笑
朝から、また小さな喧嘩だった。
「お前がいつも時間にルーズだからだろ」
「あなたこそ人の予定に興味ないじゃない」
「は?いつもお前が急に予定変えるからだろ」
「そうやって何でも人のせいにするの、昔から変わらないよね」
声を潜めてるつもりなのに、
3LDKの壁は思ったより薄い。
ダイニングのテレビが、やたら明るく笑ってる。
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結婚して10年。
お互い、我慢の容量が減ってきた。
顔を合わせれば、何かと擦れる。
相手の“ここが嫌”って思いながら、
でも心の奥で「じゃあどうすればいいか」はもうわからなくなってた。
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週末、子どもの参観日。
それぞれ“行くかどうか”を黙っていたまま、
気まずい空気の中、3人で教室へ向かった。
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子どもの作文発表。
テーマは「家族について思うこと」。
うちの息子――陽翔は、
にこにこしながら前に出て、
こう言った。
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> 「ぼくのおうちは、
よくけんかしてます。
おかあさんはすぐに怒って、
おとうさんはすぐにムスッとします。
でも、おかあさんはすぐごはん作るし、
おとうさんはすぐにゴミ出ししてくれます。
だから、たぶんけんかは
ただの遊びだと思います。
ふたりは、友だちなんだと思います。」
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会場が、ふっと笑った。
教室の空気が、いっぺんにやわらいだ。
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……私たちは、目を合わせなかった。
でも、下を向いて肩を揺らしたのはたぶん、笑ったせい。
目の奥があったかくなって、
なんかもう、くだらなくなった。
「怒るのも、ムスッとするのも、
お互い、家族だからできることなんだよな」
声には出さなかったけど、
同時に、同じことを思ってた。
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帰り道、
ふと夫がつぶやいた。
「なあ、俺らって…友だち、なんかな」
「……それ、ちょっと嬉しかったんでしょ」
「まあな」
「私も」
そこで、2人して泪もろとも吹き出した。