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見つけて

全ての世界はどこかでかすかにリンクする。そういう作品が大好きです。

のんびり亀更新ですが、一時の暇潰しになれますように。

聞かせてください、貴方の声を


  聞かせてください、貴方の命を


    聞かせてください、貴方の心を



私はいつも歌を歌いました。

誰もが一度は憧れる、甘く切ない恋の歌。

ただ人に聞かせたくて、海から顔を出して歌っただけなのに。

人は海に飛び込み私を追いたて自ら命を散らしていった。


そのことを話すと、お姉様達は私達の歌を人にきかせてはならないといって口をすっぱくして怒ったけど。

それでも私はただ聞いてもらいくて、ただ一緒に歌いたくて。

決まった場所で少しの時間だけ丘に上がって、聖歌を一緒に歌うことにした。

一人で歌うよりも、他の「ヒト」と歌うよりも、人と共に歌うのはもっと気持ちがよくて。


私は、もうどうしようもない程に人間に惚れこんでいたのだから。

例え魔物として討伐されようとも歌いに来てしまうほど、私はこの町の人間を愛してた。


そんなときに運命の日はやってくる。

私が丘に上がり大岩の上で喉を震わせようとすると、隣で少年がこちらを見つめていた。


人は私を見ると悲鳴を上げて耳を押さえて逃げ出すか、私を半狂乱で追い掛け回してくるのに、その子はただ興味津々と言う眼で。しばらく私と彼は見つめ合ってしまった。


【人魚?】


流石に五分ほど見つめ合うと、少年は私に話しかけて――いえ、たずねてきた。

同時に逃げ出さない理由も…良く分かった。

彼がスケッチブックを前面に出してその文面を私に見せてきたから。

それはつまり、彼は喋れない、耳が聞こえないということで。

歌声が聞こえなければ怖がる必要も無いんだから。


でも、初めて話しかけてくれた少年に対して私は何もする事が出来ない。


【腕、怪我してるの?】


だって今の私は腕が使えないから・・・文字がかけない。





この町で流れる私に関する噂は「恨みのマーメイド」。

両腕の使えないマーメイド。人に恨みを持つマーメイド。

傷をつけた人間を探して何人もの船乗りを海中に引きずり込む海の悪魔だと。


確かに私に傷をつけたのは人間。私が歌ったから錯乱した人間。

いわば自業自得で、私自身も気にしていないのだけど。

今だけは少し恨んでしまいそう。せっかく友達になれそうな少年がいるのに。


【お姉さんはこんなところでどうして座ってるの】


人魚を見ても動じない少年に如何返事をするべきか迷っていると、救いの手は少年から伸ばされた。


【聞こえなくても何喋ってるかは分かるから、普通に喋って】


全くもって・・・要らぬ心配だったようね。


========


親御さんから教え込まれたのでしょうか、ゆっくりと喋る私の口元を見て本当に会話が成立しています。

・・・ただ、じっと唇を見られるというのも中々恥ずかしいです。


【どうかした?】

「怖くないんですか?」

【何が?】

「人魚ですよ?それも人を歌で誑かす魔物」

【別に、聞こえないし】

「・・・うみにひきずりこんじゃうぞー、がおー」


両腕を上げて軽く脅かしてみた。


【バカ?】


返事は絶対零度の眼差し。


「泣きません、泣いていません、今はまだ」

【?】

「気にしないで・・冗談だから」

【変なの】

「・・・・・・」


なにか仕返しをしてあげたいところね。

でも、この子はなにをしたら驚くかな…


【ね、人魚って何が出来るの?】

「まずは歌う事ね、本当に。

足が魚で泳ぎも上手いけれど、ソレでも人の使う機械と比べると負けてしまうし…

あとはそう・・・海水や水分ならある程度は操れるわ」

【水?】

「そう、こうやって」


波打ち際に軽く視線をやって、渦を巻くようにその場に小さな水の塔を作りだす。

自然に愛される種族だからこその特性みたいなものだけど、他のヒトよりは私のこの能力は上だと自負しているわ。


「どう、わかったかな?」

「・・・・・・」

「・・・?」


呆けたように水の塔を見つめ続ける少年。

ただ塔を作るだけじゃやっぱり面白くなかったかしら?


【ホントに人魚だったんだ】

「……そもそも信じていなかったのね」

【空想の産物かと思ってた】

「この街の中だけなら、私も結構有名になっていると思ってたんだけどね」

【だって、本にはそんな生き物居ないって】

「じゃぁ、今日から信じなさい。私達は夢じゃないの、ちゃんと此処にいるし、触れる」

【うん】

「ちょっと普通と違うだけの生物よ」

【うん】

「よしよし」

【実は馬鹿にしてる?】

「気のせいよ」

【帰る】


会話の中にからかいの響きを見て取ったのか頬を膨らませて少年はそっぽを向いた。

そのまま本当にスケッチブックを畳んで帰り支度を始めてしまう。

でも、あまり私といる所を見られても町の人にはいい感情はもたれないでしょうし、

このくらいでちょうど良いのかもしれないわね。


「そう、それじゃぁ・・・またね」


またね、というと少年は驚いたような顔で私を見て、スケッチブックを開きなおし。

小さな文字で【また、ね】とつづった。


最後の一文を見せると少年は慌てて岩場から町のほうへと走っていく。

人魚にまた会おうって誘われたからって逃げることないのに…


あぁ、そういえば名前を聞き忘れてたわ。

また次に合う事が有れば最初に尋ねましょうか。

初めての丘のお友達の名前をね。


次の機会を楽しみにしながら、パシャンと音を立てて海に飛び込んだ。

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