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彼女は夢のなかで目覚める

拙い文章ですが、よろしくお願いします。

 微睡む意識の中で、彼女はようやく覚醒した。

 辺りを見渡してみると、そこには不思議な光景が広がっている。


 木々よりも背が高いキノコや、普通の何倍もの大きさの蝶。鳥たちは何色もの羽をもち、楽しそうに飛び回っている。


 森の奥に行くと、一際大きな木が見えた。大人の男性が何人か腕を広げ、幹を囲んでもまだ足りないほどだ。大木からは淡い緑色に光る粒が、まるで花を散らすかのように散っていた。


 大木の下には小柄な女性が座って彼女を見上げていた。


 桃色の髪をハーフアップにし、薄い黄色の瞳は彼女を映している。顔立ちは整っており、大人しそうな印象を受ける。水色のスカートはふんわりと膨らみ、清潔そうな白色のブラウスを着ていた。


 女性は彼女に気付くとにっこりと微笑んだ。


「ようやくお目覚めになられましたのね、望月初穂」

 女性は初穂の名前を呼ぶ。初対面の人間のはずなのに、どうして知っているのか不思議だった。

「えっと、貴方は……?」

「ごめんなさい、今は名乗ることは出来ませんの。それより貴女にお伝えしたいことがあるのですわ」

「伝えたいこと?」

 初穂が問うと、女性は大きく頷いた。


「唐突ですが、貴女は今まで暮らしていた世界とは異なる世界にいるのです。“アンベルク”という、剣と魔法の世界、ですわ」

「え、それってどういう……」

「貴女の世界で言う所の“トリップ”ですわ!」

 女性はぱちん、と両手を叩いた。


「でも私、そんな記憶ないんです」

「当たり前ですわ、だって今の貴女は記憶の一部が無いんですもの」

「記憶の一部がない……? 記憶喪失ってことですか?」

「普通のものではありませんわよ。この“アンベルク”という世界にある水の国“マディラン”に貴女の記憶は散らばっていますの。記憶を取り戻すのには、“記憶の欠片”が必要になりますわ。これが無ければ貴女は記憶が戻りませんの」

 初耳である。自身の記憶が一部、無くなっていること自体驚きなのに記憶の欠片というものを集めなければならないらしい。


「でも……どこにあるのか見当もつかないですし、探せません」

 初穂が弱々しく言うと、女性は大げさに首を横に振る。


「ご安心なさって。“記憶の欠片”は一部の者にはその行方が分かりますの。今の貴女には物探しの強力な助け人がいるので心配には及びませんわ。それに、貴女は何たって神に選ばれた“(ディー・)祝福(ゼイゲン)”ですもの! 大丈夫に決まっていますわ」

「え、神の祝福……?」

「そうですわ。アンベルクを創世した神々に選ばれた人の子。世界の終焉をとめる唯一の人間なのですわ」

 女性は初穂の手を握って、その真っ直ぐな瞳を向けて言った。


「貴女は“記憶の欠片”を集めながら“神の祝福”としてこの世界を救うのですわ!!」

「ちょ、ちょっと待ってください!! 一体何の話ですか!? 私の記憶の欠片の話は何となく分かりますけど、神の祝福? 世界の終焉? どういうことなんですか」

「神の祝福は、神の使者である幻獣と高位精霊と契約できる唯一の存在のことですわ。アンベルクでは、巫女と呼ぶ者もいますわ。国によっては国王と同じくらいの権利を与えられることもあるそうですわよ。それくらい人々にとっては、重要な存在なのです」


 女性の話によると、アンベルクには大きな大陸があり――ユーフォリア大陸というらしい――、その大陸には様々な国があるらしい。初穂はユーフォリア大陸にある水の国、マディランの神の祝福に選ばれたらしく、その証である聖痕と呼ばれる、交差した剣の紋様が右足甲に浮かび上がっていた。


 そして幻獣と高位精霊は、幻獣は聖なる獣、高位精霊は土地の加護をする精霊のことらしく、精霊の中でも最も高位な存在のことを指す。幻獣と高位精霊と同時に契約し、使役できるのが神の祝福だという。


「神の祝福については何となく分かりました。要するに救世主ってことですよね? でも世界の終焉って一体どういう意味なんですか……?」

「世界の終焉はすなわち“暗夜の時代”のことですわ。それを止めるのが神の祝福なのです。……ああ、残念ですけど初穂、もうすぐ時間のようですわ……少し会えなくなるのは寂しいですけどすぐに会えますわ! わたくしはいつでもここで待っています」


 女性を呼びとめようとしたが、彼女は強い光の中に消えていった。



 ■


「あー! やっとおきたか!」

 明るい声が今度こそ初穂を眠りから覚醒させる。


 声は少年のようだ。どこにいるのか目で探していると、見当違いの場所から聞こえてきた。


「おいおい、おれはここだぜ!」

 その声は自分の下から聞こえる。顔をそちらに向けてみると、ちょうど自分のお腹の上に何やら犬のような見たことのない生き物が乗っていた。


 見た目は犬に似ている。顔立ちと尻尾だけはどこか狐を思い浮かべる様で、額には真紅に輝く宝石が埋め込まれていた。乳白色の毛はとても毛艶が良く、ふわりとしていて撫でたい欲求に駆られてしまう。毛が集中している尻尾は抱くときっと心地良いだろう。首には薄汚れたパイロットゴーグルをかけている。


「え、っと……貴方は?」

「おれはクレド! せいなるカーバンクルだぜ、それに世界一の冒険家でもあるんだぜ」

 舌足らずに話すその生き物はクレドと名乗り、初穂のお腹の上で跳ねた。


 肉球の感触と、クレドの全体重が内臓を圧迫させる感覚に耐えながらも初穂はクルドに聞いた。


「あの……ここは?」

「ん? マディランの水の神殿だぜ。それがどうかしたかー?」



 初穂は頭を抱えた。あれは夢ではなかったらしい。

 ということはつまり、自身の記憶の一部が消えているのも真実ということ。実際に思い出せないことが多い。異世界に来ることになった理由も勿論だが、自身の幼少期までも記憶から消え去っている。


 そして。


「神の祝福として世界を救わなきゃいけないのか……」

 初穂はますます頭を抱える。


✍初穂メモ


【夢の中の女性】

年齢も名前も全然分かりません。聞いても答えてくれません。

私のこと、色々知っているみたいですが……


【アンベルク】

彼女が言うには“剣と魔法の世界”らしいです。

日本がある世界とは違う異世界です。


【マディラン】

ユーフォリア大陸にある水の国らしいです。

私の記憶の欠片もこの国のどこかにあるそうですが……


(ディー・)祝福(ゼイゲン)

アンベルクを創世した創世神の加護を受けた、選ばれし人間のこと。

幻獣と高位精霊と契約できる唯一の人間。

国によっては国王と同等の権利をもらえたりするのだとか。

世界の終焉をとめたり、とかいう話を聞くと多分、人々にとっての

救世主なのじゃないでしょうか。


【暗夜の時代】

世界の終焉のこと。詳しいことは私にも分かりません。



――――

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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