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12月25日朝C 【思い出】

 子供の頃の夢を見た。

 小学校に上がる前のクリスマスの夢だ。当時の俺はテレビの戦隊ヒーローに憧れていて、クリスマスには合体するロボットが欲しいとサンタクロースに手紙を書いた。イブの夜には枕元に大きな靴下をぶら下げて、期待に胸を膨らませながら眠りについた。翌朝目を覚ました俺は真っ先に靴下を確認したが、ペタンコの靴下の中には何も入ってはいなかった。



  ◇



 小さい頃はクリスマスといえば一大イベントで、毎年冬の訪れが待ち遠しくて仕方なかった。

 それがプレゼントが貰えなかったあの時から、俺にとってクリスマスは嫌な思い出の一つになったのだ。

 子供のクリスマスプレゼントを忘れるなんてろくでもない親父じゃないか。

 夢の怒りを引きずりつつベッドから起き上がり枕元に吊るした靴下を見ると、中に何か入っているように膨らんでいる。昨日吊り下げた時は確かに何も入っていなかった。

 不思議な気分で靴下の口に手を入れてみる。指先にひんやりと硬い感触。

 中から出てきた物は、俺が子供の頃に貰いそびれたロボットだった。

 赤、青、緑、黄色、黒の胴体と手足。リーダーであるレッドの掛け声に他のメンバーも応え、それぞれのパーツがガシャガシャとくっついていくシーンを、小さな俺は毎週食い入るように見ていたものだ。右手に持った剣も格好良くて好きだった。

 誰がいつの間に靴下に入れたのだろうか。

 俺は昨夜、靴下は下げたが欲しい物を告げないまま眠った。何も思い付かなかったのだ。

 あの少年は本当にサンタ見習いで、師匠のサンタクロースが15年前のクリスマスプレゼントを今になって持ってきたということだろうか。

 ずいぶん遅れてきたクリスマスプレゼントだな。

 今さらこんな物貰ったって、あの頃みたいに喜べるわけが無いのに。

 あの年のクリスマスの朝、空っぽの靴下を見た俺がどんなに落胆したことか。わんわん泣いて、暴れて、泣き疲れて眠るまで両親は手を焼いたと思う。

 二人とも、涙で顔をぐしゃぐしゃにした俺にケーキを持って来たり、アニメのDVDを見せたり、手を替え品を替え、なんとか宥めすかそうとしていた。

 今になって両親のすごさが分かる。俺が親だとして、あんな風にぎゃあぎゃあ泣き喚く子供に根気強く付き合っていられるだろうか。途中で放り出してしまいそうだ。

 優しく俺の頭を撫でる手は温かかった。


 大学生になって一人暮らしを始めてから、親と顔を合わせることも話をすることも少なくなった。歳を重ねるごとに親を鬱陶しく感じるようになり、次第に距離を取るようになったように思う。一人の生活は気楽で、実家にはあまり帰りたくないとさえ思うようになってきた。

 両親はどうしているだろうか。

 不意に胸を締め付ける郷愁に、俺はロボットを弄ぶ手を止めた。

 枕の傍のスマホを取って電話を掛ける。数回のコール音の後に、20年も聞き慣れた声が聞こえた。


「あら、あんたから掛けてくるなんて珍しいわね。元気? 風邪引いたりしてない? お正月バイトだなんて言ってたけど、帰って来られないの?」

「元気だよ。帰らないつもりだったけど、バイトは30日までだから、やっぱり31日に帰ろうかな。そっちは変わりない?」

「うん、お父さんもちょっと太ったけど元気よ。何時の電車で来るの? 駅まで迎えに行くから」

「分かった。決まったらまた連絡するよ」


 相変わらず、母さんは俺のことを心配してばかりだ。

 あの時ロボットが貰えなかったのは父さんのせいじゃなく、サンタクロースの失敗だった。

 子供の俺が貰えなくて泣き叫ぶほど欲しかったロボット。

 ロボットは無くても、本当はずっと、もっといいものを貰っていたのかもしれない。


 少し遅いけど、バイト代で父さんと母さんにクリスマスプレゼントを買って帰ろう。

テーマ:ちょっといい話風

次で終わりです。

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