表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

12月25日朝B 【クリスマス消失】

 スマホのアラームで目が覚める。時は午前8時。今日は4限だけなので昼までのんびりできる。

 ベッドに半身を起こして伸びをするとようやく頭が冴えてきた。そうだ、昨日の靴下はどうなっただろうか。ベッドサイドに目をやると、吊り下げたはずの靴下が見当たらない。落ちたのかと思いベッドから下りて下を覗いたが、どこにも無い。

 酔ってどこかに片付けたのか、あるいは捨ててしまったのかもしれない。そんなに悪酔いするほど呑んではいないのだが。それとも、あの少年も、靴下も、全て夢だったのだろうか。確かにおかしなことを言う少年だったし、サンタクロースがいるなんて現実味のない話だ。

 まあいいか。

 俺は靴下のことはさほど気にせず、朝食を食べてスマホでゲームをしたりしてだらだらと午前中を過ごした。



  ◇



「うーっす」

「あ、お前昨日なんで鍋来なかったんだよ。バイト終わってから来るって言ってなかったっけ?」


 大学の教室で見知った顔に声を掛けると、返ってきたのは意外な言葉だった。


「え、昨日クリパでもやってた? お前彼女と過ごすんじゃなかった?」

「何、クリパって? 悠斗とか将貴達と俺んちで鍋やるって話だったろ」

「いや、クリスマスイブだしみんな予定あるって言ってたじゃん」


 鍋をやるなんて話聞いていない。大輔のやつ、俺に話したつもりで忘れてたな。しかもこいつ彼女とデートだってさんざん俺に自慢してたくせに、もしかして振られたのか?


「つうか、さっきから何言ってんの。そのクリなんとかってなんだよ」

「は? 何その冗談。つまんなくね」

「え?」

「え?」


 大輔のまるでクリスマスを知らないような素振りに呆れたが、彼の顔は冗談を言っているようには見えない。こいつこんなに演技派だったか。

 でも、そういえば今日はクリスマス当日だ。一番盛り上がるのはイブの昨日とはいえ、今日まではクリスマスムードが続いているはずだ。それなのに、起きてからテレビをつけても、ネットで色々なサイトを見ても、大学に来る途中でも、クリスマスに関する物は何も無かった。コンビニのフライドチキンのポスターも、スーパーの店員が被っていたサンタ帽も、街に流れるクリスマスソングも、全て無かったのだ。

 まさかと思いながらもスマホで「クリスマス」と検索する。おそらくウィキがトップ辺りに出てくるはずだ。

 ……無い。

 念のため「サンタクロース」も検索したが、やはり出てこない。

 そんな、まさか。


「なあ大輔、サンタクロースは分かるよな?」

「何それ、三択ロース?」


 大輔は本気で不思議そうな顔をしている。ともすると俺のことを変な奴だとさえ思っていそうだ。

 俺は内心焦っていた。今のこの状況に心当たりがあるからだ。

 昨夜寝る前に俺は、『クリスマスなんて無くなればいい』と言ったのだ。

 あの少年は夢ではなかった。俺が呟いたのは欲しい物ではなかったが、あの靴下は願いを叶えてくれたのに違いない。


 他の友人にもそれとなく尋ねたり図書館で辞書や本を調べたりしたが、結局「クリスマス」の存在はどこにも見付からないままだった。

 この世界から「クリスマス」は消失し、俺のおかげで全てのぼっちが救われたのだ。



  ◇



 年が明け一週間ほど過ぎ、正月ムードもだんだんと薄れてきた。正月が過ぎれば今度はバレンタインだ。街はすっかり赤やピンクのハートに装いを変えている。

 まったく次から次へと節操無しだ。こんなことならクリスマスと一緒にバレンタインも無くなるように願えば良かった。

 相変わらずそういったイベントに無縁な俺は、あの日と同じようにバイト帰りに夜の街を歩いていた。


「近藤広明さんですね」


 突然名前を呼ばれて顔を上げると、ちょうどあのサンタ見習いの少年がいたのと同じ辺りにスーツの男が立っていた。高そうな腕時計を付けてピカピカの革靴を履き、俺を見下すような目でニヤニヤ笑う姿からはどことなく勝ち組オーラが漂っている。正直言って苦手な人種だ。


「そうですけど、何ですか」

「一緒に来てもらうよ」


 気付くとガタイのいい黒いスーツの男達が俺の両脇から腕を掴み、俺は抵抗空しく車の中へ押し込まれてしまった。



  ◇



「あの、どこへ連れて行くんですか。あなた達は誰なんです?」

「それは君が知る必要は無い」


 車の後部座席に座らされた俺は、大柄な男二人に挟まれてどうやっても逃げられそうにない。なんとか突破口を見つけ出そうと助手席のニヤニヤ男に話しかけるが取りつく島も無い。


「俺、どうなるんですか……」


 頭の中を最悪の結末がよぎる。

 短い人生だった。まだ彼女も出来たこと無いのに……。


「……君は、クリスマスを消しただろう」


 なぜニヤニヤ男の口から「クリスマス」という言葉が出てくるのだろう。クリスマスのことはもう誰も覚えていない、いや、初めから存在しないことになっているはずだ。しかも、彼は俺がクリスマス消失の原因を作ったことを知っている。


「なんで、それを」

「勝手なことをされては困るんだよ。クリスマスの経済効果がいくらだと思っているんだ。君のおかげで儲けそこなった人間は山ほどいる。我々がせっかく苦労して日本にクリスマスを定着させたというのに、まったく余計なことをしてくれた。君は、我々だけでなく世界中に敵を作ったんだ」


 わけが分からないことばかりだ。「敵」ということは、やはり俺は殺されるのか? 俺が何をしたっていうんだ。俺は全世界のぼっちから感謝されるべき救世主じゃないか。


「おい! 避けろ!!」


 ニヤニヤ男が叫ぶと同時に車は左右に方向を変え、シートベルトをした俺の体も大きく揺さぶられる。舌を噛まないように歯を食いしばりながら外に目を向けると、進行方向に車が数台道を塞ぐように止まっているのが見えた。車の傍には4、5人のサングラスをかけた外国人が立っている。

 俺の乗った車はコントロールを失いガードレールにぶつかってようやく止まった。


「くっそ、奴らも嗅ぎつけたか!」


 ニヤニヤ男が忌々しげに吐き捨てて車を飛び出し、他の同乗者達もそれに続く。今、男達が拳銃のような物を取り出すのが見えた気がしたが、ここは日本だ。そんな物騒な物があるわけが……。


 パンッパンッ


 やはり気のせいではなかった。

 俺は頭を低くして男達が銃撃戦をしているのと反対のドアから車を降りた。幸い手も足も拘束されていないし、多少ぶつけたりしたがシートベルトのおかげでどこも怪我は無い。

 銃声と怒号を背中に聞きながら、俺はこれまでの人生で一番必死に走った。今なら自己ベストが出せるだろう。

 なんで俺がこんな荒唐無稽な状況に巻き込まれているんだ。俺がクリスマスが無くなればいいと願ったからか? 元はと言えば、あのサンタ見習いがプレゼントをくれるなんて言うからだ。いや、そもそも俺が子供の頃にサンタがプレゼントを忘れたことが発端じゃないか。


 ほら、やっぱりクリスマスなんて無ければいいんだ!

テーマ:陰謀論

もはや25日朝ではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ