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外貨獲得に向けて    治憲25歳~

治憲が推し進める100万本の植林計画は、少しずつではあるが形を成してきていた。

特に漆の植樹については、100万本に届こうかという勢いで植林が進み、これと同じく桑や楮の苗木も、漆ほどではないが順調に苗木の手配が進んでいた。

こうして米沢藩では領民総出で苗木の植樹を行うことになる。特に桑の木は、家屋の庭や耕作放棄地などに広く植えられた。


ある晴れた日に、私は米沢城の奥屋敷で竹俣当綱(たけまたまさつな)莅戸善政(のぞきよしまさ)を前にしていた。


「苗木の手配、御苦労である。そこで、次に必要となるのが以前に伝えた通り職人じゃ」と2人に語りかける。


「お聞きしております」と当綱が答える。


紙漉かみすき職人と機織はたおり職人、そして養蚕技術のある職人が必要となろう」と告げ、「楮と桑は成木となるまで4年ほどかかる故それまでに手配せよ。機織りに関しては青苧から反物にする故早急に手配せよ。上杉謙信公の関係を頼り、越後あたりで探せば見つかるであろう」と指示する。


そして「以前にも伝えたが、金を稼ぐには先ず金を使わねばならぬ。倹約だけでは先細りにしかならん。出すべき金は惜しみなく使い、良い職人を招致するように•••」と激励する。



この指示を受けた当綱は、藩士を越後に派遣し、職人2名を米沢に招致することが叶う。

早速お屋形様に報告をと登城し、治憲と面会する。

「お屋形様、御指示の機織り職人2名を招致いたしました」と報告する。

「でかしたぞ」と治憲は当綱を褒め、「ここから少しでも多くの外貨を獲得するぞ」と笑った。


「当綱よ、以前江戸の傘屋での話を覚えておるか?」と問うと、「はい。商品にひと手間をかけて高値で売ると覚えております」と答えた。


「我が藩で農家より税として受け入れた青苧だが、太物の原料として出荷されておる。漆も同じく蠟燭(ろうそく)の原料として出荷しておる」と語りかける。


「原料のままでは買い付け価格が安い。しかし、原料を加工し製品にすれば、何倍もの価格となる」と拳を握り締め、「よいか、我が藩では今後は原料出荷を控え、製品として出荷することを目指す」と力強く宣言した。



そして当綱の隣に控えていた善政にも指示を出す。

「善政よ。青苧から糸を紡ぐ作業を農家の女子(おなご)の仕事として割り当て、糸は高値で引き取れ。その後は養蚕も行う意向故、蚕の世話と糸を紡ぐ作業も同じく女子を中心と考えよ」と宣言する。


その上で、「紡いだ糸から反物を織るのは、藩士の家内ら婦女子を当てよ。豊が見本を見せる故、いなは許さぬ」と言い「早速だが、機織りを学べる工場を構えよ」と指示する。


そして、「よいか、原料を加工し製品にするには多くの手が必要となる。よって、今後は赤子の間引きを禁止とする旨の御触れを出すように」と付け加えた。


『貧しい人を救うのなら、魚を与えるよりも釣り方を教えろ』は前世で聞いた言葉だ。 

『この《原料を加工する仕事》が釣り方を教えたことにつながり・・・間引きを無くすことに繋がって欲しい』それは治憲の心からの願いであった。



そして、再び当綱の方を見て「そう言えば、傘に色を塗ればよい・・・とも話したな」と語りかける。

「反物であれば染めてみるのはどうであろうか?」と尋ねる。

当綱も江戸でみた反物を思い出し「それは良き案かと存じます」と答えた。

「すまぬが、私は染色のことはまるでわからぬ故、誰か詳しいものに相談して実現できるなら手配して欲しい」と頼んだ。


その後、当綱の手配により米沢の地で『藍』と『紅花』の生育も盛んになることになる。





ある日の午後、お豊の方が住まう奥座敷では「トントン カタガ タ トンカダ カタ」と時々リズムが狂うが、それでも小気味のいい音が響いていた。


お豊の方は慣れない機織り機に座り悪戦苦闘していた。

その横では、越後から招致された縮織職人の源右衛門が厳しく指導している。

「奥方様、そのように強く引っ張っては、生地が歪みますぞ。ああ、それでは緩すぎます・・・。それそこ、糸目が一つ飛んでおります・・・」と容赦がない。



まだまだ技術的には未熟ではあったが、容赦のない指導により青苧から麻糸を紡ぎ、反物が出来上がった。

やがて、洗練されていくこの反物は、原料を麻から絹に変え、藍や紅花で染められ見事な反物へと成長をしていくことになる。





借財返済の切り札となる、米沢名産≪米沢織≫が産声をあげた瞬間である。



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