Episode1 覇者の集い
暗く閉ざされた空間に、星が瞬き始めた。
此処は1つの小さな部屋であると共に、1つの広大な宇宙でもある。
全ての星は意思を持ち、衝動を持ち、そして宿命を持つ。
「皆…集まっているか?」
群青色の光を放つ星が、まず最初の意思を示した。
意思は瞬時に空間に溶け込み、他の星たちを刺激する。
「我らがこうして揃い踏むのも、久しぶりだな…」
紫色の星が、感慨深げに意思を示す。
意思は、形をはっきりとは持たない。
「それだけ、平穏が長く続いたということでしょう」
薄紅色の星が、柔らかに意思を示す。
意思は脆く、歪みやすく、留まることを知らない。
「喜ばしいことだが…時代はやはり、繰り返すものか」
青い星が、遠くを振り返りながら意思を示す。
それでも、意思は世界を創り上げる。
「深い静寂に沈んでいた、真に強大な破滅の媒介…」
緑色の星が、何かを悟る様に意思を示す。
その世界もまた、脆く歪みやすいものであるかもしれない。
「混沌の世は、すぐそこまで来ています」
黄色の星が、凛とした意思を示す。
しかし、それでも世界はそこに在り続ける。
「来るか? 魔の時代、再び…」
赤い星が、威厳に満ちた意思を示す。
私は、そこに在り続ける。
「今はまだ、策を練るにも、結論を出すにも、時期尚早です」
空色の星が、風向きを確かめる様に意思を示す。
私は、思い描く。
「我らは、歴史を育むもの…。 紡ぐのは、儚き子供たちの役目です」
オレンジ色の星が、物憂げに意思を示す。
いつか、世界と交わることを夢見て。
「……」
銀色の星は、静観を保ち、意思を示そうとはしない。
そして、それこそが彼の意思であることを私は知っている。
「して…何故に我らを呼び寄せたのだ?」
青い星が、群青色の星へと問い掛ける。
「そうだ。 『詩人』の言う通り…魔王に関し、まだ我らが動くべき時ではない筈」
紫色の星が、賛同する様に意思を示す。
「いや、魔王のことではない。 …勇者のことだ」
群青色の星が、粛々とした様子で意思を返した。
その意思を受け、他の星たちには動揺の色が見え始める。
「魔王を討ち果たすべく、混沌の世を駆け抜ける勇者の数は…10人」
その意思を受け、動揺の波は瞬く間に膨れ上がる。
暗く閉ざされた空間に、微かなざわめきが発生していた。
「魔王目覚めし時、5人の勇者もまた目覚めん…。 これは他ならぬ、
あなたの預言であった筈です」
黄色の星が、疑念を入り交えた意思をぶつける。
「その通りだ。 しかし、先刻に未来を透視した時…勇者の数は、
確かに10人であった」
群青色の星は、淡々とその意思を返す。
「あなたが、預言の内容を訂正するとは…珍しいですね」
オレンジ色の星が、囁くようにそんな意思を示す。
「我ら神とて、絶対のものではありません。 心持つものですから」
空色の星が、静かな微笑みを交えて意思を示す。
「しかし、5人であれ10人であれ…既に勇者は目覚めたのであろう?
ならば、摂理が乱れることではない」
しばしの沈黙を挟んだのち、緑色の星が意思を示す。
「…いや、5人の勇者は既にその力を覚醒しつつある。 が…残る5人の勇者は、
未だその魂すら感じることが出来ん…」
群青色の星は、重々しい口調で意思を示す。
更なる動揺が、星と星の間を駆け巡った。
「…どういうことです?」
薄紅色の星は、穏やかに、しかし僅かに震えた意思を示す。
「この世界には、まだ誕生していないということになる」
群青色の星は、尚も淡々とした様子で意思を示す。
「……」
銀色の星は、未だ静寂を保ったままである。
「分からぬ…何故にこの様な状況が創り上げられたのか」
群青色の星の意思に、僅かな苦悶の色が窺えた。
「フン…。 『賢王』の名も、たかが知れたものだな」
赤い星が、吐き捨てる様にその意思を示す。
「確かに、少なくとも、この事象と…汝の戦闘能力においては、
余の知識では計り知れぬものがある」
群青色の星の意思を受け、赤い星は一瞬、不敵に大きく輝いた。
空間はやがて収束し、星々は還るべき場所へと還る。
だが、世界は脆く、歪みやすいものだ。
彼らが再び此処へ集うのも、そう遠くない未来のことであろう。