ハエ令嬢と食虫植物公爵
ある日の王宮の晩餐会。侯爵令嬢のエルザは、王太子レナードから大衆の面前で婚約破棄を言い渡されました。
「エルザ! お前のようなおぞましい女、王妃にふさわしくない! 婚約は破棄、国外追放とする!」
レナードの傍らには、新恋人である男爵令嬢ミリアが勝ち誇った笑みを浮かべて寄り添っています。
エルザのスキルは『百虫の這いずる女王』。彼女の周囲には常に目に見えないウマバエやスクリューワーム(螺旋錐虫)の卵が漂い、彼女を怒らせた者は生きたまま皮膚や肉を虫に喰い荒らされるという、忌み嫌われた呪いの力でした。
スタンピードを壊滅させ国を救った功績から王太子の婚約者になったのですが、肝心の王太子からは蛇蝎のごとく嫌われていた。
そしてとうとう「魔女」と弾劾され追放されたのです。
エルザは反論せず、ただ静かに一礼して国を去りました。
誰もが彼女を恐れ、誰からも触れられなかった孤独な人生。エルザ自身も、自分の力を呪っていました。
行き着いた隣国の軍事大国。そこでエルザを迎えたのは、若き天才公爵アルベルトでした。
彼は、帝国最強と謳われながらも、ある致命的な欠陥スキル『大喰らいの魔胃』に苦しんでいました。
彼の影からは、あらゆるものを捕食する巨大な「食虫植物」の異形が這い出ます。その戦闘力は一国を滅ぼすほどですが、「人間ばかりを食べさせると、栄養失調で食虫植物が拒絶反応を起こして枯れてしまう」という致命的なバグがありました。
そのため、彼は強力な力を持ちながらもまともに戦えず、常に魔力の拒絶による激痛に苛まれていたのです。
しかし、アルベルトがエルザの手を取った瞬間、彼の影の食虫植物が歓喜に震えて狂い咲きました。
「……素晴らしい。私の植物たちが、君から漂う『虫の気配』を求めて激しく求愛している……!」
アルベルトの食虫植物が本当に求めていたのは、「虫」の栄養でした。エルザの生み出すウマバエやスクリューワームの強靭な生命力は、彼の植物にとって「最高に美味で、どれだけ食べても枯れない極上の栄養源」だったのです。
アルベルトはエルザを強く抱きしめました。エルザの虫のエネルギーがアルベルトの影に吸い込まれるたび、植物たちは甘い蜜を滴らせ、アルベルトの身体の激痛を至高の快感へと変えていきました。
「エルザ……君は私の渇きを癒やす唯一の女神だ。私の妻になって、君の愛しい虫たちで私の怪物を一生飼い慣らしてくれないか?」
「私の虫たちが、あなたの役に立てるなんて……! 喜んで、アルベルト様」
それからの二人は四六時中ベタベタの甘々生活。アルベルトがエルザの細い身体を愛おしそうに貪るたび、エルザの『ウマバエ』が彼の植物に美味しく捕食され、二人はとろけるような快感に溺れていくのでした。
◇
一方、エルザを追放した王国は、隣国であるアルベルトの軍勢に攻め込まれ、またたく間に前線基地まで追い詰められていました。
元王太子レナードと聖女ミリアは、野営地で恐怖に震えながら、夜風の中でちくりとした蚊に刺されたような軽い痒みを覚えました。
それが、すべての始まりでした。
――3日後。
レナードは、自分の腕の皮膚の下で、無数の何かがウニウニと蠢いている異様な感覚に飛び起きました。
「ひっ……!? な、なんだこれは! 皮膚の中で何かが動いている!」
隣を見ると、ミリアも「顔が……顔の皮の下が痒い、何かが這い回っているのよぉ!」と発狂して顔を掻きむしっています。
さらに、ただのウマバエだけではありませんでした。傷口に群がるおぞましい『スクリューワーム』の幼虫たちが、ネジのように回転しながら、彼らの健康な生肉をグリグリと奥深くへ穿ち、容赦なく貪り食い始めたのです。
ミリアの治癒スキルを使っても、皮膚の表面が塞がるだけで、肉の奥に潜む虫たちを消すことはできません。むしろ、閉じ込められた虫たちは治癒の魔力を栄養にして、さらに急速に成長していきました。
――1週間後。
ついに、彼らの全身の皮膚を突き破り、無数のサナギが、まるで岩肌にびっしりとこびりつくフジツボのように、グロテスクに突き出して固定されました。
「痛い、痒い、おぞましいぃぃ!」
サナギが皮膚にガッチリと食い込み、引き剥がそうとすると肉までベリベリと裂け激痛が走ります。さらにそのフジツボの隙間からは、肉を抉るスクリューワームとウジ虫たちがドロドロと溢れ、彼らの肉体を内側から侵食し始めました。
そこへ、アルベルトとエルザが、地響きを立てて悠然と現れました。
「エルザ……! 助けてくれ! この虫を消してくれ!」
フジツボと肉を抉る虫まみれの顔で這いつくばるレナード。
しかし、その姿を見たアルベルトの目が、獰猛な歓喜にギラリと輝きました。
「ほう……これは素晴らしい。私の可愛い植物たちが――舌舐めずりしているではないか!さあ、お前たち余の食虫植物の贄になる栄誉を感じながら地獄に落ちろ!」
アルベルトの影から、空間を埋め尽くすほどの巨大な食虫植物が咆哮を上げて出現した。
いつもは人間の肉を嫌がる植物たちが、レナードたちから放たれる大量の虫の臭いに、ダラダラと消化液の蜜を垂らして大興奮しています。
「ひ、ひいいいっ!? 来るな、来るなぁぁぁ!」
「嫌ぁぁぁ! 食べられたくないぃぃ!」
「さあ、残さずおあがり」
アルベルトの冷酷な合図とともに、巨大な食虫植物の顎が、フジツボとスクリューワームの地獄に狂うレナードとミリアをバリバリと音を立てて生きたまま丸呑みにした。
二人は植物の胃袋の中で、自分たちの肉を喰らっていた虫ごとドロドロの消化液に溶かされ、永遠にアルベルトの栄養へと変えられたのです。
敵を完全に喰らい尽くし、静かになった本陣の天幕。
アルベルトはエルザを優しくベッドに押し倒し、愛おしそうにその唇を奪いました。
「ふぅ……あぁ、美味しかった。エルザの育てた獲物は最高の味がしたよ。でも、やっぱり一番美味しいのは……君自身だ」
「ん、ふあ……っ、アルベルト様……私の虫たち、今日もたくさん食べて、あなたを強くしてあげますね……っ」
おぞましいウマバエとスクリューワームの女王は、それを最高の御馳走として愛してくれる食虫植物の旦那様の腕の中で、一生甘く、激しく、ドロドロに溺愛されるのでした。




