不安にコーンチャウダー①
涼音は、バスのフロントの所に置かれた行き先
『開王村』
を確認して、乗り込んだ。
小声で「すいません。」と言いながら、2列目の窓側の席に腰掛けた。
出発までまだ時間があるからか、涼音以外にまだ1人しか乗っていない。
この乗り物、バスと言っても、マイクロバスよりも小さい、ハイエースの様なバンに、乗合いしているような感じだ。
昔、過疎化した地域の移動に、バンを送迎に使っていると、テレビで見たことがあったが、まさか自分が利用する日が来るなんて、思いもしなかった。
出発5分前になると、ぞくぞく乗客が来た。
「こんにちは。今日は遅いねぇ。足元気をつけて下さいよ。」
バスの運転手が、お婆さんに声を掛けた。
「こんにちは、大森さん。今日は病院のついでに買い物してたのよ〜。そしたら、前のバス行っちゃって。シゲさんとこで、お茶もらってたのよ〜。」
「そうでしたか。シゲさん、元気やったか?」
「あの人は相変わらずよ。いつでも元気。」
「ほーかほーか、いつものことでええね?」
「はいはい、いつものとこまで、お願いしますね。」
お婆さんは笑顔で運転手さんと会話を交わし、涼音の横の席に来た。
「ここ、よろしいですか?」
「えっ、あ、はい。どうぞ。」
優しく涼音に笑い掛け、隣の席に座った。
「ごめんなさいね、膝が悪くて。杖が邪魔ね〜。」
「あっ、大丈夫です。お気になさらず。」
急に話しかけられるので、驚いてしまう。
都会のバスでは、こんな事、ほとんどない。
何となく気まずい気がして、窓の外を見ていると、
「二列目の窓側のお姉さん。」
バスの運転手が、誰かに声を掛けている。
ふと、バスの中に視線を戻すと、こちらを見ていた。
「あんたさんよ。」
列を確認して、もう一度、運転手と目が合う。
「あっ、はい。」
緊張と驚きで、声が上擦ってしまった。
「あんたさん、どこまで行かれます?終点の開王村までで良かったですか?」
「あっ、はい。開王村までです。お願いします。」
「はいよ、開王村ね。了解。」
そう言うと、隣に置いてあるバインダーの紙に書き、それを元の場所に戻すと、ドアを締め、
「そんじゃ、時間になりましたんで、発車しまーす。」
と、声を掛けて、バスを走らせ始めた。
ゆっくり車が動き出した時、走ってこちらに手を振っている人を見つけた。
運転手も見つけて、手を振り返し、再びバスを停めた。
「すいませんな。遅れてしまって。」
遅れて来たお爺さんは、運転手と乗客に、詫びを言い空いてる席に座った。
「いえいえ、間に合って良かった。最終ですからね。いつものとこで、良かったかね?」
「はい、いつものとこです。」
そして、お爺さんがちゃんと座るのを確認すると、
「じゃ、出発しますね。」
と、運転手が言い、バスは出発した。
バスの中には、涼音を含め、11人の乗客と運転手が1人、ほぼ満席だった。
皆んな知り合いか、顔見知りか、何やら親しげに会話をしている。
隣のお婆さんは、無言で座っていた。
自分の隣に座ったばっかりに、話し相手がいないのが、なんだか申し訳なくなってくる。
でも、特に話す話題が思い浮かばない。
仕方なく、涼音はスマホに目を落とした。
それと同時に、疎外感を感じずにはいられなかった。
それにしても、このバス、とにかく揺れる。
さっきから、右に左に、隣のお婆さんの肩にぶつかるくらい揺れる。
道を走ると言うよりも、山を登っているも行った方が、正しいのではないだろうか。
クネクネの上り坂を、グングン登っていく。
余りにも揺れるので、普段、乗り物酔いなんてしないのに、気持ち悪くなって来た。
このままじゃマズイと思い、スマホの画面を閉じて、外を眺めてみる。
遠くを見ていた方が、酔わないと聞いたことがあったからだ。
バスは、途中、何箇所かのバス停で、乗客を下ろし、30分ほどで、終点の開王村のバス停に着いた。
荷物を持って、バスを降り、見回したそこは、山の中腹に位置する、小さな村だった。
想像はしていたけれど、予想以上に、何もない。
コンビニと言うよりは、小さな売店のようなお店と、役場、同じ校舎に小学校と中学校が入った学校、保育園、診療所に、この村に一つの美容院。
ここで、生きていけるのだろうか。
そんなことが、頭をよぎる。
しかし、目的地は、まだ先だ。
涼音は重い荷物を持って、グーグルの地図を見ながら、目的地の方角を確認して歩き出した。
太陽も沈み始め、辺りは少しずつ夕焼け色の帯を纏っていた。




