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幸せの宿る場所  作者: 坪原 衣音


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6/11

朝のおにぎり②

こんな時間に誰だろう。

そう思いながら、涼音は息を潜めていた。

出るべきか、出なくていいものか。

本音は出たくない。

寝起きのスッピンで、誰かも分からない。その上、昨日は風呂にも入っていないのだ。

そんな状況、誰だって出たくないだろう。

布団の中から、耳をそば立てて、外の様子を伺っていると、ドアを叩く音は収まり、今度は電話で話す声が聞こえて来た。

山の中の別荘地はとても静かで、外の音もよく聞こえる。


(あ、俺。出ないんやけど。うん、うん。でも出ないもんは仕方ないんやないか?まだ寝とるかも知れんし。・・・・うん。まぁ、、、そーやけど。。。うん。これ、置いてっちゃいかんの?えっ?あーはいはい、分かりましたよ。手渡しね。へいへい。ちゃんと渡しますよ。はい、はーい。)


聞いたことのある声に驚き、急いで布団から出て、上着を羽織った。

声の方に近いカーテンの隙間から、そーっと外を確認すると、そこには昨日『ダイサク』と呼ばれていた大男が荷物を持ってウロウロしていた。

暖かそうな上着に、足元は裸足に突っ掛けと言う、何ともアンバランスな格好である。

ウッドデッキのある窓を開けた所で、大男と目が合った。

「おぉ、良かった。おはようさん。」

「おはようございます。早いですね。」

山の朝は冷え込んでいて、吐息は白く、靴下を履いてない足が悴む。

家の中にあったサンダルを履き、ウッドデッキに出た。

「こんな朝から、何かありましたか?」

「いや、何もないけど。これ渡しに。」

キョトンとした顔で、顔の前に出された保温バックを見た。

「何ですか、これ?」

「朝メシ。」

目を見開いて、大男の顔を見た。

「昨日の店の、おばちゃんから。」

涼音が不思議そうに、大男の顔を見ていると、

「アレ、俺のかーちゃん。」

と、答えた。

「あ〜、道理で。」

涼音は、合点がいったとばかりに、人差し指を立てて、頷いた。

「でも、いいんですか?昨日もお金払わず、ご飯頂いちゃったし。」

「いんじゃない?なんか心配しとったから、食べてもらった方が安心するんやないか?」

「心配…ですか。」

「んー。昨日、思い詰めた顔しとったって言っとったぞ。

もしものことがあったらいかんから、持って行って手渡しして来いって。

朝の7時半に叩き起こされた。」

そうだったのか。そう思いながら、有り難さと申し訳なさが、同時に浮かんでくる。

「じゃあ、遠慮なく。ありがとうございます。」

そう言うと、大男の手から、バックを受け取った。

「買い出しとか、大丈夫なんか?」

「あー…まだ家の中、見てないんで、よく分からないですけど。何とかなるんじゃないですかね?」

「いや、何ともならんやろ。ここ、車ないと、どこにも行けんぞ。」

よく考えれば、そうだ。

この別荘地の中には、管理事務所があったけれど、人が居るのか、居ないのかも、分からない。

自販機があったのは分かったが、他に何かが売ってる様には見えなかった。

食べ物を買うにしても、一番近いのは、バスを降りた小さな村の中心のとこだろう。

そこまでも、おそらく車でも20分位はかかりそうだ。

歩くにしても、山道だから相当掛かるだろうし、何より、野生動物が出るかもしれない。危険すぎる。

そんなことを考えて、固まっていると、

「とりあえず、今日、明日は仕事ないから、車出してやるから、なんかあったら、連絡して。」

そう言って、紙を渡された。

メモ用紙を破ったようなソレには、携帯の番号とLINEのID、そしてダイサクと名前が書かれていた。

「ダイサク…。」

「・・・・なんや?」

ちょっと照れた様に、ぶっきらぼうに返事をした。

「大きい作物の作じゃなくて、花が咲くの咲くだから。」

「ふふ…聞いてないけど、そうなんですね。」

「で、あんたの名前は?」

「あ、スズネです。涼しいに音で涼音。」

「ふーん。」

「聞いといて、ふーんって何ですか。」

ちょっと不貞腐れて、言った。

「まぁ、よろしく。」

「あっ、よろしくお願いします。朝ごはん、ありがとうございました。」

「おぅ。じゃ。」


そんなやり取りをして、部屋に戻って来た。

暖かいご飯と、久しぶりに交わしたであろう人とのコミュニケーションに、楽しさと嬉しさで、足が寒かったことも、すっかり忘れていた。

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