不安にコーンチャウダー②
涼音は、小さい集落を抜け、再び山道を歩いていた。
日が落ちてきて、夕方になったことと、山を登って、標高が高くなってきたこともあって、だんだんと寒くなって来た。
薄手のパーカー位は持って来ていたけれど、ここまで寒くなるとは。。。
この時間で、この寒さだと、夜になったらどうなるんだろう。
そんなことが、頭をよぎる。
早く目的の場所に着かなければ、と足を動かすが、荷物は重いし、お腹は空いたし、足取りは重たい。
さっきから、ずっと同じような山道で、ちゃんと道が合ってるのか、心配になってきた。
時折、グーグルマップを確認しては、正しい道だと言うことを確認して、ひたすら前に進んだ。
たまに通りかかる車は、何だか不思議なものでも見たかのように、涼音の近くで減速し、こちらを見てから去っていく。
幽霊とかじゃないんだけど…。
そんな独り言を言いながら歩いた。
けっこう歩いたと思い、時計を見ると、まだ5分しか経ってない。
ってことは、まだ全然進んでないことに気付き、愕然としてくる。
目的地まで、あとどれだけ歩けばいいんだろう。
なんで、こんなとこで、こんなこと、してるんだろう。
だんだん悲しくなって来て、涙が溢れてきた。
木が茂った山の中は、薄暗くて、肌寒い。そして、横から何かが出てきそうで不気味だ。
心細さで、心が縮んでいく気がする。
それでも行かなければ。
助けてくれる知り合いも、この道にタクシーも来ない。
鼻を啜り、涙を手の甲で拭った。
少しでも気晴らしに歌を歌いながら歩こう。
トトロの『さんぽ』を口ずさみながら、歩いてみた。
それから、どれくらいか歩いた。
とにかく涼音は、無心で歩いた。
辺りは暗くなり始め、道ゆく車も、ヘッドライトを着けて走っていく。
すると、一台の軽トラックが、涼音の近くで減速して、窓を開けた。
「そこの…えーと、お姉さん。どこ行くんですか?」
ヤバイ!声掛けられた!
さっきから、誰か助けてくれる人が居たら…なんて考えていたけれど、いざ声をかけられると、動揺してしまう。
涼音は平静を装いながら、特にそちらも見ずに答えた。
「あー…大丈夫です。お気遣いなく。」
「いやいや、こんな暗いのに、危ないやろ。」
涼音は、軽トラに目をやった。
車に乗っていても分かる位、大柄な男が、助手席側の窓を開けて、こちらに話し掛けていた。
これは、ナンパだ。こんな山奥でも、ナンパする奴がいるのか。はぁ〜と溜め息を吐いて、
「いや、ホントそういうのいらないんで。」
涼音は、歩きながら、目線は前に戻して、冷たく言い放った。
大男は、よく分からず、少し考えて、ハッとしたのか
「いや、違う違う。そーゆーんじゃない。ホントにそーゆーんじゃない!
この辺、熊も出るし、猪とか、猿とか、野生動物多いから。
この先、電灯も少なくなるから、危ないって、
そういうことだ。」
涼音は立ち止まり、大男の顔を見た。
自分の思い込みと、今の失礼な返事を思い返し、顔から火が出そうなほど、恥ずかしくなった。
今が暗くて、良かった。
「あ…、ごめんなさい。てっきり、ナンパかと思って。」
「そんな訳ないやろ。こんなとこで。
まぁ、ええわ。で、どこまで行くんや?
危ないから送ったるわ。車乗り。」
大男はそう言うと、車の助手席のドアを開けてくれた。
でも考えてみると、すごく危ない気がしてくる。
そういう手口で、女子を車に乗せて、拐われるなんて、有りがちなことだ。実際、車に乗って誘拐されたり、危ない目にあったり、殺されるなんて事件も起こっている。
ここは慎重にならねば…。
野生動物よりも、人間の方が危ないかもしれない。
車に乗るのを躊躇っていると、大男は不思議そうに言った。
「乗らんのか?」
「いえ。なんか初対面の人の車乗るの、危ないかなぁーと思いまして。」
「なら、乗らんでもええけど、熊に襲われるかもしれんぞ。昨日も一頭、罠に掛かってたしな。」
そう言われると、頭の血がサーっと引いて行くのを感じた。
「すいません。お願いします。」
涼音はそう言うと、大人しく車に乗り込んだ。
「で、どこまでや?」
「あっ、どんぐりの森リゾートまでお願いします。」
「別荘地の方か。どうりで見たことない人やと思ったわ。」
「まぁ…初めて来たんで。」
「そーか。よー来たな。こんな山奥まで。」
「まぁ…。」
特に会話が見つからない。
これからここで生活しなくちゃいけないのだ。
初めて出来た知り合い(?)なのだから、親しくなっておくべきなのに、全く会話が出てこない。
この大男、人を拐うようには見えない。
でも何だか警戒してしまう。
大男もそれ以上話すこともなく、前を見て車を運転している。
そんな時、車内に響き渡るように『ぐぅ〜〜〜』と、涼音のお腹が鳴った。
またしても、顔から火が出そうなくらい、恥ずかしくなって、俯きながらお腹を押さえた。
なんてタイミングの悪い…。
大男は、軽く涼音の方に目をやって、すぐに視線を前に戻して、
「腹減ってんのか?」
と、聞いて来た。
「すいません。お構いなく。」
俯いたまま、消え入りそうな声で答えた。
恥ずかしすぎる。初対面の男の人の前で、警戒してたくせに、お腹鳴らして。。。
穴があったら入りたいとは、正にこの事である。
「別荘地の家に行ったら、飯はあるんか?」
大男の問いに、ハッとした。
途中で、何も食べるものを買ってない。
目的の家に着いても、誰も居ないのだ。
どうしたら、いいんだろう。
大男の質問に答えられず、呆然としていた。
やっとのことで、言葉を絞り出し
「コンビニとか…ありますか?」
と聞いた。
「ある訳ないやろ。」
「はは…。ですよね〜。」
苦笑いで、そう答えては見たけれど、奈落の底に突き落とされた気分だ。
「近くの定食屋、寄ったるわ。」
そう言うと、大男は、車をそのまま走らせた。




