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米沢藩士のつぶやき 治憲22歳~

足軽たちのつぶやき 


「新しいお屋形様は変わったお人だな~」と初めて米沢藩入りをする治憲の後姿を見て隣の足軽にささやく。

「ああ、儂ら足軽に気軽に声をかけてくれるし、振舞いに赤飯まで頂けるそうだ」と(うなず)く。

「あのお屋形様であれば、千坂様たちの一派が牛耳っている米沢も変わるかもしれないな~」と先の足軽がつぶやくと、後ろにいた別の足軽が「おい、滅多なことを言うでない。もし他人に聞かれたらどうする」と小声で注意する。

それを聞いた先ほどの足軽は皆周りを見渡して口ごもった。






ある藩士のつぶやき その1


「ああ、今日も一日が終わったか・・・」と広げていた資料を片づけながら周りを見る。

そこには、この藩士と同じく机の資料を片づけ帰り仕度をする藩士たちがいた。

「これだけの藩士が一日かけてやったことは、全員で同じ資料を読んで確認しただけ。昨日も同じ作業であったし、明日も同じことを繰り返すのであろうな・・・」と濁った目を伏せた。


その時、奥の方からざわざわとした声が聞こえてくる。


「おい聞いたか。何やら遠山村で新たに開墾をおこなうそうじゃ」

「おお、聞いた聞いた。しかもお屋形様ご自身が参加して開墾するそうではないか」

「なんと、お屋形様がくわを持って開墾すると言われたか・・・」とざわめきが大きくなる。

「しかも、新たな開墾地は開墾したものに下げ渡されるらしいぞ」と驚いたような声が聞こえる。


それを聞いた藩士は『なんと、お屋形様自らが開墾に携わると言っておられるのか。しかも開墾した地をもらえるとは・・・』と驚きを隠せない。

『今の城内の仕事と言えば、やってもやらなくても問題のないものばかり。しかも、1人おれば充分な仕事を10人がかりでやっているようなもの』と日々の仕事のやりがいのなさに悩んでいた。『開墾した地が下げ渡されるのであれば、開墾に参加してみようか•••』と男は考え始める。


男は下級藩士の次男坊であり、家督を継げる見込はなかった。かと言って、養子縁組の見込みもない。この米沢には同じような待遇の藩士は山のようにいる。

このまま、腐ったように日々を過ごすよりも・・・と男は決意した。

『よし、刀を置いて鍬を握ろう・・・』


後日、男は遠山村の開墾地にいた。一心に鍬を振るい汗をぬぐいながら、自分と同じように隣でぎこちなく鍬を振るう若い男に声をかけてみた。

「お互いに精が出ますな・・・」

するとその若い男がほほ笑みながら「あなたも開墾に参加されましたか?」と聞いてきた。

「私は次男坊なので、家を継げません。このまま放逐されるよりは、農地を開墾したほうが将来が見えます故」と汗を拭きながら答えると、「開墾した土地は、皆に分配する故がんばって開墾して欲しい・・・」と笑いかけられた。



後にその若い男がお屋形様であったと聞かされて、恐縮するばかりであったが、その目にはもう濁りはなく、青く澄んだ空を映していた。





ある藩士のつぶやき その2


「江戸屋敷が全焼したらしい・・・」と米沢藩の城内に衝撃が走る。

「何やら大変な大火事で、江戸の大半の家が焼け落ちたとの噂じゃ」

「しかも、江戸屋敷を建て直そうにも材木が江戸にないそうじゃ」と皆が噂をしていた。

そしてお屋形様が困りはて、頭を抱えていることは城内の藩士に広まった。


『藩主の身でありながら一汁一菜を実践し、遠山村の開墾にも足を運ぶお屋形様を助けたい・・・』それは、藩士たちみずからから自然とあふれ出た感情だった。

「何とかお屋形様の御助けができないものか?」と1人がつぶやく。


「江戸の状況はどうなってる?」と別の男が問いかけると「とにかく材木が足りんそうじゃ」と誰かが答えた。


「よし、皆で山に入って木を切って江戸に送ろうではないか・・・」と誰かが叫んだ。

その声は、その場の藩士全体に広がり・・・領内の藩士全員を巻き込む。


こうして1万本以上の材木を江戸に送り、江戸屋敷の建て直しは成った。





これに感動した治憲は、藩士たちへの感謝と、材木を育んでくれた山々と草木の全てに感謝し、また更なる木々の成長を願って各所に『草木塔(そうぼくとう)』を祭りたてまつった。





ある藩士のつぶやき その3


「大変だ。雪解けの大水で福田橋が壊れた」との知らせが米沢城に飛び込んできた。

「なんと、まもなくお屋形様が江戸から国入りをされる。早急に補修をせよ」

「しかし、雪解けの被害が多く人足が足りておりません」

米沢藩では、急に温かくなった影響で一気に雪解けがすすみ、各地に深刻な被害をもたらしていた。


「御家老様は何と仰っておる?」とある藩士が問う。

「千坂殿は、『人足が足らんのであればしかたない故捨ておけ』・・・と申されております。」

「お屋形様に対し何と不敬な」と一人の藩士が拳を握りしめ「儂は明日より休暇に入る故、後のことは任せる」と隣の藩士に告げる。

「何をする気じゃ?」と尋ねる藩士に「知れたことよ。人足に交じり橋を直す」と不敵に笑う。

それを聞いた男がその隣の男に「儂も明日より休暇じゃ・・・」と告げる。





そして・・・その場にいた藩士のほとんどが休暇願いを出すことになる。





「よし、何としてもお屋形様が帰られるまでに橋を直し、綺麗な橋を渡って城内に入ってもらおうぞ!!」とその場の全員が拳を振り上げた。






やっと、七家騒動に入ります。


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