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藩主1年目 治憲17歳~ その1

参勤交代のため、米沢藩入りは翌年以降となる。

米沢藩に暮らす九万人の領民の暮らしに思いを寄せ、その責任に押しつぶされそうになるが、『民の父母』の想いを胸に自らを奮い立たせる。

よし、先ずは何から手をつけよう。


前世の会社は、いわゆるブラック企業というものだった。とりあえず思いつくのは、あの会社を反面教師とすることだ。


真っ先に思いつくのは・・・

「よし、先ずは自分の決意を皆に示そう」と、今の想いを書にしたためることにした。前世の会社でも、偉そうな社訓や理念はあった。しかし、決してその社訓や理念のような経営はされていなかった。


書いてある(宣言している)のにやらないと、余計に腹が立つ。それなら書かない方がよほどいい…と、前世の教訓と平洲の教えを思い出し、『出来ないことは言わない。言ったからには必ず実行する』を意識して筆を取る。


≪受けつぎて 国の司の身となれば 忘るまじきは民の父母≫


私はこれから米沢の領民の父母となる。

よし、私は決意の通り≪領民を我が子と思い、身命を賭して領民守る≫ことを誓おう。


更に、誓いの文言をしたため上杉謙信公縁の春日大社と白子神社へ奉納することにした。※

17年もこの時代に生きているお陰か、この時代の風習が自然に受け入れられるようになっている。


下座に控えていた善政が、「謙信公に奉納する書は何とお書きになられましたか」と聞いてくる。

『これは自分の決意であり、謙信公との約束である故、他に知らしめる必要はない』との思いから、「内緒じゃ」とほほ笑んだ。


さて、具体的に藩政の改善を考えなくてはと≪菁莪社中≫の家臣を呼び寄せる。

『改革の中心となるのは家老の竹俣当綱だが、この男結構危ないんだよな~』と集まった家臣を見て考える。


竹俣当綱は、国元で郡代の森平右衛門を暗殺した前歴がある。

養父である重定により御咎おとがめなしとなったが、目的のためには手段を選ばない強硬派ともいえる。しかも、国元での殺傷事件の当事者なので、当然国元の重臣からの評判は悪い。


しかし、間違いなく切れ者であり、この中では最も位が高く、実行力もあるので当綱を中心にすすめるしかない。


部屋に呼び寄せた≪菁莪社中≫の家臣を見渡した。

「治憲様、藩主就任おめでとうございます。本日より正式に米沢藩主となりました故、これよりは『お屋形様』とお呼びさせていただきます」と当綱が挨拶をし、他の者が平服した。


私はその家臣を見渡し、「さて、現状の米沢藩の問題と打開案を論議しようか」と口火を切り、

『とにかく、現状で考えられるのは節約が第一かな』とつぶやきながら、考えていた案を告げる。


「手始めに、今後は仕切料(藩主が使う経費)を1500両から209両に減額する」と宣言した。

これに驚いた当綱と善政が「お屋形様、209両では奥女中の給金すら出ませんぞ」と反対をしてきた。周りの家臣たちもうなずく。

「奥女中は50名から9名に減らす故問題ない」と何事もないかのように答える。


私は家臣たちを見渡し「そもそも50名もの奥女中が必要か?」と聞くと、「上杉家の格式を考えれば、最低限の人数でございます」と当綱が答える。


『ブルータスお前もか…』と昭和のCMのフレーズを心でつぶやきながら、「当綱よ、且方そのほうまでが過去の栄光に捉われるか」とさとす。


「よいか、しかと心得よ。いまの上杉家は米沢藩15万石、借財が20万両ある潰れかけの藩である。そこから目を背けてはならんし、そこから出発せねば何も改善などできぬ」と声を荒げ「いつまでも120万石の時代を引きずってはならんのじゃ」と続ける。

「しかし、209両では・・・」となおも当綱が食い下がるが、

「奥女中はよしの世話がおればよい。家事は、手の空いたものが手伝えば済む。飯も今後は一汁一菜とする故、飯焚きも簡単で良かろう」と畳みかけた。


この時代は『男子、厨房ちゅうぼうに入るべからず』の考えが根強い。しかし、昭和を生きた私は家事への忌避感きひかんはないし、一通りの家事はできる。



呆れて言葉が出ない家臣たちに「よいか、今後の改革では米沢の民や家臣に多くの負担をいることになる。負担をいられた民や家臣が、江戸の我らの姿を見てどう思うか。自分たちには負担をいて、殿様や側近の家臣が贅沢三昧では誰もついては来ぬ」と諭すように語りかけた。


しかしながら…と尚も渋る家臣を見渡し、微笑みながら「私は領民の父母となると決意した。そなたらも、食べるものがなければ、まず子に食べさせて、残りを親が食べるであろう」と語りかけた。「子(領民)に負担をいるのであれば、重臣の且方らはその倍の負担を覚悟せよ。ならば私はそれ以上の負担を甘受しよう。」と為政者としての心構えを説く。


すると黙って話を聞いていた善政が、「恐れながら、そこまでお屋形様が我慢する必要がありましょうか?」と尋ねてきた。

「しかも、六千名の藩士はそのまま召抱えるとは・・・」と当惑する。


私は「率先垂範そっせんすいはんじゃ…」と笑った。


米沢藩の財政悪化の最大の要因は、出費の凡そ80%が人件費という歪な人員構造にあった。しかし、私はこの歪な人員体制をそのまま継続することを決めていた。

『本来であればリストラすべきであろう。しかし、この時代はどこも失業者があふれており、リストラされた家臣は生活ができない。侍など野に下っても何もできないだろうし、万が一夜盗にでもなって米沢藩の元家臣などとわかれば、藩のイメージも悪くなる。何とかリストラは回避して、財政の立て直しを図りたい』と考えたからだ。


加えて『リストラしたらこれまでの借上金の清算が必要になる。とてもではないがそんな金は出てこない』との切実な現実もあった。


「お主らには苦労をかけるが、何とか我が意を汲んで藩財政の立て直しを考えて欲しい」と頭を下げる。


自らが率先し実行する。そして相手に求めず、先ずは施しを与える『率先垂範そっせんすいはん』の思い。

それは、前世で務めたブラック企業を反面教師として学んだ心構えであり、細井平洲の教えを受け、より強固となった信念でもあった。


※春日大社に奉納した書は『文武の鍛練を怠惰なくおこなう』『民の父母となる』『無駄を省き堅実な生活を送る』『信賞必罰(しんしょうひつばつ)をおこなう』といったものでした。※意訳


白子神社には『倹約令の誓い』が奉納されています。

また、白子神社への倹約令の誓いは色部照長も奉納していますが、話の流れからカットしています。


特筆すべきは、この奉納された奉書が鷹山氏の死後発見されたことと感じています。

有言実行すら行えない政治家やリーダーが多い中、誰にも知らせず自分自身(歴代の上杉家当主)に誓った誓約を守り続けた鷹山氏の崇高な精神には敬意しかありません。

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