表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泰山庁幽鬼調査課  作者: 十弥彦
仮面編
30/32

第三十話 悠抄、仮面の秘密を明かすの事 その二十二

 贈呈品に相応しい大きさの若木を求めて、玉化した下草を割って伸びる小道を進みながらきらびやかな宝珠の林を歩き回ることしばし。

 地に足のついた提案をする彩藍と枝ぶりの大きさに玉の色艶のと審美にうるさい人外三人による熾烈な争いの末、ようやっと人の脛の半ばほどの苗木を認めて一行が林の外れの崖際で足を止めた。

「この木ならまぁまぁ及第ですかねー。やはり山まで来て正解でした。これなら、彩藍くんも採取係を務める甲斐があるのです」

「はぁ、僕が採取係なのはこの際別に構いませんが、まさかこの小刀一本で掘り返せなんて言わないですよね?」

 悠抄に示された小さな若木と自らの手の内にある華奢な小刀を見比べた彩藍が、手中の物を胸元に寄せて警戒するように同行者の気配を伺う。

 彩藍の懸念をなんと取ったか、小型狻猊を頭上に乗せた悠抄が、ふむと腕を組む。

「別にその小刀でなくても簪でも何でも良いですよ。ただ、この場合は小刀の方がより想像しやすいと言うだけです」

 さぁどうぞ、と実行を促す悠抄であるが、当然のごとく概念だけで人は動けるはずもなし。

 疑惑の念を隠そうともしない事務官に、小型自業自得仕方ないと頭を振るう。

「いいですか、彩藍くん。先にも説明しましたが、仙果仙木とは五気の具現化であり、入手には正しい手順を踏むことが必要なのですよ」

 未だ納得のいかない様子を見せる青年事務官に、手を腰に当てた悠抄が、本人としてはわかり易く噛み砕いた説明を再度する。

「なので、この小刀で玉枝樹が採取できるのは自明の理なのです」

「すみません、何が自明なのかさっぱりなので、どなたか人語での説明をお願いします」

 仮面の少年による定義と結論だけで構成された解説は、採取係に届く前に却下と撃ち落とされる。

 戦力外通知を受け不思議そうに引き下がる小型役立たずを傍目に、ならばと天より立会に呼ばれた女仙がしずしずと進み出た。

「付人殿、抄幽官が言の通り、玉枝樹とは五行揃えど本質は木の行に相違なく、金とは断であり別でありまする。よって霊験損じることなく手中に納むるを望むならば、自然の巡りを解し金にて五気を断つ事こそが肝要となりまする」

 そして告げられた天界の高度概念は、現実を生きる青年からの冷たい目線を以て役立たずの烙印を押されたのは、火を見るより明らかな帰結であった。

 いつになく強情な青年に困り果てる三人と一匹であるが、三番手を担わんとしていた天猫が何事か気がついたのか、はたと動きを止めた。

「もしかしてお前、どう実行すればいいのか聞いていたのか?」

「もしかしても何も、僕は最初からそう聞いているでしょう……」

 手を打ち明るい声を張り上げる天猫と、その背後でようやっと合点がいったと頷き合う非常識たちに、近くの大型玉枝樹の幹に額を付けた彩藍が呻き声を上げる。

「えーっとですね、小刀を地面に突き立てて、張り出した枝の二周り程外側に丸い籠があるように想像するのです。そうするとですね、こう、ぽこっと地面から浮き出てくれますよ」

 おそらくは擬音に対する身体表現なのであろう、脇腹を曲げて両の手を右斜め上に放り投げると言う奇妙な体勢を取る悠抄に、一度疑惑の眼差しを向けた彩藍がそっと地面に白刃を差し込む。

 言われたように苗の根を包むような籠を脳裏に思い浮かべると、次の瞬間、玉を付ける金属の樹がぽこりと周囲の土ごと跳ね上がった。

「うわ、気持ち悪……」

 思わず口をついて出た感想は、幸いにも悠抄の送る拍手によりかき消された。

「流石は彩藍くんですね。この様子なら、調査課でも十分活躍できますよー」

「すみませんが、不必要に褒められると呪われて本当に移動させられそうな気がするので、それ以上は勘弁してください」

 いささか大袈裟に褒めちぎってくる厄介の塊に身の危機を感じたのか、速やかに辞退を申し出る彩藍である。

 聞く耳という機能自体元より持ち合わせていない悠抄が、頭にくろさんを乗せたまま上機嫌で懐より取り出した曜変あらわる大振りの黒釉薬の鉢には、栗の木の根元に丸まる霊亀が描かれ、稲光のような金銀の筋が走っていた。

「綺麗な金と銀の筋ですが、これは欠けやひび割れの補修ですか」

「はい。八洲の陶器修繕方法で、金継ぎや銀継ぎというのですよ」

 破損を漆で継ぎ合わせて金銀粉で飾り立てた補修痕を景色と見立てて楽しむのだ、と胸を張る悠抄に、彩藍が方相氏面の顎に手を当て首を捻った。

「確かに、発想は面白いですが、わざわざ壊れたものを使わなくとも良いのでは?」

「これは五行にも敵うのですよ。土生金から金生水を経て水生木に至るです。つまり、金は土中から産し、水脈は金鉱の側を流れ、木は天水や流水に育まれることで活気となります」

 言うが早いか鉢を小脇にしゃがみ込むと、掘り出した宝樹の苗と幾ばくかの土を放り込み、ついと縁を身左手人差し指で撫でる。

 一見なんと言うこともない動作であったが、悠抄が抱えるには大きめであった鉢が次の瞬間両の手に少し余る程度の大きさに収まった。

「うぇ!? 小さくなった!?」

「はい、贈り物にするには少し邪魔なので縮めてみました。本質は変わりませんが密度が締まったので、むしろ丈夫になってますよ」

 唐突な変化に驚愕する青年に応える異形面の相棒の後頭部を、猫面の正面が軽く小突いた。

「だからって、その鉢はやり過ぎだろ。悠抄お前な、何を祟るつもりだよ」

 猫面の相棒の冷静な指摘に、ほ? と首を傾げた諸悪の権現がしげしげと自らの作品を観察する。

「何をもなにも、水遣り不要ですよ?」

「当たり前だ。その危険物に水遣りなんぞしたら、冗談抜きに現世が水に沈むぞ」

 興味無さそうなの猫面少年の言葉に彩藍が悠抄を振り返り、異形面の少年は鉢を置いてかわりとばかりに足元をすり抜けようとした狻猊を捕まえて頭上に掲げた。

「ちょっとよく分からないのですが、悠抄さんは今度はなにをやらかしたんですか?」

「あぁ、あいつは敢えて説明を省いていたがな、霊亀は言わずもがな、五果の栗と五色の黒はどちらも水行に属する。その上で、焼き物に走る金銀だ。陶器も土は水を阻むが貯めもする。要するに、五克で五生を補強したんだよ」

 つまるところ、五行の安定する仙界にあってさえ水行に偏りすぎている存在は、海と言う莫大な水溜りを抱える現世との相性が良すぎて、このままでは無限に水を呼び続ける、と天猫が解説する。

「まさしく、格が高すぎて仙界にもふたつとない呪具と成り果てておりまする」

 何処から取り出したものやら、羽扇で顔を隠しての玄女の言葉に、彩藍が人型と植木型の迷惑発生源を見比べて肩を落とした。

「どうしたら、そう簡単に終末存在を作り出せるんですか」

 青年の嘆きは真っ当であるが、故に説得力と言う点では少年形理不尽を前に無きに等しい。

 知らんふりを決め込む相棒にこれ以上言っても詮無いと思ったか、天猫が呆れとともに袖を探る。

「せめて、これで火気の足しにしておけ」

 そう言って天猫が相棒に向かって放り投げたのは、素朴な家と農夫そして牛の小さな模型であった。

 悠抄の手の中を覗き込み、視線で問うてくる青年事務官に、天猫がひょいと右の肩を持ち上げる。

「盆景だよ。家には炉があり、炉の火で暖を取った農夫と牛は鍬鋤で土を耕し、草木を育てる。一日が終われば皆眠るだろ」

「なるほど、日は巡り火は人の糧となると申せましょうか、器の持つ莫大な陰気の一部を陽に反転し円の流れとなしたわけでありまするな」

 この鉢植えの持つ圧力は変わらないが、内順させることで外部からの干渉さえなければ、現世に持ち込んでも影響は出ないだろうとお墨付きを与える玄女の横で、余計なことしいの典型が楽しそうに両手をぱちりと鳴らした。

「盆景ですか、いい提案です天猫。玉枝樹の根元にお家を置くと、農夫さんと牛さんが夜な夜な土を耕すおもちゃにもなりますね」

 どう好意的に見ても呪われたおもちゃ以外の何者でもない進化を遂げた鉢植えを、これは面白いと無邪気に喜ぶ悠抄に、神獣を加えた四者が四様に反応をはぐらかす。

「やっと五宝の内の一つを調達完了か。段取りはついているとは言え、先はまだ長そうだな」

 やれやれと肩を回す天猫の発言に、青年事務官が何と言ったものかと一度地面に視線を落として改めて猫面少年を見返す。

「そもそも、こんな面倒な事をしなくても、枝を頂いて帰れば済むんじゃないですかね」

「確かにそれで事は済むがな、銀の根に金の幹と言う証拠がないと面白くないだろう」

 青年のもっともな指摘に真顔ならぬ真声で返す天猫は、まさしく悠抄の片割れである。

「次は、燕さん達から子安貝を番ですね。天猫が頑張って崖を登ってくれるのですよ」

 相棒も了承していない決定事項を口にした悠抄が、音の鳴りそうな勢いの良さで仙境の海岸にそびえる岩山を指さした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ