松茸を1本 4
丁稚は、わら、わらと集まってきた現場監督達にコツかれたりしていたが、相変わらず表情は乏しい。
それでも、流石に松茸を掘り出した瞬間は笑みが零れていた。
「ぼち、ぼち、戻りましょうか……」
村岡の言葉に皆が頷く。
『プラスター工房ムラオカ』の土場を出発したのがAM9時。
そして、現時刻はPM3時過ぎ。
昼食時に30分程、休んだが、山道を5時間は歩いている。
飽きてきてのか、満足したか……
どちらにしても、集中力は切れているだろう。
なにより、西日が指してきている。
一行は熊鈴の音色と共に帰路に就いた。
そして、『プラスター工房ムラオカ』の土場に戻ると、先ずは、収穫物の記念撮影。
松茸の他にも、クロカワ、シメジ、イクチなど、天然のキノコがシダの葉を座布団に並べられていく。
「良いですね……」
現場監督達の一人がポソッと呟く。
土場のテーブルは事務所のお下がり故に、傾いでボロだ。
けれども、だからこそ、自然の産物との馴染みが絶妙。
何とも言い難い風情を醸し出している。
そして、蓋の壊れた電気ポットで暖めた缶珈琲で団らん。
毎度、お決まりの光景だ。
けれども、千香良だけは先に帰る準備を始める。
話題は現場の進捗状況や、問題点、等々。
込み入った話はしていないようだが、やはり、段取りに関する話が多い。
下っ端職人では、理解出来な次元の話だ。
千香良は会話に入れないどころか、聞いていても面白くない。
どうしても、疎外されてしまうのだ。
「お先に、失礼します」
千香良は自分に分の松茸を手に頭を下げた。
「おう、お疲れ」
「相葉さん、沢山、採れて、良かったね」
すると、現場監督の1人が、声を掛けてきた。
嫌味にも聞こえる言いようだが、千香良に通じていない。
「はい」
喜びの笑顔を見せるだけだ。
「店の賄いか?乙葵が楽しみにしていたぞ……かなり豪勢な味飯になるな」
乙葵は龍太の愛妻で、千香良の両親が経営する洋食屋『赤煉瓦』で働いている。
紆余曲折あって、去年、入籍したのだが……
一人息子の龍乙はオースリラリに在住。
龍太は2度しか、実物と会っていないらしい。
小学生の龍乙は、中々、友達と離れる決心が出来ないみたいだ。
「うん、でも……一升炊くのに、4本で足りると思うから……2本は『榊工務店』の榊さんにあげるつもりなんだ」
「チョッと少なくないか……店5本、榊さんは1本でいいだろ」
「あっ、僕、自分で採れたので、返します」
丁稚が立ち上がって訴えた。
「バ~カ、千香良が1度、あげたものを受け取るか」
千香良も頷く。
7本の内の1本なら、問題無い。
それに、丁稚の他の監督達も、2本ずつ貰っている。
復路で龍太が3本見つけたのだ。
「今度、行きつけの定食屋で飯でも奢ってやれ。千香良は、小汚い定食屋なんて、行ってたことないから、面白いぞ……」
龍太がまた、余計な事を……