第二話 ソラとハイク
ハイクは「ここは……」そうぼそっと言葉を放ち、一歩前へ歩いたとき。
「あああああぁぁぁぁぁぁマーーージ最悪!!!」
後ろから少女の叫び声が聞こえた。 振り返ると、ソラだった。
ソラはハイクの目を見て、「なんでこんな雑魚そうな男と一緒にこんなゴミ世界をなんとかしなきゃならないの!!なんでだよ!!チッ」
「え?」
ハイクは困惑しながら、さっきまでのソラは何だったのかと心の底から思った。
「おい、ソラ!さっきまで俺のこと庇ってくれたり、俺は正しい方向にいるって言ってくれただろ!!」
「はぁぁぁ?あんなん、君が一人でも大丈夫だよって印象付けるための建前だわ!ハイクを一人でこの世界に送り込ませて、私はお母さんと一緒に楽に暮らせると思ったのに!!!」
「おぉぉぉい!!お前、俺を庇ってたのって、俺が弱そうだからソラをつけなきゃって思わせないための嘘だったのかよ!!」
「当たり前だろ!!私はね、イケメンでムキムキで優しくて、そんなダサい服で歩かない男じゃないと嫌なの!!しかも弱そうだし」
さっきまでのいい子はどこに行ったのだろうか……。 先生やお母さんが近くにいるときはいい子を演じるタイプの女なのだろう。
ハイクはため息をついてソラを置いていこうと思ったが、さすがに九歳くらいの少女を一人にさせるのもありえないと思い直す。
「おい、とりあえず村や町に行くぞ。そこまでいかないと飯も職もない」 ソラに向かいそう言い、トボトボ歩き始めた。
「まずね、なによいきなりこの世界に放り込まれて、私は何をすればいいの。何をして何を救えばいいの……ったく」
歩いている時ですら文句が止まらないソラ。
「こんな男といるより一人でもの盗んで売って稼いでいけるし」
その文句を吐きながら、ソラはハイクの後ろをついてきている。
歩く。 歩く。 歩く。 歩く。
「おい!!いつになったら村につくんだよ!!永遠に辿り着かないんだが!!」
ハイクは歩いているときに急に叫び始めた。 気づけば日が暮れて、動物も増えてきた。 なのに一向に、気を休められる場所が見つからないのだ。
ソラのおなかがグゥ~と鳴り始めた。
「ここらで夜を越そう」
ハイクはソラに向かいそう言い、木の下にソラを座らせた。
「嘘でしょ!なんで私がこんな外で寝なきゃいけないのよ」
ソラの文句をハイクは「あぁ」とだけ言い、木の周りに小便をまいた。 昔、ネットでサバイバル技術を見て、男性ホルモンの尿をまくと良い的なものをみたので、試してみた。
「ねぇ!!ほんとに汚い!おしっこくらいもっととおくでしてよ!もう!」 ソラはそう叫んだ。
「あのな!これはお前を守るためでもあるんだぞ?」
そうハイクは自分のすべてを出し終わった自分をソラに向けて言った。
「あ、すまん」
ハイク己の己をさらけ出しながらぼそっと謝罪。 時間は経ち、ソラは文句を言いながらも、どこから持ってきたのかわからない丸太の上で睡眠をとっていた。
ハイクは夜空を見ながらひとり考え事をしていた。 「この世界の夜空には星が極端に少ないな。ええと、一個、二個……五個」
どうやらこの世界の星は五つしかないのか。しかもその星というのが、日本で見た星とは少し違う。この世界では、五つの星すべてが律儀に星形をしている。 ハイクも驚いたが、太陽も月も動かない。というより、太陽と月は二つに分かれておらず、夜になるにつれ太陽の光量が減っていくのだ。この太陽に似た球体は、朝には太陽で夜には月になるのかもしれない。 動かない太陽と星を見て、ハイクはこの世界の構造にも疑問を持った。
やがて眠くなり、木にもたれながら睡眠を始めた。
すやすやと寝ているハイク。 しかし奥の茂みからカサカサと音が聞こえる。 ハイクが目をかすかに開け、音が聞こえる方向を見た。
そこには人間より大きい獣。ハイクの知識の中で一番近いのは、熊のような生物がいた。しかも子連れだ。
一瞬で体が固まる。戦ったって勝てっこない。ムテラからもらった再生能力なんて、死なないだけで永遠に苦痛を味わうだけだ。そんなことを考えてしまったハイクは、酷くおびえた。
「うぅ~ん。なに?もう」
ソラも目を覚ます。 ソラは獣を見て「あ!サンケマだ!初めて見た!!」
異様にテンションが上がっているソラを見たハイクは、そんなに怖い動物ではないのかもと思い、体の緊張が一気にほぐれた。
「脅しやがって、サンケマって見た目が完全に子連れの熊だから襲ってきたりするんかと思ったっぜ」
安堵するハイクの隣で、「サンケマって『なかよしサンケマ物語』のジーミンみたいなかわいさってあんまりないのか……少し残念」
そうぶつぶつと言うソラ。 「なんだよ『なかよしサンケマ物語』って?アニメか?」なんて会話を交わしていたら。
「ヴヴアアアアアアアッ!!!」
とサンケマが叫び始める。 その次の瞬間、親のほうのサンケマは四足歩行で物凄い勢いでハイクとソラにもう突進してくる。
瞬時にハイクはソラの前に立ち、サンケマの鋭い爪の殴りを喰らい、数メートルぶっ飛んだ。
「ッくそ!なんも温厚な動物ってことじゃないのか!」 ハイクはえぐれた顔面を修復しながら言った。
「ソラ!お前はもう走って逃げろ!俺は体を再生しながらこいつから逃げれる!」
そうソラに命令したが、ソラはおびえているのだろう、ブルブル震えていた。
「む、無理よ!!!なんで私がこんな目に合わなきゃ……」ソラは半泣きであった。
俺を殴ってきたサンケマはソラのほうへ向き、走って行った。 ハイクはとっさに立ち上がり、地面を思いっきり蹴った。 その瞬間、とてつもない勢いでハイクはサンケマのほうに飛んで行った。
その勢いに驚きながらも、ソラに襲い掛かるサンケマに渾身の殴りを放った。 ドガンッ!!という轟音が夜に響く。
サンケマはとてつもない勢いで飛ばされ、顔は一部えぐれてハイクを見る間もなく、子供とともに逃げていった。
ハイクはサンケマが逃げたのを確認したら、自らの手を見て……。
「おい、あのムテラとかいう女、俺をここまで最強にさせて大丈夫なのか?ま、俺としては嬉しいがな……てか!この最強の力があれば、女にもモテて、十八年間厳しい砂漠を歩いてきた童貞という低ランク下級層から抜け出せるのでは!!しかもこんな最強な俺に、食料も住処も渡さないなんていう人で溢れる世界ではなかろう。そうすれば人間の三大欲求はすべて満たされて、俺は初めてこの世に生まれて生きててよかったと思える人生を送れる!!はやく○○Xしてぇぇ!!まってろよ!俺の童貞人生を忘れさせてくれる天使よ!!」
ハイクは後半になるにつれ、早口が加速していった。
「お前、そんなに強かったんなら、早くさっきのサンケマ、殺してほしかったわ。この無能め!」
「おい!!!さっきまで『チビッ子うんたらうんたら』のなんたらのサンケマだーとかいってたくせに何を言ってんだ?」
「『なかよしサンケマ物語』のジーミンだ!!!適当なこと言うなよこの非モテが!お前がいくら最強でも、お前のこと心から好きになる女なんているか!アホは夢もろくにみれんのか!」
さっきの俺の独り言を聞いていたらしい。 俺の野望がこの生意気なガキに知られたのは、少し恥ずかしさもある。
「お前な!……って、こんな小さな女の発言を真に受けて怒っても仕方ないか。俺にはこれから俺史上一番のハーレム人生が待っているんだ」
ハイクはもとの日本に帰りたいという欲はないようだ。 元の世界へ帰るより、この世界で自分の未来を考えた方が心が躍っているよう。
ハイクは未来に希望をもって眠りについた。
ハイク「ソラの生意気何とかできないかな...」
ソラ「あっそ」
ハイク「うぅぅ...先が思いやられる」




