我が名はタルトタタン
その日の午後、昨晩メイドが冷やしてくれたタルトタタンを持って書斎に出向いた。
もちろん、朝、湯あみを手伝ってくれたメイドにも朝ごはんを作ってくれたシェフ(一番知ってそうだった)やらスタッフのみんなを片っ端から捕まえてタルトタタンについて聞いてみたけど誰も知らなかった。
じゃあ、タルトタタンって名前じゃないけど、そのもの自体はあるんじゃないかって、口の肥えた我が家族なればだれか一人くらい(特にお母さま)知ってるんじゃないかって線香花火くらいの儚い希望を託してきたわけだけど。
お母さま「え、何これ、失敗したの?」
違います、こういうお菓子なのですよ、見たことございませんか、お母さま・・・!
「こんなぺしゃっとした見た目のはないわ、美味しいのかしら・・・んん?リンゴがキャラメルの味でおいしいわね!添えられたクリームとも合うわ、こんな美味しいものなら食べたとしたらやっぱり覚えているはずよ、ねえ、あなた、マリー、食べてみて、これ、知ってる?」
異口同音、みんな知りませんでした。はい、この世界にタルトタタンがないの、確定ー!
「これはジューンが発明したの?とても美味しいわよ」
発明したっていうか、失敗したっていうか・・・ごにょごにょ。
「お姉さまのお菓子つくりの腕は第二妃選定のポイントになるかもしれませんね!」
「そうだなぁ、せめて何か特技がないとだからなぁ・・・」
残念そうな目で見ないでほしい。
とにかく、第二妃選定は置いといて(考えたくない)前世に有ってこの世になくて、欲しいものや作れそうな料理やお菓子を片っ端から思い出すことにした。
まぁお母さまの強制力で色々覚えたりさせられたんだけどさぁ。
おばあちゃんの記憶を思い出してから、お父さまとお母さまが息子と娘に見えて、(マリーは孫)なんだかほっこりしていたら、最近お姉さまはとうとうボケている上にババ臭いとまで言われるようになってしまった。失敬な!