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幸せの宿る場所  作者: 坪原 衣音


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10/11

引越しと蕎麦③

1時間後、約束通りに、大咲が迎えに来た。

ドアをドンドンと叩く音に、焦りながら、玄関に出た。

「お待たせしました。」

「おぉ。ほんなら、いこかー。車乗って。」

そう言われて、昨日と同じ車の助手席に、乗り込んだ。

「休みの日に、すいません。」

「ええよ、ええよ。で、何買う?さっき聞いたのが、タオルとかマットレスやっけ?」

「あー、そうですね。あと日用品とかも。ドラッグストアでいいんですけど。」

「とりあえず、家具類も買うなら、もうちょいでかい町に行かないとないから、ちょっと時間かかるけどええか?1時間半くらい。」

「1時間半。。。結構かかるんですね。私は大丈夫です。」

「まぁ、この辺、なんも無いからな〜。日用品とか生活に必要なもんは、下の駅んとこまで行けば、大体揃うけどな。家具屋とか、家電量販店とか、行こう思ったら、ちょっと遠くまで行かんとな」

「そうなんですね。遠くまで運転させて、すいません。」

「ええよ。気にせんとき。」

「ありがとうございます。」

そう言うと、涼音は窓の外に目をやった。

昨日は暗くてよく分からなかったが、深い森の木々は色付きはじめ、赤や黄色、オレンジの葉っぱのグラデーションが、とても綺麗だ。

昨日来た都会はまだまだ暑くて、エアコンを使っていたのに、ここではもうすっかり秋なのだ。

ここまで季節が違うものかと、感心してしまう。

外を眺めながら、随分経ったが、大咲は特に話しかけるでもなく、運転している。

涼音は大咲を、じっと見ることも出来ないのだ、チラチラと見ていたが、気付くことも無く、音楽を口遊みながら、黙々と運転していた。

昨日も、今日も、あまり良く見ていなかったが、大咲は綺麗な顔立ちをしている。

鼻筋の通った高い鼻に、二重で切れ長の目が印象的だ。

背が高く、ガッチリした体格、健康的な肌の色は、何か運動でもやっているのだろうか、と思わせる。

あまりにも沈黙の車内に、気まずさを感じ、涼音から話しかけた。

「あの…昨日から色々、ありがとうございます。お布団も、助かりました。」

「おぉ、寒かったやろ〜。ストーブ無くて大丈夫やったか。この辺、朝、晩は冷え込みよるからな。」

「冬用の布団貸してもらえたので、包まって何とかなりました。」

「そうや、灯油も買っておかなかんな。あ、風呂は何やった?電気か?」

「多分…灯油だと思います。ボイラーって言ってました。」

「なら、灯油は多めにいるな。」

お風呂の話をして、自分が昨日からお風呂に入れてない事を思い出した。

臭くないだろうか、風呂にも入ってない女を連れて歩くのは、嫌ではないだろうかと、申し訳ない気持ちになってくる。

「なんか…すいません。」

「えっ、何が?」

「いや…その、、、お風呂も入ってないし。すいません。」

「そんなん、しゃーないやん。まだ風呂使えんのやから。車も無かったら、温泉も行かれへんしなぁ。」

「まぁ、そうなんですけど…。なんか…臭いかも知れんし。」

大咲がクスッと笑った。

「気にせんでええよ。俺、鼻炎で鼻詰まってるし。」

その言葉が優しさなのか、分からなかったが、何と返していいのか分からず

「はぁ…。」

とだけ言って、また黙ってしまう涼音だった。


それから目的の場所まで、特に会話することも無く、流れて来る歌を聴きながら、過ごした。

目的地が近くなるに連れて、お店も増えて、街になっていく。

「昼時だし、先に昼飯食ってから買い物するか。」

確かにお腹が空いている。時計も、もうすぐ12時になろうとしていた。

「あ、私、奢ります!」

「えっ、何で、急に。」

「いや、別に急では無いですけど。送ってもらったお礼と言うか、昨日からお世話になってるお礼と言うか…お礼です!」

「えっ、そーなん?そんなんいいのに〜。悪いやん。」

「いえ、奢らせてもらった方が気が楽と言うか。」

「そうかー。なら、お言葉に甘えて、ご馳走になろかな。なんか食べたいものある?」

「私は何でも。大咲さん、好きなもの選んで下さい。」

「え、そこまで選んでいいの?いや〜、行きたいとこあるんやけど、ええか?」

さっきより、明らかにテンションが上がってるのが分かる。きっととても行きたい所だったのだろう。

場所を自分で選べると言うことで、急に目がキラキラし出した。

「いいですよ。そこ、行きましょう。」

まずは腹ごしらえに、お店へ向かった。

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