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改革の始まり その1 治憲42歳~

莅戸善政は治広の下座に控えていた。

「善政よ、この度は再び藩政に係わってもらえるとのこと、この治広ありがたく思うぞ」と治広が声をかける。


「勿体なきお言葉、この善政、改めてお屋形様のお役に立ち米沢藩の立て直しに尽力致す次第にございます」と頭を下げる。

「して、此度の願いとは何んぞ?」と治広が訊ねる。

「はい、この場に黒井忠寄殿を呼んでいただきとうございます」




「お屋形様、お呼びとのことで()(さん)じましてございます」と忠寄が奥座敷に呼ばれた。

「苦しゅうない。且方を呼んだのは善政よ」と治広が善政に話を振る。


「忠寄殿、此度且方を呼んだのは他でもない」と善政が話を切り出し、「頼みごとが一点と確認が一点ある」と告げる。

「はい。如何様な内容にございましょうか?」と問う忠寄に

「先ずは松川から北条郷への用水堰の工事じゃが、8里もの距離の普請が(ほん)に出来ようか?」


「私に差配させていただければ・・・必ずや完成させて見せます」と自信満々の声で応える。




それを聞いた善政は、

「且方への頼みであるが、先ずは商人との関係を取り戻すことが重要となる故、その為の計画書を作成してもらいたい」と語りかける。


「北条郷の用水による年貢の増収は、商人を説き伏せる武器となる故、その見込みを含めた返済計画を作成して欲しい。これは算学の秀才と言われた且方にしか頼めん」



そして治広の方を見て「お屋形様にお願い申し上げます」と頭を下げた。


「商人との交渉を(それがし)に一任してくださりませ。またそれを認めた書付を頂き等ございます」と願った。


これは、竹俣当綱が商人と交渉する際に取った手法に習うものだった。




「志賀祐親が失敗しておるが、大丈夫であろうか?」と心配気に治広が問う。


「商人は利がなくては動きません。忠寄殿の新堰による開墾、産業の復興を掲げて交渉すれば、必ずや良い結果となりましょう」と自信を覗かせる。


「相分かった。中殿様からの推挙もある故、其方の思うようにやってみよ」と善政に任せる決断を下す。そして、黒井忠寄に声を掛けた。


「忠寄よ、且方を普請奉行に任命する故、善政の補佐をよろしく頼むぞ」








善政は黒井忠寄を伴え餐霞館(さんかかん)を訪れていた。


「中殿様、こちらが藩財政の見直し案にございます」と改革案を示した書類を治憲に手渡す。

そこには藩改革の基本計画に加え、借財の返済計画が示されていた。


藩改革の基本方針には

『役職の廃止と新設、人材登用の変更、無用な人材の解雇・・・』

『商人との関係改善、国産(藩内)商品の推奨、新堰の工事、産業の活性化・・・』

『離散農家の呼び戻し、他藩からの農民誘致、武士の次男や三男を農民にする・・・』


など、これからの改革の骨子が記されていた。



出された計画書を見て「善政よ、丸木橋の波は益々強まりそうじゃが?」と水を向けると、「はて、中殿様に仕込まれましたかな」と不敵に笑った。


「では、これに付け加えてもらいたいことがある」と治憲が善政に願う。


「ひとつは、戸籍の再調査じゃ」


天明の大飢饉により、離散した農家や他藩に逃げ出した者、また他藩から流入した者などがいるので、改めて戸籍を確認する必要があり、善政も必要と考えていた。


「次いで、妊婦は全て届出を義務とせよ。産まれる予定の月を記し、母子共に見守るように」


これは前世の母子手帳を参考として、間引きが出来ないようにするための方策であり、この時代においては画期的なものだった。


「最後に、子供が産まれた家には食糧や金などを補助せよ。また、年寄りを抱える家も同様じゃ。子供と老人がぞんざいに扱われることがないように気を配れ」


『高鍋藩では子供への補助はしていたが、老人への補助はなかったと聞いている・・・』と兄秋月種茂の顔を思い出す。


我が子である領民には、産まれてから死ぬまで辛い思いをさせたくない、との願いからの提案であった。



「領民が豊かになれば藩も豊かになろう。善政よ、民の父母として頼む」と善政に頭を下げると、善政と隣の忠寄が感服して頭を下げ、『中殿様に付いていけば、必ず米沢藩は良い藩となる』と確信した。




「時に忠寄よ。この返済計画じゃが少しばかり無理をしておらぬか?」と黒井忠寄に声を掛ける。

この返済計画では16年で完済する計画だが、単純に1年当たり1万2500両(12億5千万円)の返済が必要となる計算だ。


「流石はお屋形様にございます。実はこの計画には新堰の次の手の成果を盛り込んでおります」と治憲の的確な指摘に驚きながら答えた。


「ほう、松川から北条郷まで水路を作った後の計画とな?」と問うと

「新堰の着工もまだ故、あくまでも先の構想でございますが・・・」と前置きし



飯豊山(いいでさん)に穴堰を通します」と力強く答えた。






二人が下がった後、ふと藁科松伯の顔が目に浮かんだ。

『松伯、見ておるか。やっと米沢の10年、20年先を見据える藩政が始まるぞ』





治憲は、用水によって豊かな田畑が作られ、老人と子供が楽しく笑い合う農村の姿を思い描いていた。






やっと、借財返済に話が進みました。

このまますんなりと、借金返済出来れば良いのですが…

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