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米沢の名産品     治憲47歳~

その日の早朝、治憲は善政を連れて、白鷹町の深山地区に紅花畑を見学に来ていた。

「これは見事な」と感嘆の声をあげて花畑を眺めながら、額の汗を拭う。

そこには黄色に紅が混ざった花が咲き誇り、風に揺れていた。


そして、その花を摘み、丁寧に籠に入れる農民の姿と、『ちとせやまからな〜 紅花こうかのたねまいたよ〜 ハ〜シャンシャン』と長閑な唄声が何処かから聴こえてくる。




その唄声に合わせて紅花を摘む娘らを眺めながら「朝早くから勤勉であるな」と関心すると、「陽が昇りますと棘が硬くなります故、早朝に収穫を致しております」と善政が花畑を見渡す。


「この紅花を加工して紅餅にして出荷いたします」と隣の善政も汗を拭い、「紅餅は主に京や堺に出荷されており、金と同じ価格かそれ以上の値段で取引されております」と作業を見守りながら説明する。



「これは良いものを見た」と善政に伝え、農家の作業の邪魔にならないようにそのまま帰ることにした。



治憲は先ほどの紅花畑を思い出し善政に尋ねる。

「紅花畑を更に広げるのは出来ぬか?」

「恐れながら、もはや手一杯にござります。紅花から取れる紅餅もほんのわずか故、手間に見合いません」と残念そうに答える。


「ならばこそ、金と同じかそれ以上の価格となるか。ならば今の農家を十分に(ねぎら)うように」と言葉をかけ、ふと机の書物に目を留める。



「そう言えば、この和紙も深山であったか?」

「はい、以前は藩外より仕入れておりましたが、竹俣殿がこうぞの植林を深山に致しまして、今では和紙の産地となっております」



「黒井堰により、農作物の収穫は飛躍的に伸びた」と藩の食糧事情の落ち着きを喜ぶ。


「そして、青苧、紅花、和紙に…絹。これらを駆使して外貨を稼ぎ、借財の返済に充てれば、其方と黒井忠寄が纏めた16年の借財返済計画も実現味を帯びよう」と伝え善政を下がらせた。






善政を下がらせた治憲は、奥座敷にお豊の方を訪れることにした。


奥座敷では、お豊の方が機織りをするため、奥女中たちとその準備に余念がなかった。

『これは大変な作業だ・・・』と考えていると、お豊の方は治憲に気が付き声をかける。


「治憲様、気が付かず申し訳ございません。今手が離せない故・・・」と言うお豊の方に

「気にするでない。しばし、作業を見させてくれ」と声をかけその手元を見つめる。




一息ついたところで「豊よ、機織りとは大変な作業であるの」と(ねぎら)いながら、善政が不良品が多いと嘆いた理由がわかった。


「機織りは、織り始めれば経糸(たていと)緯糸(よこいと)を通す繰り返しですが、その前の糸の準備やら、経糸を並べるのに苦労いたします」と作業を続ける奥女中を見ながらお豊の方が話す。


「本日織った反物は、後ほど藍に染めようと思っております」と、この後の作業を説明する。

「ほう、反物にして染めるか・・・。まだまだ手間がかかるな」と笑う。


「はい、せめて染めがなければ楽なのですが・・・」とお豊の方も笑う。




そんな会話をしながら奥女中の作業を眺めていると、ふと、疑問がわきあがる。

「豊よ、機織りは詳しくないので的外れな問いやもしれんが・・・」と前置きし




「先に糸を染めておけば良いのではないか?」




それは、米沢藩のブランド品となる米沢織りが、つかまり立ちをした (?)瞬間であった。




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