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干支に纏わるエトセトラ  作者: 梨藍
とある少年の冒険
5/13

†発覚†天海 将

「なるほどね……確かに不思議かも……」

「だよな!?」


ふんふんと頷く少年に、由貴は目を輝かせた。ただ今、公園にて青空教室第一回が絶賛開催中である。


事の発端は、10分程遡る。


天海(あまみ) (しょう)は、所用で外に出掛けていた。

 

この将という少年は、由貴達より一つ上……紗貴と同い年だ。幼少の頃から同門という事情もあり、昵懇の仲である。

見目からも窺い知れる様に、柔和で気の良い少年だ。


そんな彼が、昔馴染みの弟分達に出くわした。

公園のベンチに仲良く並んで腰掛けている。

何やら口論している様だ。


当然、将には見過ごす事が出来なくて『二人とも何やってるんだよ』と、声を掛けたのだった。


そして今に至る。


弟分達の悩みに、将は答えるべく携帯を取り出した。


「将先輩?」


突然携帯を取り出してカタカタと操作を始めた将を、遠慮がちに由貴が呼ぶ。


「携帯で調べてるんだよ」

「何とっ!」


携帯画面と向き合ったまま応える将に、敦は純粋な感嘆を漏らした。


「文明の利器ってスゴイな!」


敦の呟きに由貴がすかさず突っ込む。


「お前はじいさんかっ!」


そんな二人に苦笑を漏らしながら、検索結果を見て行く。


「……これなんかどうかな……」


言いながら、ページを開いた。


「……十二宮を真似た……らしいよ?」


「…………十二九?」


将の言葉に眉をしかめて反芻する由貴。そんな由貴に、敦は重い溜息を付く。


「お前の頭ん中に浮かんでる漢字が判る自分が悲しいよ……」


決して計った訳ではない。ただ普通に由貴の思考回路が手に取る様に判ってしまうのだ。そんな敦の学校での異名は“歩く翻訳機一号(由貴限定)”である。


一号があれば二号もあって然るべきだが、それはまた別の話だ。ともかく、敦は残念な幼馴染みを正すべく口を開いた。


「ほら、星座の事だよ」


「ああっ!熱いコスモかっ!」


そこはかとなく微妙にズレてしまった勘が否めないが、とりあえず頷く。


「そうそう」


そんな二人に苦笑を漏らして将は中断を余儀なくされた説明 を再開した。


「で、十二宮をまんまパクったって思われるのはしゃくだから、なるべく被らない様にしたみたいだね」


「成る程!例えるなら『これはCAS“I”OではなくCAS“A”Oだ』と言い張るどこぞの共和国の意地だな!」


敦が一人納得するのに、由貴は眉をしかめる。


「馬は被ってるじゃん」


それに対してすかさず敦は反論する。


「お前、ただの馬とペガサスを一緒にすんなよ」


そんな敦の指摘に由貴ははっとした。


「そうだよなっ!ノーマルな馬とアブノーマルな馬を一緒にしちゃダメだよなっ!」

「いや、そのカテゴライズはどうなんだ?」


打てば響く様な二人のやり取りを、将は苦笑混じりに静観していたのだが……タイミングを見計らって遠慮がちに二人の間違いを指摘する。


「その前にさ、ペガサスは十二宮の仲間にいないからな?あれはアニメの主人公の星座なだけだからな?」


諭すような将の言葉に二人は目を見開く。


「しまった!被ってたのは牛だった!」


敦が言うのに、由貴が相槌を打つ。


「干支の中に二回も出て来るしな!」

「……いい加減、ツッコミ疲れたからスルーして良いかな?」


……牛と午の判別が付いていない由貴。

そう爽やかな笑顔を浮かべた敦は、由貴を見捨てたのだった。


「でも……確かに不思議だね……干支にも牛年はあるし、牡牛座ってあるし……」


将は考え込みながら唸る。


「そこは妥協したのかな?」


敦もそれに倣って腕を組んだ。


「調べてみようか……」


言いながら、携帯を開いた丁度その時……


♪チャッ……チャララ~ジャンジャカジャンジャカ♪


何とも勇ましい軽快なメロディーが、けたたましく鳴り響いた。


「あっ!蘭子さんだ!」

将は言いながら慌てて通話ボタンを押す。


「ごめん!え?あ……ホントだ……うんすぐに行くから!ホントごめん!」


短い会話が終了したのか、パチンと携帯を閉じる。


「由貴、敦……悪い!ちょっと蘭子さんと待ち合わせしてて……じゃあな!」


慌てて謝ると、返事を待たずに駆け出した。

追いてけぼり状態の由貴と敦。

二人は半ば放心状態で、事の成り行きを見守ったのだった。


「なあなあ由貴さんや……」

「何かな?敦どんや……」


視線は将の去った方から二人とも動かない。


「何時の間に、将先輩と蘭子姉はそんな仲良しになったんだ?」


因みに蘭子(らんこ)とは、やはり昔馴染みの知り合いである。

紗貴とは、自他共に認める大親友。


大和撫子を体現したような少女で……


――それは外見上に留まるのだが……それはまた別の話だ。


敦の問いに応えず、由貴は更に問いを重ねる。


「それよかさ……さっきの着メロ。ファイナルクエストⅣの戦闘音楽じゃね?」


ファイナルクエストⅣ……今巷で話題のロールプレイングゲームである。


続けて由貴は言う。


「将先輩は、蘭子姉と闘う気なのかな?」


「ある意味……闘う…のかな?」


恐らく、由貴と敦に構っている間に待ち合わせ時間を過ぎたのだろう。約束を守らなかった将が、蘭子に謝り倒す姿を想像するのは容易い。


「それより……」


敦は心の中で謝罪とエールを将に送りながら、口を開いた。


「丑年と牡牛座の謎を解かないとな……」


敦の言葉に由貴が反旗を翻す。


「それよか牛年が二つある謎に迫る方が先じゃね?」


由貴の言葉に深い深い溜息を漏らす。


「あのなぁ~……午って書いて“馬”って読むんだよ!」


公園の地面に漢字を書きながら説明する。


「信じられないくらい、ややこしいなオイ!」


苛立ちを露にいきり立つ由貴に敦は肩をガクリと落とした。


「俺はお前が高校生っていう事実が信じられないよ……」


こんな罵詈雑言にめげる由貴ではない。


「何で牛に似てるんだろ」


「それはほら、牛と馬は顔が似てるからな!スリムなのが馬。ずんぐりむっくりなのが牛」


「成る程!」


納得したらしい由貴。


「……でだ。この謎を解くには……やっぱり……」


敦な生唾をゴクリと飲み込みながら、人差し指をピンと立てる。


「……………………やっぱり……あいつしかいないか………」


由貴も沈痛な面持ちで頷いた。そして二人は戦地へ赴く戦士が如く、決意も新たにその一歩を踏み出したのだった。


NEXT panelist→友人


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