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第五話 処刑から七十一日目・『聖剣の神』は退屈だった

 何千年、何万年も生きる種族であるボクは、いつも退屈だ。


 だから、暇に任せて、ごくたまに、地上で生きる種族であるニンゲンにちょっかいを出す。


 人々を導こうとか、文明を進化さえようとか、そんなつもりは全くない。


 暇だから。

 テキトウに、手を出してみる……だけ。


 ちょっと前……二百年か三百年くらいかな? 

 戦争ばっかりが続いて、野も山も死体の山で。

 うへー、血まみれの死体なんて見たくなーいって思ってて。

 でも、ボクがいるところから地上を見ても、戦いばっかりだし。

 あー、嫌だ嫌だ。

 で、ちょうど、男が一人、磔になって、剣で突かれて、処刑されるとこだったんだよねえ。


「神よっ! 我が正しければ、100日の後に、我を復活させよ」


 なーんて、その男は叫んだりして。


 へー、ほー、ふーん。


 その男が正しいのかなんて、ボクは知らないけど。

 それに、ボクは『神様』とやらじゃないけれど。


 ま、いっかーって。


 この男を生き返らせたら。

 人間たちはこの男を『英雄』とでも思うかな。

 それで、この無駄な戦争を終わらせてくれるかな?


 ボク、血なんて見たくないし。死体なんてもっと見たくないし。


 じゃあ、頑張ってねーって感じに、その男の言うとおりに、100日後に生き返らせてやろうかなーなんて。


 かるーいノリで、ボクはボクの力を使ったんだ。


 でもね、ちょっとね、ボク……、力の加減というか、いろいろとまちがえたらしい。


 その男は、剣で心臓を突かれて、血は流さなかった。

 でも死んだ。

 死んだ後に、ボクのところに精神というか、幽体? だけがやってきちゃったんだよね。


 あー、びっくりした。うっかり魂が通るルートでも作っちゃったのかな?


 その男もびっくりしていたけど。


 で、男はボクのことを本気で『神様』だと誤解したみたい。


 まあ、ねえ……。床に着くくらいの長い、うねうねした髪の毛は金に近い輝くような黄色だし。背中に純白の翼が生えているしで、ニンゲンが思い描く神様っぽい風貌はしているからねえ……。

 実のところは、ニンゲンとは違う生き物……と、いうだけ、なんだけど。

 まあ、それでも、ニンゲンからすれば、魔法のような力はいくつも使えるし、寿命だって恐ろしく長い。

 神様と思われても仕方がないんだけどねぇ……。


 やってきた男の精神というか、魂は、ボクを見るなりいきなり手を合わせて祈りだした。


「私は死ぬわけにはいかない。生き返り、国を平定せねば」


 とか何とか、訴えだしたりもして。


 ま、正義感の強い、いい奴だったしね。男の話……正義とはなにかとか、国とはどうあるべきかとか、そういう熱い語りはおもしろかったし。


 ボクもノリノリで、「さすれば我は、お前に加護を授けよう」なーんて、テキトウなことを言って。

 男の宣言通り、100日後に生き返らせた。


 まあ、なんて言うの? ノリだよ、ノリ。


 男は生き返ったのち、戦争を終わらせ、グレンヴィル王国という国を建てて、その初代国王となった。


 それで、ボクから見える地上は割と平和になった。


 うん、結果オーライ。良かった良かった。


 で、男が処刑された刑場は、聖なる場所みたいになって、男を刺した剣も『聖剣』なんてモノになった。


『聖剣騎士団』なんてものができて、その『聖剣騎士団』の中でも特に優秀なものが『聖剣の騎士』になんて選ばれるようになって。男が死んだ後も、代々その『聖剣の騎士』が『聖剣』を振るうようになって。


 ま、別にいいけどねぇ。


 初代の国王となった男が、死んで復活した話なんて、壮大な『伝説』となってしまったよ。


 おもしろいねえ。


 たかが二百年か三百年の間に、もうね、尾ひれがつきまくり。

 笑っちゃうくらい。


 なんかね、冤罪にかけられた人間が『聖剣』で心臓を貫かれると、生き返るなんて、そんな話まで出るようになった。


 実際に、処刑場に連れてこられて、磔になって、『聖剣』で突かれるなんて人間が、何人も出るようになった。


 まあ、別に、生き返らせてもよかったんだけど。

 暇だし。

 ボクのところにやってきた人間たちに、いろいろ話を聞いてみたけど。


 あー……、一番最初の男とは違ってツマラナイ奴らばっかりだった。


 時間の無駄。


 生き返らせないで、ボクのところにたどり着いた精神? 幽体? 魂? なんかは、テキトウに風で飛ばして。そうしたら、肉体のほうも塵と化したし。


 その繰り返し。


 一番最初の男みたいなのが来てくれればいいけど。

 クズで下種ばっかりが続いたから、もう『聖剣』なんて、どっかの彼方に放り投げてしまおうかなー。この国とかを見下ろしていないで、どっか遠くの別のところに移動しようかなーなんて、ちょとまじめに考えだしていたら。


 そうしたら、また、今日、新しいニンゲンがやってきた。


「あら? あらあら? あなた様が『聖剣の神様』ですの?」


 やってきた人間は年若いご令嬢で。赤ワインみたいな色の長い髪をなびかせて、きれいな淑女の礼をとって、ボクに微笑んできた。


「わたくしは侯爵家の娘で、名をオリヴィア・L・ヒューレットと申します。ご存じかとは思いますが『審判の刑』を受け、『聖剣』で心臓を突かれましたのよ」


 その美しい礼と美しい笑顔に、ボクは、ちょっと心が惹かれてしまったんだ。

 ぶっちゃけて言うと、見惚れた。

 なんて優美なんだろう。こんなに麗しいしぐさなんて、初めて見たっ! って感じにちょっと感動。


 でも……数日間、そのご令嬢に付き合ってみれば……、ちょっとね、だいぶね。頭のネジがぶっ飛んでいるおかしなご令嬢……だったんだよ、オリヴィアは。




誤字報告ありがとうございます。

いつも助かっております。

心より感謝です。


100は、おかしいのはわかっているんですが、敢えて漢数字ではなく数字にしています。

読みにくくてすみません。



2025年2月20日 [日間] 異世界〔恋愛〕ランキング - 連載中 10位(*´▽`*) ありがとうございます


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