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江戸視察 治憲25歳~

江戸の町の復興も順調に進んでいるようだ。

治憲は新しく建て替えられた江戸屋敷で、新しくなった奥座敷に座り竹俣当綱の報告を受けていた。



「且方に命じた100万本の植樹じゃが、上手くいっておるか?」と問いかける。

「されば、三谷家の支援もあり苗木の手配は進んでおります。ただ100万本となりますと、なかなか難しゅうございますが・・・」と答える。


『100万本とは無茶だったかな~』と内心で反省する。しかし、初めに10万本と言えば、最大で10万本しか確保できないが、100万本と言っておけばそれ以上の確保ができるはず・・・と考える。


「無理はせずとも良いが、できるだけ多くの苗木を準備して植樹せよ」と命じ「資金も足らぬのであろう。私の仕切料からも幾らか苗木を手配する故、合わせて持っていくがよい」と告げると当綱が驚いて「1500両から209両まで節約されておられるのに、これ以上御身を切られては、お屋形様の生活が成り立ちませぬぞ」と慌てた。


「私は衣服を新調することもなければ、食事は一汁一菜ゆえ食費もかからぬ。よしとよの生活が守られればそれで充分故、残りは民のために使ってくれ」と当綱に笑いかけた。




そして当綱の顔を見ながら「ところで、なぜ漆に加えて楮と桑の植樹を命じたか気にはならんか?」と問う。「儲けの出る木かと存じますが・・・」と答える当綱に「それだけでは正解の半分だな」と笑いかけた。


そして、「当綱よ、正直に言えば今回の植樹の成果がでるには数年の月日がかかる。下手をすれば数10年かかるやも知れぬ故、且方に批判が集まることもあろう。先に謝っておく」と頭を下がる。


慌てた当綱は「勿体のうございます。お止め下され」と答える。

「倹約だけでは、財政は立ち直らぬ。財政を立て直すには外貨を獲得することが重要となる。それもより多くの外貨を獲得することだ。そのための先行投資として、植樹という種をまいておる」と植樹の意味を伝える。

「そして、この外貨獲得の一番の肝は『女子(おなご)の活用』となる」と笑う。




「そうじゃ当綱よ、私と江戸の町の散策に行かないか?」とふと思いついて声をかける。

「は、喜んでお伴いたします」と答える当綱と江戸の町に繰り出すこととした。



江戸の町で番傘を売る店を見つけ中に入る。売られている傘を見ながらいつぞやの豊との話を思い出し、豊が傘貼りをする姿を想像すると笑みがこぼれた。


売られている傘の価格を見ると、番傘が1本2~3匁(5~7千円程度)だった。

「当綱よ、この番傘だがもっと高く売るにはどうすれば良いと思う?」と謎を掛ける。

「高く売る方法にございますか・・・ちょっと思いつきませぬ」と当惑して当綱が答える。


「例えばだが、傘に色を付けたり、絵を描く。有名な書家の文字を入れるのもよいな・・・」と一例を示し、「要は《差別化》と《付加価値をつける》ことで物の価値を上げる。そうすることで更に高値で売れるであろう」と答える。


「では、我が藩の傘に色を塗りますか?」と聞いてくるが、「そう言った意味ではない。《付加価値》とはいわば《ひと手間》とも言える。我が藩で出荷しているものに《ひと手間》を加えるのだ」と笑いかける。


『そして・・・最終的には《差別化》として、米沢をブランド化する』と胸の中で考えていた。


二人は傘屋を出て反物屋を訊ねた。軒先に積まれた太物(麻の生地)を当綱に見せ「当綱よ、この太物を見てどう思う?」と問う。


「はあ、綺麗な生地と思いますが・・・」と自信なく答える当綱に「この太物の原料は、米沢の青苧(あおそ)であるぞ」と笑いかける。そして、さらに奥にある絹の反物や縮緬(ちりめん)に目を向け、「絹の反物や縮緬であれば価格は数十倍にもなる」と目を光らせた。



前世で水戸黄門を見たとき『越後のちりめん問屋のご隠居』と聞いて、『ちりめんじゃこでそんなに儲かるか?』と思っていた。よくよく考えれば、越後=新潟県。日本海側でそんなに『ちりめんじゃこ』は水揚げしないであろう。正しくは縮緬問屋であり反物屋であったことをこの時代に生きて初めて知った。






屋敷に帰り奥座敷で当綱と莅戸善政(のぞきよしまさ)に自分の計画を伝えることにした。

善政を加えた理由は、当綱の監視役と補佐のためだ。当綱は能力がありすぎるため、暴走した時の歯止めが必要と感じており、善政はその役にうってつけだった。


「漆は蠟燭(ろうそく)に加工する。また青苧は更に増やし、反物として販売する。(こうぞ)は山間部に植えて和紙を作らせよう。そして、何よりも重要なのが桑の木である。桑の木は、各々の屋敷内を中心に身近な所に植える。我が藩では、今後『養蚕(ようさん)』をおこない、絹織物の産地を目指そう」と自分の案を披露した。


「お屋形様、職人と作業を行う者の手が足りません」と当綱が言う。

「職人は、他藩より招致すれば良い。良い職人であれば金に糸目を付けずともよい。和紙と養蚕は木が育つまでに時間がかかる故、まずは織物の職人を探すところからか」と伝え、「人手は女子(おなご)を使う故問題はないぞ」と告げ「後日正式に指示を致す故、そのつもりで•••」と伝える。


そして、「先ずは機織はたお()を手配し、豊に使わせよう」とつぶやく。

「恐れながら・・・お豊の方様に手仕事をさせるつもりでございましょうか」と吃驚(びっくり)した顔で当綱が問う。

「古来より『かいより始めよ』と言うであろう。豊から始めれば、家臣の奥方たちも文句はいえまい」と悪だくみをするかのような顔で答えた。




その晩、奥座敷でくつろぐ豊に話かける。

「豊よ、これからの米沢では藩士の奥方にも仕事をさせようと考えておる。ついては、豊には反物を()ってもらい、それを広めてもらいたい」と頼み込む。


「私がはたを織って、家臣の奥方たちに広がりましょうか?」と尋ねる豊に笑いかける。

「百聞は一見にしかず・・・よ」


すると豊が得心したように「治憲様、『百聞は一見にしかず』の続きの言葉をご存知でしょうか?」とほほ笑みながら聞いてきた。

え?この言葉って続きがあるの。知りませんでした・・・


「いや、浅学非才(せんがくひさい)の身ゆえ・・・」と素直に知らないと答える。

ならば・・・と

「百見は一考にしかず」と続きます。そして・・・

「百考は一行にしかず」

「百行は一果にしかず」

「百果は一幸にしかず」

「百幸は一皇にしかず」となります。


「治憲様のお考えにより、豊はこれから『機織り』と言う一つの行いを成しましょう。それが百人に伝われば、一つの成果と成りましょう。一つの成果が百重なれば、そこに幸が生まれましょう。そして、百の幸を育むことが米沢藩の(きみ)としての治憲様の務めと存じます」と手を重ねた。





柔らかなその手を握りしめ「百皇に至るには世界征服が必要かな・・・」とぼんやり考えていた。






『隗より始めよ』は率先垂範に同意の言葉であり、治憲の決意の言葉として使いました。


百聞は…はお豊の方の説明では、意味的には反対となりそうですが、収まりが良いので見逃していただければありがたいです。


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