†発覚†天海 将
「なるほどね……確かに不思議かも……」
「だよな!?」
ふんふんと頷く少年に、由貴は目を輝かせた。ただ今、公園にて青空教室第一回が絶賛開催中である。
事の発端は、10分程遡る。
天海 将は、所用で外に出掛けていた。
この将という少年は、由貴達より一つ上……紗貴と同い年だ。幼少の頃から同門という事情もあり、昵懇の仲である。
見目からも窺い知れる様に、柔和で気の良い少年だ。
そんな彼が、昔馴染みの弟分達に出くわした。
公園のベンチに仲良く並んで腰掛けている。
何やら口論している様だ。
当然、将には見過ごす事が出来なくて『二人とも何やってるんだよ』と、声を掛けたのだった。
そして今に至る。
弟分達の悩みに、将は答えるべく携帯を取り出した。
「将先輩?」
突然携帯を取り出してカタカタと操作を始めた将を、遠慮がちに由貴が呼ぶ。
「携帯で調べてるんだよ」
「何とっ!」
携帯画面と向き合ったまま応える将に、敦は純粋な感嘆を漏らした。
「文明の利器ってスゴイな!」
敦の呟きに由貴がすかさず突っ込む。
「お前はじいさんかっ!」
そんな二人に苦笑を漏らしながら、検索結果を見て行く。
「……これなんかどうかな……」
言いながら、ページを開いた。
「……十二宮を真似た……らしいよ?」
「…………十二九?」
将の言葉に眉をしかめて反芻する由貴。そんな由貴に、敦は重い溜息を付く。
「お前の頭ん中に浮かんでる漢字が判る自分が悲しいよ……」
決して計った訳ではない。ただ普通に由貴の思考回路が手に取る様に判ってしまうのだ。そんな敦の学校での異名は“歩く翻訳機一号(由貴限定)”である。
一号があれば二号もあって然るべきだが、それはまた別の話だ。ともかく、敦は残念な幼馴染みを正すべく口を開いた。
「ほら、星座の事だよ」
「ああっ!熱いコスモかっ!」
そこはかとなく微妙にズレてしまった勘が否めないが、とりあえず頷く。
「そうそう」
そんな二人に苦笑を漏らして将は中断を余儀なくされた説明 を再開した。
「で、十二宮をまんまパクったって思われるのはしゃくだから、なるべく被らない様にしたみたいだね」
「成る程!例えるなら『これはCAS“I”OではなくCAS“A”Oだ』と言い張るどこぞの共和国の意地だな!」
敦が一人納得するのに、由貴は眉をしかめる。
「馬は被ってるじゃん」
それに対してすかさず敦は反論する。
「お前、ただの馬とペガサスを一緒にすんなよ」
そんな敦の指摘に由貴ははっとした。
「そうだよなっ!ノーマルな馬とアブノーマルな馬を一緒にしちゃダメだよなっ!」
「いや、そのカテゴライズはどうなんだ?」
打てば響く様な二人のやり取りを、将は苦笑混じりに静観していたのだが……タイミングを見計らって遠慮がちに二人の間違いを指摘する。
「その前にさ、ペガサスは十二宮の仲間にいないからな?あれはアニメの主人公の星座なだけだからな?」
諭すような将の言葉に二人は目を見開く。
「しまった!被ってたのは牛だった!」
敦が言うのに、由貴が相槌を打つ。
「干支の中に二回も出て来るしな!」
「……いい加減、ツッコミ疲れたからスルーして良いかな?」
……牛と午の判別が付いていない由貴。
そう爽やかな笑顔を浮かべた敦は、由貴を見捨てたのだった。
「でも……確かに不思議だね……干支にも牛年はあるし、牡牛座ってあるし……」
将は考え込みながら唸る。
「そこは妥協したのかな?」
敦もそれに倣って腕を組んだ。
「調べてみようか……」
言いながら、携帯を開いた丁度その時……
♪チャッ……チャララ~ジャンジャカジャンジャカ♪
何とも勇ましい軽快なメロディーが、けたたましく鳴り響いた。
「あっ!蘭子さんだ!」
将は言いながら慌てて通話ボタンを押す。
「ごめん!え?あ……ホントだ……うんすぐに行くから!ホントごめん!」
短い会話が終了したのか、パチンと携帯を閉じる。
「由貴、敦……悪い!ちょっと蘭子さんと待ち合わせしてて……じゃあな!」
慌てて謝ると、返事を待たずに駆け出した。
追いてけぼり状態の由貴と敦。
二人は半ば放心状態で、事の成り行きを見守ったのだった。
「なあなあ由貴さんや……」
「何かな?敦どんや……」
視線は将の去った方から二人とも動かない。
「何時の間に、将先輩と蘭子姉はそんな仲良しになったんだ?」
因みに蘭子とは、やはり昔馴染みの知り合いである。
紗貴とは、自他共に認める大親友。
大和撫子を体現したような少女で……
――それは外見上に留まるのだが……それはまた別の話だ。
敦の問いに応えず、由貴は更に問いを重ねる。
「それよかさ……さっきの着メロ。ファイナルクエストⅣの戦闘音楽じゃね?」
ファイナルクエストⅣ……今巷で話題のロールプレイングゲームである。
続けて由貴は言う。
「将先輩は、蘭子姉と闘う気なのかな?」
「ある意味……闘う…のかな?」
恐らく、由貴と敦に構っている間に待ち合わせ時間を過ぎたのだろう。約束を守らなかった将が、蘭子に謝り倒す姿を想像するのは容易い。
「それより……」
敦は心の中で謝罪とエールを将に送りながら、口を開いた。
「丑年と牡牛座の謎を解かないとな……」
敦の言葉に由貴が反旗を翻す。
「それよか牛年が二つある謎に迫る方が先じゃね?」
由貴の言葉に深い深い溜息を漏らす。
「あのなぁ~……午って書いて“馬”って読むんだよ!」
公園の地面に漢字を書きながら説明する。
「信じられないくらい、ややこしいなオイ!」
苛立ちを露にいきり立つ由貴に敦は肩をガクリと落とした。
「俺はお前が高校生っていう事実が信じられないよ……」
こんな罵詈雑言にめげる由貴ではない。
「何で牛に似てるんだろ」
「それはほら、牛と馬は顔が似てるからな!スリムなのが馬。ずんぐりむっくりなのが牛」
「成る程!」
納得したらしい由貴。
「……でだ。この謎を解くには……やっぱり……」
敦な生唾をゴクリと飲み込みながら、人差し指をピンと立てる。
「……………………やっぱり……あいつしかいないか………」
由貴も沈痛な面持ちで頷いた。そして二人は戦地へ赴く戦士が如く、決意も新たにその一歩を踏み出したのだった。
NEXT panelist→友人