朝のおにぎり①
涼音は、顔に当たる日差しが眩しくて、目を覚ました。
スマホで時間を確認すると、7時半だ。
布団から出ようとするが、寒くて出る気がなくなってしまう。
布団に入ったまま、昨日のことを思い出していた。
定食屋で、ご飯を頂いていた時、いつの間にか、お店から離れていた大男が戻ってきた。
涼音は、大男が居なくなっていたことすら、気付かず、食事をしていた。
お店に入って来るなり、軽く涼音を見て、食べているのを確認すると、涼音に喋りかけるでも無く、エプロン姿の女性に話しかけていた。
特に会話は、聞こえない。と言うより、聞く気がなかったと言った方が、正しいかも知れない。
それよりも、目の前のご飯に、集中していたかった。
こんなに美味しいご飯は、いつ振りだろう。
そんな事を思いながら、一心不乱に食べた。
食べ終わって、お茶を飲んで、ホッと一息ついた時、
大男が話しかけてきた。
「そろそろ、行きましょうか。」
きっと、ちょっと離れた所から、涼音が落ち着くのを、待っていたのだろう。
「あっ、すいません。お待たせしました。」
そう言って、荷物を持ち、レジまで行くと、
「お代はいいよ。今晩のウチのご飯も、ついでに作ったから。」
「えっ…。でも。」
「いいの、いいの。冷凍のパンで、お金貰えないよ。」
「すいません。急に押し掛けて来たのに。ありがとうございました。ご馳走様でした。」
「いえいえ。お粗末さまでした。」
エプロン姿の女性は、目尻の皺が、とても印象的な笑顔で、涼音を送り出してくれた。
「ダイサク、気を付けて送って来なさいよ。」
「あいよ〜。」
やる気の無さそうな返事で、エプロン姿の女性に返した。
(そういえば、あの大男、ダイサクって言われてたっけ。)
涼音が外に出ると、最初に乗せて貰った軽トラックとは、別の車に変わっていた。
涼音が何も言わずに、車をじーっと見ていたことに気付いたのか、
「食べてる内に、車、変えてきた。乗って。」
と大男は促して、荷物を受け取った。
「あ、あぁ…。ありがとうございます。」
荷物を渡すと、涼音は助手席に乗り込んだ。
SUVと言うのだろうか。
山の生活にピッタリのイメージの車だ。
乗り心地も良く、暖かい。
「で、どんぐりの森のどこまでだ?住所分かる?」
「あっ、はい。ちょっと待って下さい。」
突然聞かれたので、焦りながら、スマホを取り出して、住所の載っている所を開いた。
「えっと…ここなんですけど…。」
「ん?あぁ。」
そう言うと、大男は、慣れた手付きで、カーナビに住所を打ち込んでいく。
「詳しいとこまでは、出ないな。まぁ、行ってみて探すか。」
「すいません。お願いします。」
「じゃー、行きますよ。」
そして、車は走り出した。
さっきのお店から、更に山を登り、20分位で、どんぐりの森リゾートに着いた。
カーナビでもハッキリした場所は分からなかったので、涼音のスマホに届いている写真を見ながら、家を探す。暗いので、写真の家と合っているのか分かりにくい。
何とかそれらしい家を見つけて、鍵を差し込み、回った時には、2人して、とても安堵した。
電気と水道は、引越しの前に手続きをしていた。
ブレーカーを探し、家に電気を灯す。
そうこうしている内に、大男は荷物を運んでくれた。
自分で持って来た荷物よりも、沢山、運び込んでくる。
布団、ミネラルウォーター、ガスコンロ…
涼音が呆気に取られていると、
「さっきの話から推察するに、何も準備して来てないやろうと思って。
この辺、朝は寒くなるし、ちゃんと布団無いと風邪引くし、冷たい水飲んでたら、お腹壊すぞ。」
「すいません。こんなことまで、していただいて。」
「まぁ、ええよ。気にせんで。灯油はないで、寒いのは我慢してもらわなかんけどな。あと、風呂も。」
「あっ、そっか。お湯出ないんだった。」
「明日、温泉でも行きゃええ。近くにあるで。」
「そーなんですね。ありがとうございます。」
「ほんなら、帰るから。ちゃんと戸締りして、気を付けてな。」
「何から何まで、すいません。ありがとうございました。」
「ほんなら、おやすみ〜。」
「おやすみなさい。」
そう言うと、大男は、帰って行った。
そして、今である。
大男が持って来てくれた布団のお陰で、何とか朝を迎えられた感じだ。
ここの寒さを舐めていた。この時期でも朝は気温が一桁で、とても冷え込んでいる。
布団から出られず、ゴロゴロしていると、
『ダンダンダン』と、玄関を叩く音がした。




