第9話 防具屋でお買い物! そしてボクのーー強キャラ疑惑!?
お風呂での乱痴気騒ぎの翌日、時刻は午前十時ごろ。ボクはアイセさんと街を歩いていた。
目的地は武器・防具屋。ボクの装備を新調する為だ。
因みに。昨日、服を一緒に見に行こう、と言ってくれたココノさんは宿でお留守番をさせている。
昨日の今日だからね。流石に一緒に行こうと思えなかった。
いつセクハラされるか分からないからね!!
「じゃあやっぱり、この世界って女性しかいないんですね」
『そうだ』
街を歩きながら、ずっと考えていた疑問をアイセさんにぶつける。
ボクの隣を歩くアイセさんはいつもの白コート青マフラーの剣士スタイル――
ではなく。
黒いローブとフードで全身を覆う、魔法使いスタイル衣装を着ていた。
更にドクロデザインの仮面をつけているので顔も見えなければ声も誤魔化せる。
イケメン剣士アイセのイメージとは正反対の、まさに完璧な変装だった。
ってか見た目完全に邪教の魔法使いやん。露骨にサキュバスなボクよりも不審者やぞ。
アイセさんは人気者なので追っかけに捕まらないように、プライベート時はこの恰好らしい。
…………アイドルかな。
「でも、男女の概念はあると」
『そうだ』
「そして胸の大きさで男女を区別すると」
『そ、そうだ』
「安直にも程がありませんかねえっ!?」
悲報。この世界では胸が小さければ女として認めてもらえないようです。
つまりOPPAI大きいボクはバリバリの女子にしか見てもらえないという事だッ。
ちなみにボク、転生前は男らしくないという理由で、告白した女の子に振られたんだよね。
けど女神様の気まぐれで転生出来ると知って。
しかもチートハーレム完備だと言質も取って。
よっしゃそれなら筋肉全振りの第二の人生をスタートしたと思ったら。
OPPAIの大きさで性別が決まる世界で、筋肉とは一番無縁、かつOPPAIに最も愛された種族、
サ キ ュ バ ス に転生したのだ。
いやリリウム様これ確信犯やろ。
「でも胸の大きさだけで性別の判断をするのは難しいですよね?
胸の小さな女性と男性が区別つかないですし。確実な確認方法って無いんですか?」
男なら生えている。女なら生えてないくらいの明確な見分け方は無いものか。
まあそもそも生物学的にはこの世界、女しかおらんけどな!!
『さ、さあ、どうだったかな?』
アイセさんの視線が泳ぐ。
あ。クォレハァ、何か他にもありますね。OPPAI以外にも男女を見分ける方法が。
まあ無理に聞くのも何だし。気が向いたらココノさん辺りに聞いてみようかな。
今は他にも聞く事がある。
多分、サキュバスであるボクにとって大事な事だ。
「あのアイセさん。あと一つ、確認しておきたい事が」
『ん? 何だ? 何でも聞いてみてくれ』
立ち止まり、こちらを振り返るアイセさん。
真面目な人だから答えられる事にはきちんと答えてくれるだろう。
けど今から聞く事は――えっちぃ事だ。
多分だけど、白昼堂々とする話じゃないと思う。
だからボクはアイセさんに近寄ると、耳打ちするように訊ねた。
「えと、その――『オー』って、【オーバー・ハート】の事で合ってます?」
『オー』。それはお風呂場でココノさんにセクハラされた時に聞いた言葉だ。
―― さぁ、『オー』しちゃなよ、ハルちゃん!! ――
そしてその直後に頭が真っ白になって、体がふわふわして、夢心地になって。
その。昇天してました(//ワ//)
ちなみにその時、リリウム様の声(システムボイス的な奴)で[オーバー・ハート♪]って聞こえた。
だから、『オー』っていうのは【オーバー・ハート】の略か通称かな、と思ったんだけど。
『あ……うん。その、合っています』
「何でいきなり敬語になるんですか」
アイセさんメッチャ動揺してるやん。
まあ、デリケートな話題なんだろうなぁ、っていうのは予想出来たけど。
かくいうボクも、昨日のココノさんの苛烈なスキンシップを思い出して顔が熱くなっている。
「その、ちゃんと教えてもらえますか?【オーバー・ハート】の仕組みとか、効果とか。
多分、サキュバスであるボクには重要――というより絶対に必要な知識だと思うので」
まあ本音を言うと、【オーバー・ハート】に対する好奇心も少なからずあるけど。
Hな攻撃をメインとするサキュバスにとっては必須事項だと思った。
『……あぁ……なんたる…』
いつもの感動詞を言うと仮面を両手で覆い、『どうしよう…』オーラを放ち始めるアイセさん。
うん。やっぱり、アイセさんって女の人のおでこに平気でキスしたりする天然ジゴロだけど。
えっちぃ話題には免疫が無い人みたいだ。
純情な人だなぁ。そして可愛いなぁ♪
『…その――こっちに…』
アイセさんは手招きでボクを呼び寄せると、耳元でコソコソと説明を始めてくれた。
――以下、概要。
【オーバー・ハート】はステータス異常に分類。
H属性の攻撃でHPが上昇し、最大値に達した時点で発生。
前後不覚、夢見心地、筋肉の収縮と弛緩等々、様々な異常をきたし一定時間行動不能。
また発生時、SP、MPに大ダメージ。
行動不能時間とダメージ量は攻撃側のDESの数値と受け側のMNDの数値に依存。
相手を【オーバー・ハート】とさせてしまえば完全に無防備、かつSPMPに甚大な被害を与えられるので、
一対一のバトルなら一回でも【オーバー・ハート】させれば立ち直りはほぼ不可能に近い。
ちなみにHPは(性的)興奮度を表すものらしい。
「あの。オブラートに包んでますけど、【オーバー・ハート】ってぶっちゃけて性的な絶、」
がしっ! とアイセさんに、両肩を真正面から掴まれた。
『【オーバー・ハート】だ』
「え、でもあの、」
『オ ー バ ー ハ ー ト だ。略して|【OH】。ハル。それ以上でもそれ以下でもない』
至近距離からドクロ仮面に真正面から見つめられるのコワイ…!
有無を言わさないアイセさんの迫力にボクはコクコクと頷くしかなかった。
『もういいだろう。さあ、防具屋を目指そう』
やや急ぎ足で裏路地から表通りへと出ていくアイセさん。
ボクはそれについていきながら、ふと思う。
あれ? サキュバス強ない? H属性特化種族やろ?
相手をオーバー・ハート改めオーさせたい放題なんとちゃうん?
う〇ちみたいな称号のせいでLVは全然上がらないけど、ちょっと希望が見えてきた。
望んでいた、筋肉で無双するのとは真逆の方向性だけど……
可愛い女の子ばっかりの世界でエロ特化か……ふむ。あり、か?
見た目は完全にピンク髪ロリ巨乳サキュバスなボクだけど。
これでも中身は健全な男の子だ。予想外の展開にムフフ♪な気分になるってもんさ♪
おっとダメダメ♪ 口元のニヤニヤが止まらないぞ♪
どこか足取りも軽く、ボクとアイセさんは防具屋を目指して歩き出した。
***
ってなわけでお目当ての防具屋に到着。
カランコロン。入店用ベルの音を聞きながら防具屋に入る。
いらっしゃいませー。と幾つもの明るい挨拶が迎え入れてくれた。
思っていたよりも大きい店だった。バスケットコート一つと半分くらい?
入ってすぐに鎧など防具を展示するスペースが6割。
少し奥に男性用肌着下着コーナーが1割。
更にその奥に女性用肌着下着コーナーが3割。ってな感じ。
先ずは店の一番奥の女もの下着コーナーに直行すべきなんだけど。
「うわぁっ。あの鎧カッコいい! こっちのも!
ボク、魔法使い職だけど、戦士系の鎧も着てみたいなぁ♪」
目的も忘れて、鎧の展示スペースに釘付けになってしまう。
ファンタジーに憧れる健全な男子諸君ならこの気持ちは分かる筈。
それにボクは種族的にも職業的にも貧弱だから、それを補う為にも鎧を着るのはアリじゃないの?
「アイセさん! ボク、この鎧着てみたいです! それにほら!
鎧を着ればエターナルクソ雑魚ナメクジなボクでも瞬殺されなくなるでしょう♪」
テンションが上がってしまって無意味にピョンピョン跳ねてしまう。
『ふふ。ハル。はしゃぎ過ぎだ。装備は後にして、先に向こうを見てきたら良い』
「えへ。そうでした」
アイセさんにやんわり釘を刺され、下着コーナーへと向かうのだった。
シャツ等の肌着もあるけどパンツとかブラがメインだ。
ぶっちゃけると ラ ン ジ ェ リ ー コーナーである。
色取り取りのパンツとブラが御出迎えしてくれる。
正に圧巻ッ!!
いや、転生前は洗濯物を取り込んだりする時にねーちゃんずや母さんの下着を触る事もあったし。
普通の男子に比べれば見慣れた方だと思うんだけど。
元男子が自分が履く為の女もののパンツを物色する、となると話が変わってくる。
めっちゃイケナイ事してる気分になる!?
うわ。うわぁっ。何だこのぱんつ! 布めっちゃ少ないやん! 今どきの女子はこんなの履くの!?
ってなんじゃこりゃ!? 真ん中に穴空いてるやんけ! 誰がこんなん履くねん!!
うわうわ!! これとか布と言うか最早紐やん!
エッッッッッ!! ちい下着ばっかり目が行ってしまうのもご愛嬌。
しゃーないやん! 男のままやったらこんなん出来んて!
女の体である今こそ! サキュバスなら尚更! パンツを思う存分物色する事が出来るのだ!!
「何をお探しですニャ?」
「うわあああごめんなさい悪気は無いんです許してください衛兵さんを呼ばないで下さい!!」
「…あニャー? お客さん?」
「――ハッ!?」
女性店員さんに声を掛けられて正気に戻る。
いけない。ボクとした事が。馬鹿みたいに動揺してしまった。
だってしょうがないじゃん。女物の下着コーナーでニヤニヤパンツを物色する男とか。
元の世界だったら警察沙汰になってたかもしれないし。
って店員さんメッチャ猫耳女子やん!
ゆるふわロングのピンク髪に胸元バックリ+ミニスカのドイツな民族衣装風の服。
ちょっぴり小悪魔な笑顔が可愛い女の子だ。
「ご、ごごめんなさい! その…! …えーと。替えの下着が欲しくて…」
「あー。そういう事ニャん?」
事情を察してくれた猫耳店員さんがボクに近づくとすんすん鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
いやもう恥ずかしいから止めろ下さい。
「すんすん――んにゃ? でもお客さん、そんなに臭くニャいニャ。
それどころかメッチャ良い匂いするニャ♪」
「いやあの、脇の匂いを嗅ぐのは流石に恥ずかしドン引きですから止めて下さい!」
「んニャー。細かい事気にするニャぁ♪ すんすん♪」
「細かくないわ! もうっ! 下着を買いに来たんですけど!?」
「もーせっかちさんニャぁ。すんすん♪ サイズは分かるニャ?」
「――あ」
おっふ。完全に失念してた。
昨晩ボクの胸をひたすら揉み倒したココノさんなら分かるかもだけど。
っていうかこの猫耳ちゃんいつまでボクの匂い嗅いでるの!?
それに地味に瞳がハートマークになっている気がするんだけど!?
「す、すいません。分からないです」
キュピーン! と猫耳ちゃんの瞳が一瞬ギラついた。
「…あでも今付けているのと同じ物を頂け、」
「あーはいはい♪ 了解ニャん♪ それニャらきっちり測るしかニャいニャぁ?」
手をわきわきとさせる猫耳店員ちゃん。
え? あの? 嫌な予感がするんですけど?
と思った瞬間、がしり、とボクの腕が掴まれた!?
「一名様採寸入りニャー♪」
「えっ!? ちょっ!? 待って!? サイズを測られる必要性ある!?
いやっ! 怖い助けてアイセさん助け――」
助けを呼ぼうとしても口を手で塞がれ、ボクの抵抗むなしく何だか広めの試着室に連れて行かれ――
『ひやああ!! またなのぉ!!? って尻尾触るにゃあ! 関係にゃいやろぉ!?』
きっちり採寸されました。
***
たっぷり数分掛けて採寸と言う名のセクハラを受けた後、涙目になりながら替えの下着と肌着を購入。
アイセさんや猫耳店員さんにラッキースケベされる前に速攻で着替え。
ともあれこれでようやく、汗でしっとりしたブラ・パンツとはおさらばでございます。
「古い下着、売ってくれニャいかニャ? 今ならタ~~ップリッ、サービスするニャん♪」
「絶対嫌ですっっ!!」
瞳にハートマークを浮かべるピンク髪猫耳店員さんに「フゥーッッ!!!」と威嚇する。
ココノさんとこの店員さんといい、ケモ耳な子すけべ過ぎやろ! 身が持たんわ!
あ、因みにお金はアイセさんから幾らか借りています。
「もうっ! 信じられない!」
『ど、どうしたんだハル? そんなに怒って?』
「ちょっと聞いて下さいよ! 実はさっき――」
かくかくしかじか。
えちえちせくはら。
OPPAIMOMIMOMI。
『ああ。それは多分、サキュバスのアビリティ『フェロモン』のせいだろう。
亜人は種族的にも鼻が良いから、【オーバー・ディザイア】になったんだろうな』
「え? 待って下さい。それってボクの体臭を嗅いだだけでムフフな気分になるって事ですか!?」
『いや。誰でもという訳ではないぞ? 昨晩、私はハルを抱えたまま街を飛び回っただろう?』
「あ――」
そうだ。ボクがオーバー・ディザイアして脳内ピンクになった時だ。
AFCの面々から逃れる時にお姫様抱っこされたんだっけ。
う、今思い返すと恥ずかしいな…///
『恐らく、DESが極端に高いか、逆にMNDが低いか。
亜人や獣人のように鼻が良いとか、そういう者だけだろう。
亜人はDESの数値が高めで鼻も良いからな。
だから昨日のココノもその店員も我を忘れたんだろう。
――しかし昼間からオーバー・ディザイアとは――ブツブツ――』
ああ、確かに。おかしくなったのは今のところはその二人だけだもんね。
でも幸先不安だなぁ。事ある毎にセクハラされたらホント身が持たんで。
うん。新しい装備は出来るだけ露出が少ないのにしよう。
肌が見えない分、体の匂いも少しは抑えられるだろうし。
まあ、内側は蒸れっ蒸れになるだろうけど。
となるとだ。新しいボクの防具は――
「うん! 君に決めた!」
テレレレ~ン♪
フ ル プ レ ー ト ア ー マ ー ~ ♪
銀色に輝く全身金属鎧! 圧倒的肌見せ率ゼロ!
足は遅くなるだろうけど最強の防御力が手に入るぞ!
そして何よりこれを着れば!
簡単にセクハラされなくなる!
はっはー! 流石に鎧を着た相手にセクハラな出来ないでしょー? 完璧やん♪
『いや、ハル?【重装】のスキルはあるのか?』
「? 何ですそれ?」
『――あー…そうか。【スキル】の説明を忘れていたな。すまない。うっかりしていた。
【スキル】というのは各々の分野における習熟度の事だ。
各種装備やアーツはかなり細かく分類付けされていてな。
対応する【スキル】が育っていないと装備できなかったり使用できなかったりするんだ』
「えーとつまり。重い鎧を着るには【重装】のスキルが必要って事ですか?」
『正確に言えば各種装備、アーツに設定されている【ランク】以上の【スキル】が必要だ。
――ふむ。この鎧は【重装】分類で【ランク】は2のようだ。
つまり装備する為には【重装】スキルが2以上必要となる』
「成程。あ。でもボク今買ったばかりのパンツとブラを何も考えずに付けましたけど。
下着とかにも装備に必要な【スキル】ってあるんですか?」
『あぁ…その……一部の肌着や下着には、必要のようだ』
あれ。急に歯切れ悪くなった?
――あ。さっきボクがガン見していたエッチなパンツとかがそうなのかな。
『兎も角だ。実際に画面を見た方が速い。メインメニューから【スキル】を選んでくれ」
ボクは頷くとウィンドウを操作。
デフォルメリリウム様が剣の素振りをしているアイコン【スキル】を選択する。
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
◎触媒 3
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
ん? 思ったよりシンプルな画面だな。
『私も見て構わないか?』
「あ、はい」
『――なんたる……いや、すごいな。サポートが22もあるのか』
そしてその上の【H術】も10もある。
おかしいな。職業マジシャンなのに魔法よりも得意なものが二つもあるぞ。
「あの、この数字の意味は何なんでしょう?」
「それは後で説明しようか。『防具』をタッチしてみてくれ」
「はい」
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
◎触媒 3
◎魔法 8
◎防具 1
〇重装 0
〇中装 0
〇軽装 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
「あ、項目が増えましたね」
『重装』『中装』『軽装』。この三つが防具を装備するのに必要なスキル、って事か。
『やはり、『重装』のスキルは0だな。あの鎧は諦めたら方がいい』
「ちぇ~」
カッコよかったのになー。
『見たら分かるとは思うが。◎の横の数字は〇の横の数字の合計値になっている。
近接か魔法か、あるいはサポートか。◎の数値を見れば何が得意なのか一目で判るわけだ。
ハルの場合は、マジシャンだから魔法のスキルが高めになっている訳だな』
「なるほど。けどサポートスキルが魔法スキルの三倍近くあるんですけど。
こんなのってあり得るんですか? ボクレベル1なんですけど?」
『恐らくだが、転生前の世界での技術をこちらに引き継いでいる。
私も転生直後のレベル1の時点で近接スキルが10を超えていたからな』
「ああ。そういう事ですか」
それなら納得だ。
母さんにみっちり仕込まれた家事スキルがこっちの世界でも使えるって事か。
後でサポートスキルの中身もチェックしておこう。
「ちなみ防具のこの三つのスキルって大まかにどんな特徴があるんですか?」
『ああ。まあ、おおよそ言葉の通りだと思ってくれていい。
『重装』はフルプレートアーマーなどの、足は遅くなるが防御力を重視したスキルだ。
『中装』は防御とスピードを両立させたタイプだ。革製鎧やチェーンメイル等だな。
『軽装』はスピードや特殊効果を重視させたタイプで防御力は無いに近い。魔法使いのローブなどだな』
簡単に説明するとこんなところだが。結局新しい装備はどうするんだ?』
「うーん。鎧は諦めるしかないですよねー」
魔法使いらしく、ローブとかにしようかな。今アイセさんが着てるようなヤツ。
ってなわけで売り場を見て回る。
並んでいる装備のランクは大体1~3ってとこで、ランク1の商品は種類が少ない。
『軽装』でボクが装備出来る物は二つしかなかった。
「『初心のローブ』か『使用人のドレス』」
装飾の殆ど無い地味ーな黒ローブとこれまた地味なクラシックスタイルのメイド服。
ローブの方はINTに+5のボーナスがあって。
メイド服の方にはDEXに+5のボーナスがある。
今のボクは魔法使い職だから、ローブの方がステータス的には良いんだろうけど。
サポート役(家事炊事)に徹するならメイド服で良い気もする。
ローブスタイルだと同じ魔法職のネロちゃんと被っちゃうしね。
メイド服なら転生前に何度か着た事あるし(白目)
いや、文化祭とかでね? クラスの女子やねーちゃんズに無理矢理ね?
「よし。メイド服にしよう」
防具としての性能――防御力とAPはメイド服の方が僅かに高いからね。
というか。正直なところ、今着てる破廉恥衣装でないなら何でも良いよ。
そうと決まれば早速試着してみようかな。
ボクは適正サイズと思われるメイド服を展示棚から探し出して――発見。
早速試着室にGO! と思った瞬間だった。
キーンコーン、と何度か聞いたお報せのSEがどこからともなく聞こえ、目の前にウィンドウが開いた。
[装備出来ないけど良いの~?]
「…えっ? …は?」
ウィンドウのメッセージに思わず変な声が出る。
「な、なんで!? このメイド服、軽装のランク1じゃないの!?」
『ハル? どうかしたのか?』
「それが、女神さまのアナウンスで装備できない、って」
『ふむ。妙な話だな。スキルは満たしているから普通は装備出来ると思うが。
ひょっとしたら――ハルの【タレント】や【称号】に装備を制限している、かもしれない』
「あり得る!?」
ちなみに今のボクの称号は、
『ハイパースーパーウルトラミラクルエキセントリックアメイジングどすけべ』です。
効果は戦闘で入手できる経験値が4000分の1になる(小数点以下切り捨て)。
これだけでもとんでもない逆チート称号だけど。
あの女神様の事だ。さらに装備を制限する効果があっても不思議じゃない!
そんな時、再びキーンコーンと通知SE。
[【タレント】の情報が更新されたよ~]
思わずアイセさんと顔を見合わせる。称号じゃなかった。
ボクはメニューウィンドウを出すと9つあるボタンの中から『称号/タレント』のボタンをタッチ。
されに【タレント】のボタンをタッチ。アイセさんと一緒に画面を覗き込んだ。
『==================
◎温和
◎肝っ玉
◎策士
◎貧弱
◎小柄
◎巨乳
◎ピンク髪… New!!
◎気遣い
◎舌技
◎女子力高め
◎闇の眷属
◎『○○○』の魂
==================』
あ。『ピンク髪』にNewの表示が出てる。
その事に気付いた瞬間、ウィンドウに表示される『ピンク髪』に変化が起こった!
『==================
◎温和
◎肝っ玉
◎策士
◎貧弱
◎小柄
◎巨乳
◎ピンク髪は淫乱 New!!
◎気遣い
◎舌技
◎女子力高め
◎闇の眷属
◎『○○○』の魂
==================』
『 ◎ ピ ン ク 髪 は 淫 乱 』
プツンッ…!
「やかましいわっ!!!」
バリーン!!
頭にきて目の前のウィンドウを殴りつけると景気の良い音がして砕け散った。
「フーッ! フーッ!」
『は、ハル。気持ちは分かるが落ち着いてくれっ。騒がしくすると店に迷惑が掛かる』
「ボクは散々迷惑掛けられましたけどね!? っていうか何やねん!?
何が『ピンク髪は淫乱』やねん! 好きでこんな派手な髪になった訳や無いわーっ!!」
『そ、そうか? 私はハルのその、桃色の髪は結構好きなのだが…』
―――――――――――――――え?
「アイセさん? ボクのこの髪、ちょっと派手じゃありません?」
『いや。そんな事はない。私は可愛いと思うぞ。とても良く似合っている』
「そ、そうですか…似合ってますか…」
仮面の下で、アイセさんが微笑んでいる気がした。
男のボクからすれば『可愛い』なんて誉め言葉には当てはまらない。
それどころか女々しさに対するコンプレックスが刺激されて言われるのが辛い、と感じてしまう。
けど。
アイセさんが似合っていると言ってくれるのなら――
――えへへ♪ 悪い気はしないかも♪
『ハル? どうかしたのか?』
「い、いえっ? 何でもありません」
何だか急に気恥ずかしくなって顔を背ける。
そう言えば、結局『ピン淫』の効果を確認してなかったな。
あんまり見たくないけど。一応、確認しとこうかな。
『===================
ピンク髪は淫乱
===================
説明
ピンク色の髪をしたソコの貴方!
貴方はエッチな事にも興味津々!
意中のあの人を落とす為なら
あの手この手も何のその!
女の武器に磨きを掛けて
同年代に差を付けるよ!
効果はDESがメチャ上昇♪代わりに
『露出LV2』以下のコーデは出来ないぞ♪
===================』
エッチな事に興味津々 ←分かる。
意中の人を落とす為なら… ←まあ分かる。
女の武器に磨きを… ←分かりたくない。
DESが上昇 ←やめてください。
露出LV2以下のコーデ不可 ←!?
「露出レベルって何だあっ!?」
「説明するニャぁ♪」
「うわ出た!?」
突如割って入った例の猫耳店員にボクとアイセさんが同時に引く。
「よ、寄らないで下さい! またセクハラする気でしょう!?」
「いやいや、そんニャしょっちゅうお客さんニ迷惑かけニャいって。
さっきは【オディ】ちゃってちょっとお客さんニ迷惑掛けてしまっただけニャ。
いやぁ。お客さんの『フェロモン』、めっちゃ強いニャ。
極上のマタタビでもあんな一瞬で【オディ】らニャいニャ」
「え?【オディ】るって何です?」
「ニャんでサキュバスニャのに知らニャいニャ?【オーバー・ディザイア】の略ニャ」
「ああ…」
「さっき『Hポーション』呑んで【オディ】状態も解除したから今は正気ニャ。
ニャ。瞳にハートマーク浮かんでニャいニャ?」
パッチリウィンクする猫耳店員さん。
確かに彼女の猫目にはボクにセクハラし倒した時のようにハートマークは浮かんでいない。
ああ。瞳にハートマークが浮かんでたら【オディ】ってるって事なのね。
「お困りに見えたから、さっきのお詫びも兼ねてお買い物のお手伝いをさせてもらうニャ♪」
「あ……助かります」
なんだ。この猫耳店員さん。可愛いしめっちゃ親切やん。
さっきのセクハラもどっちかって言うとボクの『フェロモン』のせいだし。
「ところでお客さん♪」
「?」
猫耳店員さんは自分のほんわかウェーブのピンク髪を両手の人差し指で指し示す。
ピクピクっ、と動く猫耳がとっても可愛い。
そしてすぐにその指をボクの顔、というか髪に向けた。
「仲間ニャ♪」
―― ピ ン ク 髪 は 淫 乱 ――
「一緒にしないで下さい!! ボクは見ず知らずの人にセクハラなんてしませんからね!」
「ニャハハ♪ お客さんツンデレすけべニャ♪」
「ちゃうわい! もうっ! 説明しにきたんじゃなかったんですか!?」
「ニャハハ♪ そうだったニャ♪ お客さん、自分の装備画面は見た事あるニャ?」
「そう言えば、ないですね」
「試しに見てみるニャ♪」
言われるがままにウィンドウを操作して装備画面を開ける。
すると新たにウィンドウが二つ、左右に並ぶように現れた。
『===================
『変更』『最強装備』『全て外す』
『コーデを保存』『コーデを呼び出し』
===================
コーデ名:淫マジシャン♪
右手:――――
左手:――――
補助:――――
頭:情熱のリボン
体:淫魔見習いの淑女服(上)
腰:淫魔見習いの淑女服(下)
腕:淫魔見習いのカフス
足:情熱のパンプス
外套:――――
インナー:――――
アンダー:純情のショーツ+ブラ
ソックス:魅惑の二―ソックス
アクセ1:小悪魔チョーカー
アクセ2:――――
アクセ3:――――
===================』
まずは左側のウィンドウ。
これは、今現在のボクの装備か。
えーと何々ー?
一番上のはメニューか。保存とか呼び出しとかあるけど。
気に入った装備のセットなんかを登録しておけるって事かな。
んで右手、左手、補助――これは何? 空白だけど。
多分武器の装備欄かな?
それから頭装備と体と――
「――うん?」
体:淫魔見習いの淑女服(上)
腰:淫魔見習いの淑女服(下)
「は?『淫魔見習いの淑女服』?」
淑女? 淑女だって?
ボクは思わず自分の体を見下ろした。
谷間が見える。ブラもチラ見え。脇だって丸見えだ。
ワンピースのスカート部分も短いし、油断しているとパンチラ不可避だろう。
「これのどこが淑女やねんッ!?」
バキャァンッ!! と無言で左側のウィンドウを殴り割る。
猫耳さんとアイセさんがビクリと肩を震わせた。どうでもいい。
ちなみに右側のウィンドウは――
『===================
右手 攻撃:19 命中:70 会心:3
左手 攻撃:16 命中:56 会心:3
補助 ――――
===================
重量:9/25(36%) 身軽さ:B+
露出LV:3 頑強さ:0
AP:20 耐物 斬:― 刺:× 打:―
物防:5 耐魔 光:× 闇:〇 H:◎
魔防:15 炎:― 水:― 氷:―
H防:20 風:― 雷:― 地:―
===================』
ああ、右側はステータスか。
「ええと。露出レベル幾つにニャってたニャ? 多分3ニャ?」
「…よく分かりましたね」
「まあ、この商売を続けてたら自然と分かってくるニャ。
ちなみにニャ。露出レベルは装備の組み合わせで変わってくるニャ。
右側ウィンドウの露出LVが3以上じゃないと『ピンク髪は淫乱』の効果で装備出来ない、ってなる訳ニャ」
成程。つまり結局ボクは、今着ているようなエッチぃ服しか装備出来ない、って事か。
ははははハハハハハハハハhahahaha!!
害悪くそタレントやんけ。
「あニャー? お客様ー? 目が座ってるニャー?」
「あ、すいません。もう愛想笑いする気力も無いんで」
エッチな衣装が脱ぎたくて防具屋に来たのに意味が無かった。
「ちなみに露出レベルって最大いくらなんです?」
「5が最大ニャ。下着オンリーとかビキニタイプの水着とかニャ。
最小値は0ニャ。暑っ苦しいフルプレートアーマーは大体0ニャね」
ああ。うん。なんとなく分かった。
今着ている服よりも更にエッチな服があるって事がね!!
「どっちにしろ、売っている物が装備できないならこの店に用はありませんね。
さようなら。もう二度と来ません」
「ちょちょっ、ちょっと待つニャぁ! お客さん、『エチテク』のスキルは持っているニャ!?」
「何そのいかがわしいスキル!?」
『ハル。『H術』のスキルの事だ』
あー。さっきスキル画面開いた時にあったね。
「ウチが一瞬でオディるくらいのフェロモンの持ち主ニャ。
きっと『エチテク』のスキルもバカ高いニャ♪」
これ褒められてるの? 馬鹿にされてるの?
いやまあ、サキュバス的には褒め言葉なんだろうけど。
「10? くらいあった気がしますけど?」
「え? マジニャ!? じゃあ『色装』のスキルはいくらあるニャ!?」
「いやだから『色装』ってなんやねん」
「『H術』スキルを開けば分かるニャ!」
はいはい。じゃあスキルの画面を開いて。
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
◎触媒 3
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
◎サポート 22
====================』
ええと。『H術』のタッチ。
『====================
◎近接 1
◎射撃 1
◎魔法 8
◎防具 1
◎H術 10
〇性技 3
〇H魔法 3
〇色装 4
◎サポート 22
====================』
『色装 4』――あ。これか。
っておい。軽装スキルが1に対して色装スキルが4もあるのなんやねん。
「4、ですね」
「4!? 流石サキュバスニャ! 4もあるニャ! エッチニャ!」
「って一言多いわっ!」
「褒めてるニャ♪ そうそう『色装』のランク4ニャら――」
ボクのノリツッコミをさらりと流し、店の奥へと姿を消すエロ猫。
そしてすぐにガラガラと音を立てながらワゴンを運んで来た。
「――お待たせニャ! これが一番性能良いニャ!」
ワゴンの上には展示用のマネキンが乗っかっていた。
そしてそのマネキンが着ている物はというと――
「ぶ!?」
「ウチの一押し商品、『コーラル・アーマー』ニャ!」
思わずそれを見てボクは噴出してしまった。
だってこれ、どっからどう見ても!
「着れるかあああぁぁぁっっっ!!! ビキニアーマーやんけえぇっ!!」
マネキンに着せらせた、三角ビキニタイプの蒼い軽装鎧だ。
ブラ型アーマーと丸っこい肩アーマー。それと腰アーマー。
膝から下を覆う足装甲やガントレットは結構立派に見えるけど。
頭の蒼い石がはめ込まれた羽付きサークレットとか!
肩アーマーから伸びるベージュ色のマントもおしゃれだけど!
それでもなぁ! 股座を覆うのは薄っぺらい▽紐パン一枚!
お臍もお腹も丸見えやぞ! 胸元だって開放的すぎるでぇ!
誰やねん!? こんな頭のおかしいデザインの鎧を最初に考えた奴は!?
「そ、そんな怒る事ニャいニャ♪ 性能メッチャ良いニャ♪」
「はっ!? 嘘やろ? 脇もお腹も股座も、何なら首元もスカスカやんけ!
これで何で性能が良いって言えるねん!?」
「そんな事言われても困るニャ…こっちはカタログスペックを紹介してるだけニャの二…」
『ふむ。そこまで言うなら性能を見せてもらえるか?』
アイセさんの要求に、猫耳さんは二枚のウィンドウを召還。
少し操作するとドヤ顔しながら画面をこちらに向けた。
===================
コーデ名:浜辺の戦士!
右手:――――
左手:――――
補助:――――
頭:珊瑚のサークレット
体:△△コーラル・アーマー
腰:▽▽コーラル・アーマー
腕:コーラル・ガントレット
足:コーラル・グリーヴ
外套:海辺のマント
インナー:――――
アンダー:――――
ソックス:――――
アクセ1:――――
アクセ2:――――
アクセ3:――――
===================』
ええと、そうそう左側の画面が名前とかで、
右側がステータスとか性能の表示だっけ。
どれどれ、性能は――
『===================
右手 ――――
左手 ――――
補助 ――――
===================
重量:11 頑強さ:21
露出LV:4
AP:80 耐物 斬:〇 刺:― 打:―
物防:30 耐魔 光:〇 闇:× H:〇
魔防:35 炎:〇 水:♪ 氷:×
H防:30 風:― 雷:× 地:―
===================』
――いや、これひょっとして結構強い?
さっきの見たボクの装備に比べて数値も高いし、属性耐性も優れている。
『…なんたる…見た目に反してかなり高性能だな。基礎防御力が想像以上に高い。
何より物理・魔法に関わらず複数の属性にある程度耐性を持っている。
しかもこの防御力でこの重量。軽装の軽さに中装の防御力を足したような物だ。
見た目に目を瞑れば、軽装戦士なら誰でも欲しがる一品だな』
「え!? そんなにですか!?」
『ああ。かなりハイスペックだ。しかも市販で水属性吸収効果が付いている物など滅多に無いぞ。
欠点と言えば闇と氷と、それから雷に極端に弱いくらいか』
「ニャフフ…旦那ぁ…良く分かってるニャぁ。
さっき迷惑を掛けたお礼に、今ニャらそこの可愛い彼女にお安く提供出来るニャぁ?」
『…ふむ。幾らだ?』
「24,800Zのところを今回は――20,000ぽっきりにするニャ!」
20%オフ…だと!? OPPAI料金も捨てたモノじゃないネ☆
いやこの世界の相場はまだ良く分からないけど。
少なくともさっき手に取ったメイド服は3,200Z。ローブは2,900Zだった。
それを考えると――これはかなり良い買い物では無いだろうか。
『…参ったな。商売上手だ…どうするハル? 初期装備では心元ないだろう?
この際こちらにしてみるのも一考の価値はあるぞ?』
「そうニャ♪ これ着れば魔法職でもちょっとは耐えられるようになるニャ♪
とってもお勧めニャ♪」
……確かに魅力的な性能。魅力的なお買い物なのだろう。
「だが断る」
今でも充分恥ずかしいのに、これ以上に恥ずかしい服(鎧)なんて着れんわ。
「ニャぁんだ…折角、不良在庫を処分出来ると思ったニョに」
「そんな事だろうと思いましたよ!」
もうこの店に用は無いな、と思い、アイセさんの袖を引く。
「ちょ、ちょっと待つニャぁ!」
「何です? もう何も買いませんよ?」
「買い物じゃなくてプライベートの話ニャ」
「はい? プライベート?」
話が全然見えないんだけど。
「その前に――ウチ、『ミーナ』って言うニャ♪ お客さんの名前も教えて欲しいニャ♪」
「……ハル、ですけど」
あ。本名言うの、ちょっと軽率だった? いや、別に有名人でも無いし構わないか。
「ハルニャん♪ 可愛い名前ニャ♪」
「…あー…ありがとうございます」
ボクはミーナさんのお世辞に愛想笑いを浮かべた。
普通の女子なら、見た目や名前を可愛いって言われたら悪い気はしないんだろうけど。
いや、ボクこんなんだけど。中身男子だからね? 可愛いって言われても嬉しく無いからね?
それどころかむしろ逆効果だからね?
「それでニャ。ウチ、今晩仕事上がってから仲間と一緒に遊びに行く予定ニャ。
ハルニャんもどうニャ?」
おぉ? 遊びのお誘いか。
どうしよう。アイセさん達のパーティ(ヴェイグランツ)の予定とか都合もあるけど。
自由な時間を取れそうならお付き合いしても良いかもしれない。
この世界で生きてくにはボクは勉強不足だし、色々見聞きするのは大事だと思う。
物価とか、何が売ってるかとか、流行りものとかね。
「ちなみに具体的な予定とかはあります?」
「ニャぁ♪ 男漁りに行くニャ♪」
――――――――――――――え"っ?
「ぎゃ、逆ナンしに行くんですか!?」
「そうニャ♪ 仲間で集まって、誰が一番早くイイ男を捕まえられるか競争するニャ♪
エチテクスキルに磨きが掛かるニャ♪」
ちょっと待って。エチテクとか逆ナンとか普通に言うこの子のお仲間って……
「あの、ひょっとしてミーナさんのお仲間って……」
無言で自分とミーナさんのピンク髪を指差す。
「当たりニャぁ♪『淫ピン』仲間ニャ♪」
ふぁっ!? そんなコミュニティまであるのこの世界!?
「そんニャ引かなくても良いニャ♪
ハルニャん、ウチが知ってる誰よりもエチテクスキル高いニャ♪
それに、何か特別なアビリティかタレントを持ってるニャ? それも激ヤバなヤツニャ!
じゃニャいとさっきみたいに、匂いだけで一瞬でオディるニャんて絶対無理ニャ♪
しかも通常じゃオディる事の無い真っ昼間ニャ! 普通のサキュバスじゃ出来ない芸当ニャ♪
だからハルニャんならどんな男でも脳殺確定ニャ!」
「ボク逆ナンするような子達よりもHじゃん!?」
っていうか普通のサキュバスよりもHな能力を持っているって言った!?
ボクレベル1だよ!? だけどそこらのサキュバスよりもH系の能力が強いって事!?
狼狽えていると再びキーンコーンとお報せのSEが響いた。
[タレントの情報が更新されたよ~]
またなの? 嫌な予感しかしないんだけど。
ま、念の為に確認はするけど……
ウィンドウを操作してタレント画面を開ける。
『==================
◎温和
◎肝っ玉
◎策士
◎貧弱
◎小柄
◎巨乳
◎ピンク髪は淫乱
◎気遣い
◎舌技
◎女子力高め
◎闇の眷属
◎『○○○』の魂 New!!
==================』
うぅ。こいつかぁ。エロチートのタレント。っていうかもう諸悪の根源やろ!?
汚いものにでも嫌々触れるように『○○○』の魂をタッチ。
『==================
『○○○』の魂
==================
説明
『○○○』ってエッチだよね?
その魂を持っているそこの貴方!
貴方はとってもエッチです!
え?『○○○』が何かだって?
分かる人だけ分かればいいよ~。
ちなみに効果はすっごいよ~♪
DESがメチャンコヤバイ程上昇♪
H系等の称号・アーツ・アビリティの
取得・装備条件もアリエナイ程緩和♪
更に♪ 昼夜関係なく、
オーバー・ディザイア付与が可能に♪
これで今日から貴方もエロ大魔王だ!
==================』
ワー、ヤッター。チートスキルダー(白目)。
オーバー・ディザイアって夜間限定の状態異常ってココノさんから聞いたよ!?
その条件をひっくり返す能力とか恐ろしすぎる…!!
「うニャ!? すっごいタレントニャ!? ハルニャん想像以上にHニャ♪」
「あ!? も、もうっ! 勝手に見ないで下さい!」
慌ててウィンドウを消す。
「まあまあそんニャ目くじら立てなくても良いニャ。
それに、そのタレントがあれば百人力ニャ♪」
「逆ナンするのにボクを利用するって事ですよね!? 絶対嫌ですから!」
「ふっふっふー。この情報を聞いてもそんニャ事が言えるかニャ~?」
「情報? な、何の話です?」
「うニャぁ♪ ここだけの話。あの超有名冒険者『アイセ』がこの街に来てるらしいニャ♪」
「――あ(察し)」
ちらり、と。すぐ隣で成行きを見守っていた当のご本人を盗み見る。
お? これはぁ――微妙に体を震わせていますねー。カタカタと。
そりゃコワイよね。『後でパーティ組んで襲いに行く(性的に)ゾ♪』って事だもんね。
ただバトルするならアイセさんに怖い者は居ないだろうけど。
女の武器で勝負してくる相手はコワイ、と。
「運が良ければあのアイセニャんを見付けて誘惑出来るニャ♪
あ。流石にアイセの事は知ってるニャ? 有名人ニャ」
「えぇ。はい。良く知ってます。それはもう」
優しくて。強くて。でも天然ジゴロなあの人でしょ? すぐ隣に居ますよ?
――あ、気取られないように距離を取り始めた。
アイセさんってば、天然たらしの癖に、Hな女の子には弱いのか。
……ふーん。へー?
「ニャら話は早いニャ♪ ハルニャんが加われば鬼に金棒、淫ピンにエロ衣装ニャ!
皆で噂のアイセニャんをゲットしてニャンニャンするニャ♪」
「あぁ、折角のお誘いですけど、間に合ってます♪ 行きましょう♪」
『あ、あぁ……』
「えっ? うニャ!? ま、待つニャっ!? あのアイセニャんに、興味ニャいニャ!?」
慌てた様子のミーナさんに手を振る。
「……ニャんだ羨ましい。もう男持ちニャ」
ぼやくミーナさんを背に店を出る。
結局新しい装備は買わずじまいだったけど。
「えへ…」
自然と笑みが零れる。
『ハル? どうかしたのか?』
「別に? 何でもありませんよ? それよりアイセさんは自分の心配をしないと」
『ああ。今晩は宿から出ない方が良さそうだ』
「そうですね♪」
誰の手にも届かない、今が旬の凄腕冒険者『アイセ』の隣にボクは居る。
更に今この瞬間は、独り占め状態だ。
その事実が何だか嬉しくて。
足取りだって軽くなる、ってなもんさ♪
いやマジでビキニアーマー最初に考案したん誰なんでしょうねw?
次回投稿は8/13(木)AM8:00の予定です。




