表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガテン系の女 2 娯より、楽より、修業中   作者: うらら桜子(旧 咲良ヤヨイ)
7/43

泣き虫な男 2




 墨出しの明示は単純な印の付け間違えで、大事には至らず、一安心。

 それでも、新藤は随分と厳しく丁稚を叱りだした。

 

 側に居た千香良は、勘弁して欲しい。

 けれども、完全に立ち去るタイミングを逃がしている。


 新藤のご立腹も然もあらん。

 今回が初めてではないようだ。

 

「お前、チンコ出して校庭に埋まっていろ」


 巫山戯(ふざけた)た口調だが、洒落にならない。


 紛うことなく、パワーハラスメント。

 暴言が浴びせられた。

 

 すると、黙って項垂れていた丁稚の頬に涙が伝いだした。


「チッ」


 同時に、新藤の、あからさまな舌打ち。

 不機嫌な顔で腕組みをすると、冷ややかな目で黙って丁稚を見ている。


 千香良は場の剣呑さにオロオロ。

 感情が追いつかない。


 館は少し離れた位置で様子を伺いながら、スマホを手にして誰かと通話している。

 多分、村岡に事と次第を報告していたのだろう。

 直ぐに話は終わったようだ。


「千香ちゃん、早いけど飯に行こうか」


 舘が何食わぬ顔で千香良に呼びかけてきた。

 

 新藤と丁稚は硬直状態。

 千香良は躊躇いながらも、その場を離れることにした。

 



 胡麻塩の掛かった白いご飯に、照り焼きのつくねの茶、ほうれん草の緑、卵焼きの黄、そして、プチトマトの赤。

 

 神経の高ぶりの作用だろう。

 現場事務所で弁当を広げた千香良は、母の手間暇と愛情が身に染みる。

 

 なのに、食が進まない。 


 確かに、AM11時では腹も空いていないが、何より、丁稚のことが心配だ。

 

(私が、ミスを見つけたばかりに……丁稚さんが怒られてる……)


 千香良の頭に筋違いな重いが浮かぶ。

  

「気にするな、星谷(ほしや)が新藤さんに説教されるのは、いつものことだ」


 館は楽な仕事を選んでするのが、玉に瑕だが、性根が優しい。

 箸に運びが遅い千香良を慰めてくれる。


「うん……でも……泣いていたよ」


 千香良も3年目に入って、龍太や鷹見から厳しいことを言われる。

 でも、泣かない。

 男が泣くなんて、そうとう、辛かったのだと思う。

 

「それこそ、しょっちゅうだから……彼奴は、子供の頃から泣き虫なのだとさ。仕事でミスをすると、やりきれない思いが爆発して涙が出るらしい。だから、気にしないで下さい、って、自分で言っていたぞ」


 館が笑いながら言う。


「それに、ああ見えて新藤さんは星屋を可愛がっているし、星谷も新藤さんを尊敬しているらしいから、今頃は仲良く一緒に修正しているだろ」


「そうなのかな……」


 新藤の暴言の数々を間近で聞いていた千香良は納得出来ない。


「おっ、グッド、タイミング、ほら、千香ちゃん」


 館が現場事務所のドアに向かって、腕を上げる。

 

 視線を向けると、新藤と丁稚が笑いながら入ってきた。

 




読んで下さってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ