米沢藩入り その2 治憲20歳~
鬱展開があります。苦手な方は申し訳ありません。
突然だが、側室を娶ることになった。幸姫との間に子供は見込めず、藩の存続のためには世継が必要となる。武家社会の習わしとしてやむを得ない。
そこで、上杉勝延様(4代目藩主綱憲の五男)のご息女、お豊の方を側室とすることが決まった。私は20歳でお豊の方は30歳と年の差はあるが、前世の記憶がある私には問題のない年齢差だった。
江戸に幸姫がおり、米沢にはお豊の方がいる。これ以上の側室は不要で、この二人と添い遂げることを決めた。
※お豊の方はこの時点ではお琴の方ですが、便宜上お豊の方としています。
お豊の方との祝言を終えた私は、改めて藩財政の再建を考えることにした。
先ずは現場を知らなければ、と水戸○門を思い出す。『自分の目で見なければ真の姿は見えないし、藩主とわかってしまっては本当の姿は見えないだろう』と考え、お忍びでの領内視察を決める。
助さん、格さんの役目は、莅戸善政と佐藤文四郎を指名する。おしんはいないが、小野川温泉には寄りたい。
水戸黄○の主題歌『あ○人生に涙あり』を脳内でリフレインさせながら〜いざお忍びで〜・・・とたどり着いた村でいきなり村民全員の出迎えを受けた。
別の日に違う村に行っても同じ。誰かが情報を流しているらしい。藩主の行動を流すなんて、セキュリティは大丈夫か?と思いながら、残念だがお忍びでの視察は断念し、村人に話しかけることにする。「この村での暮らしはどうじゃ?」と尋ねると、皆一様の怯えた目で「生きるのに精いっぱいで、これ以上年貢を増やされては生きていけません」と訴えてくる。
「いや、年貢を増やす気はないが」と答えるが怯えるばかり。どうやら倹約令の配布の折りに、「新しい藩主は血も涙もなく増税を行う」との噂が流れたみたいだ。
何となくだが、噂を流したのが誰かわかる気がするが、証拠もないので諦めるしかない。
それでも、何度となく視察を繰り返すことで、村人の暮らしと問題点が見えてきた。
そして、考えたくもない残酷な現実が•••
何となくは感じていた。いや、数字では見ていた。何を?・・・村人の男女比で明らかに女性が少ないことを。
そして、それが子供に顕著に表れていることを感じていた。流石にその場で聞くことはできず、城に帰ってから善政に問うことにする。
「善政、農村の男女比であるが女人の数が少なくはないか?江戸は仕官を望む浪人が押し寄せる故、男が圧倒的に多かった。ならば、地方はその分女子の比率が高くなるのではないか?」と素朴な疑問として尋ねる。
すると善政から衝撃的な一言が・・・。「お屋形様、農村では産まれた子が女子であれば、産婆が産湯に顔をつけて間引きます」と若干苦しそうに答える。
『え?間引き。何それ、野菜以外に使う言葉なの?』まともな考えが浮かばず、心臓の動悸が高まる。『民の父母』と決めたのに、産まれたばかりの赤ちゃんを殺すなんて・・・。
何故じゃ・・・子は宝であり希望ではないのか?と眩暈が止まらない。
幼くして死んだ前世の娘、幸子の面影が浮かぶ。
生きたいと、ただそれだけを望み、それすら叶わなかった娘。自分が助からないと知った時、家族の負担が無くなると気丈に笑ったあの笑顔。そして…最後を看取った時の慟哭を•••
思わず「ならん!ならんぞ善政」と怒鳴りつける。
「お屋形様のお気持ちはわかります。なれど、今の農民に女子を育てる余裕はございませぬ」と善政が言い、「男子であっても、貧しい農民の家であれば口減らしをする場合がございます」と続けた。
更に・・・と善政が言う。『まだあるのか』と絶望的な気持ちになる。
「竹俣殿により粛清されましたが、森平右衛門殿が課した人別銭(人頭税)の影響もございます。これにより、貧しい農村では口減らしが横行しました」と忌々しげに告げた。
「若い娘であれば、吉原など引き取り手もあります故、貧しい農村ではますます女子の数は少なくなります」と止めを刺す。
『人別銭って、赤ちゃんから年寄りまで関係なく、一人いくらって税金をかけたのか・・・』と暗い気持ちが続く。
しかも、自分の娘を売り飛ばして金にするとは•••
『やはり、ここは地獄だ』と、自分の無力さに吐き気がする。しかし、悲しいことに善政の言ったことはこの時代の貧しい農村では常識でもある。知識としてはある。しかし、実際に自分がその場に立ち、その目で見て、言葉で聞くその衝撃は計り知れないものがあった。
『間引きを禁止する』と触れを出すのは藩主である自分であれば簡単だ。しかし、間引きをしないことで、一家全員が生活できなくなる。結果として、誰も助からない。
しかも、間引きを禁止した場合、貧しい家であれば無理に堕胎させることにつながる。妊婦を水に浸けたり、お腹を叩き無理やり流産させる。
下手をすると、母親も死んでしまうことがある。
この時代の常識を覆す。それはとてつもない意識改革が必要だろう。気持ちを強く持たねば・・・。
江戸の幸姫の顔が目に浮かぶ。恐らくは、藩主の子として産まれていなければ、幸姫はこの世にいないだろう。幸姫のような子供でも幸せに暮らせる藩を目指す。それは遥か彼方の蜃気楼をつかむかのような思いだった。
とりあえず、貧しいながらも衣食住の衣と住は何とかなっている。早急に考えるべきは・・・やはり食の確保か。『子供は希望であり、国の宝。早急に手を打たなければ・・・』、と改めて改革の決意を固めるしかなかった。
あまり書きたく無かった『間引き』ですが、何故治憲が頑なに自分を律し、福祉に力を注いだのかの動機付けを、間引き『子供の死』と考えたため敢えて残酷な描写を選びました。
読んで気分を悪くされましたら申し訳ありません。