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青苧取引と養蚕手引 鷹山56歳~

その日、神保忠綱が鷹山の元を訪れた。

「大殿様に置きましては、息災のご様子で・・・」と型通りの挨拶をし

「青苧の売買について、良き話を持ってまいりました」と切り出した。


米沢藩では、農家が生産した青苧は収穫の半分を税(役苧)として藩に納め、残りの半分は農家が自由に売買できる(商人苧)仕組みとなっていた。


「商人苧の取扱でございますが、専売制のご検討をお願い致します」と頭を下げた。

『専売と言うことは、商人を特定すると言うことか』とその真意を問う。

「専売制にするとどうなるのじゃ?」


「遠藤・船山の両商人を専売商人とすれば、運用金として毎年千両が藩に上納されます」と専売制で藩が儲かると笑う。


「商人荢はいずれにせよ、どこかの商人に販売されるものであれば、商人を藩が取り決めても問題はありますまい。それで藩に毎年千両が入ってきます」と得意げに話す。


「話はわかった。良く考えて返事を致す」とその日は帰らせることにした。




次の日、餐霞館に莅戸政以を呼び忠綱からの提案を話す。


「恐れながら大殿様。ご存じの通り亡き父善政と神保忠綱殿の仲は悪く、私めも忠綱殿を信用しておりません故独善となりますが…」と前置きし


「専売制につきましては、農家より反対意見が多くなると考えられます。ただ、毎年千両の運用金が藩に入ってくるのはありがたいのも事実にございます」と慎重に答える。


「ただ、専売制にした場合、これを推し進める藩士と商人が結託すると考えられます」と不正の温床になる懸念を示す。


鷹山は腕を組み「わかった。政以よ、出かける故付いてまいれ」と腰を上げた。




「精が出るの~」と畑の農民に気軽に声を掛ける。

「すまぬが、ちょっと聞きたいのじゃが・・・」と専売制についての話を農民に尋ねる。

農民も慣れたもので、鷹山の問いに答えた。


鷹山は、当事者の意見を無視しては物事は決まらないと考え、農家の意見を集め結論を出した。




「専売制についてじゃが・・・」と神保忠綱を餐霞館に呼び話し出す。

「専売制は許さぬ。またこの件で商人よりまいないを受けた者があれば処罰する」と厳しく叱責する。


「大殿様、それは何故・・・」と狼狽うろたえる忠綱に

「藩に入る千両もの運用金の出どころはどこじゃ?」と尋ねる。


「それは、商人の売上から出ますが・・・」

「その千両を商人が身銭を切るならば良いが、そうではなかろう。農家からの買い付けを値切り、高値で売って千両を余分に稼がねばならん」と忠綱を見つめる。


「忠綱殿()とは、平洲先生のもとで共に学んだ身である。此度の顛末を平洲先生がお聞きになれば、如何に思うであろうか?」と問いかける。


「農民から搾取した金で行うようなまつりごとは決して巧くいかぬ。まして、その金を個人で着服するなどもってのほか」と忠綱を断罪した。


「恐れ入りましてございます」と忠綱は頭を下げ餐霞館を後にした。



※※※※



餐霞館の奥の間で、お豊の方が蚕を入れた箱に桑の葉を敷き詰めていた。


「豊よ、蚕の様子はどうじゃ?」と尋ねると

「大殿様、蚕は変わらず元気に育っております・・・」と愛おしそうに蚕を見つめる。


「時に大殿様・・・」とお豊の方が鷹山に話しかける。


「今では、米沢のほとんどの家で蚕が飼われておりますが、時に飼い方の相談を受けることがございます」と告げる。


「私で分かる範囲では答えておりますが、分からぬこともあります故どうしようかと・・・」と相談を持ちかける。


「なるほど。要は手引き書のような物があれば、皆が迷わずに蚕を育てられるか」と頷く。

「わかった。早速養蚕の手引きとしてまとめよう」とお豊の方に笑いかけた。


次の日、下座にいる政以に養蚕の手引きを相談する。

「誰でも蚕が育てられるように、手引き書を構えたい」


「それは良き考えにございますな」と政以が手を打ち

「ならば、養蚕農家からも詳しく聞き取って完成させましょう」と手引き書の作成が決まる。




「おっ母、蚕が動かなくなったよ」と箱を覗きながら娘が心配そうに言う。


「どれどれ、手引き書には蚕は4回脱皮するから、その時は動かなくなるって書いてあるね」と手引き書を見ながら答える。

「ふ~ん。なら安心だね」と娘が明るく笑いながら箱を覗く。





その箱では・・・米沢藩の未来がすくすくと育っていた。



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