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織りなす布は いつか・・・   治憲50歳~

糸の話だと、どうしても中島みゆきさんが頭に浮かぶ世代です。

その日、餐霞館の庭先には機織りの職人と大勢の女性たちで溢れていた。


「皆の者。良く来てくれた」と治憲が労う。

「本日来てもらったのは、豊と考えた織物の工夫を見てもらうためじゃ」とお豊の方に話を振る。


「皆さま、豊にございます」とお豊の方が挨拶し、手に持った絹糸を見せる。


「先ずはこの絹糸を見てください。これは紅花や藍などで染め上げた絹糸にございます」と草木染めを施した絹糸を見せる。



「この絹糸ではたを織りますが、奥に準備しておりますのでこちらへ」と機織り機のある方へ皆を連れていく。


そこには、草木染めされた鮮やかな絹糸が経糸として準備された機織り機があった。

経糸は何本かごとに色が変えられ、それだけでも美しく見えた。



「この経糸に緯糸を入れますが・・・緯糸も色目を変えて2色準備しました」と機を織り始める。

トントン カタカタ トン カタカタ と小気味よいリズムが奏でられ、布地が少しづつ出来てくる。


「あれ、格子の模様が鮮やかに・・・」と出来上がっていく布を見た女が感嘆の声を上げる。


しばらく手を動かし続けたお豊の方が手を止め、「このようになります」と皆に織り上がった部分を見せる。


それは、しっかりと染め上げられた絹糸により、落ち着きのある光沢と格子模様の華やかさが両立した見事な布だった。


治憲が職人たちを呼び寄せ「この織物をより良いものに改良し、米沢中に広めるため協力して欲しい」と声をかける。


職人の一人が「先染めの手法にございますか。いや、これは見事にございます」と感心する。

「この出来でしたら、京や堺で何十両もの値段になりましょう」と誉め立てる。



するとお豊の方が「先に糸を染めれば良い・・・と治憲様がお示しくださりました故」とにこやかに笑いながら、傍にいた農家の娘を手まねき「この娘に頼み、草木で染めてもらいました」と紹介する。




すると職人の一人が一本の糸を持ち「先染めの染料や方法もこれからの工夫次第でしょうが・・・」と前置きし、「この蒼色だけは、ちょっと納得しかねます」と娘に尋ねる。


「娘さん、この蒼色だが・・・何で染めましたかねえ?」と聞くと、「米沢の藍にございます」と答えた。


それを聞いた職人が、「中殿様、御無礼を承知で言いますが、藍をお使いになられるなら、阿波の藍をお使いなさいませ」と助言をしてくる。


「米沢の藍では駄目か?」と問うと

「申し訳ございませんが、色の深さと言うか風格が違います」と織られた布を見ながら

「折角の見事な布ですが、蒼色が絹に負けております」と手厳しい。


「なるほど、阿波藍だな」と手配することを約束した。



「皆の者、今見てもらった機織りだが、これを『米沢織』と名付けて我が藩の特産品として守り育てていく」と宣言する。


「この米沢織を良くするため、良い知恵があれば皆も遠慮せずに言って欲しい」と全員を見渡す。


「とりあえず、染色の技術についてだが・・・」と水を向けると

「恐れながら・・・」と娘が手を挙げ、「紅花を漬けた水で染めれば黄色になります」と口火を切る。



それを切っ掛けに、他の娘たちからも染色の知恵が集まり、後日試してみる事が決まる。



それを満足げに見ながら職人たちに声を掛ける。

「且方たちには、柄と色の組み合わせを考えてもらい、その技術指導までを願いたい」



「私と豊では、格子模様しか思いつかなくてな~」と頭をかきながら

「柄と色を決めた型紙を増やして欲しい」と頼んだ。


いわゆるパターン化である。

基本となる模様と色目については、誰が織っても同じものが出来るようにパターン化することで、一定の品質を担保することを求めた。




米沢織がもたらすであろう明るい未来を皆が感じ、その場の全員の顔が明るくなる。


「最後に言っておく」と無意識にほくそ笑みそうになる顔を引き締め・・・




「この『米沢織』は今後我が藩の顔となるであろう。ならばこそ、厳しい品質確認をおこない『米沢』の名に恥じぬ布を作りだして欲しい」と檄を飛ばした。







最大時には年間4万両もの利益を上げることになる米沢特産『米沢織』の席捲せっけんが始まろうとしていた。




やっとゴールが見えてきました。

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