Sister I love you. 50音順小説Part~し~
最近流行りの皆もすなる妹モノといふものを我もしてみむとてするなり。
タイトルを日本語に直すと「妹よ、君を愛す。」
仕方がない。
他ならぬ妹の頼みだ、なんとかしよう。
「おいっ、将吾!!どこ行くんだよ。」
兄・将吾はホームルームが始まっているにも関わらず妹・いとのため教室を飛び出した。
「おっ、来てる来てる。」
二限目の後下駄箱に向かうとホームルームの前に兄にメールで頼んだ物が下駄箱に入っていた。
「いと~、何が来てるの?」
「ん?数学のノート、今日あたし当たるからさ。」
「えっ、家から。お母さんが持ってきたの?」
「違うよ。うち共働きだし、兄貴が持ってきてくれたの。」
「いとのお兄さんって遠い高校通ってるって言ってなかったっけ。」
「うん、家から電車で一時間半。」
「それって授業抜け出してわざわざ持ってきてくれたってこと・・・。」
「兄貴あたしに甘いからさ、何でも言うこと聞いてくれるんだ。」
いとは悪びれることなく下駄箱を閉めた。
将吾が学校に戻ったのはお昼だった。
クラスに戻ると友人がやっと来たという風に近寄ってきた。
「将吾、お前授業サボってどこ行ってたんだ?」
「どこって いとのとこ。」
「いとって妹ちゃんの中学校まで行ってたのかよ。」
「おうよ。」
「どこまでシスコンなんだ・・・。」
「シスコンとは失礼だな、俺はただ いとの頼みを聞いただけだ。」
「けどそれも下らないことばっかりなんだろ。」
「兄としては妹の頼みは聞いてやらないと。」
「まぁお前がそれで幸せそうだからこれ以上何も言わないけどさ。」
将吾は いとのことが大好きなのだ。
妹のためなら何でもするしそれは苦にもならない。
そんな気持ちを利用されているとは露知らずに妹に頼りにされていると思っていた。
「ただいま。」
将吾が帰るとリビングではテレビを見ている いとがいた。
「いと~、お兄ちゃん帰ってきたぞ。」
「あぁ、うん。おかえりお兄ちゃん。」
いとは視線をテレビの画面から逸らさず適当に返事をした。
将吾は居る前では『お兄ちゃん』居ない時は『兄貴』と呼んでいる。
いと自身はお兄ちゃんと呼ぶのが嫌いなのだが、その方が将吾が言うことを聞いてくれるので
兄が居る時だけそう呼ぶようになった。
「今日は いとからメール来てお兄ちゃん嬉しかったんだ。それでな・・・」
「今テレビ観てるから静かにして。」
ピシャリと いとに言い放たれていつもながら口をつぐむしかない将吾は
そんなところも可愛いなと思いつつ自室へと上がっていった。
小さい頃からそうだが最近ますます妹が可愛くなった気がする。
これは決して過剰評価ではない、妹は確かに好きだが客観的に見ても容姿は整っていると思う。
あれでは男がほっとかないだろう、兄としてはまた心配の種がひとつ増える。
そんなことを考えていたらふとあることが将吾の頭の中をよぎってネクタイにかけた手を止めた。
そのことで頭がいっぱいになっていてもたってもいられなくなり
いとの元へドタドタと走っていきリビングの扉をバンッと開けた。
「ちょっと、うるさいんだけど。静かにしてって言ったでしょ。」
明らかに いとは険悪な表情をしていて言葉もきつい。
そんなこともおかまいなしに将吾は真っ青な顔をして いとを問い詰めようとする。
「いと・・・お前・・・」
「なっ何よ。顔近いんですけど。」
「あっすまん・・・。」
少し離れて正座をして―――いとはソファに座っているためまるで女王と下僕に見える―――
将吾は改めて問いただす。
「いと、お前付き合っている奴いるのか?」
「急に何よ、大体あたしが誰と付き合おうとお兄ちゃんに関係ないでしょ。」
「何を言うかっ!いとは俺の大事な妹なんだから誰と付き合ってるか知る権利がある。」
「はっ何それ。気色悪い、シスコンにもほどがあるわっ!」
「いっいと、なぁちょっと待てっ・・・・・」
将吾の制止も聞かず怒った いとはプンスカとリビングを出ていってしまった。
キモイと言われたことより今は可愛い可愛い妹に悪い虫がついてしまっているんではないか
という猜疑心に苛まれていた。
「あぁ…妹が毒牙に・・・こうなったら・・・・・」
妹を尾行するしかない、この考えにいたった。
翌日からそれは早速行動に移された。
授業が終わるとタクシーを呼び いとの中学まで直行して門から出てくるのをこっそり待つ。
いとが出てきたら隠れて後をついていくというのが一週間ほど続いた。
妹の行動にもとくに怪しい点が見当たらないので自分の思い過ごしかと思われた。
が、事が動いたのは尾行八日目の放課後であった。
いつものように いとが校門から自宅の方向に向かうかと思いきや
いきなり逆方向へ歩いていくので将吾は慌てて後をついていくことになった。
いとは駅前の噴水の前にたどり着くとキョロキョロ辺りを見回してどこか心もとない様子であった。
誰かを待っているんだろうか、一体誰を・・・・・
次の瞬間いとの前に現れた人物を見て将吾の悪夢が現実のものになった。
いとと話しているのは見知らぬ男子高校生であった、しかもイケメンである。
「いと・・・お兄ちゃんに隠れて男女交際とは・・・」
将吾は絶句した、今すぐ二人のとこへ行って引き離したい衝動に掻き立てられた。
けれどもそこはグッと堪えて二人の行く先についていくことにした。
いとはもう相手の男にメロメロ状態であり男の方は終始いとの肩に手をまわしていた。
「俺の妹に手を出しやがって・・・しかも、かっ肩に手をっ・・・」
俺だって一度も妹にしたことないのに、あの下衆野郎・・・・・
電信柱の陰から物凄い剣幕で二人を見つめていたら肩をポンッと叩かれた。
「ぁあん!?今取り込み中・・・」
「取り込み中って君、一体物陰に隠れて何をしているんだね。」
不審人物と勘違いされてその後交番に連行、
一時間事情聴取されてしまい結局その日の尾行は強制終了される運びとなった。
しかし成果はあった、妹には男がいた。
だが第六感というか野生の勘というのかあの男は良くないというのを感じた。
将吾は いとを救わなければという使命感に燃えた。
帰宅したら いとに言おう。あのイケメンはやめた方がいいと、顔だけだと。
少しくらい嫌われたって妹のためだ、心を鬼にして言おうと決心していた。
それも束の間、帰途に着いた途端いとのスペシャルスマイルを見て打ち砕けたのであった。
「お兄ちゃん、おかえり。今日はハンバーグだって。」
いつもよりはるかに優しい いとの態度に怒るのも忘れて将吾は癒されてしまった。
「うん。今日のところはここらへんにしておいてもう少し様子を見よう。」
「お兄ちゃん?何ぶつぶつ言ってるの?」
「いや、ただの独り言さ。」
そういうことになった。
しかし穏やかな日もそう長くは続かなかった。
とある用事でいとを学校から尾行できなかった日のことである。
駅前で いとらしき・・・いや妹を見間違えることはないので いとを見かけた。
この時間帯は普段帰宅しているはず・・・おかしいと感じた将吾はそのまま後を追った。
人通りの少ない場所に来た いとは誰かを見つけ手を振った。
その先にいたのはあの憎きイケメンであった。
激しく男にジェラシーを感じていると二人は看板がひとつもない小さなビルに入っていった。
妹の身に危険を感じた将吾はすぐさまビルに侵入、
建物の中はところどころ廃れていて人気がない如何にも怪しい雰囲気があった。
すると静寂がいきなり破られて音―――いとと男の声―――が聞こえてきた。
声のした部屋の扉はわずかに開いていて中が見えた。
部屋には いとと複数の男がいた、あのイケメンも。
「タカヒロくんっ!ねぇ、どういうことっっ!?」
「どうもこうもこういうことだよ。」
イケメン、タカヒロは手を広げ下卑た笑いをした。
同様にほかの奴も口の端を吊り上げこれから起こることが待ちきれないようだ。
「お前みたいな中学生を本気で相手にすると思う?まぁ可愛いから一回ヤッたらポイでいいかなって。」
意味をすぐには理解できないでいる いとにタカヒロは分かりやすく言った。
「つまりお遊びなんだよ、お前は。」
相手の意図を理解した いとの肩が震えていた。
騙されていたことに怒りを感じているのか、あるいはこれから起きることに恐怖を抱いているのか
将吾には計り兼ねた。
いずれにせよ将吾の下す決断は決まっていた。
バンッと勢いよく扉を開けた、勢いが良すぎて古びていた扉は取れてしまった。
「あぁ・・・」
あたふたしてしまいかっこいい登場というわけにはいかず、いきなり醜態を晒してしまった。
「なんだコイツ?ダッセェ」
「兄貴・・・・・」
「はぁっコイツお前のお兄ちゃんなの?ウケるわ、妹のピンチに兄貴登場ってか。」
「そっそうだ!いとに手を出そうとする汚らわしい輩共、成敗してやる!!!」
気を取り直して改めて宣言をする。
「いと!お兄ちゃんがこいつらを引き留めている間にお前は早くここから出ろ!」
「何言ってるの、ってかいきなり出てきてどういうこと!?」
「理由は後でちゃんと説明するから!」
「けどっ」
「ゴチャゴチャうるせぇ!」
痺れを切らしたタカヒロたちが将吾に飛びかかってきて、いきなり一発将吾の左頬にパンチを浴びせた。
「兄貴っ!!」
いとが叫び駆け寄ってこようとするのを制止させ
「行けっ!!」
と一言そういうと立ち上がりタカヒロたちに挑んでいった。
どうすることも出来ない いとはとにかくその場を離れ自分が出来ることをした。
数十分後、将吾は病院で手当てを受けていた。
たいした怪我ではないのだが見た目はいかにも痛々しかった。
「ありがとうございました。」
医師に礼を述べ治療室を出ると椅子に腰かけていた いとがパッと立ち上がった。
「あの・・・・・・ごめん。」
うつむいていて表情は読み取れない。
「気にするな、妹を助けるのが兄ってもんだろ。
それよりありがとな、いとが警察呼んでくれなかったら今頃どうなっていたことやら。」
将吾は自分の怪我より いとの元気のない様子の方が嫌だった。
だから励ましてやりたかったがどうすればいいか分からない。
「馬鹿だよ、兄貴は。」
いとがポツリと言う。
そういえばさっきは男たちに立ち向かうのに必死で気付かなかったが
兄貴と呼ばれることが以前は嫌だったが不思議と気にならなかった。
「馬鹿で結構、妹を守れるなら。これからはもっと頼れる兄貴になるからな。」
いとの頭を撫でようとするとすかさず振り払われた。
「調子に乗んなっ。」
そんな言葉を放しつつやっと顔を上げたその表情は頬が真っ赤だった。
きっと照れ隠しなのだろう、やっぱり妹は可愛い・・・ついニヤけてしまう。
将吾のニヤけた顔を見た いとが一言。
「きも・・・。」
とまれかうまれ書けてよかりき。