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序章2 空虚な毎日

翌日、愁は目覚まし時計の音で目が覚めた。


寝ぼけ眼で時計を見ると時刻は9時5分。


まだ眠たい……


愁は早めに起きれたにも関わらず二度寝しようとした。が、どうにも目覚ましの音がやかましくて眠れない。


愁は小さく悪態をつき、体を襲う疲労感を背負いながらも部屋の隅にある時計を止めた。 ようやく静かになった愁の部屋。愁はため息を吐き、重い体を引きずってベッドに戻る。


(…せっかく早起きできたんだし、起きないと)


そう思った愁だったが、そこへ誘惑が襲う。


(いや、もう一眠りしよう。まだ疲れてるだろう?)


ふたつの心は愁の中で延々と闘っていたが、迷っているうちに眠気が覚めてしまったので、結局愁は起きることにした。


階に降りた愁は、テレビをつけてから朝食の準備を始めた。ご飯を茶碗によそってから、味噌汁を温める。鍋の横にあるフライパンを開けてみたら、目玉焼きがひとつ入っていた。


愁はそれらを適当にテーブルの上に並べると、お茶を湯呑みに注いだ。


テレビの中では今世間を騒がせている環境問題や国会の動き、タレントの熱愛などを騒々しく伝えている。


愁は興味のある環境の事以外は聞かずに、ただ箸を動かした。


そしてまた思う。


味気ない。


どうして?


自分の中で自然に生じた疑問を無視するべく、愁はテレビに視線を向けて頭を切り換えた。




相手を思いやる事が大切、なんてよく言うけど、正直信じられなかった。


みんな自分の事で手一杯。がんばる事に精一杯で、他の人のことはどうせ二の次だ。


自分さえよければって言うけど、それが本当じゃないか?


どんなに仲良くても、離れてしまえば相手の事なんてわからない。


うちの家族が良い例だから、僕はずっとそんな考えを持ってた。


疑わなかったけど……ほんの少しだけ、冷めた考えの自分に嫌気がさした。




愁は冷凍チャーハンで軽く昼食をとった後、リビングでのんびりテレビを見ている。


ちょうど今の時間帯は昼のドラマをやっている。愁は暇つぶしにそれを見ていた。


家庭的ないい雰囲気で展開するドラマもあれば、愛憎入り交じる悲劇的なドラマもある。 愁は、これがみんなが言ってたドロドロか、と興味本位で眺めていた。


やがて、妻が夫の浮気相手を糾弾する場面に入り、愁はテレビを消した。


昼食の食器を洗う気にもなれず、ソファに横になった。


今日はどうしようかな……


愁は午後は何をしようか考えた。外は雲は多いが晴れている。


いつもならすぐ自室へ戻ってパソコンに直行なのだが、今日は天気がいい。ずっと家の中にいるのは少しもったいない様な気がした。


愁はソファから起きあがった。そして流し台に置きっぱなしの食器を一瞥すると、リビングを出て2階に上がった。


こんな時間に外出てもすることないしな……


部屋に入ると愁は熱い空気にムッと顔をしかめた。そして長袖のシャツをすぐに脱いで、薄い水色のシャツを着る。


6月も中旬に入ろうとしていた。だが、地球温暖化のお陰か、気温は平年より3度以上高い。


「まだ6月なのに」


愁は一言つぶやいて、これから始まる夏に思いを馳せた。夏は毎年北海道や東北の涼しい所に旅行に行っていた。今年はどうだろうか。


愁は、家族揃って避暑地へ旅行に行く光景を思い浮かべてみた。ついでに終業式に出ている自分の姿も。


……何も、浮かばない。


唯一、ストレスで苛立っている自分のイメージだけが頭に残った。


つまんないな。


愁はベッドに寝そべった。昼食の後の心地よい眠気が体を襲う。


ふと、何年か前に箱根へ遊びに行ったときのことを思い出す。


家族揃って入った露天風呂。遠い記憶というよりは、もはや愁には幻に近い。


自然に瞼を閉じると、愁の意識はすぐに途切れた。




「おい愁?いるのか?」


誰かがドアをノックしている……


愁は頭を回転させ、ドアの方を見た。その時、入るぞ、と言って慶太がドアを開けた。


「なんだ、寝てたのか。ただいま」


「…おかえり。今何時?」


愁は目をこすって時計を見た……3時を過ぎたところだった。


なんでこんな時間に帰ってくるんだ?


「今日早いね」


愁はいらいらした気持ちを隠して言った。


「特別日課だったからな」


腹減ったなぁ、と言いながら慶太は部屋を出た。残された愁は睡眠を邪魔された事と、兄がこんなに早く帰って来ることに苛立ちを感じていた。


なんだよ、兄貴面しやがって…


そのあと愁は何もすることなく、ただぼんやりと時間を過ごした。


愁の心は怒りとストレスでいつになく不安定だった。


夕方になり、母親の純子が帰ってきてからすぐに夕食になった。


愁はいつもどおり、テレビや慶太の話題に見向きもせずに腹八分目の量を食べきった。 ごちそうさまをつぶやく事無く、リビングをあとにする。


どうしようもない気持ちを押さえるべく、早く一人になりたかった。


「おい愁」


だが愁は慶太に呼び止められた。ちょうど階段を上がるところだった。


「なに?」


愁は不機嫌な気持ちを剥き出しにして振り返った。


「おまえ、学校行かなくていいのか?」


「…は?」


いきなりなんだ?


「母さんも心配してるし…クラスの友達だって心配して、」


「うるさい」


慶太は愁の思わぬ言葉に一瞬止まった。


「うるさいって、おまえな…」


「うるさいんだよ!いつも無視するくせにこんな時だけ兄貴面すんな!」


愁は怒鳴ると、階段を一気に駆け上がってそのまま部屋に戻った。


慶太は反論できないでいた。


愁の言うことが、本当のことだったからだ。


言葉に表せないストレスは、確実に愁の心を蝕んでいた。




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