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幸せの宿る場所  作者: 坪原 衣音


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3/11

不安にコーンチャウダー②

涼音は、小さい集落を抜け、再び山道を歩いていた。

日が落ちてきて、夕方になったことと、山を登って、標高が高くなってきたこともあって、だんだんと寒くなって来た。

薄手のパーカー位は持って来ていたけれど、ここまで寒くなるとは。。。

この時間で、この寒さだと、夜になったらどうなるんだろう。

そんなことが、頭をよぎる。

早く目的の場所に着かなければ、と足を動かすが、荷物は重いし、お腹は空いたし、足取りは重たい。

さっきから、ずっと同じような山道で、ちゃんと道が合ってるのか、心配になってきた。

時折、グーグルマップを確認しては、正しい道だと言うことを確認して、ひたすら前に進んだ。

たまに通りかかる車は、何だか不思議なものでも見たかのように、涼音の近くで減速し、こちらを見てから去っていく。

幽霊とかじゃないんだけど…。

そんな独り言を言いながら歩いた。

けっこう歩いたと思い、時計を見ると、まだ5分しか経ってない。

ってことは、まだ全然進んでないことに気付き、愕然としてくる。

目的地まで、あとどれだけ歩けばいいんだろう。

なんで、こんなとこで、こんなこと、してるんだろう。

だんだん悲しくなって来て、涙が溢れてきた。

木が茂った山の中は、薄暗くて、肌寒い。そして、横から何かが出てきそうで不気味だ。

心細さで、心が縮んでいく気がする。

それでも行かなければ。

助けてくれる知り合いも、この道にタクシーも来ない。

鼻を啜り、涙を手の甲で拭った。

少しでも気晴らしに歌を歌いながら歩こう。

トトロの『さんぽ』を口ずさみながら、歩いてみた。


それから、どれくらいか歩いた。

とにかく涼音は、無心で歩いた。

辺りは暗くなり始め、道ゆく車も、ヘッドライトを着けて走っていく。

すると、一台の軽トラックが、涼音の近くで減速して、窓を開けた。

「そこの…えーと、お姉さん。どこ行くんですか?」

ヤバイ!声掛けられた!

さっきから、誰か助けてくれる人が居たら…なんて考えていたけれど、いざ声をかけられると、動揺してしまう。

涼音は平静を装いながら、特にそちらも見ずに答えた。

「あー…大丈夫です。お気遣いなく。」

「いやいや、こんな暗いのに、危ないやろ。」

涼音は、軽トラに目をやった。

車に乗っていても分かる位、大柄な男が、助手席側の窓を開けて、こちらに話し掛けていた。

これは、ナンパだ。こんな山奥でも、ナンパする奴がいるのか。はぁ〜と溜め息を吐いて、

「いや、ホントそういうのいらないんで。」

涼音は、歩きながら、目線は前に戻して、冷たく言い放った。

大男は、よく分からず、少し考えて、ハッとしたのか

「いや、違う違う。そーゆーんじゃない。ホントにそーゆーんじゃない!

この辺、熊も出るし、猪とか、猿とか、野生動物多いから。

この先、電灯も少なくなるから、危ないって、

そういうことだ。」

涼音は立ち止まり、大男の顔を見た。

自分の思い込みと、今の失礼な返事を思い返し、顔から火が出そうなほど、恥ずかしくなった。

今が暗くて、良かった。

「あ…、ごめんなさい。てっきり、ナンパかと思って。」

「そんな訳ないやろ。こんなとこで。

まぁ、ええわ。で、どこまで行くんや?

危ないから送ったるわ。車乗り。」

大男はそう言うと、車の助手席のドアを開けてくれた。

でも考えてみると、すごく危ない気がしてくる。

そういう手口で、女子を車に乗せて、拐われるなんて、有りがちなことだ。実際、車に乗って誘拐されたり、危ない目にあったり、殺されるなんて事件も起こっている。

ここは慎重にならねば…。

野生動物よりも、人間の方が危ないかもしれない。

車に乗るのを躊躇っていると、大男は不思議そうに言った。

「乗らんのか?」

「いえ。なんか初対面の人の車乗るの、危ないかなぁーと思いまして。」

「なら、乗らんでもええけど、熊に襲われるかもしれんぞ。昨日も一頭、罠に掛かってたしな。」

そう言われると、頭の血がサーっと引いて行くのを感じた。

「すいません。お願いします。」

涼音はそう言うと、大人しく車に乗り込んだ。

「で、どこまでや?」

「あっ、どんぐりの森リゾートまでお願いします。」

「別荘地の方か。どうりで見たことない人やと思ったわ。」

「まぁ…初めて来たんで。」

「そーか。よー来たな。こんな山奥まで。」

「まぁ…。」

特に会話が見つからない。

これからここで生活しなくちゃいけないのだ。

初めて出来た知り合い(?)なのだから、親しくなっておくべきなのに、全く会話が出てこない。

この大男、人を拐うようには見えない。

でも何だか警戒してしまう。

大男もそれ以上話すこともなく、前を見て車を運転している。

そんな時、車内に響き渡るように『ぐぅ〜〜〜』と、涼音のお腹が鳴った。

またしても、顔から火が出そうなくらい、恥ずかしくなって、俯きながらお腹を押さえた。

なんてタイミングの悪い…。

大男は、軽く涼音の方に目をやって、すぐに視線を前に戻して、

「腹減ってんのか?」

と、聞いて来た。

「すいません。お構いなく。」

俯いたまま、消え入りそうな声で答えた。

恥ずかしすぎる。初対面の男の人の前で、警戒してたくせに、お腹鳴らして。。。

穴があったら入りたいとは、正にこの事である。

「別荘地の家に行ったら、飯はあるんか?」

大男の問いに、ハッとした。

途中で、何も食べるものを買ってない。

目的の家に着いても、誰も居ないのだ。

どうしたら、いいんだろう。

大男の質問に答えられず、呆然としていた。

やっとのことで、言葉を絞り出し

「コンビニとか…ありますか?」

と聞いた。

「ある訳ないやろ。」

「はは…。ですよね〜。」

苦笑いで、そう答えては見たけれど、奈落の底に突き落とされた気分だ。

「近くの定食屋、寄ったるわ。」

そう言うと、大男は、車をそのまま走らせた。

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