お豊の方との語らい 治憲20歳 ~
区切りの10話目です。
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祝言を終え、奥座敷で傍らに座るお豊の方に話しかけた。
「豊殿。倹約令を出しておる故、粗末な式となり申し訳ない」と頭を下げると、「おやめくだされ、治憲様」とお豊の方が慌てる。「どうぞ、豊とお呼びくださりませ。我が藩の貧しき状況は、私めも聞き及んでおります故、お気遣いは無用にございます」と豊が答える。
「私は今宵上杉家の血筋を守るため、豊を側室とした。即ち、子を成さねばならぬのだが、一方で我が藩の農村では産まれた赤子を殺め間引いておる。何としても、この間引きだけはやめさせねばならん」と豊の目を見据えて告げる。
「何と、そのような酷いことが・・・。その悪習をやめさせられるのは治憲様を置いて他にはございません。古来より、子は宝と申します。産まれ来る我が子を疎ましく思う親などおりません。
私からもお願いいたします。何卒、子供たちが健やかに育つ藩としてくだされ」と目に涙を浮かべながら治憲の目を見つめ返す。
「だが、そのためには先ず食べ物の確保が第一になる。こちらについては、開墾や雑穀の種付けなどで徐々に改善されていくであろう」と告げ、「後は、ある程度の現金収入が必要じゃ」と続ける。「そして、何よりも重要なのが、女子に仕事を与えることだ」と告げる。「女子も家計を支えることになれば、女子の間引きはなくなる」と豊に語りかける。
「仕事にございますか?女子の身では農作業はなかなか大変かと」と豊が言う。
「なので、家でも出来る内職のようなものじゃ。豊よ、何か良い知恵はないか?」と相談する。
「内職と言えば、江戸では傘貼りを聞きますが、米沢藩では出来ませんか?」と豊が自信なさげにつぶやいた。
そのお豊のつぶやきを聞いた時、一つのアイデアを思いつく。
「豊、それじゃ」と手を叩く。
「え?傘貼りを致しますか?」と豊が問うと、「ふふふ、傘貼りではないが、考え方はそのようなものじゃ。豊よ、その折にはそなたにも手伝ってもらうぞ」と笑いかける。
『私に傘貼りができるかしら?』と不安げな豊がこちらを見つめていた。