第八話:命の期限と狂気を愛として売る。それが私たちの逆転策
1. 絶望的な状況下の対策会議
魔導盗聴器が発見され、王子の「命の期限」という国家機密が外部に漏れた今、エドワードとアメリアに残された時間はほとんどなかった。
エドワードの私室。レオンハルトは、アメリアが提案した「硝子の壁」の施錠を外し、初めて三者が同じ空間で向き合った。エドワードは疲弊しきっているが、アメリアの献身的な看病のおかげで、なんとか理性を保っている。
「セシリア嬢は、既に殿下の『法則収斂の閾値:残余45日』という情報を、王家の血縁者や有力貴族に匿名で流し始めました。これにより、殿下に対する王位継承権剥奪の動きが、水面下で加速しています」
レオンハルトが硬い声で報告した。
「奴らは私が狂人だと確信し、私が死ねば、未来の脅威に対抗できる者がいなくなることを恐れている。その恐怖と混乱こそが、セシリアの狙いだ」エドワードが呻くように言った。
「では、どうするの? 殿下の命が尽きる前に、彼らを黙らせるには?」アメリアが前のめりになる。
2. 三者三様の知識の結集
レオンハルトは、合理的な解決策を提示した。
「技術的な対策として、盗聴器の発見を公表し、セシリアを『王太子に対する反逆罪』で逆告発する道筋はあります。しかし、流出した『命の期限』という事実を覆すことはできません。殿下の健康状態を考えれば、時間稼ぎにしかなりません」
エドワードは、自らの未来の知識を活用する案を絞り出した。
「私は、未来の知識を基に、法則の歪みを一時的に利用できる『魔導トリック』を構築できるかもしれない。しかし、その技術を公衆の面前で使用すれば、私の『狂気』は確定するだろう」
二人の切実な提案に対し、アメリアは一度目の人生と王子の心理を知る唯一の人間として、首を振った。
「理詰めの戦いでは、私たちは負けます。彼らは、殿下を『愛のために国を裏切った狂人』として裁くつもりでいる。なら、私たちは、その『狂気』を全て公開するのよ」
エドワードとレオンハルトは、再び驚愕の表情を浮かべた。
3. 命を賭けた愛の物語への変換
「何を馬鹿なことを!アメリア嬢!それは、自滅行為です!」レオンハルトが声を荒げる。
「いいえ。レオンハルト、貴族社会は、命を懸けたロマンスと劇的なスキャンダルが大好きでしょう?私たちは、セシリアが流した情報を『王子の命を懸けた、運命的な愛の証明』として上書きするのです」
アメリアは、エドワードに顔を向けた。
「エドワード殿下。貴方は、私に『君を殺した過去の罪は、私が君の生涯をかけて償う』と言いました。この言葉を、貴族全員の前で、改めて誓約するのです」
「私の『命の期限』は、私が『愛するアメリアの命の安全』を完全に確保し、『真実の愛の誓約』を交わした時に解除される、『時間法則の試練』だと、貴族たちに信じ込ませるのだな」エドワードは、アメリアの奇抜な発想の真意を即座に理解した。
「その通りよ。私たちの婚約は、もはや政略でも支配でもない。命を懸けた愛の試練なの。貴族たちが、そのロマンスに心を奪われれば、セシリアの告発は、『神聖な愛の物語を妨害した悪行』へと変わる!」
アメリアは、力強い決意を込めたアンバーの瞳で、レオンハルトを見た。
「レオンハルトは、セシリアを『王子の崇高な愛の物語を妨害し、国政を混乱させた罪』で、正式に告発してください。エドワード殿下は、『法則収斂の閾値』が来る直前に、公衆の面前で私と『真実の婚約式』を執り行うのです」
エドワードは、アメリアの大胆な策に、激しい歓喜を覚えた。彼の執着は、ついに彼女の「救済」という形で受け入れられ、二人の運命は完全に結びついた。
「ああ、アメリア。君は、私を救ってくれる。君の望み通りにしよう。私の命と、このアルカディア帝国の運命を、君の愛に賭ける」
11/15次回予告:
『第九話:法則は愛には勝てない。私のキスで、運命を上書きします』
舞台は再び、断罪の夜会が開催されたグランドボールルームへ。公開の婚約式で、エドワードが「法則収斂の閾値」を迎え、命の危機に瀕する。アメリアの「真実の愛のキス」は、無慈悲な時間法則を打ち破ることができるのか――?




