第五話 ハイクとアミラ
「はぁあ……はぁあ……はぁあ……すまない……俺……なんか体が物凄く重く、動けねぇ……」
とハイクは、この絶好のチャンスであったのに体が再生せず、顔中汗まみれになりながら倒れこみそうであった。
「う!嘘でしょ!!!ど、どうしよう……」
と女性は焦りを見せ、ハイクのもとへ走った。 女性はハイクを担ぎ上げようとしたが、ハイクの体の重さに耐えられなかった。
そんなことをしているうちに、ニーレは「アミラよ、こんなことして命があると思うか?」そう言いながら立ち上がろうとする。
その時! 村から二十人ほどの男性が走ってきた。先頭にはさっき会話をした男性がいた。 どうやら仲間を連れてきたようだ。皆、鍬や鎌を持っていた。服装はペラペラのボロい私服のようだが。
「大丈夫だったか?この傷……まさか……もう無理なのでは……」
とハイクの絶望的な状況を目にした男性は、言葉を失いかけていた。
「大丈夫よ!!」と大きな声を出す女性。
「アミラ様!?」「アミラ様なのか!?」「なぜここに?そしてなぜニーレと対峙しているこちらの男性側に?」
など、男性陣は女性、アミラの存在に驚きつつ、ハイク側にいることにも驚いているようだ。
「ここで説明している時間はない。けど、今ここでこの人を死なせるわけにはいかない」
アミラはグチャグチャと言えるハイクを眉間にしわを寄せ見て、そう言った。
「そうなのですね。今、この時にアミラ様は賭けたのですね」と男性は返し、隣にいた仲間も「それでは我々も協力します!」と言い、男性陣はニーレの方向へ走っていった。
アミラはハイクを再び担ぎ上げようとしたが持ち上がらず、それを見た男性の一人が方向を変え、「俺がこの人を担ぎ上げる!」と言い、ハイクを肩で持ち上げた。
「ありがとう!とりあえずこの人を逃がすわよ!」
とアミラは伝え、ハイクを担ぎ上げながらアミラとともに村の方向へ走っていった。
ハイクは担ぎ上げられながら目を開け、ニーレの方を見た。 その先には、ニーレに向かって言った二十人の男性陣が果敢にもニーレに立ち向かっており……一人は白いドラゴンに食い殺され、もう一人は鍬をニーレに向け投げ足に直撃させたが、その次の瞬間ニーレのドラゴンに頭をもがれており、また一人は片足がない状態で地面に這いつくばり悶えていた。 その他も血まみれになりながら倒れるもの、ニーレに走っているものと、悲惨な状況であった。
「おい、なんであいつらは簡単に命を投げうってでもあそこで戦ってるんだ?勝てるはずないのに……」
ハイクはその状況を信じられない顔で見ていた。
ッタッタッタッタ!!と足音が聞こえる中、「あなたに賭けてみたのよ、きっと。たとえ自分がいなくなろうともこの家族の為、愛した人の為、そして未来のために」
アミラは走りながらハイクに告げる。
「あなたのような人はこの村にもう二度と現れない。力を持っていながら領主に挑むものなんて。この機を逃してみんなきっと後悔していたでしょう」
「うそだろ、なんでさっきこの村に来てノリでって言っていいのかわからないけど、その……ノリで戦いを挑んでいた俺なんかにみんな賭けてるんだよ……俺はそんな希望でもなんでもない。さっきだって君がいなければ俺は負けていたんだぞ」
ハイクは自分が期待の星かのように扱われている現実を直視できなかった。 やがて噴水を曲がり、ハイクは戦っていた男性陣を見ることができなくなった。
「ルシュクさん!」
走りながら男性はそう叫び、さっきルシュクさんのいた家に戻った。 男性は立ち止まり、ルシュクさんの前にハイクを置いた。
「これはハイク殿……まさか、バンスがここまで腕を上げているとは……申し訳ございませんでした」とハイクを見ながら言う。
「いいんすけど……ったく!なんで俺の体再生しないんだよ……」
ハイクは自分の最強能力と思っていた再生能力が上手く機能しないことに怒りを覚えた。
「これは私の憶測だけど、この方、ハイクさんの能力は再生能力で間違いはないけど、永遠に再生し続ける能力ではなく、体力のあるうちのみ再生をするのだと思う。私もお屋敷の窓からハイクさんの戦いぶりを見させてもらっていたけど、あまりにも体を損傷させながら戦っていたわ。きっとそのせいで体力を余分に使い、再生ができなくなってしまったのだと思います」
とアミラは、ハイクの目を見て考えを口にした。
「とりあえずハイク殿に家にあるパンと水を持ってきます!」とルシュクさんは言い、家に入っていった。
ハイクは息切れしながら横になり、ふと川を見るとソラがいた。
「よいしょ!あ!できた!みんな見て!」
と目を輝かせながら見せてきたのは、木に描いた女の子のイラストだ。イラストは女子小学生が描きそうなタッチであったが、緊迫した空気を一瞬でも和やかにした。 どうやらソラは屋敷から逃げた後にルシュクさんの家に戻っており、ルシュクさんから暇つぶし用の筆と黒のインクをもらい遊ばせていたのだろう。
そしてルシュクさんの持ってきた水とパンを食べ、横になって休んでいるうちに、体はゆっくりと再生し、えぐれていた部分はもとに戻りつつあった。
「うっしぃ……なぁ?」
そうハイクが口を開くと、アミラ、ルシュク、男性がハイクの発言を聞くため黙った。
「着火剤と大量の油ってあるか?あのニーレとバンスってやつが同じ屋敷に住んでいるなら、夜に屋敷に火をつけて苦しんでいる中殺すってのはどうだ?これなら俺でも勝てそうなんだが」とハイクは問いかけた。
「たしかにハイク殿がいる今なら、その戦術も不可能ではない」ルシュクはハイクに同情的だ。
「勝つだけならそれでもいいかもね。でもね、勝っても屋敷がなくては村の政治は行えない。あのお屋敷には今までの政策や中央との儀礼方法など膨大な資料がある。この内容はバンスしか知らない。それに中央へ向かう特別な馬だってある。それに全く関係ないメイドさんだっているの……」
とうつ向きながら話すアミラ。
「たしかにその話を聞いたら今の作戦はよくないな。関係ない人を巻き込むのは俺はしたくない」と冷静に返事をするハイク。
すぐ先でソラは黙々と木に追加の絵を描いていた。
「やっぱり直接戦闘をして戦う方が……っておい、そこの女」といいアミラを指さすハイク。
「女って!私はアミラ!アミラ・ヌメル!」と名前で呼べと言いたそうなアミラ。
「悪い、で、アミラ。アミラと俺で二対一に持ち込んで戦うのはどうだ?お前も……アミラも戦えるだろ?その髪の先から出てる蜂の針的なやつで刺して」
とアミラに向かいハイクは提案する。
「確かに戦えはするけど、私は思ってるほど強くないわ。さっきだって、ハイクさんがニーレに気を取られてる隙に後ろから攻撃しただけで、しかも麻痺させる液体を大量に注入したのに、ニーレは三十分もするかしないかくらいで立ち上がった……私の限界はあれまでだったのよ」
と自信なさげに話すが。
「あぁ、十分だ!あいつがその麻痺の液体を注入されたとき、白いドラゴンも動きが止まった。ということは、その隙にニーレに接近し、俺がぶち殺す。これなら勝てる!」
と攻略法をアミラに伝えるハイク。
「さっき注入したのは麻痺薬。でももう麻痺薬はあの時にすべてつぎ込んでしまったわ。今残ってるのは毒薬。毒薬は相手の行動を止められる効果は見込めない」と淡々とアミラは答えた。
「そうか。なぁ、その毒薬ってニーレには効きませんとかないよな?さっきの麻痺薬ってまた復活させることはできるのか?」
ハイクはアミラの能力をよく知らないので質問をする。
「麻痺薬は、まず麻痺薬となるものの液体を私が飲まないといけないの。それはこの一瞬で作って飲まないといけないの。この物資が枯渇している村ではなかなか困難よ。毒薬ならまだある。ニーレに効くか効かないかはやってみないとわからない」
アミラは今の自分の能力の現状を伝えた。 今、ルシュク家の家の前には、ルシュク、アミラ、ハイク、ソラ、男性の五人がいた。 その中でソラを除く四人は、ニーレ、バンスを倒すため、みな知恵を絞っていた。
そのとき、男性がとっさに声を上げる。 「おおおいい!!みんな俺から離れてくれ!!!急いでくれ!!」
男性は左胸がかすか服を透け光っていた。 ルシュクとアミラは驚いた表情であったが状況を飲み込み、ルシュクはハイクに猛タックルで男性から離し、アミラはソラのもとへ駆け込み覆い重なった。
「おいおい、どういうことだ?状況が飲み込めんのだが?」と、タックルをくらい倒れこみながら言うハイク。
男性は走ってハイクたちのもとから離れようとしていた次の瞬間。
ドォンッ!!
と重たい爆発音が周囲に鳴り響いた。
「……はぁ?」と、呆然と爆発した後の煙を見て言うハイク。
「ついにバンスが動いた……」と冷静に口にするルシュクさん。
「バンスが動いた?この爆発がか?」ハイクは何も知らないながら理解しようと質問をした。
「この村に住んでいる者の体内には五センチほどの粘土のようなものが埋め込まれている。バンスの気分次第で村民を殺せるように、恐怖で村民を支配できるようにです」とルシュクさんは答える。
しかし、アミラには一つの疑問があった。 目の前で男性は爆発した。が、もう一箇所でも爆発音が聞こえた。音がかすかに聞こえたのは村の沼地の方からだ。
「ニーレが来る。早くて二分。遅くても十五分で。この爆発はハイクさんの近くにいるであろうとみられた二人の爆発なの。さっきの男性と私の二人。私は体内に埋め込まれたものを過去にこの村の沼地に捨てていた。だから私は爆発せずに済んだ。でも、この場所と沼地のどちらかにハイクさんがいると、爆発音で知られた今、ニーレが来ることは確実と私は思う」
アミラはこの爆発の意味を考察し、皆に伝えた。 もはや男性の爆死を悼む余裕すらない。
「ソラ殿はこの家の裏側に隠れておいてください」とルシュクさんはソラに言い、家には入れずに家の裏に隠した。
ハイクとアミラは村にある噴水に続く道を見て構えた。
「ハイクさん。もしニーレが来たら私と一緒に戦ってくれる?」とアミラはハイクに問う。
「あぁ、当然だろ。あいつはソラを本気で殺そうとした。それに力を持っていながら、この村の現状を見て放置なんてできない。村の人に爆発装置のようなものを付けておいて……それにこの村に住んでいる人が報われてるようには見えないんだ」とハイクは答える。
ハイクはついさっき男性に担がれてるときに村の状況を見ていたのだが、そこにいたのは、体を売っていた少女、食べるものが少ないからか体が見たことないレベルで痩せ細っていた青年、崩れていたのに放置されていた家屋、動物が死んだ人間を食べているところ……ハイクは自分の目で見てしまった。
「こんな状況に村がなっているのに、村の人から財産を強奪して、それでいて抵抗ができないなんて……さすがにスルー出来ない」ハイクはそうアミラに言う。
「……」アミラは返事はしなかったが、まっすぐな目を村の方へ注いだ。
「そこにいたか」
と村の方から声が聞こえ、歩いてくる音がやがて大きくなる。ニーレだ。 先ほどとは違い、ニーレは右足から血が垂れていた。しかし、それ以上に鋭い眼光でアミラとハイクを見ていた。
「無駄話は無用だ。今ここで貴様らを排除する」
ニーレの落ち着いたトーンだが、今度は本気なのだとハイクたちは感じ取った。
ハイク「あ、あの...助けてくれてありがとう」
アミラ「うん!」
ハイク(女に危機を救ってもらうとか....恥ずかちぃ)




