友
人間なんて、所詮は利用価値で測るもんだと思ってた。
金、地位、情報、身体。
誰に何がどれだけ使えるか、それだけを冷静に分析して生きてきた。
職場でも、飲み会でも、笑ってはいたけど、
心の中ではいつもこう思ってた。
「お前ら、みんなバカだな」
---
俺の名前は神野。
コンサル会社の営業。
スーツの下に剣を隠してるような人間だとよく言われる。
でも俺は剣なんて振らない。
必要なのは、刺すことと、逃げることだけ。
---
そんな俺が、大山に会ったのは、
下請けの中でも特に雑魚扱いされてる会社との打ち合わせだった。
髪はボサボサ。資料も出さない。愛想ゼロ。
なのに、こっちが無茶を言っても、一切ブレなかった。
「できませんね、それは」
「無理な納期は受けません」
「うちの部下にそんな労働はさせません」
まるで命でもかかってるかのような口ぶりで。
---
正直、最初は腹が立った。
小物のくせに、生意気だと。
でも、ある日ふと気づいた。
──こいつ、自分のためじゃなく、
部下のためにだけ怒ってるんだって。
---
飲みに誘ってみた。
来ないと思ったら、来た。
食べながら、彼はこう言った。
「俺、昔はお前みたいだったよ。
人を“効率”で見て、いらない奴は切ってた」
「へえ、変わったんだ」
「変えられたんだよ。ひとりの部下に」
「部下に?」
「“俺はあなたみたいにはなりたくない”って言われた」
「……キツいな」
「でも、ありがたかった」
大山は酒を一口飲んで、笑った。
「だから今、俺がやってるのは贖罪みたいなもんかな。
でもまあ、部下が元気で帰るだけで、今日も上出来よ」
---
その日、家に帰って
初めて考えた。
俺は、誰のために働いてるんだ?
誰かに「お前は俺の友だ」と言える相手、いたか?
---
数日後、大山が辞めた。
理由は言わなかったけど、
噂では、上層部に逆らって部署ごと潰されたらしい。
「最後まで、部下を守ろうとしてた」
そんな話を聞いて、俺は笑った。
あいつ、最後の最後まで損な生き方してるなって。
……でもなぜか、そのとき胸の奥が、
ぐっと、熱くなった。
---
次の日、俺は初めて、部下にこう言った。
「お前、最近疲れてんだろ。
この案件、俺が持つから、今日は早く帰れ」
部下は驚いた顔で俺を見た。
まるで別人を見るような顔で。
その反応が、
なぜかちょっと、嬉しかった。
---
その夜、
駅のベンチで座りながら思い出した。
大山の、最後のメール。
> 「お前と飲めて、俺は結構嬉しかったよ。
じゃあな、“友”」
---
言われた瞬間は笑ったけど、
今なら、
ほんの少しだけ、
胸を張ってこう思える。
---
俺も、お前のことを
“友”って呼びたかった。
---
初めて知った、誰かを好きになるということ。
それが、俺の“泪”だった。