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【完結】「死に戻りました」と叫んだけど、王子に嫁いで良かったです  作者: ましろゆきな


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4/10

第四話:残り45日。彼の狂気は、私を救う命の期限だった

1. 魔導工房の核心


 アメリアが飛び込んだ魔導工房は、まさに「クロノス・ギア」の心臓部だった。熱と騒音、そしてオイルの匂いが支配する空間。巨大な蒸気ポンプが一定のリズムで重い音を立て、天井からは無数の真鍮製のパイプが複雑に張り巡らされている。作業台の上には、精密な歯車や、魔力を帯びた水晶(クリスタル)、そして時空拘束兵(クロノ・ガーディアン)の未完成の金属パーツが無造作に転がっていた。


「アメリア公爵令嬢!すぐに外へ!ここは、貴女がいるべき場所ではない!」


 レオンハルトの冷徹な足音が、工房の騒音の中でも明確に近づいてくる。彼の顔には、この禁忌の研究の場所をアメリアに見られたことへの焦りが滲んでいた。


 アメリアは、構わず工房の奥、最も熱い蒸気が噴き出している一角へと走った。そこには、王子の私室にあるものと同じ、大型の魔導計算機が置かれ、複数の技術者が慌ただしく作業をしていた。


「動かないでください!これは王太子の――」


 レオンハルトの警告は、次の瞬間に止められた。


 アメリアは、作業台に無造作に放置されていた設計図の束を鷲掴みにした。


「これを見せて!」


 彼女のアンバーの瞳が設計図を追う。それは、時空拘束兵(クロノ・ガーディアン)の内部構造図だったが、彼女の知るこの世界の工学理論とは似ても似つかない、異質な数式と「未来」の技術で満たされていた。


2. アメリアが見つける秘密:命のカウントダウン


 設計図の束の一番上に挟まれていたのは、エドワードの手書きによる、乱雑なメモだった。アメリアは、その内容に息を呑んだ。


『法則収斂の閾値:アメリアが生存し、かつ未来に存在する日』 『残余:45日』 『(処刑の記憶の)精神拘束機能:必須。逃走阻止のため』 『懐中時計の過負荷:加速中。使用頻度を落とせ』 『償罪のための、愛の証明を急げ』


「嘘……」アメリアの顔から血の気が引いた。


 残り45日。


 エドワードの異常な執着は、彼自身の命の「期限」に基づくものだった。彼が時間法則を破って過去へ来たことへのペナルティ。彼の命は、アメリアの生存が確定する「法則収斂の閾値」を待たずして、尽きようとしていたのだ。


「それは見ないでください!」レオンハルトが慌ててメモを奪おうと手を伸ばす。


 アメリアはメモを胸に抱きしめ、叫んだ。「殿下は、あと45日で死ぬの!? これが、未来を修正したことへの罰なのね!?」


 レオンハルトは硬直した。彼のスチールグレイの瞳が、初めて明確な動揺に揺らぐ。彼の知る「狂気」が、「悲痛な真実」へと塗り替えられた瞬間だった。


「……貴女は、一体、何をどこまで知っているのですか?」レオンハルトの声には、冷静さとは別の、切実な問いが込められていた。


「私は、あなたたちの言う『狂人』に一度殺されました。そして今、彼は私の命を救うためだけに、自分の命を削っている」アメリアの胸は、恐怖ではなく、初めて「同情」と「切実な使命感」に満たされた。


3. 敵から協力者へ


 レオンハルトは、アメリアのアンバーの瞳に宿る確かな光を見て、エドワードの異常行動が「狂気」ではなく、「事実」に基づくことを悟った。彼は、王子の命を救いたいと強く願っている。


 アメリアは、彼を敵ではなく、協力者として見定めた。


「レオンハルト、貴方は優秀な側近でしょう。殿下の命を救いたいのでしょう?」


「……もちろんです。私は、この二年間、殿下を支えるためだけに生きてきた。しかし、最近の殿下の行動は、合理性を欠き、私には理解できなくなっていた」


「殿下の行動に合理性はないわ。あるのは愛と贖罪だけ。そして、時間がないという焦りよ」アメリアは、一歩前に踏み出した。


「このメモを見ても、まだ私を敵だと断じますか?」


 レオンハルトは深く息を吐き、静かに頭を下げた。


「……アメリア公爵令嬢。この場は、私が知らぬ間に貴女が侵入したものとして処理します。そして、殿下の命を救うという貴女の目的に、協力させていただきます」


 冷徹な側近は、王子の異常な愛の物語の裏にある真実を知り、初めて理性ではなく、忠誠心と人間の情で動いた。


 アメリアは、設計図を胸に抱きしめる。


「私を王子の私室に戻してください。そして、私に協力してください、レオンハルト。彼は私を殺した。でも、今度は私が彼を救う番です」


 彼女の言葉は、二人の間に、命を懸けた新しい協力関係が成立したことを示していた。

11/11次回予告:

『第五話:命綱の懐中時計を手放して。代わりに私の胸で眠って』

アメリアはエドワードの命の期限を管理し始める。王子の孤独を癒す献身的な看病が始まり、二人の間にロマンスの予感が。しかし、宮殿の裏側では、偽の悪役令嬢セシリアが、彼らの秘密を暴くため、ある魔導盗聴器を仕掛ける……。

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