†紹介†瑞智 由貴
「うーん……」
彼は今、とてつもなく悩んでいた。
「……判らん……」
そう呟いて家の縁側にゴロンと横になった。
少年の名前は瑞智 由貴という。
今年の春から一つ上の姉と同じ学校に進学した、高校一年生である。
つい半年程前までは、致命的なまでに身長が低かった。
声変わりもまだな状態だったのだが……
それがどういう訳か、昨年の秋頃からぐんぐん伸びて、今では170を越す長身を手に入れたのだった。
声のトーンも、心なしか低くなった。
だがまあ……完全に変声期を終えた訳ではないのか、はたまた成長がストップしてしまっているのか……
その変化は微々たるものだ。
その容姿は“かっこいい”ではなく“可愛い”に分類されるだろう。
……が、容姿に騙され痛い目にあった輩は数知れない。
流石、瑞智道場の跡取り息子と言うべきか……
運動神経だけは、滅法良い。
彼を良く知る者は口を揃えてこう言う。
―― 曰く………
『頭に回る筈だった栄養が、全て筋肉に行ってしまった残念な子』
そう……由貴は単なる馬鹿ではない。
馬鹿の中の馬鹿。
まさに“キング オブ Baka”なのである。
そんな由貴の抱える(くだらない)悩みとは――……
「
………何で“辰”なんだ?」
春麗らかな陽射しの中咲き誇る桜の花を眺めながら、ポツリと呟いた。
だがしかし、由貴以外いないこの状況では応えがある訳がなくて……
「うーん」
一人、唸ってからまた考え込んでしまった。
遠くでうぐいすが囀りの練習をしている。
「鳥は暢気でいいよなぁ……俺なんかこんなに悩んでるのに……」
羨ましそうにそう呟いて、大きく息を吸い込み吐き出した。
鳥にしてみれば心外だろう。
生半可な気持ちで練習をしているのではない。
上手く囀る事が出来るか否かで、求愛の成功の有無が決まるのだ。
―― つまりは子孫繁栄を賭けた熾烈な練習が繰り広げられているのであり
由貴のくだらない悩みと一緒くたにされては、うぐいすこそはた迷惑な訳で……
「ふわぁ~」
何とも気の抜ける様な欠伸を一つする。
―― そして……
うとうと
うとうと
暖かい陽射しと、心地良い小鳥の囀りに誘われる様に、由貴は微睡みの世界へと旅立ったのだった。
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