び込んだ。
まるで逃亡者だ。情けない。
自身よりも強い者から逃げるのならまだ分かる。
が、私が恐れたのは仲間だ。
あの『アイセ』が、レベル1のサキュバスに恐れをなして逃げたのだ。
そう、私は、ハルから逃げた。
薄桃色の長い髪の、年下の女の子。
礼儀正しく、優しく、聡い子だ。
一人称はボク、で感情的になると飛び出す関西弁も、また愛らしい。
見た目も可憐で、魅力的な少女と言えた。
『【孤高のサムライマスター】の称号は返上だな…私には荷が勝ちすぎる名だ』
呟くとそっとドクロ型の仮面を外す。
裏路地には人の気配は無い。素顔を見られる心配は無さそうだった。
正直、マスクは息苦しくて苦手だ。
私は大きく深呼吸をして、
鼻先がハルの残り香を捕らえた。
まるで果実のような、甘く、そしてどこか酸味を感じる香りだ。
近い表現は――桃とイチゴを足したような匂い、だろうか。
桃よりも爽やかで、イチゴよりも酸味は薄いが――とても良い匂いだ。
それが左手全体から香ってくる。
―― 人が、増えて来ましたから ――
―― はぐれたら、迷子になっちゃいます ――
そう言って、彼女は自分の身体を私の左手に押し付けたのだ。
自分でも恥ずかしかったのだろう。真っ赤に染まった顔を、背けながら。
全く、恥ずかしいならしなければいい。
それにだ。
ハルも、私に好意を抱いてくれているのは――流石の鈍感な私も分かるが。
だからといって急に積極的になりすぎではなかろうか?
防具屋ではふしだらな鎧に散々忌避感を示していた。
だがさっきはオーバー・ディザイアしていた様子も無いのに大胆に――
「本当に、年頃の女子は分からない」
いや、私も年頃の女子の筈なのだが。
この世界では男として扱われている為、自分が女子である事を良く忘れる。
「ハルは――転生する前から『ああ』なのだろうか」
つまりさっきのは、サキュバスだから積極的になったのではない。
ただ単に素の性格が出ただけ、と言う可能性。
まあ、考えても分からないものは分からない。
何せ出会ってまだ二日目だ。人となりを知る由も無いだろう。
「…今度、もっと話をしよう」
好きな食べ物とか、趣味の話。好きなマンガ。何でも良い。
もっと、ハルの事が、知りたかった。
「しかし本当に、いい香りだ」
昨晩、お姫様だっこをした時も思った事だが。
この香りは、癖になる。
犬亜人のココノやさっきの猫亜人がひとたまりも無く魅了されたのも納得だ。
「あらあら。あのアイセともあろうお方がはしたない」
気配は急に現れた。
「何者っ!?」
素早く態勢を整え、声の聞こえた方へと得物を抜き放つ。
太陽の光が届かない路地裏の更に奥、そこから邪悪な気配を感じた。
「おーこわいコワイ。今日は挨拶だけよ。バトる気は無いわ」
「何者だと聞いている!」
言葉と共に叩き付けるように殺気を放つ。
ゴブリン程度ならそれだけで戦意を削ぐ事が出来るが――
「なぁにぃ? 怒ってるの? 女の子の匂いをクンカ☆クンカ☆してたの見られたから?
くすくす♪ へぇーえ♪ 可愛いところもあるのね♪」
「貴様っ、いい加減にっ、」
「私は、貴方の――いえ、貴方達の探し人よ」
「何?」
私達の、探し人?
パーティ『ヴェイグランツ』としての探し人、と言う事か。
それなら――心当たりは一つしかない。
私はハルと出会う為にこのような田舎にまでやってきた。
だがそれとは別にパーティ『ヴェイグランツ』としての目的もあった。
それはとあるモンスターの討伐だ。
「まさか貴様…!『ヴェタル』か!?」
気配の主は答えず、ただ妖しい笑みを漏らすだけだった。
「ねぇアイセ。可愛い子をとっかえひっかえして遊んでいられるのも今の内よ?」
「? 何の事だ! 分かるように話せ!」
「え…? …は? えぇ…何こいつマジで自覚無いの? やべーわ。マジやべーわ。
――そうよ。今さっきも私の知らないサキュバスと――ブツブツ――」
「な、何だ? 良く聞こえないぞ!? 何をブツブツと言っている!?」
「まあ良いわ。ねぇアイセ? もうすぐ楽しい事が起こるわ♪
それまでゆっくりハーレムを満喫してなさいな♪」
「ま、待て!」
無論、制止の声を聞くはずもない。
邪悪な気配は、その場からすっかり消え去っていた。
「なんたるっ」
知らずといつもの言葉が漏れる。
話掛けられるまで、敵の存在に気付けなかったという事が許せなかったのだ。
言い逃れのしようもない。完璧な油断。慢心。
ハルとの出会いがよほど嬉しかったのだろう。気が抜けてしまっていた。
だが、こんな所で標的と接触できたのは嬉しい誤算とも言える。
「一度、皆と合流しなければ」
私はドクロの仮面を被り直すと、ハルとライラが居るであろう武器屋に向かった。
***
ライラさんと微妙な距離感を保ちながらも武器屋に到着。
展示スペースには剣や槍、斧やハンマー、弓なんかまで置いてある。
あ、鞭や爪なんかもあるんだ。武器の種類、めっちゃ多いし。
「ちょっと待ってろ」
ライラさんはカウンターに一直線に向かう。
ガタイの良いおねーさん(多分♂かな?)――に自分の武器と模造刀を渡している。
多分、武器の修理かな。この世界の武器には耐久値が設定されているみたいだし。
ぼんやりと見ていると、用事が済んだのかライラさんが戻ってくる。
「それで? お前のスキルどうなってんだ? 何が使える?
まあ、サキュバスでクラスがマジシャンなら選択肢は殆ど無えだろうがな」
そっか。防具を着るのにもスキルが必要なんだから、武器にもスキルがいるのか。
「えーと。ちょっと待って下さい」
ボクはウィンドウを操作しスキル画面を呼び出す。
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
◎触媒 3
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
……えーと。どこを見ればいいんだろうか。
「ライラさん。すみません。武器のスキルってどこを見ればいいんでしょうか?」
「はぁ?『近接』と『射撃』と『触媒』だ。ったく記憶喪失ってか世間知らずだな」
ライラさん。それ、当たってます。
内心苦笑いしながら『◎近接』のボタンをタッチしてみる。
『====================
◎近接 1
〇刀剣 0
〇斧 0
〇槍 0
〇鎚 0
〇長柄 0
〇鞭 0
〇格闘 0
〇盾 1
◎射撃 1
◎触媒 3
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
0ばっかりやんけ! あーいや、盾スキルだけ1あるけど、盾?
サキュバスの魔法使いなのに盾のスキルってなんか違和感あるなぁ。
「あん? 何固まってんだ」
「いえその。近接のスキル、盾だけ1あって、何でかなって」
「あー。そりゃ『魔力盾』のスキルだな。盾のところ押したら分かるぜ」
「はあ……」
言われるがまま『〇盾』をタッチ。すると、
『====================
◎近接 1
〇刀剣 0
〇斧 0
〇槍 0
〇鎚 0
〇長柄 0
〇鞭 0
〇格闘 0
〇盾 1
・小盾 0
・中盾 0
・大盾 0
・魔力盾 1
◎射撃 1
◎触媒 3
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
ふぁっ!? 盾だけで四種類もスキルがあるの!?
「ちなみに『魔力盾』はMPを消費して魔法の盾を形成する代物だ。
物理に対する防御は残念だけどよ。軽い上に魔法には滅法強いぜ」
「な、成程~。でも武器にはなりませんよね?」
「スキルを上げればブーメランっぽく投擲するアーツが覚えられるみてぇだが……
今のおめぇには無理な相談だな。どれ――やっぱ近接スキルは壊滅してんな」
ライラさんがボクのスキル画面を見ながら嘆息した。
むう。脳筋増しマシにしてばったばったと敵を倒すチートプレイを期待したのに!
そもそも接近戦用のスキルが一つも無ぁい!
「ぐぬぬ……」
「まあ、いいとこ『触媒』スキルじゃねえか?」
確かに、『触媒』スキルは3もある。試しに見てみよう。
ええと、近接スキルのタブは閉じて、っと。
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
◎触媒 3
〇棒物 1
〇お守り 1
〇魔装 1
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
絶妙に分かり辛い!?
気を取り直して『棒物』『お守り』『魔装』を順々にタッチ。
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
◎触媒 3
〇棒物 1
・杖 1
・ロッド 0
〇お守り 1
・タリスマン 0
・加護鈴 0
・アミュレット 1
〇魔装 1
・魔力剣 1
・魔力槍 0
・魔力斧 0
・魔力鎚 0
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
ええと、使えるのは、『杖』と『アミュレット』と『魔力剣』のスキルか。
「……こりゃまた微妙だな」
「えーと。どういう事です?」
「簡単に説明すんぞ。先ず前提としてだ。
『触媒』カテゴリの武器は魔法の威力を底上げする能力がある」
「魔法使い専用の武器って事ですね」
「おう。で、だ。種類によって何の威力がどれだけ上がるのかが変わってくる。
例えば『杖』は攻撃魔法の威力を結構上げるけどよ、回復・補助には影響が無え。
完全に、攻撃魔法に特化した触媒だな。ネロが装備してるのがこいつだ。
『ロッド』は少し変わり者だ。実はこいつは接近戦用のアーツも使える。
そんで回復・補助魔法の効果も上がる。けど攻撃魔法は上がらねえ。
ココノが装備してるのはこれだ。回復・補助メインで自衛も出来る、良い触媒だ」
い、色々あるんだなぁ。
「『アミュレット』は特定の属性魔法の威力を上げる。水とか、炎とかな。
攻撃魔法とか補助魔法じゃなくて、一つの属性を極めたい奴向けだ」
「あ!『魔力剣』はどうなんです!?」
きっとライト・セイヴァとかヴィム・サァヴェル的なヤツでしょ!?
かっこええやん! これでボクも接近戦デビューが出来る!
「どんな魔法も満遍なく威力を上げて、尚且つ接近戦も出来る。
けどな、武器としての基礎攻撃力が低いし、魔法威力のブースト量も低めだ。
接近戦も出来ると言えば聞こえはいいけどよ。
魔法も弱い、切っても弱いだったら只の器用貧乏だぜ?
そもそも魔法使いが接近戦で近接職の敵と戦ったら瞬殺されるのが目に見えてらぁ。
それもレベル1のお嬢ちゃんが使うなら、なおさらだな」
「はいはい分かりましたボクが考え無しでした諦めますよ! もうっ!」
ぐぬぬ。そう都合よくは行かないか。
「じゃあ、結局『杖』が良いんですか?」
「 絶 対 に 止 め ろ 」
有無を言わせぬ迫力だった。目がマジだった。
コワイ! まるでヤの付く人みたいだ!
「あのなぁ。今でもネロの奴に散々後ろから攻撃魔法を食らってんだ。
今以上に背中を気を付けてたら目の前の敵に集中出来ねえよ」
あ、なるほど。そういう事ね。
遠距離からの魔法支援はネロちゃん(君?)で充分って事か。
「じゃあ『アミュレット』ですか?『H魔法』と『闇魔法』はボク得意みたいですけど」
「残念だがこの店には置いてねえ。ま『アミュレット』自体結構マイナーな触媒だしな」
「…うん?」
っておい。『杖』もダメ。『アミュレット』もダメっ。『魔力剣』もダメ!
それだと使える武器が一つも無いやんけ! どないせーっちゅうねん!!
「ちょっとライラさん! 実はボクに意地悪してませんか!?」
「難癖付けんじゃねえって。意地悪どころか真剣だぜこっちは。
ま。アイセに頼まれたから仕方なく、だけどな」
「…むぅ」
そう言われるとこっちも強く言えない。
しかしどうしよう。防具も結局初期装備なのに、武器に至っては素手とか。
このままだとボクのクソ雑魚ナメクジっぷりが大加速するやんけ!
思わず頭を抱えてしまう。
「おいピンク」
「何ですレッド?」
「妙なあだ名で呼ぶんじゃねえ!? ったく。それより『射撃』のスキルは無えのか?」
「『射撃』スキル、ですか?」
ウィンドウを眺めると――――あるやんけ! 射撃が地味に1だけ!
早速射撃スキルの詳細を見てみる。
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
〇弓 0
〇銃 1
◎触媒 3
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
って銃があるの!? しかも使えるし!
ボクは早速『銃』をタッチ。
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
〇弓 0
〇銃 1
・ショットガン 0
・ハンドガン 1
・ライフル 0
・ランチャー 0
◎触媒 3
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
「…『ハンドガン』スキルが1あります」
「それだ」
パチン、とちょっと気取った動作でライラさんが指を鳴らした。
他に選択肢が無いってのも理由だろうけど。即決やん。
「でもなんで魔法使いなのに銃のスキルがあるんでしょうか?」
「ああ。『銃』は『弓』と違って物理属性じゃなくて魔法属性なんだよ。
魔法の源である『マナ』を撃ち出す武器だな。
本来、射撃スキルは中衛職の十八番だが……
まあ銃はMPが高い魔法職にも扱えるって訳だ」
「成程っ」
ええやん!
「よっしゃ。決まりだな。じゃ、品定めといくか」
「はい!」
展示台に陳列されたハンドガンをウキウキしながら眺める。
ハンドガンは基本、両手を使った二丁拳銃スタイルらしい。更に軽量で低反動・低火力の『ピストルタイプ』と、重く高反動・高威力の『マグナムタイプ』の二種に分かれる。
しかしマグナムタイプはボクのひ弱なSTRでは装備出来らしく、ピストルタイプを選ぶ他無かった。しかしピストルタイプと言っても、エネルギー装填両と連射速度を重視した物や、ホーミング性能を重視した物。他にも軽さと使い勝手を重視した物など、様々な種類があって目移りしてしまった。
そして、そんな多種多様なピストルから選んだのは――
「『デリンジ』! 君に決めた!」
ピストルタイプでも最も最軽量と宣伝されている銃だった。
「へぇ。良いチョイスじゃねえか。もやし娘にも使えるヤツだな」
「事実ですけど一言余計です!」
兎も角、ボクの武器はこの子に決定だ。
展示台に陳列された二丁の銃を両手に持ちその感触を確かめる。
重さは片方、300グラムのペットボトルくらいかな。想像以上に軽い。
だから筋力が15しかないボクでも装備出来るんだけどね!
というかデリンジ以外装備できなかったんだけどね!
と、いつものキーンコーンとお報せ通知。
[装備OK!]
メッセージウィンドウに表示されたその一文に、感動した。
この銃、本当は大して強い武器じゃないかもしれない。
むしろ弱いかもしれない。
でも、いいんだ。
ウン○みたいな称号。エッチな衣装。エロチート能力。
そんな、投げ出したくなるくらいの理不尽なボクのステータス。
そんな中で手に入れる事の出来る、唯一真っ当な力だ。
これからよろしくね、デリンジ!
心の中で二丁の拳銃に語り掛けると、ボクは足取りも軽く、レジに向かった。
一応冒険ファンタジー物()なのに、11回目の連載にてやっと主人公がまっとうな武器を手に入れるとか、遅すぎませんかね…?
そう言えば。後書きなどでオマケコーナー的に、各キャラクターのステータスとか、各種アーツやアイテムの紹介(本編のメニューウィンドウ風に)をするのは需要あったりするんですかねぇ? 今でも本編の情報量が結構多いから、逆に読者の皆様方を混乱させてしまうかな?
あ、次回投稿は8/17(月)AM8:00の予定です。




