松茸を1本 2
「いや……」
丁稚は釈然としない様子で、首を傾げながらも、松茸を受け取った。
それも、そのはず、先程まで熱心に探していた場所だ。
内弁慶で人見知りの千香良は自分の態度がおこがましくて、照れ臭い。
用が済むと、黙々と残りの松茸をエコバックに納めていく。
丁稚も、作業着のポケットをまさぐると、コンビニ袋を取り出して茸を入れている。
どうやら、千香良と同じくコミュニケーション能力が低いようだ。
ペコリと頭を下げると、言葉もなく、その場を離れた。
千香良としても、下手に話し掛けられるよりも、立ち去って貰った方が有り難い。
現場監督相手に気の利いた話なんて出来ない。
しかし、千香良はほくそ笑んでいる。
丁稚は間近で見ても、没個性で印象が薄かった。
けれども、忘れないだろう。
お互いに、不器用な態度だったが、以心伝心、何だか分る。
千香良は、より一層の親近感を感じていた。
そして、入山して2時間程。
毎回、電力会社の鉄塔が建つ平地を昼ご飯の場所としている。
皆、それぞれ、コンビニで買ってきた、おにぎりを食べながら、談笑している。
千香良も今日は、コンビニでお昼を買ってきた。
休みの日まで、母にお弁当を作って貰うのは申し訳ない。
それに、話題のメロンパンが気になっていたので、コンビニで、買い物がしたいと思ったのだ。
「千香良、袋が膨らんでいるけど、採れたのか?」
龍太が目聡く、聞いてきた。
「うん」
千香良は努めて無表情を装うが、無理。
口元が緩んでしまう。
「見せてみろ」
龍太の言葉に、千香良はエコバックを差し出した。
「お前は……相変わらずだな……」
「えっ、採れたんですか?」
現場監督達が身を乗り出して、食いついた来た。
やはり、未だ誰も採っていないようだ。
今年は厳しい残暑に加えて、9月の降水量が例年に比べて極端に少なかった為に松茸が不作。
ただでさえ稀少な松茸を、初心者の監督達が見つけられるはずもない。
「結構、デカイのが6本、あるわ」
龍太はエコバックの口を広げて、数を口にする。
「凄いな……」
現場監督達は口々に感嘆を漏らす。
「親方と龍兄は?」
「あぁ、まだ駄目だな……」
けれども、千香良は知っている。
もう少し、行った所に4本。
まだ、小さかったのを採らずに残してある。
「そういえば……丁稚も袋を手にしているじゃないか」
「僕、貰いました……」
監督達が一斉に立ち上がり、丁稚のから袋を取り上げようとしていた……